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変革のアーキテクトNo.8

日本郵政 飯田恭久グループCDOに聞く、「みらいの郵便局」への変革 後編(電通BDS山原)

2022/06/16

あらゆるバイアスを壊し、自らアーキテクト(全体設計者)として社内の事業変革を遂行しているトップエグゼクティブの方々に話を聞きながら、その神髄に迫る本連載。

前編に引き続き、日本郵政グループのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する、日本郵政グループCDOの飯田恭久氏に、電通の山原新悟氏がインタビュー。

JPデジタルは、「みらいの郵便局」というコンセプトを掲げて、デジタルの力で、リアルの郵便局も含めたあらゆるお客さまの体験価値向上を目指しています。今回は、郵便局および日本郵政グループの未来像についてお話を伺います。

前編:日本郵政 飯田恭久グループCDOに聞く、「みらいの郵便局」への変革 前編(電通BDS山原)

飯田氏と山原氏
日本郵政グループCDO 飯田恭久氏(右)と電通ビジネスデザインスクエア 山原新悟氏

地域コミュニティのハブとして、“郵便局らしいおもてなし”を提供したい

山原:前回は、「みらいの郵便局」というコンセプトを中心に伺いました。全国に2万4000ある郵便局が、「みらいの郵便局」になったとき、どのような存在になっているとお考えですか?

飯田:郵便局は、全国各地、人が多い地域にも少ない地域にも必ずあります。この特性を生かせば、地方創生の文脈で、地域のコミュニティのハブになれると思っています。郵便局を拠点に情報を発信したりして、コミュニティの形成に一役買うことができるはず。そこで生活している人たちにとって、「郵便局でこういうサービスを提供してくれたら便利、うれしい」ということはあるはずなので、それを追求していくべきだと考えています。

実際に、いまもさまざまな地域の郵便局で、マニュアルがあるわけではないけれど自ら工夫して、住民の方の力になっている事例があります。

例えば、北海道網走市の郵便局長と話したときのことです。そのとき局長が、「飯田さん、デジタル化すると困ることもあるんですよ」とおっしゃる。どういうことか尋ねると、「ある高齢のおじいさんがよく来るんですが、私たちは手伝わず、あえてご自身で申込書を書いてもらっています。私はそれを見て、『このおじいさんは、まだ自分で字が書ける』ということを確認しています」と。私はその話に驚きました。もしも私が網走市の出身で、高齢の父親がいたら、郵便局の人たちが、そんなふうに自分の父親を気にかけてくれるってうれしいじゃないですか。

山原:郵便局ならではのストーリーですね。

飯田:「地域住民のためにこれをするべき」と、なんでもマニュアル化するのはどうかと思いますが、住民の役に立つことを体系立てて組織として取り組んでいけないかと考えています。

郵便局の DX化は、社員の働き方改革にもつながります。デジタルをうまく取り入れて業務を効率化して、余った時間で地域に新しい価値を提供したいですね。

山原:日本郵政グループの40万人の社員が、郵便局が本来持っているハートウォーミングでヒューマンタッチな価値をもっと出せるようにすることが、「みらいの郵便局」のテーマでもあるということですね。

飯田:そうですね。日本人のおもてなしというのは、世界の中でも本当に素晴らしい文化だと思います。そして、郵便局には郵便局らしい、おもてなしがあるはずです。それをどんどん引き出していきたい。DX化することで、お客さまと向き合える時間をもっとつくれるようにしたいです。

飯田氏

山原:飯田さんとお話ししていると、郵便局には無形の資産がたくさんあることを実感します。全国に2万4000も郵便局があり、さまざまなデータがある。これらを価値につなげられる可能性も感じていますか?

飯田:そうですね。次から次へとやりたいことが浮かんできます。株式会社なので、売り上げを伸ばして利益の最大化を目指すという使命はありますが、それだけではありません。傲慢(ごうまん)な言い方かもしれませんが、われわれが担っているものは、社会のインフラで、そこに大義があります。しかし一方では、事業をするときに法律の縛りもあります。

例えば、全国の郵便局のネットワークや保有している地域情報を活用した不動産仲介業は許されていません。いろいろな制約の中で新たな価値を生まなければいけないし、単純な金もうけではなく、そこに大義がなければいけない。難しいですが、だからこそ面白いと感じています。

山原:活動を縛る法律があるからこそ、それを超えていくために、誰も考えていなかったアイデアが生まれるというわけですね。

飯田:やりたいといっても、法律や組織的な理由でダメと言われることは、いっぱいありますよ。でも、ダメなことだけを毎日並べて、あれもこれもできないなと思うよりも、その中から何ができるんだろうと探していく方が圧倒的に面白いですね。そして結果を出して積み重ねて、あの人たちは良いことをやっていると思ってもらえれば、変革に後ろ向きだった人も心を開いてくれるのではないでしょうか。やっぱり形にすることが大事です。

山原:組織のバイアスの中で視野が狭くなることは、大企業だと特に多いと思います。それでも、飯田さんはリーダーとして、ディスラプティブに、クリエイティブに、こうすればいいよね!とみなさんを前向きにしながら動かしていると感じます。

飯田:私は、お客さまに「郵便局のサービスはいいね」と思っていただければ、それでいいと思っています。郵便局は全国各地にあって身近な存在です。この国で生活している人たちが一日1回、そう思ってくれたら、1億の「いいね」が毎日つくということで、それはすてきなことです。そういう世界を実現したいですね。

“進化し続けるDNA”を組織に注入するのが私の役割

山原:ちょっと視点を変えた話になります。企業の変革を担当する役員や部長などは、「短期間で何か達成しなさい」と言われることもあります。すると、どうしても短期的な目線で考えざるを得なくなってしまいます。この点についてはどうお考えですか?

飯田:われわれも株式会社ですから、中期経営計画など比較的短いスパンで取り組むべきものもあります。それは会社としての宣言ですから、やらないといけません。しかし、それで終わりではないんです。

私たちが描いている「みらいの郵便局」は、数年で完成するものではありません。目指す郵便局の姿を実現するためにずっと取り組んでいきます。それこそ、私の寿命が尽きた後も郵便局は存続していくのですから、“進化し続けるDNA”というものを組織に注入することが私の役割の一つかなと考えています。

山原:飯田さんのチームで働いている方々が、20年後、30年後に今度はリーダーとして変革を推進していってほしいということですね?

山原氏

飯田:おっしゃる通りです。郵便局の変革はスタートしたばかりですが、“進化し続けるDNA”を一人でも多くの方に取り込んでいただけたらうれしいですね。それともう一つ、仕事で僕が心がけているのは、「飯田じゃないとだめだ」というふうにはしたくないということです。僕がやったことを見て、特に若い世代に、「こういうふうにやればいいんだ」と気づいてもらい、自分もできると実感する。そういう人たちを可能な限り増やしたいです。

そのためには、クレドにまとめたことを、自分の日々の言動で表すことが必須だと考えています。正直なところ、私たちの組織に新しく加わった人にクレドを説明しても、よくわからないという方が多いと思います。だからこそ、クレドの内容って、こういうことなんだということを私が率先して体現しなきゃいけない。

JPデジタルクレド

山原:みなさんは、飯田さんの背中を見ているんですね。

飯田:すごく見ていると思います。

山原:JPデジタルのオフィスに伺うと、空気がとてもいいというか、明るく前向きで、何かがすごく熱量を持って動いているなという気がします。

飯田:そう言っていただけるとすごくうれしいですね。

山原:最後に、グループCDOとして、日本郵政グループの組織をどうしていきたいか、展望を聞かせてください。

飯田:マーケティングという概念をもっと埋め込みたいです。私はこれまでマーケターとしてやってきたので、マーケティングの概念と機能をつくることをやっていきたい。DXの一部はマーケティングだと考えています。マーケティングに精通している電通の力も借りながら、日本郵政グループのマーケティング力を磨いていきたいです。

山原:デジタルの変革とマーケティングを日本郵政グループに”進化し続けるDNA”として注入して、より良い組織へと体質を変えていく。

飯田:そうです。組織の体質改善です。

山原:日本郵政グループの大事なDNAは残しつつ、50年、100年後を見据えつつ変革を進めていくわけですね。まだ飯田さんとのプロジェクトもスタートして1年ですが、これまでにないスピードでいろいろなことが起こり、人が動き出し始めている感触はしっかり感じます。

私たちも引き続き、「みらいの郵便局」の実現に向けたパートナーとして、具体的に新しい価値を生み出していくお手伝いをさせていただければと思っています。本日はありがとうございました。

取材風景

 

 

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