変革のアーキテクトNo.9
アバントグループ森川社長に聞く、企業の変革のために経営者が考えること
2023/03/15
あらゆるバイアスを壊し、自らアーキテクト(全体設計者)として社内の事業変革を遂行しているトップエグゼクティブの方々に話を聞きながら、その神髄に迫る本連載。
今回のゲストは、株式会社アバントグループの代表取締役社長 グループCEO・森川徹治氏です。
アバントグループは、連結会計のソフトウエア開発に加え、グループ経営支援、決算アウトソーシング、DX・データ活用支援などのビジネス事業を展開。連結会計システム「DivaSystem LCA」は、1,100社以上への導入実績があります。
「企業価値の向上に役立つソフトウエア会社になる」というマテリアリティの実現に向けて、2022年10月にグループ再編を実施。組織の先頭に立って変革を進める森川氏に、変革のパートナーとして伴走する電通の小山雅史氏と福井秀明氏がインタビューしました。
企業価値の向上に役立つソフトウエア会社になる
小山:2022年10月にグループ再編を行い、アバントグループが誕生しました。まず、再編に至った経緯をお話しいただけますか?
森川:当社は1997年に連結会計ソフトウエアの開発・販売を行う会社としてスタートしました。当時は、「会計ビッグバン」と呼ばれる会計制度改革の真っただ中。この改革によって連結会計が義務化されましたが、企業の連結会計を支える仕組みがありませんでした。
そこで、連結会計のソフトウエア「DivaSystem LCA」を作りました。「DivaSystem LCA」は圧倒的な処理速度などが評価されて高い国内シェアを獲得。その後、バージョンアップを重ね、現在は、時価総額上位100社の約半分の企業にご利用いただいています。
さらに、連結会計のソフトウエア開発以外にも事業を広げていきました。一つは、自社製品以外のツールも利用して経営をサポートするSIビジネスです。もう一つは、決算業務における人手不足の問題を解消するためのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスです。
2021年には「企業価値の向上に役立つソフトウエア会社になる」というマテリアリティを定めました。顧客の会計業務を効率化するだけでなく、企業の「値付け」、つまり企業価値をきちんと可視化できるデータプラットフォームを実装してサポートする。さらに、経営を支援して企業価値を高めるシステムを幅広く提供していく。今後の事業の方向性を見据えて、2022年10月にグループ再編を行い、アバント、インターネットディスクロージャー、ジール、ディーバの4つの事業会社からなるアバントグループに生まれ変わりました。
企業価値向上のためには、企業を「商品」と捉えることが必要
小山:グループ再編にあたり、私たちは理念体系の整理をご相談いただいたり、新しいロゴの制作などのお手伝いをさせていただいています。今回のグループ再編のベースとなったマテリアリティ「企業価値の向上に役立つソフトウエア会社になる」を定めた背景をご説明いただけますか?
森川:一昔前は、主に売上や利益といった財務指標で企業価値を測っていました。しかし、いまでは人財やCSR、ESGといった非財務指標も重視されるようになっています。さらに、株価と純資産の関係を示すPBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)など、さまざまな視点で企業価値を測るようになりました。ところが、日本の経営環境には、自社の企業価値を把握するためのツールがほとんどありません。
企業価値とは、結局のところ会社の値段で、それは株価だけで測れるものではないです。会社の値段を把握するためには、会社や事業を「商品」として認識することが大事です。これは世界では当たり前ですが、日本の経営者できちんと腹落ちできている方は少ないと感じます。その結果、企業価値が上がらなかったり、他者にいいように値を付けられてしまったり、という事態が起こります。
小山:確かに、多くの日本企業は時価総額が純資産より下回っているというニュースを聞きます。海外に目を向けると、アップルは時価総額が純資産の数十倍になることもある。あまりにもギャップがありすぎますね。
森川:日本の経営者も社員も「会社の値段」について考える感覚がもっと必要だと思います。その感覚を養うには、企業価値の向上に向き合える環境づくりも大事です。実業家の稲盛和夫さんはアメーバ経営を打ち出しましたね。アメーバ経営を端的に言えば、採算単位を細かくして、事業に対する当事者意識をできるだけ小さい単位で持つ。その中でお金の出入りをきちんと意識するようになると、値付けの感覚がつき、経営力が上がってくる、というものです。
小山:社員も含めて、経営の面白さを実感できる環境が必要ということですね。
森川:という私も以前は、「会社は商品ではなく、社会の一部」と捉えていました。しかし、会社を商品として捉えた方が結果的にステークホルダーをハッピーにできる、という考えに至りました。この考え方のもと、今回、事業構造を最適な形に整えました。
対話を促すブランドロゴへの強い想い
福井:アバントグループ内の話に移りたいと思いますが、今回のグループ再編にあたり、どのようなことをお考えになりましたか?
森川:アバントグループが掲げている「BE GLOBAL~世界に通用するソフトウエア会社~」というビジョンは、創業以来、描き続けている夢を表しています。「経営情報の大衆化」というミッションは、多くの会社が持続的に価値を創造できる経営情報システムを構築することで最善の経営を普及させることです。そして、企業理念である「100年企業の創造」は、社員全員が創造的に社会への価値提供を行うことで100年続く企業になることです。
福井:グループ再編にあたっては、この考えをベースにご検討されたと伺いました。その上で、今回ブランド戦略の一環として企業ロゴを変えることをお手伝いさせていただきましたが、ロゴを変更するというのはコストも労力もかかるものです。この狙いは何だったのでしょうか?
森川:今回のグループ再編は、当社のこれまでの歩みとは非連続なもの、と捉えています。再編にあたっては、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)などの言葉を変える、事業の形を変えるなどいろいろな方法がありますが、一番わかりやすいのがロゴの一新だと考えました。実は、起業した時も、ソフトウエアを作る前に会社のロゴを制作しました。
小山:ロゴに対する思い入れが強いのですね。
森川:お客さまとお話しする時、最初に渡すのが名刺です。名刺の中に会話が広がる要素があればお客さまとの関係を近づけることができます。そのような理由から、当時はまずロゴを作りました。今回のグループ再編においても、ロゴから着手したほうがいいかな、とぼんやり考えていました。もう一つの理由は、これまでは社名だけがロゴになっていたのですが、そうでないものを作りたいと思ったからです。グループとして伝えたいことをシンボリックに表したロゴの方が、インパクトがあると思いました。世間に浸透していくのはこれからですが、長くお付き合いしている方々からはとても良い反応をいただいています。ロゴについて自分でもいろいろと考えてみましたが、小山さんや福井さんが提案してくれたデザインの発想はなかったですね。
福井:10×10の100マスのデザインを提案させていただいたのですが、このデザインには、「100年企業の創造」という企業理念や、光が右肩上がりに差していく「成長」という意味や、いろいろなことを込めました。
森川:当社はミッションとして「経営情報の大衆化」、企業理念として「100年企業の創造」を掲げています。でも、それらの言葉が前面に出るよりも、ロゴがあって、それに対する補足説明として企業理念を説明する方が、お客さまの頭に入りやすいようです。非言語を使って言語化するという面白い試みでした。
それと、ブランドロゴはモノクロですが、名刺ではカラーのロゴを選択できるようにしています。従業員一人ひとりのダイバーシティを表現するためのものであり、ロゴに込めた思いは変わりません。また、グループ再編後も、連結決算のソフトウエア開発というグループの軸は変わらないのですが、もう少し幅広い経営情報のインフラ整備など、事業も変化しています。ロゴをきっかけに、そんな話もできるかなと思っています。
福井:名刺交換は、ともすれば無味乾燥な行為になりがちですが、ロゴからお客さまとの対話が生まれて、アバントグループの理解につながれば理想的ですね。
森川さんは、経営から発信する「言葉」やその社員への浸透についても非常にいろいろなことをお考えになられています。次回は、「変革をけん引する言葉」についてお話を伺います。
※後編に続く