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「タイムパフォーマンス時代」、生活者の視聴環境をどうデザインするか?No.2

テレビ画面で動画サービスを視聴する人のリアル

2019/07/11

今や動画サービスを視聴するデバイスとしては、スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスが主流です。

一方で、最近のテレビは、リモコン上に「YouTube」や「Netflix」といった動画サービスのボタンがあり、以前に比べてテレビ画面で動画サービスを手軽に視聴できる環境になってきています。

ちなみにテレビ画面で動画サービスを見る人は、2018年で1割強。「テレビやテレビ接続機器へのインターネット接続率」の上昇とともに、「テレビで動画共有サイトや動画配信サイトを利用する人」も徐々に増えてきています。

電通VR調査表
「テレビやテレビ接続機器へのインターネット接続状況」および「テレビ画面での動画サービスの視聴状況(12~69歳男女全体)」。(Data:ACR/ex 2015年4-6月データ~2018年4-6月データ。「テレビ画面での動画サービス視聴」は2017年から調査開始)

テレビ画面でいつ、何を見る? 2人の調査対象者の視聴実態を紹介

今回は、「テレビ画面で動画サービスを視聴する人たち」が、どのようにテレビ放送と動画サービスを視聴しているのかを把握するために、電通とビデオリサーチが共同で行った「一周まわってテレビ調査」の結果を紹介します。
※調査手法などは、記事末尾を参照。

調査は、あくまでも自然な生活の中での映像視聴実態を把握することを重視し、自宅をビデオ撮影で観察する「ビデオエスノグラフィー」という手法を用いて実施しました。ここでいう「映像」とはテレビ放送とネット動画サービスを指します。また、調査対象者には、後日個別インタビューも行いました。

調査対象者については、「テレビ受像機でテレビ放送だけでなく、動画サービスを視聴する習慣がある方」という条件で選定し、協力いただきました。

今回は、「30代女性Fさん」と「30代男性Wさん」の事例をご紹介します。

①Fさん(30代女性)の事例

Fさんのプロフ

Fさんは、朝起きたらテレビをつけて、夜帰宅したらテレビをつける、本人も認めるテレビ好きです。映像視聴時間は、平日は120分、休日は254分、2日間の合計は374分でした。
そのうちテレビ放送の視聴時間は、7割(277分)を占めています。

そんなテレビ好きのFさんですが、テレビ番組を見るときも片手にはスマホを常に持ち、SNSをチェックしながらの“ながら見行動”がよく見られました。

また、スマホでの動画視聴(主にYouTube)は、通勤時だけでなく夜に家事をしながら音声のみ(映像は無し)で、音楽やノウハウ・テクニック紹介動画などを楽しむといった習慣も生活に定着していました。

■映像を楽しみたいコンテンツは、「テレビ画面」で視聴

Fさんは、<動画サービス×視聴デバイス>の使い分けがはっきりしているのが特徴的でした。

<Fさんの動画サービス×視聴デバイスの組み合わせ>
・海外ドラマは、映像を楽しみたいことから<Amazonプライム×テレビ画面>で視聴
・音声のみでも楽しめるミュージックビデオやノウハウ系の動画は、<YouTube×スマホ>で視聴

海外ドラマをテレビ画面で見たい理由としては、大きな画面で見られることに加え、好きな体勢でリラックスして楽しめることが大きなメリットのようです。スマホで見ていた時は、ペットボトルやティッシュの箱にスマホを立て掛けて固定し、背中を丸めた体勢での視聴を強いられていたそうです。

動画サービス利用者の中でも、映画やドラマといった長尺コンテンツジャンルをよく見る人にとっては、「リラックスした体勢で視聴できること」は、どのデバイスで視聴するかを選ぶ際の重視点といえるかもしれません。

■「可処分時間」を意識し、その中で満足度を最大化できるコンテンツを選びたい

ドラマ好きのFさんは、平日夜にドラマを見ることが多く、「テレビ放送のドラマ」と「Amazonプライムの海外ドラマ」のどちらを見るかの基準のひとつは、その日の「可処分時間」(自分の判断で自由に使える時間)の長さでした。

仕事から帰宅して、可処分時間が2~3時間ある場合には海外ドラマ(Amazonプライム)を一気見することが多いそうです。一方、帰宅時間が遅い場合には、テレビ放送のドラマをリアルタイムで見ることが多く、前の週の放送を見ていない場合には直前に見逃し配信をスマホで見てから、続けて見ることもあるそうです。

Fさん

動画サービスはコンテンツがストックされており、ドラマなどのシリーズ物は際限なく見ることができます。Fさんの場合は、続きが気になってしまうから2~3話まとめて視聴できる日に動画サービスを利用するようにしているとのことです。

この可処分時間に対する満足度の最大化、すなわち「タイムパフォーマンス」を意識したコンテンツ選びは、Fさんに限ったことではなく、日々時間に追われる現在の生活者全般に当てはまるのではないでしょうか。

ちなみに今回、Fさんとは別の対象者のインタビューの中でも、「昔は、リアルタイムで見られない時に録画をしていたが、最近はリアルタイムで見られる・見られないに関係なくバラエティーは10本ほど常に録画しておき、リアルタイムで見たいものがない時に見ている」という発言が得られ、可処分時間に対する満足度の最大化が、タイムシフト視聴のあり方を変化させたのではないかと思いました。

【②Wさん(30代男性)の事例】

Wさんのプロフ

Wさんは、外出時間が長く、自宅で映像(テレビ放送や動画サービス)を視聴するタイミングは、「朝食・身支度時」「日中の外出の合間」「外出から帰宅後~就寝まで」と限られています。映像視聴時間は2日間通して合計155分でした。

Wさんは会員制のワーキングスペースを利用していて、そこのWiFi環境で動画視聴をしながら勉強するという、外出先での動画視聴もしていました。

■コンテンツを選んで見ている動画視聴時も、スマホとのダブルスクリーンは当たり前?!

FさんとWさんの2人の映像視聴シーンの共通点として、スマホをさわりながらのテレビ視聴があります。

特にWさんの場合は、受動的なテレビ放送視聴時だけでなく、能動的にコンテンツを自身で選んで見始めた動画サービス視聴の際にもスマホを利用していました。この実態は、今回の調査結果の中でも大きな気付きでした。

また、Wさんは「スマホながら視聴中は、手元のスマホだけに集中しているのではなく、ニュースやバラエティーなどは音声で内容は把握できている」とインタビューで発言しています。Fさんも家事をしながらYouTubeを流していることについて、「画面を見なくても話している内容は分かる」と言っていました。

スマホをさわりながらも耳で内容を聞いていて、気になるとテレビ画面をちらっと見る、という”スマホながら視聴スタイル”が定着しているようです。

Wさんの映像視聴シーンの中で特徴的だったのは、1コンテンツ当たりの視聴時間の短さです。テレビ画面を使った視聴にもかかわらず、最も長いコンテンツでも26分でした。

Wさんが見ているコンテンツジャンルが、ニュース、ビジネス関連のバラエティー、アニメといった比較的短めのものが多いことも影響していますが、自身で選んで見始めても、最後まで見終えるものの方が少なく、途中で他のコンテンツを探す動きが度々見られました。

特にAbemaTVは、動画サービスですが、目的もなく何か見たいという時に利用しており、NetflixやAmazonプライムとは違って、テレビ放送に近い感覚でザッピングのような見方になっているようです。

■今見たいジャンル・コンテンツを提供するサービスを選ぶ

Wさんの場合、インタビューでも「日曜の朝はアニメの気分」という発言があるなど、時間帯で見たいジャンルが決まっており、そこに当てはまるコンテンツをテレビ放送・動画サービスの中から選んで視聴していました。

特に、「夜23時台にはニュースを見たい」というニーズに応えたAbemaTVは、Wさんの生活に定着し、その時間帯は目的なしでとりあえずAbemaTVをつけるという習慣まで生み出しました。

今の生活者にとって、その時に見たいジャンル・コンテンツを届けることがいかに重要であるかをWさんのケースを通して実感できました。

Wさん

自分のタイムパフォーマンスを最大化することが、視聴スタイルを決定づける

今回ご紹介した2人は、「テレビ画面を使って動画サービスを視聴している」という行動は共通しているものの、自宅内での可処分時間も好きな動画コンテンツのジャンルも異なっており、必然的に視聴動画サービスやその見方にも大きな違いが見られました。

ただ、両者の観察を通じて、生活者が「可処分時間に対する満足度」、すなわちタイムパフォーマンスの最大化を追求していることを強く実感しました。

タイムパフォーマンスを追求した結果、視聴スタイルが変化
・Fさんは“可処分時間の長さ”を意識したコンテンツ選びに
・Wさんは“今見たいコンテンツジャンル”が見られる動画プラットフォーム(テレビ放送を含む)選びに

【調査概要】
●調査手法:自宅でのビデオ撮影による観察(ビデオエスノグラフィー)およびデプスインタビュー(対象者の自宅にビデオカメラを設置し、テレビ画面での映像視聴の様子を2日分撮影。後日その映像を見せながらインタビュー)
ビデオエスノグラフィー表
●調査日時:[ケース①(Fさん)30代女性] 2018年8月26日・30日 :自宅内での撮影、2018年 9月9日:インタビュー実施
[ケース②(Wさん)30代男性] 2018年10月20日・21日 :自宅内での撮影、2018年 11月5日:インタビュー実施
●調査名:電通ビデオリサーチ共同「一周まわってテレビ」調査
●対象エリア: 首都圏(一都三県)
●対象条件:
・テレビ画面・スマホの両方でコンスタントに動画を視聴している人
・テレビ放送を全く見ない人を除く
・主要な動画サービスのいずれかを利用している(YouTube、Amazonプライムビデオ、AbemaTVなど)
・SNSを高頻度でやっている(Instagram、Facebook、Twitter)
・20代~40代(マスコミ、市場調査関係者を除く)
●サンプル数:5名
●調査機関:株式会社ビデオリサーチ
 
■ACR/ex
●調査対象者:12~69歳男女個人
●調査エリア:東京50Km圏
●目標サンプル数:4800人
●調査方法:電子調査票による調査
●対象者抽出方法:エリア・ランダム・サンプリング
●調査時期:2015年/2016年/2017年/2018年 4~6月調査
※詳細につきましては、下記の外部リンクよりご確認ください
https://www.videor.co.jp/service/communication/acrex.html

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