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地域創生の鍵を握る「プレイス・ブランディング」とはなんぞや?

場所をつくりたくなる、プレイス・ブランディング! №1

  • 若林 宏保

2018/05/31

地域創生の鍵を握る「プレイス・ブランディング」とはなんぞや?

「プレイス・ブランディング」とは、地域創生のための新しい概念です。日本では、「地域ブランド」「地域ブランディング」という用語が盛んに使われますが、この場合、「産品の開発」を示すことが多く、地域の課題解決には不十分なケースが多々見られます。

そこで必要となるのが、「“場所”をブランディングする」という考え方。私たちは、海外で生まれたプレイス・ブランディング理論に地理学の知見を取り入れて、日本の複雑な課題を解決する、日本発・日本独自のプレイス・プランディング・メソッドを開発しました。

国内諸地域の悩みを解消すべく生み出された、まったく新しいプレイス・ブランディングの考え方とは―? 概念や手法、成功事例などを、私、若林宏保の著書『プレイス・ブランディング “地域”から“場所”のブランディングへ』を基に、全5回の連載コラムでご紹介します。

書籍プレイス・ブランディング

 

地域活性化はジレンマだらけ!?

プレイス・ブランディングとは、柔軟な単位で場所を設定し、民間企業、行政、市民が一体となって、持続的に“プレイス(場所)”をブランディングしていくという考え方です。では、どうやってプレイス・ブランディングという新しい概念にたどり着いたか、まずは背景をお話しします。

私は、おおよそ10年にわたって地域の課題と向き合い、地域で仕事をしているとさまざまな問題と遭遇してきました。入念な調査をして実施計画をつくったとしてもなかなか実現しなかったり、苦労をしてプロジェクトを立ち上げたものの、持続せずにすぐに終わってしまったり。

またブランドのロゴをつくったとしてもほとんど使われずに、ポスターの片隅にかろうじて残る程度とか、いろいろと砂をかむような思いをすることがあります。どうしてうまくいかないのか、根本的な原因がよく分からず悶々としていく中で、僕は地理学で取り上げられる「プレイス(場所)」という考え方と出合うことになります。

地域ではなく、「プレイス(場所)」視点で考える

プレイスについては、人文地理学の分野で1970年代から盛んに議論されるようになりました。人間性の欠けた地域開発に対する批判から、もっと人間が中心となって、場所の持つ意味を大切にしようとする機運が高まってきたのです。

さまざまな人々が主体的に場所の意味付けをしていくことで、「意味としての空間」が切り取られ、プレイスになっていく。そうして、プレイスとは、「分節された意味の空間」と定義されるようになります。

PLACE 分節された意味の空間

私はこうした場所に対する考え方を知って、プレイスというのは、人間的で、主体的で、創造的で、自由だという印象を持つようになりました。一方で、「地域」と聞くと、単位が固定的であり、ステークホルダーが決まっていて、画一的な印象を受けがちです。

ですから「地域」ありきではなく、「場所」と捉え直すことで、単位に縛られず、まるで地図にドローイングを描くような感じで、これまで悶々と感じ続けてきた“地域活性のジレンマ”から解き放たれる可能性を感じたのです。

「立地」に「意味付け」することでプレイスが生まれる

では、プレイスがどう生まれていくのか、その仕組みについてお話ししたいと思います。プレイスがつくられる複雑かつ偶発的なプロセスを簡単に説明するのは難しいですが、過去の優れた地理学者の多様な解釈を元に、次のようなシンプルな図に整理しました(地理学におけるプレイス研究の変遷については、著書『プレイス・ブランディング “地域”から“場所”のブランディングへ』の中で詳しく説明しているので、学術的な関心のある方はそちらをご参照ください)。

プレイス・ブランディング・サイクル

最初に抽象的な空間である立地(ロケーション)があります。そこに誰かが意味付け(センス・オブ・プレイス)をしていきます。するとそれがきっかけとなって、さまざまなアクターたちが交わっていくようになります。アクターは、個人からグループ、行政や民間企業など、立場も能力もバラバラですが、そうしたアクター達が、自分なりに場所を意味付けしていくことで、多様なコンテンツが生まれていきます。

コンテンツは、モノ、コト、人、拠点などどんなものでも構いません。しかし、それぞれが場所に対して何らかの意味を持っているため、やがて、それらの多義的な意味がゆるやかにつながっていくことで、プレイス(分節された「意味の空間」)の輪郭が浮かび上がっていくのです。

今の時代はSNSが発達しているので、それぞれのコンテンツが#(ハッシュタグ)によって広がっていき、再び「センス・オブ・プレイス」が刺激されることで新たなきっかけが生み出され、新たなアクターが次々と加わっていきます。すると、そこからまた新しいコンテンツが生まれていくのです。

プレイスは決して固定化することなく、常に再編成され、やがて自走していきます。以上が、プレイスが生まれていくスケッチ図です。この動態的な循環図を、私たちは「プレイス・ブランディング・サイクル」と名付けることにしました。

表層的で閉じたプレイスと、豊かで開かれたプレイスとは

「プレイス・ブランディング・サイクル」をじっと眺めながらいろいろと想像を膨らませてください。もし意味付けが表層的だとつまらないプレイスができてしまうかもしれませんし、アクターも個人だけとか、行政だけなら、交わりのない閉じたプレイスになってしまう恐れがあります。そうなると生み出されるコンテンツの幅も種類も少なく、プレイスの持つ意味世界が豊かにならないでしょう。

また、さまざまなアクターが、同じような意味付けをしながらバラバラでやっているケースによく出くわします。その場合は、うまく「交わりの舞台」を作ってあげることで、より良いプレイスになる可能性も高まります。

一方で、大型資本による施設や都市開発において、画一的な「場所への意味付け」がなされた場合、その街は人間の主体性を欠いた場所になりがちです。これを尊敬する人文地理学者のエドワード・レルフは、場所性の欠如すなわち「没場所性」(Placeless-ness)と名付けましたが、そうした場所が生まれないように心掛けることが大切です。

読者の皆さまもプレイス・ブランディング・サイクルを眺めながら、いろんな場所を想像していただくと、きっと何らかの課題が見えてくるでしょう。そして私たちもこの中にいること、つまりアクターになり得るということも感じてもらえると思います。

そして、より開かれた場所を生み出すために、「交わりの舞台」へと踊り出してみてはいかがでしょうか。

さて、新しい概念であるプレイス・ブランディングについてご理解いただけたでしょうか?「プレイス・ブランディングの考え方は分かったけど、どうやって進めるの?」と思う方も多いでしょう。そこで、第2回では、「良いプレイス」(Good Place)をつくるために、どのようにプレイス・ブランディングを実践していけばよいか、具体的な進め方や体制づくりについて進めていきたいと思います。