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プレイス・ブランディングの成功の秘訣「ディレクション力」

場所をつくりたくなる、プレイス・ブランディング! №2

  • 若林 宏保

2018/06/25

プレイス・ブランディングの成功の秘訣「ディレクション力」

第1回は、プレイス・ブランディングとは何かについてお話ししました。今回は、良いプレイスをつくっていくために私たちはどのようにディレクション(方向付け)していけばいいのかについて解説していきます。

プレイス・ブランディング・デイレクションの五つのフェーズ

プレイス・ブランディング・サイクルに沿って五つの重要な局面においてやるべきことを整理したものが、「プレイス・ブランディング・ディレクション」です。順を追って説明していきましょう。

【図1】プレイス・ブランディング・ディレクション

 

プレイスの単位をどう設定するかは今後の成否を決める重要な意思決定です。従って、さまざまな単位の可能性を探る必要があります。例えば、人口20万〜50万人規模の「中核市」といった都市の単位や、都市の一部である「地区」「通り」「路地」などの単位にも可能性が感じられます。

また、「瀬戸内」「湘南」「三陸」といった「広域圏」や、「しまなみ海道」のような「街道」、さらにはJR中央線や都心の私鉄沿線などの「沿線領域」などもプレイス・ブランディングの単位として十分に可能性があるでしょう。

単位の設定に正解はありませんが、場所に対する感覚や意味付け(センス・オブ・プレイス)を感じ取りながら、最適な単位を見つけ出すことが成功の鍵を握ります。

 

では、センス・オブ・プレイスをどのように見つけ出していくのでしょうか。探索の手段として、そこで生活を営んでいる方々へのインタビューや、場所に対する意味を定量的に分析できるデータ・マイニング手法、また地元に根差した出版活動をしている編集者などにお会いして、その場所の意味を探っていきます。

住民の方々が、何となく感じているけど、なかなか言語化できていない場合や、もうすでにある程度意識化されている場合などがあります。そうした潜在的な場所の意味を「言葉」にしていきます。

ただし、多くの都市や街で掲げている「緑豊かな文化交流都市」など、無難にまとめられた「言葉」では、プレイスが動きだす可能性は極めて低いでしょう。かといって、文学的なコピーが必要ではありません。みんなが乗っかって、一緒に物語を紡いでいけるような「言葉」が見つかればうまくいくと思われます。

 

目指していく場所のコンセプトがおぼろげに見えてきた段階で、それを具現化できる人たちが交わっていける舞台をつくっていきます。そのためには、人脈の把握が不可欠です。信頼性の高い行政のネットワークや、街の編集者の力を借りながら、キーとなっていくアクターの方々との出会いを目指していきます。

彼らのこれまでの活動を理解した上で、連携することで何か面白いコンテンツが生まれたりしないかを探っていきます。ただし、参画するメリットをどう感じてもらえるかが重要です。メリットを感じてもらえないと、押しつけになり、自走することはあり得ません。さらに舞台は決して閉じたものではなく、偶発的な出会いが生まれていくことが大切です。

こうして、プレイスに関わっていけそうなアクターが見えてきた段階で、社会に存在感を示すには組織化していくことが有効です。とはいえ、アクターが多くいると利害調整が大変なため、最初はコアメンバーによる組織をつくり、小さなスタートを切ることが秘訣です。まず第一歩として、社会的なプロジェクトとして立ち上げることで、じわじわとその思いやビジョンに賛同するアクターが新たに見つかっていくでしょう。

さらに、アクターとして企業が関わると力強い活動が可能になります。企業はこれまで地域貢献に軸足を置いたCSR(企業の社会的責任)に取り組んできましたが、本業を通じて地域の課題を解決させていこうとするCSV(Creating Shared Value/共通価値の創造)へとシフトしてきています。CSV志向の企業とつながるには、経営理念やブランド戦略を深く理解した上で、プレイスとの接点を見いだすことが必要になります。

このように、有力なアクターにつながっていくと、民意の高まりに対して行政が支援してくれるようになります。近年は地方創生を中心にさまざまな支援が存在するので、その支援内容を十分に理解した上でプロジェクトにフィットした資金を獲得していきます。こうした緻密な活動によって、バラバラだったアクターの思いがつながり、交わりの舞台が動きだしていくのです。

 

アクターが見えてくると、いよいよコンテンツを生み出す段階に入っていきます。コンテンツとは、狭義の意味では、映像、写真、文章などを指しますが、ここでは、プレイスの意味を伝えるモノからコトを含む幅広いアウトプットの総称をコンテンツと呼んでいます。具体的なコンテンツの種類としては図2のようなものが挙げられるでしょう。

【図2 コンテンツの類型】

「モノ」は、プレイスを伝えるもっとも身近なコンテンツであり、「コト」は、その場でしか味わえない体験を提供する重要なコンテンツです。「場」は、人のつながりを生み、新しいコンテンツを生み出す重要な舞台装置となり、「景観」は、SNSが発達している現代においては、プレイスイメージを流通させる重要なコンテンツです。そして、「人」も、プレイスの思想やライフスタイルを伝える上では欠かせないコンテンツとなっていきます。

以上、多様なコンテンツがありますが、どれかひとつだけつくられてもプレイスは生まれません。「モノ」「コト」「場」「景観」「人」が、「点」ではなくバランスよく融合し、「面」として有機的に広がることで、豊かなプレイスへと変化していきます。

 

コンテンツが生まれたら、いよいよ世の中に発信していきます。その際には、場所の持つビジョンを描き、さまざまなアクターによって組織化されたプロジェクトとして発信していきます。その際には、ニュースにしてもらえるように、PR IMPAKT※に基づき情報を設計していくことが大切です。

PR IMPAKTとは、インパクトのあるニュースをつくるためのキーワードを組み合わせたツールです。順に、「Inverse(逆説、対立構造)」「Most(最上級、初、独自)」「Public(社会性、地域性)」「Actor/Actress(役者、人情)」「Keyword(キーワード、数字)」、「Trend(時流、世相、季節性)」が挙げられます。

これらの視点を持って、多層的にニュース文脈をつくることで、マスからウェブ、ソーシャルメディアまで含めたさまざまなメディアに取り上げてもらうことを目指します。

また、デザインもプレイスの世界観を伝えていく上で重要な手段となります。ただし、プレイスの場合、さまざまな形で生み出されるコンテンツのデザインを統一化することは困難です。

そこで、汎用性の高いデザインを開発して、さまざまなアクターが活用していける仕組みをつくるといいでしょう。例えば、ロゴや汎用フォーマットなど、アクターが参画しやすい民主的なデザインが求められます。

プレイス・ブランディングにおける発信とは、十分な予算によって出稿計画を立てることができる広告キャンペーンとは異なり、常に予算の制約があり、計画が立てにくい場合が多いといえます。

そこで、広めたくなるような「コンテンツ」、記事にしたくなるような「ストーリー」、みんなが参画しやすい「デザイン」によって、小さな力が結集されるような発信を仕掛けていくことが鍵となります。その結果として、「プレイス名」が重層的に広がることでブランディングされていくのです。

※PR IMPAKTとは、電通グループによる、PR視点で統合マーケティング戦略の効果を最大化するプログラム

求められるディレクション力とは?

プレイス・ブランディングをどのように進めていくかについてご理解いただけましたでしょうか? 良いプレイスを生み出すために一番求められるのは、マネジメント力よりも、“ディレクション力”です。

マネジメント力は、明確に定まった目標に向かって計画的に実行した場合には求められますが、プレイスの場合は、そんなにうまくは進みません。予期せぬ出来事や、バラバラな活動を行っている方々をうまく取り込みながら、物事をいい方向に変化させる技術、すなわち“ディレクション力”が求められるのです。そうした能力を備えた方々が、プレイス・ディレクターとなり、日本の至るところで活躍されるようになれば、日本はもっと元気になっていくでしょう。

さて、次回はいよいよ事例紹介です。具体的な事例を知っていただくことで、プレイス・ブランディングに対する理解をより深めていただければと思います。

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