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「Paravi」(パラビ)に見る動画配信サービスのこれから

2018/04/09

世界の大手がしのぎを削る現在の配信業界。メディア4社+広告会社2社という斬新なコラボレーションで始動する配信サービス「Paravi」(パラビ)について、運営会社プレミアム・プラットフォーム・ジャパン(以下、PPJ)の髙綱康裕代表と、共にParaviの立ち上げに参画してきた電通の石渡弥氏が語り合い、配信業界の新たな可能性を探る。※本記事はビデオリサーチの季刊誌『Synapse』Vol.17に収録された対談を一部再編集したものです。

PPJ髙綱代表と電通石渡氏

Paravi (パラビ)| 定額制動画配信サービス‎
https://www.paravi.jp/

この4月にスタートした、定額制見放題を中心とする新たな動画配信サービス。

メディアグループ6社(TBSホールディングス、日本経済新聞社、テレビ東京ホールディングス、WOWOW、電通、博報堂DYメディアパートナーズ)が共同出資したプレミアム・プラットフォーム・ジャパン(PPJ)が運営する。

Paraviベーシックプランでは、月額税込み999円で人気ドラマやバラエティー、オリジナルコンテンツが見放題。

パラビ

石渡: PPJ設立の目的はどういうところにあったのでしょうか? 

髙綱:従来の視聴率はリアルタイム視聴の指標ですが、タイムシフト視聴率を見るとドラマがすごい数字をとっています。テレビ業界で働く者として、今でもテレビのコンテンツはどこに出しても恥ずかしくないクオリティーだと思っています。そのコンテンツの価値を最大化するためには、デバイスフリー、タイムフリー、プレースフリーの動画配信が必要ですが、配信業界に世界の実力者が次々参入している中で、動画だけをやっていても弱い。そこで、TBS、テレビ東京、WOWOWのコンテンツの集合体に、さらに日経新聞の活字、TBS・日経のラジオも組み込み、今あるものとは違う動画配信プラットフォームをつくろうというのが設立の目的でした。
そしてこれをどのように拡大していくかを模索する際に、マーケティングに強い電通、博報堂DYMPという広告会社が入ってくれていることが非常に大きな意味を持ちますし、心強いですね。

石渡:これまではBtoCビジネスの枠組みに広告会社が入っていけることは少なかったのですが、SVOD(サブスクリプション・ビデオオンデマンド)への参入は“新しい領域の知見を広げるチャンス”と社内の機運が高まりましたね。プロモーションやマーケティングをどう実行するか、できることはたくさんあると思っています。

髙綱:テレビ局はこれまで、プロバイダーとしてさまざまな動画配信プラットフォームにコンテンツを提供してきましたが、それだけでは自分たちでデータを蓄えることができない。プラットフォームから直に顧客(ユーザー)と接し、データを蓄積、分析することによって、このコンテンツがどのような見られ方をするのか、どういう人たちがこのコンテンツを好むのかが分かるのではないかという発想から、「自分たちのプラットフォームをつくろう」ということになったのが、会社設立のきっかけです。
顧客とのエンゲージメントをどう高めていくかというデータ分析を、電通と博報堂DYMPにお願いしたいと思っています。今や広告会社というジャンルは、広告のみならず、いろいろなものに関わる総合プランナーになっています。テレビ業界の視点でいうと、メディアと広告主との間をつなぐ存在でしたが、今は違う向き合い方でご一緒するようになって、その間口の広さ、サポート領域の深さに感心しています。

石渡:蓄積されたデータをどう活用していくかについては、広告会社としてもお手伝いできることは多いのではないかと思います。今までは新サービスや商品が完成した後のプロモーション展開をサポートするところからが広告会社としての役割だったのですが、事業デザインから一緒にサポートをさせていただけるのは、とても素晴らしい経験です。電通では現在、ビジネスプロデュース(営業)、クリエーティブ、デジタル、データなどの分野から20人ほど、熱意のあるスタッフが積極的に参加しています。

電通 石渡氏
電通 石渡氏

SVODでテレビの“その次”をつくるパラビジョン「Paravi」

石渡:サービス名称「Paravi」は、いろんな方々と意見を交わしながらつくりましたね。

髙綱:動画配信なのだから、テレビ局のイメージから徹底的に離れるべきだという意見もありましたが、最終的に落ち着いたのは、“テレビジョン”に対する“パラビジョン”。テレビの“テレ”はギリシャ語の接頭辞で「遠い」という意味があり、テレビジョンで「遠くにあるものを見る」という意味になりますが、“パラ”は距離の近さ、および感覚的な近さを表現しています。さらに、どんな場所でも、どんな時でも、テレビの“その次”となるメディアを実現させるのだという考えも示しています。
“その次”にふさわしいメディアとしてあらゆるサービス展開の可能性を考えたときに、テレビ局1社では限界がありますが、メディア4社+広告会社2社という座組みなら、何が来ても対応できるだろうなという確信があります。SVODの動画配信がこの先どうなっていくかは未知数で、その未知数に対応するための布陣です。

石渡:生活者のタイムシフト視聴が進み、指標面では視聴率がリアルタイムとタイムシフトを合わせた数字として分かるようになりました。また「TVer」も含めたキャッチアップもビジネスとして出来上がってきて、リアルタイム視聴だけでないビジネスも広がりを見せています。これまでの電通はBtoB事業への関わりが大半でしたが、BtoCであるSVODで、どうやってお客さんを獲得するかというのは新しいチャレンジです。髙綱社長は有料課金サービスに携わった経験はおありでしょうか?

髙綱:僕の方も、全くありません(笑)。視聴者に向けた番組をつくり、視聴率と向き合っていたという意味では近いかもしれませんが、Paraviのように会費をお支払いいただくというのは未知のゾーン。正直不安もありますが、新しいことに挑戦している高揚感の方が強いです。

プレミアム・プラットフォーム・ジャパン 髙綱代表
プレミアム・プラットフォーム・ジャパン 髙綱代表

メディア共作のオリジナルコンテンツ+国内最大アーカイブの活用

石渡:会員の獲得に向けても戦略を練っているところですよね。

髙綱:「毎日新作のコンテンツが届くフレッシュさ」「メディア4社の共作」「良いコンテンツをParaviオリジナルで」を3本柱にしています。
4社の座組みの魅力、例えば日経×WOWOW、日経BP×TBSラジオなどのコンテンツの広がりも含め、他の配信サービスにはない新しい部分を打ち出していきます。ラジオもその一つで、TBSラジオとラジオNIKKEIがいるのも心強いです。

石渡:オリジナルコンテンツの配信第1弾が、SPECサーガ完結編「SICK’S恕乃抄」ですね。

髙綱:「ケイゾク」の流れをくみ、連続ドラマからスペシャルドラマや映画にもなった「SPEC」の“堤幸彦ワールド”を、放送という規制・枠から解き放って展開します。配信動画なら、1話が30分だったり、65分だったり、尺がどれだけ変動してもいい。そういったことをParavi独占でやるというのが面白い取り組みかなと思いますね。
オリジナルコンテンツだけでなく、テレビ放送のキャッチアップも狙っていきます。一昨年大きく盛り上がった連続ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」は、大きくブレークし始めたのは第4話、第5話あたりからです。TVerでの配信期限が切れた過去回を見たい人は、違法動画で序盤の話を見たりしながら途中流入してきました。コンテンツ価値の最大化を標榜するならば、これらもParaviに来れば置いてある、という認識が広まることが必要です。過去回を目当てに来た人には過去のアーカイブを回遊していただく。TBS、テレビ東京、そしてWOWOWの「ドラマW」と、Paraviの国内ドラマアーカイブ数は国内最大級ですからね。

石渡:一緒にお仕事させていただく中で、髙綱社長はジャパンコンテンツにこだわりたい、と繰り返しおっしゃっていましたね。

髙綱:国内ドラマアーカイブはわれわれの一つの強みで、オリジナリティーがあります。あるドラマコンテンツが話題になったタイミングで過去のさまざまなドラマを特集することで、リ・ジェネレーションも図れると考えます。こうしたジャパンコンテンツの強みを打ち出すのも戦略です。

電通 石渡氏

Paraviの将来像は通勤時間に見たいものがすべてそろう“場” 

石渡:他には、コミュニティーをつくりたい、というお話も普段からよくされています。

髙綱:従来の動画配信サービスのような“見たいものがあるときに訪れる”機能だけではなく、毎日でも来たくなる居心地の良い“場”を提供し、エンゲージメントを高めていきたい。それをわれわれは“コミュニティー”と呼んでいるのですが、そのあるべき姿を議論・整理した上で、実際に展開していきたいと思っています。
いつ行っても自分の好みに合うコンテンツが並んでいる、気になっているタレントがキュレーターになって紹介している、自分と同じコンテンツに興味を持っている仲間がいる、といったサークル的なコミュニティーをつくることで、可処分時間の争奪戦に勝ちたい。将来の理想像は、動画コンテンツはもちろん、日経新聞のようなテキストメディアがあり、趣味コミュニティーがあり、通勤時間内に見たい・読みたいものが全てParaviの中に入っているというものです。

石渡:見たいものがあるときだけ利用して、見終わったらまた見なくなるという、他の配信サービスの弱みを突いた戦略ですね。こうした事業デザインの練り上げをご一緒する中で、髙綱社長がParaviという同じチーム内でのイメージ共有を非常に大事にしておられることが印象的でした。

髙綱:2017年7月の本格スタート時、6社から出向社員として集まった約20人の経験や考えはさまざまで、動画配信サービスのイメージもバラバラでした。それを感じたとき、事業デザインを練る段階で、みんなで同じ方向を見ることが大事だということを強く意識しました。そこで、みんなでこれまでの動画配信を勉強して、どんな事業戦略でやってきたのか、成功したのか失敗したのか、成功したのはどんなところか、などについて研究しました。その末に、今の動画配信にないもの=ユーザーに居心地の良い場…いわゆるコミュニティーではないかと気付き、われわれがやるべきことはそれを提供すること、という流れを導き出したのです。

石渡:いろいろなジャンルのプロが、それぞれの思いを抱いて集まり、一つにまとまるのは大変なことですが、髙綱社長からは“みんなで一緒に決めていきたい”という意識を強く感じましたし、サポートしがいがあると思いました。当社としてもいろいろな提案をさせていただいたり、案件ごとに適した人間をどんどん引き合わせたりしました。バックボーンが異なる人が多いほどイメージの共有、統一化は大切ですね。

髙綱:今は常駐で約40人、兼務を合わせて最大で50人ほどの所帯となっています。出向社員とプロパーの比率は1対2くらい。業務委託を含め、今後はもっと関わる人が増えていくでしょう。
最初の段階で電通が提案してくれた“タイムライン自己紹介”は、お互いを理解する上で大変役に立ちました。バラバラな20人が、10分間のくくりでそれぞれ自己紹介をするのです。10分どころか15分、20分に及んでいた人もいましたが(笑)。このおかげで、すぐに互いのことを分かり合えて、初期から突っ込んだ意見交換ができました。生みの苦しみを味わう時期であるはずなのに、楽しかったですよね。
われわれは完全に後発ですが、それ故にプラスなのは、これまでの成功例、失敗例が既にあることです。同時に、他と同じことはできないよね、というプレッシャーもあるのですが(苦笑)。

プレミアム・プラットフォーム・ジャパン 髙綱代表

配信サービスによって見えてくる新たなテレビの可能性

石渡:配信サービスにおける“コミュニティー”の概念は、新しいサービスとしての出発点になると思います。これまでに接触できなかった層にもリーチできそうだと思うと期待も膨らみます。髙綱社長が今後楽しみにしていること、期待していることは何ですか?

髙綱:後発という不安はありますが、世間はどんな反応をするのかなというワクワク感の方が強いです。受験勉強を長くやってきて、早く試験を受けて結果を見たいという感覚と同じですね。
昨年末のサービススタートのリリースでさまざまな反応があり、まずは反応があったということ自体にちょっとした感動がありました。ネガティブな面も含めて、社会からこういう反応が得られるんだな、と。告知を始めて10日間で、「SICK’S恕乃抄」のツイッターフォロワー数は2万を超えました。それまでの半年間は、水面下での作業でしたが、社会に告知した今はツイッターなどでの反応を見ながら進めていけるのが楽しい。本体のサービスをサポートするオウンドメディアをつくりつつ、無料体験サービスなどでParaviのエッセンスに触れられるような方策も考えています。

石渡:サービスがスタートしさえすれば、各種の反応を見ながら改善していくPDCAサイクルに入っていくので、ただひたすら改善あるのみです。今はみんなで考えてきたことをどんどん形にできることが楽しい時期だと思いながら、私もサポートさせていただいています。
Paraviでの取り組みも含め、テレビ全体としては今後どのようにしていけばより良くなっていくと思われますか?

髙綱:テレビ業界の中にいると、どうしてもテレビ放送としての考え方、マスに対して真ん中に向かってものを投げるという考え方になってしまいますが、配信にはそもそも“真ん中”がない。コンテンツごとにターゲットが違い、全方位的なアプローチになります。そういった特性も踏まえた新たな視点で、どのようなコンテンツをつくるべきかを考えていけるようになると思います。
さらに、配信コンテンツは地上波のリアルタイム放送に生活者を回帰させる存在になり得るのではないかとも考えています。今年12月にBSで4K放送が始まりますが、それに先駆けてParaviで4Kの配信コンテンツも出す予定です。これは、4Kのコンテンツをスマホで見てもやはり寂しい、では茶の間のテレビへ、という流れに誘導できるのではないかという狙いがあります。大きなテレビ画面でコンテンツを見るという習慣づけですね。配信は放送の一歩先を行く存在であると同時に、放送の可能性を共に広げるパートナーと位置付けて取り組めば、この業界をますます盛り上げていけるのではないかと思います。

石渡:最後に、電通に期待していることを改めてお聞かせいただけますか?

髙綱:新しいメディアをつくるくらいの大きなプロジェクトだと思いますので、電通の知識・経験や資産をフルに使っていただきたいですね。ユーザーの嗜好性やエンゲージメントをどう高めていくかなどの分析と、そこから得た知見を基にしたアクションプランの策定なども幅広くお願いしたいです。

石渡:最近の広告会社はDMPを活用して、広告配信だけでなく、顧客分析などにも役立てています。Paraviでも独自のDMP構築によって、統合的な事業活用を可能にするためのプラットフォーム設計に着手しています。
当社では、このプロジェクトに興味が高まり、ぜひ関わりたい!というデジタル領域のスタッフもたくさん集まってきていますので、ぜひ深い分析やその後の施策実行まで手厚くサポートしていきたいですね。本日はありがとうございました。

パラビ