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「タイムパフォーマンス時代」、生活者の視聴環境をどうデザインするか?No.1

テレビとスマホ、家庭内でどう使い分けてる?先端調査手法で見えた生活者の「無意識」

2019/07/04

ビデオリサーチのひと研究所と電通メディアイノベーションラボは、テレビやスマートフォンでの映像視聴に関する共同調査プロジェクトを2018年に行いました。

ウェブ電通報でも何度か紹介している「一周まわってテレビ」(一周してテレビ一周してテレビ2.0)の、調査・仮説に基づいた最新のアップデートという位置づけです。本連載では、その成果を両社のプロジェクトメンバーから報告していきます。

「家でテレビ、外でスマホ」は、当てはまらない

第1回となる今回は、調査全体の狙いと、どのような調査を行ったのかというプロジェクトの枠組み、そして成果知見の一部をお伝えします。特に、テレビスクリーン/スマホスクリーンが生活者にどのように受容されているのかを見ていきます。

まず、本稿を読むに当たって共有していただきたい前提があります。それは、「実はスマホは、家庭外より家庭内での利用が多い」ということです。今回の集計に基づけば、宅内でのスマホの利用は39.4分と、宅外の9.5分の約4倍にもなります。なお、ノートPCやタブレットを含めると、宅内70分、宅外14.75分となります。

宅内宅外表

12~69歳の個人全体について、各デバイスで、ネット、SNS、動画、メールを利用する時間を集計。ビデオリサーチ社 MCR/exデータ(2018年前半・東京地区)より、電通メディアイノベーションラボ作成

この結果からも、「テレビとスマホ、二つのスクリーンが家庭の中でどう使い分けられているか?」が、実は調査で深掘りするべき課題だと認識できると思います。

そのような視座を共有しつつ、私たちがどのような問題意識を持って、何を明らかにしようとしたのか、まずはそこから議論を組み立てていきましょう。

ビデオエスノグラフィーとアイトラッキングが明らかにする被験者の無意識

私たちが今回チャレンジした調査手法は、「ビデオエスノグラフィー」と「アイトラッキング」です。コストや手間などを考えると、どちらも普段はあまり用いない手法ですが、下記で詳しく説明するようにそのメリットは特筆に値するものです。

そして、両調査の被験者には、調査の映像を見せながらインタビューも行い、どういったマインドでそのような行動を行っているか、行動と心理をそれぞれ深掘りしていきました。

また、前段階のスクリーニングとして、ビデオリサーチの「VR CUBIC」を活用しています。VR CUBICは、テレビ×ネットの接触を機械式で測定し、トータルオーディエンスを捉えるシングルソースデータです。その意味で、全体設計としては定性調査×ログデータの掛け合わせになっています。

●ビデオエスノグラフィー調査

エスノグラフィー(Ethnography)は、フィールドワークに基づいてコミュニティーの生活実態を明らかにする質的調査です。生活の中に入り込んで観察し、実際に体験を共にすることで厚い記述に至ること、その分析を通して現象の構造とプロセスをストーリーとして描くことを目指します。

この調査の利点は、生活者が意識していない、言語化以前にある無意識のインサイトを探れることにあります。

今回は、宅内をビデオ撮影するという形で実施しました。許諾を得た被験者に対して、家庭内に定点ビデオを設置させていただき、どのようにテレビスクリーンやスマホスクリーンを扱っているかを見ました。この手法によって、アンケート調査や行動ログデータではあぶり出せないような、「無意識的な行動」を観察できるのです。

●アイトラッキング調査

アイトラッカーと呼ばれるメガネ型の機器を被験者に装着してもらい、スマホ利用時の視線の動きを追跡するのがアイトラッキングです。これによって、どのように映像視聴がなされているのか、アンケート調査だけでは掘りきれない細部にまで至ることができます。

ビデオエスノグラフィー調査同様、こちらでも、オーディエンスが意識していない(意識しづらい)情報行動を明らかにするということに照準しています。

テレビとスマホのスクリーンデバイスとしての価値:広げると掘る

実際のビデオエスノグラフィーの詳細な結果報告は次回に譲り、今回は調査結果から見えてきた「テレビとスマホのスクリーン価値の比較」を大枠でつかんでみたいと思います。

一つキーワードを掲げるとすれば、テレビは「広げる」効能を持ち、スマホは「掘る」効能を持っている。まずはそのように整理することができるでしょう。

●テレビの「広げる」効能

テレビの「広げる」とは、以下のような被験者の声からまとめられます。

  • 大画面で、好きな姿勢でリラックスして見られる
  •  ながら見しやすい(注視していなくても内容の把握が可能)
  •  家族や友人と共視聴しやすい。場に話題を提供してくれる
  •  大画面・高画質、音もよいため、臨場感・没入感がある(映画などで満足が高い)
  •  距離や画面の大きさがあるので、目の負担が少ない
  • BGM的に場を和ませてくれる
  • 映像が伴うので、空間も明るくしてくれる

デメリットとしては、家族など人と一緒にいる時に、自分だけの好みで番組を選びづらい点が挙げられますが、タイムシフト機能の活用でそれをクリアしている人も多く見られました。

●スマホの「掘る」効能

スマホの「掘る」は、いつでもどこでも見られることと、自分が見たいコンテンツにアクセスできるという意味での利便性が高く、個視聴かつ関心の深掘りに向くデバイスであると認識されているのです。

  • いつでもどこでも、移動中でも見られる
  • 操作がしやすい
  • 画面が小さく、顔との距離が近いため、画面に集中して細かな動きまでしっかり見られる(格闘技など)
  •  一緒に画面を見る相手との距離が近くなり、親密さが感じられる

一方、デメリットとしては、視聴姿勢が固定されること、目が疲れること、あとはバッテリーやパケットなど、気にすることが多いことなども挙げられました。

テレビとスマホは互いを補完し合いながら、豊かな宅内情報環境を構成しており、生活者はその中で「広げる」と「掘る」という二つの価値を享受しています(この視点は、今後の連載でさらに発展的に議論されていくことになります)。

テレビの「広げる」とは、自分自身の関心を広げるだけでなく、他者との間に媒介として存在し、話題を提供するような形をも指しています。調査では、複数人で同居する家庭においてテレビが共通の話題を提供している様子を何度も目撃しました。

しかしながらインタビューの中で気になったのは、昔と比べて、家族全員で楽しめるような番組、夢中になれる番組が減っているのではないかという意見が聞かれたことです。

あるいは、ネット動画サービスの充実などもあって、テレビコンテンツの優位性が揺らいでいるとの意見を口にした被験者もいました。また、テレビデバイスではリアルタイムの放送より録画消化を優先してしまうという声も上がっています。このように視聴時間をコントロールしてパフォーマンスを上げるマインドについては、本連載の後半で改めて考察したいと思います。

アイトラッキング調査が明らかにするスマホの「掘る」効能

スマホの「掘る」は、個人の関心の深掘りを可能にするとともに、ユーザーのアテンション(注意・関心)が方々に拡散的に向かうこともまた意味します。

例えば下記の場面では、スマホで動画を見る場合でも基本的には縦持ちでザッピングすることが前提となっていることが分かります。全画面で動画を見るのではなく、動画にも視点は向きつつ、他の関連番組に関心を向けているのです。いわばザッピングするための選択肢が常に画面の中にある状態なのだろうと推察されます。

スマホ縦
メインの動画が流れている状態でも、視線はサブ画面に向いていることが分かる(アイトラッキング調査より)。

その一方で、横視聴の場合は、選択視聴・専念視聴のケースが多く、ザッピングや他番組への乗り換えは少なく、CMに惹かれ興味を示す様子も多々見られました。下の画像のユーザーは音楽好きということもあって、有料配信チャンネルの広告に接触し、好きなアーティストが出ていたことから、そのサービスへの加入も検討したと述べています。

スマホ横
見たい番組を画面いっぱいに映し、視線は画面中央に向いていることから、番組に集中している様子がうかがえる(アイトラッキング調査より)。

スマホという「掘る」デバイスを手にしたことで、テレビという「広げる」デバイスが担う価値領域も変化し、生活者はどちらも重視するようになっています。そして「掘る」ことの常態化は、私たちの持つアテンションという資源の配分についても大きな影響を与えます。

今回、映像の形で生活者の情報行動を把握することができましたが、それによって私たちがより実感を伴って理解できたのは、「テレビとスマホという対比を考える上では、家族と見るか一人で見るか、どの部屋で見るかなど、そのスクリーンがどのような環境の中にあるのかも加味されるべき」ということに他ならないのです。

【調査概要】
●調査手法:
・ビデオエスノグラフィー調査
対象者の自宅にビデオカメラを設置して、テレビ画面での映像視聴の様子を2日分撮影いただく。実態を把握した上で、その映像を元に、後日デプスインタビューを行い、行動の背景にある「理由」「意識」を深掘りする。

 

ビデオエスノグラフィー調査

・アイトラッキング調査
調査会場で、対象者に専用の装置を装着いただき、スマホを見ているときの視線の動きを測定。その後、測定データを見せながらインタビューを行い、測定結果の背景にある「理由」「意識」を深掘りする。

 

アイトラッキング調査

●調査名:電通ビデオリサーチ共同「一周まわってテレビ」調査
●対象エリア: 首都圏(一都三県)
●対象条件:
・テレビ画面・スマホの両方でコンスタントに動画を視聴している人
・テレビ放送を全く見ない人を除く
・主要な動画サービスのいずれかを利用している(YouTube、Amazonプライムビデオ、AbemaTVなど)
・SNSを高頻度でやっている(Instagram、Facebook、Twitter)
・20代~40代(マスコミ、市場調査関係者を除く)
●サンプル数:5名
●調査期間:2018年9月~11月
●調査機関:株式会社ビデオリサーチ