ABEMA Prime×PIVOTプロデューサー対談
~「動画メディア」は、なぜ支持を得ているのか?
2024/04/24
「動画メディア」が、いま盛り上がっている。
動画メディアの先駆けであるニュース番組「ABEMA Prime」(以降、アベプラ)はスタートから8年目を迎え、20~30代の視聴者を多数獲得。2021年に立ち上がったビジネス映像メディア「PIVOT」は、驚くべきスピードで認知度を上げてきた。どちらのメディアもYouTubeチャンネルでもコンテンツを配信し、登録者は150万人を超える(2024年4月16日現在)。
ニュースやビジネス動画メディアは、なぜ支持を得ているのか?企業は動画メディアとどう関わっていけばよいか?
アベプラプロデューサー・郭晃彰氏とPIVOTプロデューサー・国山ハセン氏をゲストに迎え、電通のプランナーとして企業PRやプロモーションを手がける佐藤佳文氏が、2回にわたって話を聞く。初回は、両メディアの変遷や番組作りのポイントなどを伺いながら、動画メディアが支持を得ている理由を探る。
連載第2回の記事はこちら
ABEMA Prime×PIVOTプロデューサー対談~企業は「動画メディア」と、どう関わるか?
「見る」ではなく「聞く」など、視聴者は自分のスタイルで楽しんでいる。
──お二人はかねてより親交があり、それぞれアベプラ、PIVOTのプロデューサーを務めていらっしゃいます。今日は「動画メディア」をテーマにいろいろなお話を聞かせてください。まず、それぞれのメディアの変遷を簡単に教えてもらえますか。
郭:アベプラは、2016年に新しい未来のテレビ「ABEMA」(開局当時・AbemaTV)の開局と同時に始まったニュース番組です。当時はネットでニュース動画を見る文化はなく、僕たちは新しいジャンルのフロンティア的な存在でした。
その後、地上波がネット配信に力を入れたり、NewsPicksが動画配信を始めたり、PIVOTが出てきたり、競争相手が増えてきました。いまではさまざまなジャンルのニュース系の動画コンテンツが登場しています。コロナ禍を経て、動画をスマホで見る習慣が根付いたことも、動画メディアが盛り上がっている大きな要因です。
国山:PIVOTは、2021年6月に立ち上げられたビジネス映像メディアです。最前線で活躍する経営者や専門家をゲストに招いて、経営、マネー、キャリア、ビジネススキルなどの学びコンテンツを毎日配信しています。
映像メディアと言いつつも、当初はテキストと動画のコンテンツが半々ぐらいでした。それを途中から動画に振り切る戦略を取りました。2022年6月からYouTubeチャンネルを本格始動したのですが、これがPIVOTの大きな転換点になりました。チャンネル登録者数は、2022年6月の開設から半年で10万人を突破し、累計再生回数は1890万回に達しました。2024年4月16日時点での登録者数は154万人に上ります。
郭:PIVOTがYouTubeでダイジェストでなく、コンテンツを全部見せるという振り切り方は凄かったですね。
国山:それまではアプリに絞って配信していたのですが、動画メディアとして後発なので、とにかく認知度を高める必要がありました。おかげさまでYouTubeでの配信をきっかけに、多くの人にPIVOTが認知されるようになりました。
──改めて、動画メディアにはどんな特徴がありますか。
郭:話すテンポやスピード感が速く、短時間で多くの情報を届けられることです。単純に比較はできないですが、ニュース番組においては、地上波と比べて情報量は1.5倍ぐらい多いんじゃないでしょうか。
国山:それはすごく感じます。話すテンポが地上波よりも速い。TBSのアナウンサー時代と比べて、話す量が倍ぐらいになった感じです。
郭:ながら聞きする人も多いですよね。アベプラは、通勤時やジムにいるときに聞いているという声をいただきます。
国山:PIVOTも通勤時に聞いている人は多いようです。学びコンテンツを配信しているからか、ユーザーインタビューでは、「見るというよりも聞いている」という声が多いです。
郭:視聴者のメディアへの触れ方にも特徴があります。動画メディアは、倍速で見る人もいれば、スキップする人もいる。こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、アベプラは平日の夜に生放送していますが、生で見てもらおうとは思っていません。好きなタイミングで見逃し視聴してもらっていいと思っています。生放送って、巻き戻して見られない、スキップできない、等倍再生など不便なところがある。
国山:生放送は不便、というのは新しい捉え方ですね。たしかにいまの時代は、視聴者は興味ないところは、はしょりたくなりますよね。見たい時に自分のスタイルで見られるのは動画メディアの大きな特徴ですね。
学び、エンターテインメント。番組作りのポイント
──番組制作ではどんなことを意識していますか?
郭:開始当初は、地上波が扱わないテーマを、と考えていました。でも、競争相手が増えてきて、他のメディアとの違いを考えたとき、アベプラは地上波寄りのメディアだと認識したんです。それで、世間が知らないニッチなテーマよりも、地上波が扱うようなテーマをアベプラならどう扱うかということを考えるようになりました。
国山:PIVOTは番組ごとにターゲットのイメージをしっかり固めるようにしています。例えば、本田圭佑さんが出演している「ANGELS」というリアル投資ドキュメンタリーであれば、年齢層はかなり若めで、起業に強い興味を示している人がターゲットです。番組によって見ている層がかなり違うのがPIVOTの特徴ですね。
郭:最近は、国山さん、佐々木紀彦さん、竹下隆一郎さん、それぞれが担当する番組の色がはっきり出てきましたよね。
国山:僕は、佐々木さんや竹下さんほど経済知識がないのですが、自分にできることを考えた結果、番組にエンタメ要素やインタビュー要素を増やしたいと思いました。自分と同年代で、まだ知識が浅く、いろいろなことを学びたいという熱意のある人のロールモデルに自分がなるという意識を持っています。それが良い方向に転がり、自分の番組を支持してくれる人が増えてきました。
郭:番組を見ていると、国山さん自身が強く興味のあることを扱っている印象です。金融リテラシーを身につけたい、英語を使える話者になりたい、教育分野に取り組んでみたいなど、学ぶ姿勢が伝わってきます。
国山:番組を作りつつ自分が学ぶという職権乱用みたいなことをやってますが(笑)。
郭:アベプラは学びよりも、エンターテインメントを意識しています。いろいろなテーマについてみんなでフランクに話す感じです。
国山:以前、アベプラに出演したときに思ったんですが、結構硬派というか、ちょっと話しづらいテーマも普通に扱いますよね。
郭:そうですね。番組のスタイルとして、出演者を多めにして井戸端会議のように話しやすい雰囲気を作ることを意識しています。以前、佐藤さんが携わった案件ですが、刃物メーカーの貝印が、体毛に縛られない生き方を打ち出した「#剃るに自由を」という広告を作りました。このトピックをもとに、「体毛を剃るかどうか」議論する番組を企画しました。これはデリケートなテーマなので少人数だと話しにくい。でも、人数を多めにしたことで、考える時間も生まれますし、それぞれが意見を言いやすいんですよね。
国山:キャスティングはいつも多種多様ですよね。
郭:意見や視点、価値観の多様さを見せたいので、なるべくいろいろな世代に出てもらっています。
──キャスティングは、メインターゲットの20~30代をかなり意識していますか。
郭:そこまで意識していないです。若い人を出したいという思いはあるものの、すごくこだわっているわけではありません。若いだけでは視聴者に気づきを与えられないこともあります。60代や70代の重鎮のような人がいた方が内容に厚みが出ますし、意見の違いがはっきりと見えるようになります。
──PIVOTは番組を見ていると「この人を選んできたか!」といった驚きがあります。アンテナの広さを感じますが、どのようにキャスティングしていますか?
国山:おのおののプロデューサーの判断です。アカデミックな分野は竹下さんが詳しかったり、佐々木さんは経済系のネットワークがあったり。僕ならエンタメ系とか。キャスティングにあたっては、SNSも参考にしますし、特に書籍はかなりチェックしています。
郭:僕も書籍や他の動画メディアはチェックします。僕たちの一番の強みは肩書き、年齢、国籍、仕事が多種多様なコメンテーターやレギュラー出演者が70人いることです。この方たちがいわばブレーンのような存在で、人やネタ、書籍、企画などを推薦してくれます。キャスティングに大いに役立っていますね。
信頼性と倫理感をどう担保するか?
──ネットメディアの倫理観や情報の信頼性がたびたび問題になっています。この点について気を付けていることは何でしょうか?
郭:アベプラはテレビ朝日の報道局が作っている番組で、地上波の放送基準やトンマナに準拠しています。正しいか分からないことは言わない、不安をあおる目的で情報を流さない、意見が対立するテーマは双方の意見を紹介する、情報の裏を取るといったことは当然です。
国山:PIVOTは出演者を選ぶとき、その方の実績をしっかりリサーチします。バズりそう、ビューが増えそうという理由だけで人選することはありません。加えて、動画サイトやニュースサイトなどのコメント欄もチェックしています。郭さんは見ていますか?
郭:YouTubeとYahoo!のコメント欄は見ますね。
国山:コメント欄は視聴者の声を反映していると思っています。自分たちがキャスティングした人が視聴者にどう映っているのか、この人のファンはどれくらいいるのかをつかむときの参考になります。
郭:特にYouTubeに寄せられるコメントは、書き込む人の意志のようなものを強く感じますね。
国山:ですから、番組を配信してコメント欄が荒れることが一概にダメというわけではないと思います。荒れたときは、その原因を分析して、制作チームで共有して、PIVOTに対する視聴者の信頼感を高めようとしています。
ネットメディアは、マスメディアを目指してはいけない
──地上波や新聞などの既存メディアをどのように捉えていますか?
郭:僕はFIFAワールドカップ カタール2022のとき、地上波のすごさを感じました。ABEMAも大きな話題になりましたが、それでも地上波の視聴者数は非常に大きいです。改めて、情報を一斉に全国に無料で届けて、みんなが同時に見られるシステムのすごさ、訴求力の強さを感じました。
ネットメディアは拡大していますが、マスメディアを目指してはいけないとすごく思いました。僕たちは、世の中のみんなを意識するのではなく、「これを伝えたい人」という具体的なターゲットに向けて、その人に刺さるコンテンツを作らないといけないな、と。マスではなく特定の属性の人たちです。国山さんは既存メディアをどう捉えていますか?
国山:やっぱり既存メディアにしかできないことはたくさんあって、一定のパワーはこれからも維持されていくでしょうね。新聞は情報量が多く精度も高いし、地上波はリアルタイム視聴が減りつつも、TVerなどのテレビ番組動画プラットフォームにはポテンシャルを感じます。
郭:ネットとテレビの境界線がなくなってきているとよく言われますが、僕は、大人数が受動的に見るテレビと、能動的に選んで見るネットという違いは残した方がいいと考えています。そして、それはネット側が意識しなければいけないんじゃないかと。ネットメディアが既存メディアと同じような力を持ったら、世の中の全員が見ているという前提で気にしなければいけなくなる点も増えるし、ネットらしい遊びがなくなる気がするんですよね。
──動画メディアの今後についてお聞かせください。
郭:ニュースや教養・情報系コンテンツを配信するメディアが増えた結果、似たり寄ったりになっていると感じます。ABEMAなど新興のネットメディアが、動画市場を作ってきたという意識があるんですが、ここからもう一度それぞれが個性を持っていく必要がある。
国山:そうですね。僕たちも、PIVOTをどう変えていくか議論しているところです。グローバルな視点を持って海外の情報をもっと伝えたり、日本の情報を海外に発信したり。日本は地上波も含めてメディアはドメスティックだなと感じますが、グローバルに進出できると面白い展開になりそうです。
──ありがとうございました。次回は、「企業は動画メディアとどう関わるか」をテーマにお話を伺います。