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いま注目される動画メディアの現場からNo.2

ABEMA Prime×PIVOTプロデューサー対談
~企業は「動画メディア」と、どう関わるか?

2024/04/25

「動画メディア」が、いま盛り上がっている。

動画メディアの先駆けであるニュース番組「ABEMA Prime」(以降アベプラ)はスタートから8年目を迎え、20~30代の視聴者を多数獲得している。2021年に立ち上げられたビジネス映像メディア「PIVOT」は、驚くべきスピードで認知度を上げてきた。どちらのメディアもYouTubeチャンネルの登録者数は150万人を超える(2024年4月16日現在)。

企業は動画メディアとどう関わっていけばよいか?

アベプラプロデューサー・郭晃彰氏とPIVOTプロデューサー・国山ハセン氏をゲストに迎え、電通のプランナーとして企業PRやプロモーションを手がける佐藤佳文氏が話を聞いた。

連載第1回の記事はこちら
ABEMA Prime×PIVOTプロデューサー対談~「動画メディア」は、なぜ支持を得ているのか?

 
・ABEMA Prime……2016年のABEMA開局と同時にスタートしたニュース番組。番組でとりあげた情報をニュースメディア「ABEMA TIMES」やYouTubeなどにも展開。YouTubeの公式チャンネルの登録者数は151万人(2024年4月16日現在)に上り、登録者の半数以上を20~30代が占める。

・PIVOT……2021年にビジネス映像メディアとしてスタート。最前線で活躍する経営者や専門家をゲストに招いて、経営、マネー、キャリア、ビジネススキルなどの学びコンテンツを毎日配信。動画コンテンツに注力し、YouTubeの公式チャンネルの登録者数が、2022年6月の開設から半年で10万人を突破、累計再生回数は1890万回に達した。2024年4月16日時点での登録者数は154万人。

 
ABEMA Prime PIVOT

ストレートな商品・サービス訴求は届きにくい?

──前回は、動画メディアがいま支持を得ている理由についてお聞きしました。今回は、「動画メディア×企業」という切り口でお話を伺いたいと思います。近年、動画メディアの数が増え、ニュースや教養系の動画メディアを見る習慣も定着してきました。動画メディアにおける企業情報の取り上げ方について何か変化を感じますか?

郭:「これはこう伝えるもの」と見透かされるような情報は広告っぽく見えすぎて、視聴者には抵抗感があるかもしれません。それは企業が悪いということではなく、今はネットを見ていると大量の広告に触れるからだと思います。商品やサービスについての情報が一方的に配信される現状においては、ストレートすぎないコミュニケーションの方が受け入れられやすくなっていると感じます。

ABEMA Prime

郭 晃彰氏:ABEMA Primeチーフプロデューサー。2016年に「ABEMA」開局に参加。「何かあったらすぐアベマ」をコンセプトにニュース専門チャンネルを立ち上げた。

──広告でもそういう変化を感じます。以前は、商品やサービスを広告するとき、「こうあるべき」とか「これでないと」みたいな断定表現というか、声高な主張のようなメッセージは珍しくなかったんですが、いまはそういった表現が受け入れられなくなっていると感じます。企業が主張をするというよりも、なんというか「場作り」みたいなものが大切になっています。動画メディアのタイアップでは、良い意味で余分な情報が生まれるため、硬直化しない柔軟なコンテンツが生まれる可能性がありますね。

郭:スポンサードのコンテンツを作ることのメリットは多くあります。いわゆるニュース取材のような正面玄関からのアプローチだと、撮れないシーンやモノ、聞けない話などを紹介できることが増えます。企業とメディアのWin-Winな関係が築けると思うんです。

国山:PIVOTでもスポンサードのコンテンツでは、企業の裏側に迫ったり、クライアントの思いを肌で感じることができるので、すごくやりがいを感じますね。

──広告もこれまで企業タイアップというと、商品やサービスの訴求が前面に出るケースが目立ちました。これからは、「世の中の意識をこう変えていく」といったような一つ上のレイヤーで情報発信する必要を感じます。

企業のコミュニケーションは、エンタメ性がもっと求められていく

──企業情報について、こういう情報なら取り上げたいというものはありますか?

郭:メディアに出演する企業の方は、基本的には社長さんや役職についている方が多くて、なんというか「会社員感」がないと思っています。例えば、「この企画を上司に提案したのに、一度はつぶされたんですよ」などと、怒っている人は出てこない。でも、これからはそういう現場の人や社内インフルエンサーのような人にもっと注目が集まると思うんです。世の中の大半の方は、雇われている人ですからね。

──企業PRは、社長や役職についている人が出るとメディアの食いつきがいいと言われます。でも、動画メディアの視聴者にとっては従業員の裏話的なものの方が面白いと。

国山:そうですね。PIVOTはこれまでに企業の経営層でない現場の方とタイアップコンテンツを作ったことがありますが、今後も増えてきそうです。それに僕自身、PIVOTのプロデューサーでありMCでもあるわけですが、番組に出演するときは、制作者というよりも、「ビジネスパーソン感」を大切にしています。その方が視聴者の共感を呼ぶ気がするんです。

PIVOT

国山ハセン氏:PIVOT プロデューサー。TBSテレビのアナウンサーを経て、2023年1月よりPIVOTにプロデューサーとして参画。番組出演・企画制作を担当。

郭:企業情報の伝え方ももっと工夫できる余地がありますよね。企業はいま、SDGsや多様性、働き方といった課題に真剣に取り組んでいますが、伝え方によっては建前っぽく見えてしまう。生活者から見ると「きれいゴト」を言っているような。それではもったいない。

メッセージをわれわれ動画メディアと一緒に作ることで、企業の取り組みをもっと大衆化するというか、生活者と同じ価値観にまで落とし込めるといいなと思っています。それは今後、僕たちに求められると思います。企業情報の伝え方という点では、企業のオウンドメディアは参考になることが多いですね。

国山:企業のオウンドメディアはこれから盛り上がっていくと思います。映像のクオリティがどんどん上がって、エンタメ化していますよね。

郭:例えば、ある自動車メーカーのオウンドメディアでは、エンジニアが自動運転について自分たちの経験をもとに、自分たちの言葉で熱く語っていました。外部メディアによる取材だと話せないけど、自社のプラットフォームでは話せることってありますよね。そっちの方がより本音の話が聞けます。僕はそれを見ていて、「この企業にはこんな話ができる人がいるのか」と知れますし、そして興奮します。こんなにオープンなディスカッションをしているのであれば、今度は番組に来てもらいたいと思うことがあります。

──企業のオウンドメディアから動画メディアへという流れもあるわけですね。

郭:メルカリには専属のビデオグラファーがいます。要は社内向けユーチューバーみたいな人です。その方が社員さん向けにいろいろな動画を作っている。例えば、メルカリはインド人のエンジニアが増えているんですが、彼らが日本のオフィスに来たときの様子をインドミュージックに乗せたMV風の動画を作って公開しています。このような取り組みは社内のテンションが上がるし、動画に出ているエンジニアもうれしいでしょう。この動画は社外の人も見られるんですが、「メルカリは新しいことをやる面白い会社」というイメージを与えることができていると思います。

──動画だと目を引きやすいですよね。

郭:メルカリのオウンドメディアは動画もテキストも面白いですね。僕たちもすごく参考になります。社内向けでもちゃんと編集・デザインされている。

──面白いですね。自社の事業を箔を付けて広告するのではなく、いままで伝えづらかったというか、裏話的な情報を発信していく。その方が実は本質的かもしれません。そのような企画ができると企業にとっても効果があるかもしれないですね。

郭:効果はあると思います。転職サイト「ONE CAREER PLUS」には、三井住友銀行(SMBC)を辞めた人が本音を、前職の人事にぶつける企画がありました。この企画は、SMBCがスポンサーなんですよ。いまは転職が当たり前になりつつある時代。会社を辞めても、培ったスキルを生かせることを発信し、また入行するとこういう転職先にピボットできるよといったキャリア情報を伝える意図があるのだと思います。あまり見かけない企業コミュニケーションですが、上手だなと思いました。

国山:企業情報の伝え方は変化していますよね。企業の裏側というかリアルが伝わるコンテンツが作れる動画メディアのディレクターは重宝されますね。いま、地上波のアナウンサーや制作者が企業に転職する流れがあります。今後は放送人の流動化がもっと進むと思っていて。、動画メディアにおいても、エンタメ性とか、いままでにない伝え方、見せ方がもっと求められていくでしょうね。

──お二人のお話をお聞きして、これまでのタイアップやPRとは違った企業情報の伝え方が動画メディアで求められるということが伝わってきました。商品やサービスも含めて企業情報の伝え方は新たな可能性がありそうです。本日はありがとうございました。

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