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月刊CXNo.17

クロちゃん“なのに”本格的? Paravi「クロちゃんずラブ」に見るコンテンツ&プロモーションの秘訣

2023/08/08

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)。
今やあらゆるシーンで求められるCX領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?

その可能性を解き明かすべく、電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載が「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

今回紹介するのは、2023年3月に動画配信サービス「Paravi」で配信されたオリジナル連続ドラマ「クロちゃんずラブ~やっぱり、愛だしん~」(以下、クロちゃんずラブ)の制作事例です。

※「クロちゃんずラブ」は、現在U-NEXTで全5話 配信中


お笑いタレント、安田大サーカスのクロちゃんの半生を描いた本ドラマ。どのように企画が誕生したのか?制作の際に気をつけたこととは?本ドラマ企画者である原央海氏とプロデューサーの山田奈那子氏に話を聞きました。

原氏、山田氏

【原 央海氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター
CMプランナー/コピーライター
博報堂プロダクツ営業を経て、電通へ第二新卒入社。「おもしろいもん作りたい……」をモットーに仕事をする。小学館「アオアシ」ウェブドラマCM全11話「4月のキックオフ」、日清食品チキンラーメンTVCM「キャベサラダたべるんごのうた」「タイパでヤバうま!」などを手掛ける。主な受賞歴に、CCN賞最高賞、BOVAグランプリ、消費者が選ぶ広告コンクールグランプリ、読売広告大賞グランプリ、フジサンケイ広告大賞グランプリ、文化放送ラジオCMコンテストグランプリ、第6回全日本かくれんぼ選手権優勝など。企画したドラマ「クロちゃんずラブ」ではATP賞テレビグランプリ奨励賞を受賞。

【山田 奈那子氏プロフィール】
電通
ラジオテレビ局
プロデューサー
電通入社後、4年間テレビCM関連の業務を経験し、2021年に動画配信サービスParaviを運営する株式会社プレミアム・プラットフォーム・ジャパンに出向。Paraviの新規会員数増加を目指し、配信コンテンツのプロモーションや、Paraviのサービスブランディングを担当。
公式SNS(Instagram、TikTok、Twitter、YouTube)の運営・クリエイティブ制作、テレビCM制作、屋外広告、アドトラック、イベントサンプリングなど、さまざまな媒体を使ったコミュニケーションを企画。
2023年にはParaviオリジナルドラマ「クロちゃんずラブ~やっぱり、愛だしん~」のプロデューサーとして、コンテンツ制作からプロモーションまで担当。
 

お笑い好きだからこそ思いついた、時代に沿ったコンテンツ

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月刊CX:「クロちゃんずラブ」がどのようなドラマだったのか、簡単に教えてください。

原:インパクトのあるキャラクターとして知られる安田大サーカスのクロちゃんの半生を描いたもので、SNSで注目を集めたドラマです。クロちゃん役には俳優の野村周平さんをキャスティングし、クロちゃんの恋愛を中心に、彼の学生時代から若手芸人時代までのエピソードをドラマ化しました。「学生時代は自分を鍛えるために裸足で登校していた」など、作り話のようなクロちゃんのインパクトのある実話エピソードをドラマで余すところなく伝えています。2023年3月に配信され、全5話完結の作品です。
  
月刊CX:どのような経緯で今回の企画が立ち上がったのですか?
 
原:Paraviの新番組企画(バラエティ・ドラマ・情報・スポーツ問わず)を募集するコンペに応募したのがきっかけです。 Paraviには、新たなターゲット層にリーチして会員数を増やすために、世間で話題化するようなコンテンツを制作したい、という課題がありました。そこで、同僚の鈴木章太とともに、クロちゃんのドラマ化をParaviに提案したところ、採用されたというわけです。今回の企画では、コンテンツ制作とプロモーションも僕が担当しました。  

月刊CX:なるほど。主人公として、クロちゃんという斬新な存在を選んだ狙いはどこにありましたか?
 
原:大前提として、僕はお笑いが大好きなんですが、最近のテレビやメディアを見ていて、ネタと同じくらい芸人の生き様や半生に世間がすごく興味を持つ時代になっていると感じていました。例えばピースの又吉直樹さんが「火花」で芸人の人生を描いたり、お笑いの賞レースで優勝した芸人のドキュメンタリーが放送されたり。ネタだけでなく人柄を含めて楽しむハイコンテクストな笑いがある中で、誰の人生をドラマ化したら面白いだろう? と考えた中で出てきたのが、クロちゃんでした。

クロちゃんは10代や20代を中心にSNSで絶大な人気を誇る芸人です。彼のドラマを作ることができれば、ネットの動画配信サービスを見ている若い層にアプローチできるのではないかと考えました。

月刊CX:たしかに、芸だけでなく芸人の人間性やその生き方なども含めて楽しむのは、最近の傾向ですね。今回のドラマには内容的にとがったエピソードが多かったのも印象的です。

山田:そうですね。「クロちゃんの人生をイケメンで本格ドラマ化」といった攻めたテーマでしたが、出演者の皆さんも楽しんで受け入れてくださったからこそ、このドラマが出来上がったのではないかと思います。監督やプロデューサー、脚本家、制作スタッフ全員がチームとして一丸となり、何がベストか相談しながら、楽しみながら前に進めていけたことが良かったのかな、と。

話題化の第一歩は、ギャップを作ること

月刊CX:ドラマの内容についてはどういった部分にこだわりましたか?

原:こだわったのは、クロちゃんをカッコよく描くことです。彼は本能をむき出しにして、普通の人だったら絶対やらないようなことをする変な部分が面白いのですが、その中心にはブレない軸があって、自分なりの美学や哲学を持ってロジカルに動くある種のカッコよさがあるんですよ。それをドラマでしっかり伝えたいと思いました。

月刊CX:ドラマの脚本準備のための取材は、30時間以上もかけて行われたと聞きました。

原:はい。こういったドラマは作り話として面白おかしく描くのも一つのスタイルだと思いますが、「クロちゃんずラブ」では実話にこだわり、本人だけでなく、相方や芸人の後輩、芸能界の親友、マネージャー、過去の交際相手にまで話を聞きました。

本人が忘れているようなことも周りの人に聞いて洗い出すなど、とにかく必死にエピソードを集めました。その中で特に印象的だったのは、クロちゃんの元カノへのインタビューです。「クロちゃんが木の枝で歯磨きをしていた」という強烈なエピソードを教えてくださって(笑)。

山田:取材で集めた膨大なエピソードは「恋愛編」「学生編」などとして、エピソードごとにエクセルに細かく分類してまとめていきました。地道でしたが、そうした部分に時間をかけられたからこそ、いいコンテンツに仕上がったのだと思います。

月刊CX:ドラマの演出についてはどのような点に留意されましたか。

原:クロちゃん“なのに”、みたいなギャップをすごく意識していました。クロちゃんのキャラクターを考えると、チープで笑えるドラマにすることもできたと思うのですが、クロちゃん“なのに”本格派ドラマ、クロちゃん“なのに”野村周平さんをはじめ超豪華俳優陣が登場している、みたいな。そのギャップが個人的にすごく大事で、世の中で話題になる上でも必要なことだと考えていました。

月刊CX:野村さんがクロちゃん役というのは非常に驚きでしたし、世の中的にもそこに大きなインパクトが生まれていたように感じます。

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原:ありがとうございます。お笑いではよく「緊張と緩和」という言葉が使われますが、そうしたギャップによって「なぜクロちゃん役を、あんなイケメンが演じているんだ!」と世の中が反応し、それに対してクロちゃんが「僕にそっくりだしん!」と言い返し、さらにまた世間が言い返す……といった良いリアクションの連鎖が生まれてほしいな、と願っていました。

ドラマコンテンツの競合が多い中で、少しでも興味を持ってもらうために、作品の外側で起こる世の中の反応まで意識できたのは、僕が普段広告業界にいるからこその強みだったかもしれません。 

制作からプロモーションまで、一気通貫でブレない発信

月刊CX:「クロちゃんずラブ」が配信されてから、ユーザーの反応はいかがでしたか?
 
原:非常に好意的に受け入れてもらえたのではないかと思います。YouTubeで第1話が無料公開されていますが、そのコメント欄の反応もポジティブなものばかりです。特徴的なものとして「野村さんの演技が上手すぎて、本当にクロちゃんに見えてきた」というコメントも多くありました。

月刊CX:Paraviの反応はいかがでしたか?
 
山田:Paravi社内の反応もかなり良かったです。「クロちゃんずラブ」は、世の中に広く知られる作品になりましたし、コンテンツだけでなく「Paravi」のサービス自体の認知を高められたという点でも評価されました。さらにこのドラマでは、Paraviとはあまり接点がなかった、お笑い好きの男性という新しい層にも幅広くリーチできたのも成果の一つですね。

原:ATP賞テレビグランプリという制作会社のコンテストでは奨励賞を受賞でき、ドラマの内容もちゃんと評価していただけたのはうれしかったです。

月刊CX:コンテンツ制作だけでなくプロモーションも担当された原さんは、かなり大変だったのではないかと推察しますが。
 
原:作る部分にも広げる部分にも携わらせてもらえたぶん、考えることや進めなきゃいけないことが非常に多かったので、確かに大変でしたね。とはいえ、コンテンツ制作からコミュニケーション設計まで一貫して担当したことで、ドラマとプロモーションの世界観を統一できたのは良かったです。

月刊CX:プロモーション面ではメインビジュアルがとても印象的でした。

原:ありがとうございます。ドラマと同様に、メインビジュアルや予告映像もチープではない本格的なものにしたいと考えていました。メインビジュアルは見ただけで「すごそうだ」と感じてもらえる雰囲気が出せるようにアートディレクターと工夫しました。その他に、プロモーション周りではアドトラックや、クロちゃんにちなんで9種類の6秒バンパーCM(6秒間流れるYouTube広告)も仕掛けました。

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CM動画
【野村周平】「クロちゃんずラブ~やっぱり、愛だしん~」CM総集編【全9種】
※画像をクリックすると、動画を見られます

月刊CX:ドラマの中身作りとそれを宣伝する広告作りの両方に携わるというやり方は、原さんでないとできない仕事ですね。

原:そう言っていただけるとうれしいです。大変なこともありましたが、広告と番組には制作や進行の違いがあり、CMしか知らない自分にとっては学びも多かったです。何より、番組のドラマ脚本の1ページ目に自分の名前がクレジットで載っているのというのは、かけがえのない一生の宝物です。 

手法に縛られることなく、顧客の心と体を動かす新しいCX

月刊CX:今回のコンテンツで、CX的なポイントはどこにあると思いますか?
 
原:そもそも、顧客の心と体が動くのであれば、手法は何でもありなのがCXなのかな、と思っています。今回はParaviの新規会員獲得の課題を解決するためにドラマを作るという新しい方法に挑戦できたところがCX的だったと思います。

月刊CX:しかもそのドラマの内容もつきなみなものではなく、さまざまな新しいチャレンジを含むものでしたね。

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原:そうですね。番組全体の構造も効果的だったと思います。番組としてはドラマパート以外に、クロちゃんと出演者が登場するスタジオパートを用意して、ドラマの内容をかみ砕きつつ、「あそこはキモかった!」「あれは共感した!」などのツッコミを出演者に入れてもらいました。この2パートの構成によって、ユーザーに楽しみ方の補助線を作った演出もCX的だったと言えるかもしれません。

山田:広告制作の現場から見ると、テレビ業界の瞬発力やスピード感には驚くこともありましたが、ビジュアル案やタイトル案を100案ほど提出して議論する原さんのやり方は、テレビ業界の方に新鮮に受け取られたのではないかと思います。

月刊CX:最後に、おふたりの好きなシーンをそれぞれ教えていただきたいです。

原:クロちゃんのファーストキスのシーンが好きです。クロちゃんが「キスは息を吹き込むもの」と勘違いしていて、キスをしながら息を吹き込むというシーンで(笑)。その他にも、多くの人の人生では起こらないであろう衝撃的なシーンがたくさんあります。

あとは、スタジオパートでクロちゃんがドラマを見たあとに涙ぐむところも好きですね。第三者として見るには面白くても、本人は過去の話が感傷的になるきっかけになったのかなと。クロちゃんのリアクションを通して、彼の人生を追体験するような気持ちになれました。

山田:私は、第1話の野村さん演じるクロちゃんが、伊原六花さん演じるヒロインの口の中を見たときに足が震えて立てなくなるシーンがお気に入りです。撮影時には面白さのあまり、現場にいた人たち全員、声が出ちゃうくらい笑っちゃいました(笑)。その瞬間にその場にいた全員が「このドラマは面白くなる!」と心から確信できた、すごく印象的なシーンです。ぜひ皆さんにも見ていただきたいです!


(編集後記)

今回は、2023年3月に動画配信サービスParaviで配信されたオリジナル連続ドラマ「クロちゃんずラブ~やっぱり、愛だしん~」の制作事例について話を聞きました。

広告コミュニケーションの制作で鍛えられたクリエイターが、コンテンツ制作の現場でその知識や経験を生かして新しいエンターテインメントを生み出す大きな可能性を感じました。

今回のインタビューは、「CX Creative Studio note」(CX Creative Studio noteに関してはコチラ)とも協力しながら行っています。電通CXCCチームだけでなく電通デジタルのCXクリエイティブチームとも連携した、より幅広い事例の収集や紹介等も行っていますので、ご興味がおありでしたらそちらも併せてご覧ください。

また、今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

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