月刊CXNo.16
子どもの好き嫌いは克服するべき?みんなで新しい価値観を創る共創キャンペーン
2023/07/18
日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)。
今やあらゆるシーンで求められるCX領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?
その可能性を解き明かすべく、電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載が「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。
今回は、フマキラーが食育のために行っている「つくっ手たべ手プロジェクト」の第二弾として実施した「子どもの好き嫌い克服するべきか問題」をご紹介。担当したクリエーティブディレクターの植田正行氏とコピーライターの花田顕子氏に話を聞きました。
Twitter上で2万5000以上もリツイートされ、7700以上もの回答や意見を得ることができた本キャンペーン。投稿するテキストやクリエイティブの制作だけでなく、Twitterの運用にも深く関わったそうです。SNSキャンペーン成功の裏側に迫ります。
議論の場を提供する共創型のSNSキャンペーン
月刊CX:「つくっ手たべ手プロジェクト」の概要を教えていただけますか。
植田:除菌を通して、子どもたちが自分の手で食に触れる体験を増やすことを目的とした食育プロジェクトです。前提として、フマキラーには「キッチン用アルコール除菌」という商品があります。「つくっ手たべ手プロジェクト」は、この商品のブランドパーパスである「食を通して『人と人の関係性』をつなぎ、『リアルな体験』を後押しする」を発信する施策として誕生しました。
月刊CX:「子どもの好き嫌いを克服するべきか」は、プロジェクトの第二弾にあたるキャンペーンだとお伺いしました。
植田:はい。第一弾の企画は2022年に行った「釣った魚で手巻き寿司をしてみよう」でした。子どもたちが釣り船に乗って、自分で釣った魚で手巻き寿司を作るというもので、その動画をSNSで配信しました。
花田:第二弾では、趣向を変えてテーマを「子どもの好き嫌いを克服するべきか」にしています。子どもの好き嫌いは、親にとっては身近な問題です。昔の価値観でいえば克服するべきという意見が多いかもしれませんが、本当にその必要があるのかという疑問を投げかけることで問題提起をし、新しい価値観を創りたいと考えました。そこで考えたのが、共創型のSNSキャンペーンです。
月刊CX:共創型のSNSキャンペーンとは、具体的にどういったものなのでしょう?
植田:コンテンツを提供するだけではなく、Twitter上で議論できる場を提供しました。フマキラーのTwitter公式アカウントの役割は、好き嫌いの克服は必要なのか話し合える場所を作ること、意見をいいやすい場にすることです。具体的な実施内容としては、PRリリースで世の中に問いを投げかけた後に、フマキラーのTwitter公式アカウントでユーザーの意見を募りました。
花田:Twitterでのアンケート投稿に加えて、子どもがいる男女600人への事前調査と有識者への取材を行ったほか、「自分で調理したら嫌いな食材は食べられるのか?」という検証動画も制作しました。それらは全てコンテンツとしてTwitterに投稿しています。
コンテンツでエールを送るとともに、パーパスを伝える
月刊CX:複数のSNSがある中で、なぜTwitterを選ばれたのですか?
植田:ブランドパーパスを発信するためには、キャンペーン自体に注目を集める必要がありました。話題になりやすく、かつ議論をしやすいSNSといえば、Twitterが最適だったのです。
限られた予算の中で最良の動画や画像といったSNS用のコンテンツを制作するべく、アートディレクターやコピーライターの花田さんが尽力してくれました。
月刊CX:「『好き』に出会おう。『嫌い』にも出会おう。」というのは印象的なコピーですよね。
花田:ありがとうございます。このキャンペーンでは、除菌しながらいろいろな食材に出会えるので、そのようなコピーにしました。「『嫌い』にも出会おう。」の部分は自分でも気に入っていて、好奇心に伴う失敗を肯定するようなメッセージになって良かったなと。
ママ友から子どもが食べずに悩んでいる話を聞くことも多いですし、「好き嫌いがあるのは当たり前だから大丈夫だよ」というエールの意味合いも込めました。
月刊CX:なるほど。個人的には、有識者のコメントも面白いなと思いました。子育てや栄養について専門的な知識がある人でも、意見が割れる問題なのだなと。
花田:人によって意見が異なるので面白いですよね。医師、栄養士、教師、食品メーカー社員といった、幅広い分野の方にメールでインタビューをする中で、考え方は人それぞれなのだと改めて実感しました。コンテンツとしても、どれが正解というわけではなく「自分の好きな意見を選べばいい」というスタンスでさまざまな視点を示せたと思います。
月刊CX:検証動画も、子どもたちが本当に楽しそうにしていていいですよね。
植田:動画に登場したお子さんの一人は、嫌いなものが入った料理を食べてみて「おいしかった」と言っていたものの「また食べたい?」と聞いてみると「もう食べない」と答えていましたね(笑)。
これは花田さんのコピーにある「『嫌い』に出会う」に当てはまることですし、体験することの大切さを体現できたと思っています。
Twitterスペシャリストの協力も得て、大きな反響を獲得
月刊CX:キャンペーンの反響は、どれほどあったのでしょう?
植田:2万5000以上のリツイートと7700以上の回答や意見が集まりました。全期間を通して高いエンゲージメントをキープできましたし、クライアントの満足度も高いです。
月刊CX:どのようにTwitterを運営されていたのか教えていただきたいです。
花田:フマキラーの公式アカウントを使って、2023年1月24日~30日の7日間にわたり、アカウント名とトップページをキャンペーンのものに変更して運営しました。アンケート機能を使ったり「意見を教えてください」とお願いしたりすると、多くの意見をいただけて、うれしかったですね。克服するかどうかにかかわらず、多くの人が好き嫌いについて言いたいことがあるのだなと思いました。
月刊CX:キャンペーン期間中のTwitterは、花田さんが運用されたのですか?
花田:はい。ツイートする内容を考えて、フマキラーのTwitter公式アカウントの担当者とやりとりしながら運用にしっかり関わりました。「まとめて投稿するよりも、時間を分けて投稿したほうがいい」「この時間はフォロワーがアクティブなのでこの時間に投稿したほうがいい」「この言い方は伝わらない」「このツイートは2つに分けよう」など、担当者の方から細かいコツを教えていただきましたね。このようにフマキラーと連携してアンケート調査の設計、収集、分析、コメントのピックアップ、文字校正などを含め、すべて内製しています。
月刊CX:アンケート調査の結果をグラフ化したり、有識者のコメントをまとめたりと、制作するコンテンツが多く、大変だったのでは?
花田:今回のキャンペーンでは、宣伝ではなくコンテンツを提供することに意義がありました。「良いコンテンツを作りたい」という思いで取り組んだので、やりがいがありましたし、これまでに培ったスキルや経験を生かせたと思います。
Twitterの運用については、自分たちも深く関わったことで、高度な知識が必要だという発見がありましたし、勉強になりました。SNSに精通している同僚にも助けてもらいましたね。
月刊CX:どのような部分で助けてもらったのですか?
植田:炎上対策です。フマキラーとしては、中立の立場を貫きたいという思いがあったものの「どれだけ気をつけていても、反対の意見があると炎上するのでは」という心配があったようで、炎上した場合の対応方法を決めておいてほしいという要望をいただいていました。
そのため、社内のSNS炎上対策のスペシャリストにどのように対応すべきかアドバイスをもらい、対応策を策定しました。実際にはそういったことは発生しませんでしたが、きちんと対策を用意できて良かったです。
フィールドが違っても、スキルがあれば人の心を動かせる
月刊CX:CXの視点から、今回のキャンペーンのポイントはどこにあると思いますか?
植田:私は動画、花田さんはコピーというように、今まで培ってきたクリエイティブの力をベースにして、マスメディアを使わずデジタル、しかもSNS投稿だけで話題化できたことです。ベースになるスキルさえあれば、フィールドが変わったとしても人の心を動かすことができるのだと感じました。
花田:今までは「いい表現をするためのクリエイティブ技術」を求められていましたが、CXCCでは「いつどこで誰がどんなふうに」というCXの仕組みから考えることが求められます。今回はTwitterというフィールドで議論をする場を作り、新しい価値観を創るという仕組みから考えて、それに付随する表現を考えました。
やらなくてはいけないことがとても多かったのですが、仕組みから考える人、言葉から考える人、動画から考える人、各領域のスペシャリストが集まって実現できたキャンペーンだと思います。
植田:作り終わったものを見ると、起点となるコンセプトやコピーと成果物が直結しているのも重要なポイントだと思います。起点がずれると全体を見失うため、起点から広げていくことは昔から重視されていましたが、改めてその重要性を認識しました。
月刊CX:最後に、これから挑戦したいことがあればお話しいただきたいです。
花田:今回のキャンペーンでは、インタビューを通して自分の想像を超えるような意外な視点、実践的なアイデアなど、さまざまな意見に触れられて、人の話を聞くことの面白さを実感しました。今後、人の話を聞く機会を増やして、その面白さをクリエイティブに反映していきたいです。
植田:世の中には、テクノロジーが面白い、世の中の役に立つから面白いなど、「面白いの価値観」がたくさんあります。ただ、たくさんの面白いがありすぎて、難しくなっているようにも思うので、自分の面白いを突き詰めていきたいですね。
月刊CX:ありがとうございます。第三弾も企画されているということで、今後の展開を楽しみにしています。
(編集後記)
月刊CX第16回では「子どもの好き嫌い」という身近な問題にフォーカスした事例を紹介しました。
“つい自分もひとこと言いたくなる”ようなテーマ設定に加えて、丁寧に設計されたコンテンツを通して多様な意見を公平に示すことで、「好き嫌いは克服するべき」という古くからの価値観を見直すきっかけになりました。第三弾がどのような企画になるのか今から楽しみです。
今回のインタビューは、「CX Creative Studio note」(CX Creative Studio noteに関してはコチラ)とも協力しながら行っています。電通CXCCチームだけでなく電通デジタルのCXクリエイティブチームとも連携した、より幅広い事例の収集や紹介等も行っていますので、ご興味がおありでしたらそちらも併せてご覧ください。
また、今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。