『クラウドファンディングストーリーズ 共感で世界を動かした10のケーススタディ』
2019/09/27
今回ご紹介するのは出川光さんによる『クラウドファンディングストーリーズ 共感で世界を動かした10のケーススタディ』(青幻舎)です。
著者の出川光さんは美大出身で、2011年から2015年までクラウドファンディングのプラットフォームを提供しているCAMPFIREに在籍した後に独立。ディレクターとして600件以上のファンディングに関与し、集めた支援額はなんと5億円を超えるとのこと。
本書は、そんなクラウドファンディングのケーススタディを数多く知る著者が、クラウドファンディングの本質と成功について記したものです。
そもそもクラウドファンディングってなんだ?
本書では以下のように定義されています。
クラウドファンディングという言葉は、英語で群衆を意味する「crowd」と、資金調達を意味する「funding」が組み合わさった造語だ。その意味が示す通り、インターネットを通じて不特定多数の人からお金を募り、アイディアを実現させるためのウェブサービスだ。(P31-32)
もちろん、「皆からお金を集めて何かを実現する」という行為自体は、人間社会で昔からあることです。例えば、日本だと昔から地元のお祭りにお金を出してくれた人や団体の名前を、会場で掲げられる提灯に入れたりしていますよね。そこに「インターネットを通じて」「不特定多数の人から」の2点が加わっていることが、クラウドファンディングならではのポイントでしょうか。
何が元祖かは諸説あるものの、発祥の地とされるのはアメリカ。2001年、ニューオリンズに住む若者ペリー・チェンが音楽ショーをやろうとしたものの資金が足りず、インターネット上でお金を募ることを思いつきました。その後、2009年には、チェンら3人の創始者が「Kickstarter」を立ち上げ、現在に至る流れが確立されました。
クラウドファンディングの市場規模は、Kickstarterが始まった頃から急速に拡大。世界銀行によるレポートでは、2025年までに900億~960億ドルに達すると試算されています。
日本に上陸したのは2011年の夏。
著者は最初にクラウドファンディングの話を聞いた時に、日本では寄付や投資文化が根付いていないので、普及させるのは難しいのでは、と思ったそうです。それでもこの業界に挑んだのは、美術大学時代に、才能あふれる人が作品でお金を稼ぐことができずに生活のために創作を断念する姿をたくさん見ていて、その現実を変えられるのではないか、という期待を感じたから。
その期待はいまや現実のものとなりつつあり、クラウドファンディングの国内市場規模は2017年度に1700億円まで拡大しています。
(かくいう私も、食い意地がたいへん張っておりまして、飲食関係のファンディングには何件か参加したことがあります…)
クラウドファンディング成功のためには「ストーリー」が重要
もはや資金調達において当たり前の手段の一つになりつつあるクラウドファンディングですが、当然のことながら、資金が目標額に届かずプロジェクトが成立しないこともあります。成功と失敗を分かつものはいったい何なのでしょうか?
著者は「プロジェクト自体のストーリー」が重要だ、と説きます。
本書には、プロジェクトが成功のための要件を満たしているかのチェック項目が掲載されているので、概要を以下に抜粋します。
■ プロジェクトが満たしていてほしい要素
- 動機が明確である:
なぜそのプロジェクトをやろうと思ったのかをひとことで言える。 - 主人公がいる:
プロジェクトをやろうとしている人が誰なのかが明白。 - ストーリーがある:
プロジェクトが始まったきっかけや背景、出会いについてストーリーがある。
■ クラウドファンディング中に満たしていてほしい要素
- プロジェクトの成果物(商品、作品、場所など)に完成形のイメージがある。
- プロジェクトページが納得のいくクオリティになっている。
- SNSをアクティブに行っている。
- プロジェクトを応援してくれる人が周りにいる。
- 実名で表に出ることを恐れない。
なんとなく、成功するプロジェクトのイメージがつかめましたか?私が参加したプロジェクトも、まさしくこれらの項目に当てはまっていました…!
本書には、著者が関わって成功したクラウドファンディングの事例が10件掲載されています。車椅子ユーザーのためのモビリティから、現代美術家が震災後の東北にささげる作品まで、ジャンルはさまざま。
しかし、そのひとつひとつの事例がいずれも、単なるビジネスのケーススタディではなく、まるで一編の短編小説のような趣を持っています。これはひとえに、紹介されているプロジェクトに、「主人公がいて」「動機が明確で」「ストーリーがある」からです。
それゆえに、不特定多数の出資者も、それぞれのストーリーに共感し、自らもその物語に関わりたいと思い、支援をするのでしょう。同じ「クラウドファンディング」というプラットフォームを使っていても、そのアプローチの仕方はケースごとにまったく異なります。ぜひ、読んでみてください。
日本のクラウドファンディングの現実と未来
本書で異彩を放つのは、著者と深津貴之さん(piece of cake CXO / THE GUILD代表)による対談パートです。著者自身が熱くレポートしている事例紹介パートと違って、外部から冷静に、より高い視点で、ある種の身も蓋もなさをもって、クラウドファンディング業界の現状と課題について語られています。
例えば…
- 日本国内ではマーケットサイズは小さいのにプラットフォーマーが多すぎて、効率化のためには、まだまだ統廃合が必要。
- 「資金調達が難しい人でもお金を集められるように」という理想像があったはずだが、認知度の高い著名人やもともと調達能力の高い器用な人は資金集めがより楽になったものの、それ以外の一般層にとっては高難度なまま。(=クラウドファンディングはソーシャル活動の収穫フェーズになっている)
- プラットフォームに税処理やリスクヘッジの話が明示されておらず、やってみようと思っても、不明瞭な点がまだまだ多い。
などの課題が指摘されています。
熱い物語から一転、急に現実に引き戻されますが、日本のクラウドファンディング市場がさらなる拡大を遂げるためには、間違いなくこれらの課題を解決していく必要があるでしょう。
とはいえ、クラウドファンディングの持つ可能性、ポテンシャルは本物です。本書にも紹介されているとおり、クラウドファンディングがなければ実現しなかったプロジェクトがたくさん生まれています。夢や目標、そして人々が共感するストーリーを持った個人にチャンスもたらしてくれる仕組みであることには変わりありません。
巻末には「クラウドファンディングを始めよう」と題して、プロジェクト実現までのステップが詳細に紹介されています。もしあなたに実現させたいアイデア、語りたいストーリーがあるなら、本書を手に取ってみることが、その第一歩となるかもしれません。そうして、クラウドファンディングの裾野がますます広がっていくことで、業界が現在抱えている課題もきっと解決していくことでしょう。