Adobe Summit 2018レポート
優れたエクスペリエンスを創造する「AIと人」の向き合い方
2018/05/15
<目次>
▼世界最大規模のデジタルマーケティング・カンファレンス
▼物を売るのではなくエクスペリエンスをつくるために
▼米国の航空会社が顧客に提供する「統合エクスペリエンス」
▼日本発の「Experience Maker」になろう!
世界最大規模のデジタルマーケティング・カンファレンス
3月25~28日、米ラスベガスで「Adobe Summit 2018」が開催されました。世界最大規模のデジタルマーケティング・カンファレンスである同イベントには、世界45以上の国・地域から約1万3000人が集まり、300以上ものセッションが行われました。
電通アイソバーからも私を含め5人が参加し、グローバルで最先端のデジタルマーケティング事例や技術をいち早く習得してお客さまへ提案できるよう、活用事例の紹介やハンズオンを受講して知見を吸収してきました。デジタルを活用した成功事例や、未来を感じさせるプロトタイプが多く紹介されており、その熱気と迫力に圧倒されました。
私たち電通アイソバーは、アドビシステムズ(以下、アドビ)と戦略的パートナーシップを締結しており、アドビソリューションを活用したビジネス展開に取り組んでいます。
特に、企業のデジタルコンテンツ管理をサポートする「Adobe Experience Manager」(AEM)や、ウェブ解析ツール「Adobe Analytics」(AA)においては、20人以上の「認定エキスパート」を抱え、多くの企業に導入・運用の支援をしています。認定エキスパートになるには、実際の導入経験に基づいた知見が問われる試験に合格する必要があり、私自身も資格を取得しています。
そんな私たちの目から見た、世界に通用するデジタルマーケティングの姿をレポートします。
物を売るのではなくエクスペリエンスをつくるために
今年のAdobe Summitのテーマは、「Make Experience Your Business」(顧客体験をビジネスの中心に)です。
2016年以降、Adobe Summitは「Experience」(エクスペリエンス、体験)をキーワードに掲げています。とはいえ過去2年のSummitでは製品ごとの役割の境界がまだ不明確で、一貫したエクスペリエンスを創出するには道半ばという印象でした。
しかし今年のSummitでは、様相がガラリと変わっていました。「Creative Cloud」「Document Cloud」「Experience Cloud」に含まれるアドビ製品群の、垣根を越えた連携の可能性を明確に提示し、いよいよ「エンドユーザー視点で一貫したエクスペリエンス」を提供することを打ち出してきたのです。
大きく分けて、以下の3点に関して最新のコンセプトや事例の紹介がありました。
- 顧客を「個客」として捉えるためのデータ統合の重要性
- リアルとデジタルの境を越えたコマース体験の創造
- AI(Adobe Sensei)を活用した自動化・効率化
アドビのシャンタヌ・ナラヤンCEOは「モノへ投資する時代は終わり、優れた体験へ対価を支払う時代だ」と常々語っており、今回のSummitでもこのメッセージを強く感じることができました。個々のプロダクトで考えるよりも、統合されたソリューション提供が必要となってきているということでしょう。
優れた体験をもたらす統合ソリューションの実現のためには、マーケティングデータとコンテンツを支える「AI」と、顧客体験を設計する「人」の両者が必要です。
AIは、もちろんAdobeソリューションの中心となりつつある「Adobe Sensei」です。今回のSummitでは、人間をクリエーティブに集中させてくれるAdobe Senseiのサポート機能の進化が大いにアピールされました。
そして「人」に関しては、ナレッジ共有を目的とした「Experience League」と呼ばれるプログラムが公開されました。これは、アドビの想定する最高のエクスペリエンスを提供できる人材、「Experience Maker」(体験をつくる人)を育成するためのサイトで、ラーニング環境とコミュニティーの機能を併せ持ちます。ベストプラクティスのための新しい知見の獲得もさらに行われるようになることでしょう。
米国の航空会社が顧客に提供する「統合エクスペリエンス」
会場には、スポンサー企業とアドビが参加者に自社サービスを紹介し、情報交換を行うブースエリア「コミュニティーパビリオン」が設けられています。
ある米国航空会社の事例は、まさに「エクスペリエンス」を顧客にもたらす統合ソリューションでした。
顧客は、自宅で各自のモバイルデバイスから航空券を予約する時、自分の顔写真を撮影して航空会社に送信しておきます。そして空港では「顔認証」で搭乗手続きを済ませることができ、さらにパーソナライズされた航空券がメールで送付されてきます。
航空券購入から始まり、飛行機へ搭乗するまでの全てのエクスペリエンスの裏側には、「Adobe Experience Manager」「Adobe Campaign」「Adobe Analytics」が連携して動いており、旅行を快適に計画する「Experience Maker」となっています。
日本発の「Experience Maker」になろう!
航空会社の例にも見られるように、オンラインとオフライン、データとコンテンツなどを自由自在に紡ぎ、デジタルマーケティングプラットフォーム基盤を活用した統合エクスペリエンス設計の事例が米国には多くあります。
一方で日本では、アドビなどのプラットフォームを活用した統合エクスペリエンス設計の事例がまだあまり多くありません。なぜでしょうか?米国の航空会社で使われている技術は、決して高度なものではありません。「おもてなし」の精神を持つ日本人なら、より優れた顧客体験のアイデアを生み出せるはずです。
日本で事例が少ない理由としては、最先端のテクノロジーが米国に集まっており、日本市場向けにローカライズされていないことや、米国と日本ではミレニアル世代の人口構成比率が異なること、それに実現には法律の壁があること。そして一番の課題は、日本ではどんなに革新的なアイデアを思いついても、具現化までたどり着かないケースがほとんどだという点です。
なぜたどり着けないかというと、社内の複雑な承認プロセスや、日常の多忙な業務に追われ、新しい取り組みを十分に実施できないからです。
私たち電通アイソバーは日頃、日本の事業会社の方々とさまざまな形で接する機会があります。そうした中で、マーケティング現場ではすてきなアイデアを持っているのに、上層部への提案過程や、プロジェクト化した後に頓挫するケースを多く目の当たりにしました。
既存のビジネスモデルや技術を活用して「統合エクスペリエンスビジネス」にトランスフォームするには、システム同士の連携、異業種とのインキュベーション、部署横断した企業内のチームづくりなど、さまざまな壁を突破し、再構築しながらプロジェクトを進めていく必要があります。
そのためには、デジタル=技術への好奇心や、ビジネスを革新させる自由な視点、それにCoE(Center of Excellence)というキーワードで語られる役割や部門のこだわりを払拭した人と人、知見と経験の連携が求められます。
私たちは、アドビのデジタルマーケティングツールを導入するだけにとどまらず、クライアントの企業文化の再構築をサポートすることで、本当にお客さまに満足してもらえる仕組みづくりを実現していきます。
日本が誇る「おもてなし」のエクスペリエンスを海外に発信していけるように、私自身も良きチームビルダー、ビジネスの革新者となることで、日本を代表する「Experience Maker」のひとりとなっていければと思います。