地域の魅力で感情を動かせ!
シェアされる地方ムービーを「感情トリガー・マップ」でひもとく
2019/02/01
こんにちは。鬼ムービーチームの下 穂菜美と申します。
鬼ムービーチームは、オンライン動画制作に特化した専門チームとして活動しています。
クリエーティブ部隊と見られることが多いのですが、実はプランニングから制作、効果検証までオンライン動画の一連の流れを行っています。
現在ますます注目を集めている「地方創生」を目的とした地方ウェブ動画(以下、地方ムービー)。今回は、鬼ムービーチームの武器の一つでもある「感情トリガー」を紹介し、話題になる地方ムービー制作のヒントをお伝えします。
話題になる地方ムービーは、どんな感情を揺さぶるのか?
地方ムービーはたくさんあるものの、話題になる動画とそうではない動画があります。見られている動画には感情を揺さぶる共通項があるのではないかと考え、話題になった地方ムービーの調査を、20~60代980人の男女対象に実施し、調査結果を感情トリガー・マップで分析しました。
感情トリガー・マップは、生活者が思わず情報をシェアしたくなる動機を分類、マッピングしたプランニングメソッドです。YouTube上のヒット動画(シェア数や再生回数、コメント数など多い動画)を調査し、動画をシェアしたくなる感情を割り出して10に分類し、「感情トリガー」と名付けました。
今回、「印象に残る」(以降「印象」)、「好感が持てる」(同「好感」)、「観光意向あり」(同「観光意向」)、「移住意向あり」(同「移住意向」)をどのように獲得していくか、という課題に対し、どの感情を動かされたかを、感情トリガーを使って解説していきます。
話題になった地方ムービーの視聴後に、それぞれの自治体に対して「印象」「好感」「観光意向」「移住意向」を持ったと回答した人が、どのような感情を持ったのかをまとめたものが、下記の表になります。
「印象」「好感」「観光意向」「移住意向」の順に、推移をたどるファネル構造になっており、「印象」や「好感」を抱く人を増やすほど「移住意向」を抱く人も増加していくことが期待できます。
次に、感情トリガーで見ていきます。
「印象」「好感」を持った人は主に“爆笑”“カワイイ”“感動”の数値が大きいです。「好感」は「印象」に比べて“感動”“胸熱”の数値も増えていました。
「観光意向」「移住意向」を持つ人は、“爆笑”“カッコイイ”“カワイイ”の情緒的思考と“感動”“胸熱”の共感思考の両方のスコアが大きく出る結果となりました。
話題になった地方ムービー「mofumofu」
今回事例として、鬼ムービーチームが制作した秋田県の動画「MOFU MOFU☆DOGS “Waiting4U〜モフモフさせてあげる〜” 」(以下、mofumofu)を紹介します。
mofumofuは、秋田県北部の大館市、北秋田市、小坂町、上小阿仁村が観光地域づくりを目的に設立した「一般社団法人秋田犬ツーリズム」の「秋田県北部観光誘致キャンペーン」に際し、制作した動画です。地域経済の活性化に貢献が見込まれる外国人観光客の秋田北部への誘致も狙い、制作しました。
mofumofuの動画をご覧ください!
話題になったウェブ動画の指標として、YouTube上で100万回再生以上、オーガニックで見ている人が多いことを意味するgood数が多く、かつgood数と比べてbad数が少ない点があげられます。
mofumofuは約120万回再生、good数も3000以上、そして、国際PR協会が主催するPRの国際的な業界賞「ゴールデン・ワールド・アワーズ・フォー・エクセレンス」を受賞しています。
観光客誘致を目的としたmofumofuを、「感情トリガー・マップ」を使用して検証しました。
調査で行った、話題になる地方ムービーの「観光意向」と同様に、“胸熱”の数値が大きく出ています。
また、“カワイイ”“爆笑”の数値も大きく出る結果となりました。“カワイイ”“爆笑”で“印象”“好感”を高めた後、「観光意向」が強い人の特徴である“胸熱”の感情が動くようなストーリーになっていたと考えられます。
話題になる地方ムービーの三つのヒント
話題になる地方ムービー制作の三つのヒントについてお伝えします。
1.「感情トリガー」を意識した、動画の役割や本数などの検討
話題になる動画を感情トリガーでまとめると、下記のような図になります。
「印象」「好感」を上げる目的動画を制作する場合は“爆笑”“カッコイイ”などの情緒的思考を、「観光意向」「移住意向」を上げる目的動画を制作する場合は“感動”“胸熱”などの共感思考も刺激する動画を制作すると、より効果的だと考えられます。
地方ムービーを制作する際には、動画テーマとして自治体名PRや観光PRなどさまざまな役割があると考えられます。多様な目的を達成するために、色々な感情を動かすべく盛り込み過ぎてしまうと、かえって伝えたい事が伝わりづらいケースがあります。
例えば、トッピング全部乗せのラーメンよりも、味玉がピカイチにおいしいラーメンというように、目的や動かす感情によって、ファクトや情報の取捨選択を、勇気を持って行うことが大切です。もしくは、シリーズものにする、シチュエーションによって分割するなど、複数の動画展開によった目的達成を狙う方が効果的です。
2.何よりも「ファクト」(=事実)を意識したプランニング
地元にとっての「当たり前」は、他の人から見ると「新しく」見えるなど、地方には人を引きつける魅力がたくさん隠れています。飾られた魅力やわざとらしい演技よりも、その地方のリアルが生き生きと伝わる方が重要なこともあります。
mofumofuも、一見どこか不思議な世界が繰り広げられていますが、映像後半は秋田ならではの伝統工芸品や、地元の人たちの仲が良さそうな様子など「ファクト」が伝わる映像になっています。まずは何よりも、自分たちの街にある「ファクト」(=事実)をどう自信を持って発信していくか、その心意気が大切だと考えます。
3.動画にとどまらない「複数の感情を動かす」ことを視野に入れた統合的なコミュニケーション
一方で、一つの動画が担える役割にも、限界があります。そのため、地方ムービーと掛け合わせて、イベントなど他施策も連動して行うことが効果的でしょう。ムービーで感動を生み出し、イベントでは胸熱な体験を提供する・・・といったコミュニケーション設計が大切になります。
ムービーだからこそできることと、反対にできないこと。その役割を明確にした上で、全国の人だけではなく、もしかしたら地元の人ですら気付いていない魅力を発信していくことが、地方ムービーの制作に当たって重要だと、鬼ムービーチームは考えています。
今後も鬼ムービーチームは、この調査結果をもとにした地方ムービーのメカニズムに関する情報を提供するとともに、多様な企業団体とタッグを組み、地方自治体PR関連のビジネス開発を行っていく予定です。
【調査概要】
調査方法 : ウェブによる定量調査
調査対象 : 20~60代男女 980名
調査時期 : 2017年12月22~23日
YouTubeの再生回数やgood数など、話題の高い動画を鬼ムービーが独自に厳選。その動画を見たことによって、各地域に対してどの程度の興味・関心を持ったか、興味の強度の順に「印象に残る」「好感を持てる」「観光意向あり」「移住意向あり」の段階を独自に作成し評価軸を作りました。
評価軸を見た上で、前述の「感情トリガー・マップ」の感情名称と掛け合わせて、検証・分析を行いました。
オンライン動画市場の広がりと広告主ニーズの高まりを受けて立ち上げた、電通グループの横断組織。オンライン動画制作の経験豊富なクリエーター、メディア活用やユーザーのインサイトに知見の深いメディアの専門家、生活者の間で拡散していくPR設計に長けたPRの専門家などが加わった約30人で構成。オンライン動画を企業の課題解決の新たな手段としながら、メディア開発や次なるコンテンツのあり方の模索にも取り組んでいく。