自らの強みを知り、挑んだヤングスパイクスでシルバーを獲得
2018/11/26
アジア最大級の広告フェスティバルとして毎年開催される「スパイクスアジア」。この中には、30歳以下限定で、各国の代表2人が1チームを構成し、現地で出された課題に対し24時間の企画とプレゼンで競う「ヤングスパイクスコンペティション」があります。デジタル部門やPR部門などがあり、各部門でコンペが開かれます。
今回、電通の中川紗佑里氏(第5CRプランニング局)と渡辺祐氏(第1CRプランニング局)の2人がデザイン部門に出場し、シンガポールで行われた本戦でシルバーを受賞しました。
コンペを終えた2人に、今回のコンペの中身やその経験を通して得られたものを聞きました。
うれしさ半分、悔しさ半分。でもとにかく楽しかった
──ヤングスパイクスコンペティションに参加されて、今どんな気持ちでしょうか。
中川:純粋にあの場に参加できてよかったです。賞を獲れたこともうれしいですし、いろいろな国の方と広告について話す機会がこれまではほぼなかったので、コンペ後の交流会も楽しくて。また、ヤングスパイクスは30歳以下限定のコンペティションなので、出場者は私たちと同世代です。違うエージェンシーにいる同世代のクリエーターと話す機会はとても貴重で、その点でも刺激になりました。
渡辺:シルバーという結果自体は、うれしさ半分、悔しさ半分です(笑)。とはいえ、楽しかったですね。日本で仕事をしていると、他の国の方と話す機会はあまり多くありません。その中で、さまざまな国の方、まったく異なる環境で生活する人たちにアイデアを伝えられたのは大きな経験になりました。
──今回、なぜ2人で出場しようと思ったのですか。
中川:私と渡辺さんは2011年入社の同期で、入社3年目に2人で毎日広告デザイン賞に応募し、最高賞を得ることができました。その後、渡辺さんは中部支社に転勤に、私は留学で1年半ほどイギリスにいたのですが、ちょうど2人とも東京に戻ってきたので、今回また挑戦しようと。
渡辺:4年ほど名古屋にいたのですが、中部支社にカンヌライオンズで過去にグランプリを受賞した土橋通仁さんらがいました。その方々の影響もあり、自分も海外コンペに参加したいと思うようになりました。
中川:所属部署としても、若手はどんどんコンペに挑戦しようという機運だったので、迷いなく応募しましたね。
「お母さんの心配を半分に」。課題に対して2人が出した答え
──2人が出場したデザイン部門は、公募で予選を行い、選ばれた10組が本選に出場しました。本選では、どのような課題が出され、どのような企画を提案したのでしょうか。
中川:ベビーケア用品で知られるJOHNSON'Sという会社がクライアントとなって、新商品のベビーシャンプーとベビーオイルの発売に向けて、当該商品のブランディング戦略を考えるという課題でした。提出物は、プレゼンスライド10枚とギフトボックスの作成などで、課題が発表された翌日までに企画を提出。その後、1日かけてギフトボックスを作成し、プレゼンするというスケジュールです。
渡辺:審査基準には「オンラインからオフラインまでのキャンペーンの展開」や「消費者が購買検討しやすい仕掛け作り」も含まれていました。デザインといっても、今回はコミュニケーションデザインに近い内容でしたね。
中川:JOHNSON'Sの新商品は、子どもへの安全性を高めるために、子どもにとって負荷になりやすい物質をできるだけ添加せず、使用されている原材料の種類をこれまでの半分にしたことが特徴でした。
ターゲットは、小さな子を持つミレニアル世代のお母さんです。彼女たちのインサイトの中で「ネットによって情報過多になり、心配し過ぎているケースが多い」「SNSでは完璧な自分を見せなければならないというプレッシャーを感じている場合がある」「子どもの安全を第一に考えている」という3点にフォーカスしました。
そして、JOHNSON'Sを「ミレニアル世代(※)のお母さんの心配に一番寄り添うブランド」とポジショニングし、“半分”をキーに「心配をSNSなどでシェアし、お母さんの不安を半分にしよう」というキャンペーンを考えました。企画のコピーは「Cut worries in half」です。
※ミレニアル世代:1980年代から2000年代初頭までに生まれた人をいうことが多い
渡辺:コンセプトが固まったところで、メインロゴのデザインを制作しました。JOHNSON'Sの頭文字「J」をモチーフに、字のテール部分をスラッシュのイメージに見立て、半分を連想させるデザインにしています。
中川:キャンペーンは、お母さんの心配事を「#Cutworriesinhalf」とともにSNSや特設のウェブサイトに投稿してもらい、ギフトボックスをプレゼントする仕組みにしました。オンラインからオフラインにまたがるキャンペーンです。
渡辺:実は本戦の1週間ほど前に、過去のヤングカンヌで出された課題を題材に、自主練習として制作した別の作品を土橋さんに見てもらう機会がありました。その際に、2人の強みは「コンセプトの明快さ」だと。
なので、今回2人でこだわったのは、「企画の分かりやすさ」でした。本戦中は何度も自分たちの企画案や制作物のコンセプトを深掘りし、「分かりやすさ」「明快さ」を軸に勝負しようと決めました。
今回やってみて、自分たちの強みを明確にすることは大切だと感じました。それは実際の仕事でも同じです。例えば複数のアイデアが出た時に、自分たちの得意な方向でやらないと企画の精度が上がりません。その意味で、今回は強みを事前に把握できてよかったと思います。
国籍や文化を超えて、アイデアが伝わることの喜び
──「企画の分かりやすさ」が、高評価につながったと感じましたか。
渡辺:はい。中川さんがプレゼンした時、審査員の方たちはすぐに納得するようなリアクションをしていました。
もう一つうれしかったのは、審査員の中で一番評価してくれたのが、17歳の娘を持つ女性だったのですが、その方に「お母さんのインサイトに寄り添っている」と言ってもらえたことです。僕とは性別も違いますし、立場や国籍、言語も違います。それでも僕らのアイデアが伝わったことは、すごく自信になりました。
──2人が今回のコンペを通して学んだことは何でしょうか。
中川:コピーについて改めて考えるいい機会になりました。というのも、今回のコンペではコピーは英語になるので、日本語とは違った表現方法が求められます。私は英語に関してはネイティブではないので、言葉のレトリックではなく、シンプルでダイレクトな表現になるように心がけました。
とはいえ、シンプル過ぎるとコピーとして弱くなる場合もあるので…。そのバランス感覚や配慮は勉強になりました。そして、今後の仕事にも生かせると思います。
渡辺:海外の場合、文化的な文脈を共有していない人にも伝わるような表現が重要であると感じました。デザインでいえば「なぜこの形なのか」「なぜこの色なのか」ということです。そこは国内での仕事と異なる部分で、今回肌で感じられてよかったです。
──最後に、2人の今後の目標を教えてください。
中川:イギリスに留学した時、ジェンダーとメディアについて学んでいました。イギリスは日本と比べると「多様な人種がいる国」です。だからこそ、広告でも人種やジェンダーについて扱っているものが多いと感じました。
いつかは私もジェンダーや多様性など、社会にメッセージを投げかける広告に携われたらと思っています。その意味でも、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちに対して自分のアイデアをプレゼンすることができた今回の経験は貴重でしたし、今後も海外の仕事やコンペに参加したいです。
渡辺:特に今回大きかったのは、自分たちのアイデアを色々な国、様々な文化圏の人たちに伝えられたことです。その経験は本当に印象的なものだったので、言葉に頼らずとも伝わるノンバーバルなコミュニケーションや作品作りにも意欲的に挑戦していきたいと感じました。そしてまたいつか、海外の広告賞を受賞できたらうれしいです。