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勇者に学ぶ「戦略0.0」No.3

「戦略」をダメにする二つの誤解

2019/03/14

前回、「あらゆる戦略には必ず課題(バリアモンスター)が潜んでいる」というお話をしました。

そこで今回は、そんなバリアモンスターを退治し、ゲームクリアするための「基本方針」(大ディレクション)のつくり方、について説明しよう!

…という予定だったのですが、本連載および本書へ、こんな感想を頂きました。

「もっと論理的に考えないとダメだなと思いました!」
「論理的に考えると、アイデアもスムーズに生まれることが分かりました」

「ありがとうございます!」と感謝を抱きつつ、「論理」という言葉の使われ方に違和感を抱くようになりました。「具体的な手法の話の前に、もっと手前の考え方から、読者の皆さんと共有しなければ」と。

そこで今回は、書籍『勇者に学ぶ 難題に立ち向かう「戦略思考」 』(発行:日本経済新聞出版社)の中でも一部ご紹介している「戦略づくりのそもそも論」についてお話ししたいと思います。

戦略は「ケンケン」と「カンカン」の掛け算

さて、以下は「2019年某日、ある会議室」での一コマ。

「おお、それはスゴく戦略的だね!」
「戦略が足りないんだよなあ…戦略がさ…」

経営企画、新規事業、人事、法務、マーケティング、営業促進、広告制作…etc.
職業柄、多種多様なミーティングにお邪魔しますが、どんな業界・業種でも、上記のような会話が飛び交う場面に遭遇します。

多くの方々が、「戦略」という武器で闘っている。
しかしその一方で、多くのビジネスパーソンが、日々の業務に忙殺される中、下記の“そもそも論”を置き去りにしてしまっているようです。

「戦略的って言うけど、そもそも『戦略』ってどんな意味?」

そこで連載最終回となる今回は、話をぐっと“そもそも論”まで巻き戻し、「戦略」という言葉を深めたいと思います。

戦略とは、何なのか?
決して答えは一つではありません。古くは戦争論、最近では経営論やマーケティングの文脈で、古今東西さまざまな論客たちが戦略を定義しています。そんな数々の定義を眺めつつ、日々「戦略づくり」に悪戦苦闘してきた経験から、私は次のような数式が導けると考えています。

「戦略/STRATEGY」=「論理/LOGIC」×「創造/CREATIVITY」

どういう意味でしょうか? 数式に現れる三つのキーワードそれぞれの意味を言葉にすると、次のような1枚のスライドが出来上がります。

スライド

LOGICは、数字やファクトを武器に、客観的な立場から“確かに良い”を導く。納得できるまで「ケンケン」(検証や実験の結果に基づいた判断)を繰り返す行為のこと。

一方、CREATIVITYは、直感や勘を武器に、主観的な立場から“なんとなく良い”をあぶり出す。「理由はよく分からないけど、感覚的にこっちの選択肢の方がいい!」という判断の仕方、「カンカン」(感情や勘による判断)を繰り返す行為のこと。

そしてSTRATEGYは、LOGICAL思考とCREATIVE思考とを行き来しながら、制限時間内に誰かの願いを現実化する方法論、といえます。

図にある耳慣れない言葉遣いから、ふだんの仕事とは遠い世界の話のように感じる方もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。

例えば、ご自身がプレゼン資料を作る際の思考過程を思い出してください。
LOGICに基づいて、スライドの順番を前後させては、説得力のあるプレゼンストリーを模索。その一方で、「ここらへんで、聴衆をぐっと引き付けるメッセージを大きいフォントで、ドンッと示したいな」と思い立ち、偶然、思いついた文章を打ち込み始めることはありませんか?スライドのカラーも、なんとなく自分の好きな色を選んでいることがありませんか?

そんな時は、LOGICから自由になって、CREATIVITY寄りの判断を行っています。

こうした一連の行為すべてが、立派な「プレゼンテーション戦略づくり」の一環です。どんな資料を用意し、どういう話法で伝えるのか?自然とLOGICとCREATIVITYとを混流させながら、「プレゼン相手=聴衆というターゲットのキモチを動かす」戦略を考えているのです。

ところが、ビジネスの現場では、この図で示した「戦略」「戦略的」の意味とは異なる意味合いで、戦略という言葉が使われている場面もあります。そしてそのような場合、大半は成果が得られない「ダメ戦略」に陥りがちです。

では具体的に、どんな誤法が蔓延しているのか? ビジネスの現場で見られる「二つの誤解」をご紹介します。

誤解①「戦略的」と「論理的」がゴチャ混ぜ

「戦略的」と並び、ビジネスの現場で日常的に見聞きする「論理的」という言葉があります。「戦略」と「論理」。漢字も読み方もまったく異なる言葉にもかかわらず、その使い分けはあまり意識されていません。

先述のスライドで示した通り、「論理」だけを積み重ねても、「戦略」にはなりません。「論理」は「戦略の一要素」にすぎないのです。

具体例で考えてみましょう。

あるメーカーに勤めるマーケターAさんは、突然社長室に呼ばれ、「自社運営のメガネ店の売り上げが伸びない」という問題解決に取り組むことになりました。今まで社内研修や現場を通じて、論理思考を磨いてきた、真面目が取り柄のマーケターAさん。

時間もヒントもなかったので、まずは手探りに、情報を分析し始めます。商品別に分析する、店舗別に分析する、ターゲット年代別に分析する…etc.論理思考と多少のマーケティング知識を駆使すれば、ほぼ無限大に、分解を繰り返すことができます。

しかし、この分析ショーをいくら繰り返したところで、解決策が見つかるとは限りません(もちろん偶然、素晴らしい発見があることもありますが)。

丸3日間取り組んだ分析作業の結果、Aさんが手に入れたのは分析資料の厚みだけ…。ただでさえ忙しいビジネスの現場です。こんな切ない状況は、できるだけ回避しなければなりません。

間違ったことを書いているわけではない。むしろ正しいことが羅列されている、よく分析されている。しかし、「今その話、重要?」「で、だから何?」と感じてしまう文章や資料を用意してしまう「論理偏重」な状態。

Aさんに限らず、真面目に仕事をする人間であればあるほど、この「論理偏重」に陥ってしまうリスクを抱えています。

一方、柔軟に戦略思考を使いこなすビジネスパーソンは、まず「始点」と「終点」をつくることからスタートします。

本書で採用しているゲームマップでいえば、左下からスタートし、バリアを乗り越え、カクカクと右上のゴール(エンジェルY)へと進んでいく行為です。

ゲームマップ

まず、「メガネ店を将来どんな存在にしたいのか?」というゴールイメージを描いた上で、そこにたどり着くための現在地や道のりを、LOGICだけではなく、CREATIVITYも駆使して、形づくっていきます。

そんな「戦略家」たちの働き方を観察していると、一見、非論理的に感じる態度で、大胆に決断していく姿が目立ちます。

「論理偏重」の立場からすると、「なんてテキトーな決め方をするんだ!もっと考えろよ!」とツッコミを入れたくなる場面もあるかもしれません。

しかし、破天荒な決断の根拠となっている「始点と終点」を注意深く洞察すると、実は深い理論が組み込まれていたりします。

彼らは「LOGICがない」のではなく、LOGICを適用する場面を見定めて、CREATIVITYとの上手い組み合わせを行っているのです。

ちなみに、ご自身が普段いかに「戦略と理論を意識的に使い分けているか」が気になる方は、それを簡単にチェックする方法があります。

どんなジャンルでもいいので、WordやPowerPointで作成したご自身の企画書を見てみてください。そこで「置換コマンド」を押し、「戦略→論理」もしくは「論理→戦略」と全変換してみるのです。

置換後の文章に、あまり違和感が生まれていない場合には黄色信号。「戦略」と「論理」とを、ゴチャ混ぜにしてしまっているのかもしれません。

誤解② 戦略って、クリエーティブとは無関係

戦略という言葉には、もう一つ代表的な誤解があります。

それは、「戦略って、クリエーティブとは関係ないよね」という意見です。先述のスライドで示した通り、これは大きな勘違い。

「クリエーティブ」という言葉には、何か特定の職種や職業を連想させる力が強く働いています。

確かに、広告業界はじめ多くの業界には、言葉やデザインなどの特殊技能を駆使して、さまざまな表現を生み出す「クリエーティブ職」という職業が存在します。彼らの想像力と創造力は、斬新な切り口を見つけ出し、思わぬ形でビジネスを推し進める力をくれます。

しかし、そうした特定の職業が「クリエーティブ」という営みのすべてではありません。広義のクリエーティブは、ビジネスパーソン誰もが、日常的に使っている行為なのです。

前回、デカルトの名言「困難は分解せよ」を引用しながら、さまざまな「戦略づくり」に通底する六つの「問いかけ(Q)」を提示しました。

6エッセンス
戦略づくりを構成する6エッセンス

このプロセスは、単純に、論理的かつ計画的に、情報を整理し、積み上げるだけの作業ではありません。

「ストラテジー/戦略」は、「ロジック/論理」も「クリエーティブ/創造」も、総動員しなければ生まれないのです。

「(論理的には説明が難しいけど)なんとなくこの案がいいと思う」という瞬間、あなたはとてもクリエーティブな状態なはず。

論理的にただ一直線に考えていた時には「打開策が見つからない」と思っていたのに、ふと関係ない雑誌を読んでいた時に飛び込んできたキーワードに刺激を受けて「コレだ!」とアイデアが浮かんだ瞬間もそう。

では、右脳も左脳もフル回転させて、戦略をつくるための具体的なプロセスはどうなっているのか? その一端を本書に記しました。

「クリエーティブなんて自分の仕事とは関係ない」と思う方こそ、ご一読いただけるとうれしいです。

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3回の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。各界でご活躍されるビジネスパーソンの皆さまが、「戦略」という武器を使いこなし、ポジティブに難題を乗り越えていきますように!
(おわり)