loading...
MENU

「ついやってしまう」体験のつくりかたには、コミュニケーションデザインのヒントが隠れていた

DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.88

2019/10/28

「ついやってしまう」体験のつくりかたには、コミュニケーションデザインのヒントが隠れていた

なぜスーパーマリオは世界一売れたゲームになれたのか?
なぜドラクエには「ぱふぱふ」が登場するのか?
なぜテトリスは間髪入れずブロックが落ちてくるのか?
なぜゲームに面倒な同行者が登場することがあるのか?
なぜエンディングで主人公はスタート地点に戻るのか?

ついつい時間が経つのも忘れてしまう名作ゲームたち。それらは、決して偶然の産物ではありません。考え抜かれた企みが魔法のように散りばめられているのです。

今回ご紹介するのは、「『ついやってしまう』体験のつくりかた 人を動かす『直感・驚き・物語』のしくみ」(ダイヤモンド社)です。

著者は元任天堂の玉樹真一郎さん。数々の名作ゲームの秘密を解き明かしながら、人がついやってしまう…そんな体験づくりのヒントを教えてくれる一冊です。

「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ

スーパーマリオはなぜ世界一売れたのか

そんな問いかけから本書(の体験)はスタートします。ギネスにも認定された超有名ゲームです。

いきなり答えを出すのはあまりに困難です。すかさず補助的な問いが現れます。
 

このゲームは、何をしたら勝ちでしょうか?(P.24)

 

クッパを倒す?違います。
ピーチ姫を救う?違います。

もっと最初に知ることになる、勝つための基本ルールが実は存在しています。ラグビーワールドカップに日本中が夢中になりましたけど、やっぱり「ボールを前に投げてはいけない」「相手ゴールの地面にボールを着けると得点」といった基本ルールを知ってこそ夢中になって応援できますよね。

マリオにおける基本ルールとはなんでしょうか?

それは「右に行く」ということ。

当たり前すぎるでしょうか?しかしなぜ当たり前に知っているのでしょうか?スーパーマリオには、今のスマホゲームのように懇切丁寧なチュートリアルがあるわけでもないのに。

ここに、ゲームデザイナーが仕込んだ「ついやってしまうための仕掛け」が隠れているのです。

体験をデザインする技術① 直感のデザイン

スーパーマリオのゲーム画面を思い出してみてください。

マリオが立つのは、ゲーム画面の中央よりやや左。そして顔は右を向いている。

左には高い山があり、どことなく壁のよう。逆に右には明るい黄緑の草と、真っ白な雲で目を引きます。

しかもプレイヤーの手元には、明らかに右に行けそうなボタンのあるコントローラー。

言われて初めて気づくことばかりですが、たった一つの画面でさえ、これほどまでに基本ルールを伝えようという工夫が凝らしてあるのです。

こうしてプレイヤーがマリオの面白さを学んでいく過程に、直感のデザインの基本方程式が隠れています。それは「仮説→試行→歓喜」です。

仮説:「●●するのかな?」と仮説を立てさせる

試行:「●●してみよう」と思わせ、実際に行動で確かめさせる

歓喜:「●●という予想が当たった!」とよろこばせる

わずか数秒のゲームプレイの中で、プレイヤーはこんなにも心の変化を味わっているのです。

こうして自発的に得た学びを、人は一生忘れません。快感も同様です。相手の心理を想像し、デザインの力でうまく導いていく。ここに大事な真理が潜んでいます。

ゲームがおもしろいのではなく、体験がおもしろい

ゲーム自体がおもしろいからではなく、プレイヤー自身が直感する体験そのものがおもしろいから、遊ぶ。(P.100)

これです。直感のデザインは情報を素早く伝えるだけでなく、おもしろいと感じさせてしまうのです。直感的にわかるものは、もはやおもしろく感じられる。

これ、私が初めてiPhoneに触れたときの気分にも当てはまります。あれこれ説明されたわけじゃないのに、ズームやスワイプをすぐ使いこなせるようになる。そしてその後訪れる、なんともいえない高揚感。あのとき、直感のデザインによって私の感情は見事に誘導されていたのだと思います。

体験をデザインする技術② 驚きのデザイン

そんな直感のデザインにも、弱点はあります。飽きられてしまうんです。何度も何度も繰り返していると。やはりプレイヤーも疲れてしまうんです。

なぜなら、仮説を試行するとき、どうしても一瞬「不安」が生じるから。そんなネガティブな感情は、たとえ一瞬であっても、積もり積もればやがて心が離れていってしまいます。

そこで欠かせないのが、2つ目の技術、驚きのデザインです。

予想が外れる驚きで、疲れや飽きを払拭するのがその役割。

そう…ドラクエをプレイしたことがある人なら誰でも覚えている、あの「ぱふぱふ」はそんな狙いがあったのです。その方程式はこんな感じ。

誤解:自発的に「●●するのかな?」という誤った仮説を立てる

試行:自発的に「●●してみよう」と試しに行動を起こす

驚愕:自発的に「●●はまちがいだった!」と驚く

「世界を救う冒険RPGだ」と思ってプレイしているうちに、「そんな世界観だから王道から外れることは起きないだろう」と誤解してしまう。その先にはサプライズが待っているわけです。

ぱふぱふだけじゃありません。ラスボスの発言、まさかの娯楽施設、仰天のラスト、迷いに迷う選択肢…。いろんな驚きを提供することをドラクエは決して忘れません。

ドラクエは一般的には「王道で教科書的」と評されますが、実は真逆なんですね。プレイヤーをことごとく裏切る過激で非教科書的なゲーム、それこそがドラクエの正しい評価と言えます。(P.132)
 

体験をデザインする技術③ 物語のデザイン

最後の技術を語る上で、著者が読者に投げかける問いは、まさに広告会社をはじめさまざまなビジネスパーソンにとって切っても切れないものです。
 

人はなぜ「つい誰かに言いたくなってしまう」のか (P.165)


体験を通してユーザー自身の物語を生み出させる。それこそがこの物語の技術です。具体的には、こんな方程式です。

翻弄:物語を理解しようとするプレイヤーを翻弄し、物語らせる

成長:物語中の主人公同様、プレイヤーを成長させる

意志:プレイヤー自身の意志で運命を切り開かせる

ゲームの中での体験を通じ、ユーザーの中にそれぞれの物語が生まれていく。だからこそ印象的な記憶になる。記憶がなければ、人は誰かに言いたくもならない。印象的な記憶を生み出す技術、それが物語のデザインとも呼べるでしょう。

知らず知らずのうちに学んでしまう直感のデザインとは、また別のアプローチです。

ラジオ体操では、66回も腕を上げ下げしている

本書ではこの物語のデザインについて、より細かいティップスも紹介されています。その中でも「成長」の項は特におもしろいです。

この項では、ゲームの意義として「プレイヤーに成長を体験させる」ことを挙げています。プレイヤーは、成長を実感できないゲームを続けてくれません。つまり、ゲーム内の主人公と、ユーザー自身がどんどん重なっていく体験をデザインする必要があります。

そこに実に多彩な技術が潜んでいるのですが、ここでは「収集と反復」という方法論の中から、「リズムをつける」の実例を紹介します。

実はラジオ体操では、66回も腕の上げ下げ動作があるんです。びっくりじゃないですか?あの短い体操の間に、そんなに。これが、いきなり「66回上げ下げしてください」と言われたら誰だって身構えますし、億劫になります。

体験のつくりかた、ゲームだけの話ではないということがなんとなくお分かりいただけたのではないでしょうか。

「ユーザーに寄り添う」の本当の意味

この本、ぜひ紙で読んでいただきたいのです。電子書籍の場合は、ぜひ「見開き表示」で何卒。めくるたび理解が進んでいくのはもちろんなのですが…
 

この本を体験していただいて、ここまでたどりついていただいて、本当にありがとうございます!(P.314)


そう、体験。この本には学びだけでなく、他にはない読書体験が用意されています。

本文と図のレイアウトはもちろん、表紙のデザイン、時折わざわざ書かれているくだらない表現、さらに読み進めることで読者自身が成長を実感できる仕掛けまで…!意図のないページはありません。極めて細部まで、本書で語られている学びに沿って設計されているのです。

なぜでしょうか。
 

商品やサービスの「良さ・正しさ」を伝えるよりも、まずは商品やサービスとの関わりかたが直感的にわかることを優先すること。これこそが「ユーザに寄り添う」の本質だと考えます。(P.99)


よく語られる、ユーザーに寄り添えという話。じゃあどう寄り添えばいいのか。ここに答えの一つが語られています。

「わかる」から、「良い・正しい」となる。それがユーザーの気持ち。その順番を無視してはいけない。

「良さ」や「正しさ」を広く告げようと試みる広告界にこそ、こうしたユーザー中心発想で商品やサービスにまで目を向けることが、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。
電通モダンコミュニケーションラボ

【電通モダンコミュニケーションラボ】