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月刊CXNo.15

TikTokスタークリエイター集団「サントリービアボーラーズ」はなぜ、MZ世代へのアプローチに成功したのか?

2023/07/05

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)。

今やあらゆるシーンで求められるCX領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?

その可能性を解き明かすべく、電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載。それが「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

今回はMZ世代の「TikTok売れ」を目指して展開したキャンペーン、TikTokスタークリエイター集団による「サントリービアボーラーズ」プロジェクトを担当した瀧口裕氏に話を聞きました。

MZ世代の消費行動を促す広告プロモーションは非常に難易度が高いといわれる中、「サントリービアボーラーズ」のキャンペーンではローンチから短期間で大きな反響があり、MZ世代へのアプローチに成功したといわれています。その要因はどのようなところにあったのでしょうか。

瀧口氏
【瀧口裕氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター
クリエーティブディレクター
前職でIN-OUTのグローバルマーケティングとアクティベーションプランニングを担当後、電通に。Cannes Lions、ADFEST、Clio、ACCなど受賞歴多数。一般社団法人「ロボット応援団」開発ディレクター。ドイツからの帰国子女だが、得意な料理はパエリア。
 
ビアボーラーズ
左下から時計回りに、なかねかな、しなこ、ミスターヤバタン、レミたん、関ミナティ(マツダ家の日常)、バヤシ

【ビアボーラーズ】とは 
炭酸でつくる自由なビール「ビアボール」のキャンペーンに、Z世代に人気のTikTokクリエイター6人が集結。それぞれ本人のアカウントでの投稿、サントリーアカウントでの投稿の広告配信、全員が集合したウェブCMの組み合わせで展開し、#ビアボールの動画は公開3カ月で総計8600万回再生を突破。

Z世代に知名度の高い6名を選出し、TikTokスタークリエイター集団を結成

月刊CX:ビアボールのキャンペーン「サントリービアボーラーズ」とは、どのようなものだったのでしょうか。

瀧口:このプロジェクトは、MZ世代への商品認知の拡大と、それを消費行動にまでつなげていくために、2022年11月15日のビアボール発売と同時にローンチしたTikTokを起点としたプロモーションです。

ビアボール

ビアボールは、炭酸でつくる自由なビール。炭酸水と原液で濃さを自由に調整することができますし、誰でも自分好みのテイストにアレンジが可能です。いうなればビールとハイボールのいいとこどりのアルコール飲料のような趣きがあり、ビール離れが進みつつある若年層、モノそのものよりも新しい体験にこそ価値を見いだすMZ世代に、とてもマッチしている商品だと思います。そんな、ただでさえ新しく自由なビアボールの魅力を、ターゲットにより効果的に届けていくために企画したのが「サントリービアボーラーズ」のコミュニケーションフレームです。

キャンペーンでは、TikTokを代表するインフルエンサー6人を集めてTikTokスタークリエイター集団を結成し、ウェブCMの制作、各アカウントからのPR投稿などを実施しています。

ビアボーラーズ動画
※画像をクリックすると、動画を見られます

月刊CX:ウェブCMでは、6人のインフルエンサーが集結しているのですね。

瀧口:はい、個別投稿を行うだけでは、これだけのメンバーを集めた最強感を伝えきれないと考えていました。そこで、ウェブCMは、6人がネオ居酒屋に集まってビアボールを楽しんでいるシチュエーションにしました。キャンペーンを行った2022年の年末は、世の中的にもちょうどリアルな忘年会が復活しつつあるタイミングだったため、見た目も含めて派手なこのメンバーが集まって飲んでいたら、すごく楽しく見えるだろうなと。

ビアボール「ビアボーラーズ大集合」篇
ビアボール「ビアボーラーズ大集合」篇

それぞれのビアボールで全員が乾杯するシーンは、自分好みにつくれる自由なビールという象徴的な商品特性をしっかり表現できたと思っています。

個別アカウントでの投稿は、このビアボールを自分だったらどう楽しむか?ということを、クリエイターたち自身の動画で、それぞれ自由に表現してもらいました。「ビアボーラーズ大集合篇」も含めて、これらの#ビアボールの動画は公開3カ月で総計8600万回以上再生されています。

ビアボーラーズ

発売後すぐ話題に!MZ世代に響いた理由 

月刊CX:ビアボーラーズのキャンペーンは、各方面から非常に高い評価を得ていると聞いています。その理由は何だと思いますか?

瀧口:それは何といっても、商品発売時の売れ行きが好調だったからではないでしょうか。コミュニケーションにおいても、さまざまな要因が積み重なりローンチ直後はすべてのピースがうまくハマったような状況をつくり出せていたように思います。

もちろんMZ世代の消費行動を促すことを目指したTikTokでのプロモーションも、貢献できたのかなと思います。ウェブCMに関していえば、広告であるにもかかわらず「まさにTikTokの最強集団」「このメンバーがそろうなんて」「初めて広告を最後までみた」などポジティブなコメントが多く、TikTokユーザーのインサイトをしっかり捉えられたことが評価につながったのだと思います。

月刊CX:ある意味では「TikTok売れ」ともいえる状態を生み出せたのが高い評価につながっているのですね。このような結果を残せた理由は何だったのでしょうか?

瀧口:やはりサントリーさんが、商品戦略として「MZ世代ターゲット」に特化したプロモーションを採用されたことだと思います。商品の開発意図からしてそこが明確なので、私たちはMZ世代に対する強く効果的なコミュニケーションとクリエイティブを設計するだけで、商品戦略と施策方針がスムーズに合致していきました。

月刊CX:「TikTok売れ」に関するメソッドを知っていたからこそ、結果につながったと。

瀧口:TikTok売れというのは、商品そのものにまだ知られていないポテンシャルが存在し、そのポジティブなインサイトを発見した誰かが上手に引き出してくれることで発生する事象だと考えています。基本的にはオーガニックな現象であり、これを恣意(しい)的に引き起こすことは非常に難しいのですが、今回はサントリーの皆さまと一緒にTikTok売れのメカニズムを研究し、そこを目指して「ビアボーラーズ」のプロジェクトを立ち上げました。決してこのプロモーションだけが要因ではありませんが、先ほどもお話ししたように、すべてが好転した結果として商品の売れ行きが好調なのは喜ばしいことですね。

月刊CX:決定的なメソッドを使えば何でも売れるのではなく、商品側のポテンシャルが必要ということですね。 

瀧口:ええ。今回はサントリーの皆さまとTikTok売れに関する勉強会などを実施しているなかで、「このユニークな商品ならそれを目指せるポテンシャルがあるのでは」とご紹介いただいたのが、半年後に一般発売を控えていたビアボールでした。

月刊CX:ビアボールには、そのポテンシャルがあったと。

瀧口:試飲したとき、「これならいける」とすぐに思いました。誰もが好きな濃さやテイストにアレンジができるし、自分でつくるという体験の楽しさもある。そもそも飲料としてすごくおいしいのですよ。私は実はお酒に強くないのですが、ビアボールは飲み口もやさしく「ビールっておいしいんだな」とMZ世代に感じてほしい感想をそのまま口にしてしまいました(笑)。ポテンシャルの高さを実感するとともに、なおさらコミュニケーションで結果を出さなければとプレッシャーも感じましたね。

しなこ・レミたん

インフルエンサーの持ち味を把握し、存分に発揮してもらうために

月刊CX:ビアボーラーズの動画を制作するにあたり、工夫した点があれば教えていただけますか?

瀧口:どんなTikTokクリエイターに出演してもらい、どういったアプローチでインサイトを引き出してもらうかは、サントリーの皆さまやチームメンバーと何度も議論しながら、時間をかけて決めていきました。

TikTokスタークリエイター集団を標榜(ひょうぼう)するからには、一般的なユーザーならほとんどの人が知っているであろう、納得感のあるメンバーを集めなければいけません。候補として名前が上がったクリエイターたちの動画は、過去にもさかのぼってかなり細かくチェックしました。

TikTokクリエイターが制作する動画でも、それぞれの持ち味とビアボールの商品ポテンシャルの双方を引き出せるよう具体的なコンテを書いて、本人たちに直接ブリーフィングしました。一般的にインフルエンサーマーケティングでは、本人たちがクリエイションする余白を奪わないように、また失礼に当たらないようにといった点を考慮し、つくり込んだコンテまで用意しないケースも多いです。しかし今回は、入念な事前研究で自分たちが思い描いたイメージに自信があったため、あえてコンテベースで説明した結果、多くのクリエイターが納得して、企画に基づいた動画を制作してくれました。

たとえば「マツダ家の日常」というクリエイターは、ここ2年で動画のトーンがかなり変わっていたのですが、かつては都市伝説風に商品紹介する芸風でバズを連発した時期がありました。今回どうしてもそれをやってほしいと考えて、完全に都市伝説トーンでビアボールのコンテを描いたのですが、本人からも「これでやらせてくれるなら、ぜひやりたいです」と言ってもらえました。広告プロモーションでは、なかなか踏み込みにくいトーンだと思うのですが、喜んでご了解いただいたサントリーの皆さまにも感謝しています。

マツダ家、なかねかな

月刊CX:商品のポテンシャルに加えて、インフルエンサーの魅力を発揮させる手法を研究して提案したこと、チャレンジングな企画にクライアントも挑んでくれたことが成功の秘訣(ひけつ)だったということですね。このキャンペーンの制作で楽しかったところについてもお話しいただけますか?

瀧口:実際に身近な人たちも含めて「TikTokで見たので買ってみた」「飲んだらおいしかった」という声を多く聞けた実感があり、いろいろうまくいったので基本的にはずっと楽しかったです。6人の個性的なクリエイターが一堂に会したCM撮影の現場は独特の空気感がただよっていて、特におもしろかったですね。インフルエンサーは現場でもずっとテンションが高く、驚くほどノリが良くて。ディレクションしなくても、おのおの自由にアドリブを入れてくれて、メイキングを撮りたくなるくらい現場は盛り上がっていました。

また、広告業界とインフルエンサーとでは、つかう専門用語が微妙に違っていて、ときどき言葉が通じないこともありました(笑)。そういったことも新鮮でした。

バヤシ、ミスターヤバタン

CXとは、無限にある選択肢から最適解と最短距離をみつけること

月刊CX:この施策をCXの観点からみると、どのような発見がありましたか? 

瀧口:テレビなどマス認知を獲得するコミュニケーションとは別に、MZ世代という強い特性と個性を持った特定のターゲットに向けたプロモーションがある程度思い描いた通りに機能したというのは、CXの観点からも有意義な事例だったと考えています。

ローンチ時の垂直立ち上げが功を奏したこともあり、ビアボールは世代を問わず広く認知される商品となりましたが、「ビアボーラーズ」の認知度は世代によってまったく異なります。Z世代に多いTikTokユーザーは、その利用頻度にかかわらずほぼ誰もが「ビアボーラーズ」を知っていて、「すごく豪華なCM」とか「あまりによく見るからつい買いました」といったコメントをもらうことが多かったです。逆にTikTokを普段まったく使わない人にCMを見せた場合、メンバーをひとりも知らないという声があがっていたのも印象的でしたね。

月刊CX:ビアボールはテレビCMも実施していますが、デジタル施策ではTikTokに加えて、YouTube、Instagramでも展開しています。そうしたマルチプラットフォームな設計もCXクリエイティブ的な発想といえるのではないかと思いました。 

瀧口:最近はクライアントから具体的な枠組みが決まった表現の開発だけでなく、「こういった状況をつくりだすことがゴールであり、そのための手法は問わない」といった正解のない問いのような依頼や相談を受ける機会が増えています。目的を達成できるのであれば、メディアやプラットフォームは自由。デジタルでもマスでも、はたまたそれ以外でもよく、手段が無限にあるなかでゴールへの最適解と最短距離をみつけなくてはいけません。

自由度が増しているようにも感じつつ、道筋が全くみえないところからスタートするのは、けっこう大変なことでもあります(笑)。ただクライアントや商品が直面している課題とコンディションに合わせて、よりニュートラルな視点でコミュニケーションを設計・ハンドリングしていくのが、CXクリエイティブのひとつの手法だと考えています。

月刊CX:これからのCX的なコミュニケーション、クリエイティブはどう変わっていくと思いますか?

瀧口:オリエンがニュートラルになっていく状況にますます拍車がかかり、コミュニケーションとクリエイティブの手法はさらに多様化していくのではないでしょうか。枠組みが細かく規定されない依頼に対して、企画する自分たち自身で指針を与えていくことが許容され、逆にいえばその部分も含めた基本設計が求められるようになる。漠然とでも、課題に対する正しいゴールを設計することに時間をかけるべきだと思います。ゴールさえみつかれば、そこに向かうための最適なアウトプットは探し出せるはずなので。

ただ手法が多様化するということは、その分だけ多くの引き出しを持ち合わせていなければいけない、ということでもあります。幅広くさまざまな知見を持っていないと、私たちは生き残れなくなるかもしれませんね。 

月刊CX:引き出し、手札を多く持っていないと立ち向かえなくなるということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。


(編集後記)

月刊CX第15回では、サントリーの新商品「ビアボール」のキャンペーン「ビアボーラーズ」の事例を紹介しました。

「TikTok売れ」が成功するか否かは手法だけでなく商品そのもののポテンシャルが重要であることは大きな発見でした。しかも、今回の事例では、通常のインフルエンサーマーケティングよりも一歩踏み込み、詳細な企画を練ることで全体の完成度の向上にも成功しています。商品やメディアの特性を最大限に生かして、目的を達成するための方法をニュートラルに設計していくのが、CXクリエイティブの本質なのだろうと感じました。

今回のインタビューは、「CX Creative Studio note」(CX Creative Studio noteに関してはコチラ)とも協力しながら行っています。電通CXCCチームだけでなく電通デジタルのCXクリエイティブチームとも連携した、より幅広い事例の収集や紹介等も行っていますので、興味がおありでしたらそちらも併せてご覧ください。

また今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記のお問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

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