リッチ化・複雑化するオーディオアドを支える“海賊”の技術とは?
2019/11/01
インターネットラジオや音楽のストリーミング配信など、オーディオ市場が拡大を続けています。そんな中、電通、電通デジタル、CARTA HOLDINGSの電通グループ3社は、オーディオアド配信の領域を強化すべく、「Premium Audio広告」をリリースしました。
CARTA HOLDINGSは、電通グループでメディアソリューション事業を中心に事業展開するCCIと、インターネット領域においてテクノロジーと事業開発に強みを持つVOYAGE GROUPの経営統合によって誕生した会社です(※)。
※ CCIとVOYAGE GROUPは、CARTA HOLDINGSの子会社として存続
今回はVOYAGE GROUPで新サービス開発を担う藤本礼氏に、経営統合の狙いと、オーディオ広告の未来展望を聞きました。
<目次>
▼オーディオアドのデジタル化でブランディング広告が加速する
▼ラジオ特有の複雑な配信にもスピード感を持って対応
▼オンライン/オフラインをまたぐ広告キャンペーンが増える中で存在感を増す
オーディオアドのデジタル化でブランディング広告が加速する
―VOYAGE GROUPについて、これまでどんな事業をしてきたのか教えてください。
藤本:VOYAGE GROUPは、もともと「ECナビ」や「PeX」といったメディア事業からスタートしました。その中でインターネット広告事業が徐々に大きくなり、運用型デジタル広告の配信を最適化する「SSP」や「DSP」といったプラットフォームの開発・運用で伸長してきました。
VOYAGE GROUPではこれまで、バナー広告(ディスプレイ広告)やリスティング広告などに代表されるパフォーマンス広告を重点的に手がけていました。しかし通信環境など外部環境の変化もあり、デジタル広告は今までの静止画中心の世界から動画や音声へと、ますます「表現のリッチ化」が進んでいきます。
また、ストリーミングサービスの拡大や声で操作するスマートスピーカーに代表されるIoTの世界観が確実に広がり、生活の中に溶け込むオーディオアドの価値は増していくでしょう。
そうなれば、より多様な表現が求められる「ブランディング広告」において、オーディオアドは親和性が高いと考え、新たなプロダクト開発やサービス体制の構築に力を入れてきています。
―その中でなぜ、今回の経営統合に至ったのでしょうか。
藤本:一番大きいのは、電通グループがブランディング広告の領域に強みを持っているからです。電通グループのアセットと、VOYAGE GROUPのプラットフォームを組み合わせれば、クライアントにより良いデジタル広告の価値提供ができるという思いから、力を合わせることになりました。
―統合後の最初のサービスとして、2019年5月から音声広告配信サービス「Premium Audio広告」の提供を開始しています。
藤本:プレミアムな音声メディアのみを対象に、オーディオアドを配信するというサービスです。2019年10月時点では、インターネットラジオの「radiko」と、音楽ストリーミングサービスの「Spotify」への広告配信が可能です。
―VOYAGE GROUPはどんな形でPremium Audio広告に関わっているのでしょうか。
藤本:このサービスでは、VOYAGE GROUPが開発・運用するブランド広告向けアドプラットフォーム「PORTO」や、SSP「fluct」といった自社プロダクトを活用しています。
PORTOは多様な配信フォーマットへの対応やその統合管理、また各種計測ベンダーやデータプロバイダとの連携が可能です。今回のPremium Audio広告はその中のフォーマットの一つで、今後はDOOH(DIGITAL OUT Of HOMEの略。屋外広告のこと)など、オフラインメディアを含む多様なプレミアムメディアやフォーマットへの対応、オンラインとオフラインを横断したリーチ管理、フリークエンシー管理の一元化の実装を予定しています。
またfluctは、さまざまなメディアにアクセスできるのが強みで、これだけ多様なメディアにつなげられるプロダクトは国内でも屈指だと思います。今後の展開で、さらにPORTOとfluctの強みが生かされていくと期待しています。
ラジオ特有の複雑な配信にもスピード感を持って対応
―Premium Audio広告の特徴を教えてください。
藤本:一番の売りは、やはり配信先の安全性や効果が担保されている点ですが、ここでは技術的な特徴をお話しします。
一つは、広告の効果など、「データ」を細かく取れること。広告のインプレッションや視聴割合、ブランドリフト効果を数値化できるほか、電通グループの持つ他プラットフォームとのデータ連携も見据えています。
そしてもう一つ大きな強みは、技術的にも運用体制的にも、かなり複雑な配信システムに対応できる点です。
もともとオフラインメディアであるラジオは、放送局ごとに広告の在庫やシステムが異なるケースもあり、radikoのようなメディアへの配信システムはどうしても複雑になりがちです。しかし、電通グループのCCIと経営統合したことで、そういったメディアの持つさまざまな事情や複雑なシステムを共有し、スピード感を持って対応できています。
―電通グループと一つになったからこそ、柔軟かつスピーディな対応ができると。
藤本:実際、電通グループで関わっている方から、VOYAGE GROUPのビジネスサイド、エンジニアサイドまで、一つのフラットなチームになっていると感じています。こうした体制が構築できていることは、開発スピードを早めることや細かな対応につながるでしょう。特にデジタル広告は成長や変化の激しいマーケットですから、スピード感は非常に重要です。
そして、この風通しの良さ、密なコミュニケーションというのは、VOYAGE GROUPがもともと持っていた強みでもあります。開発側のエンジニアサイドと営業側のビジネスサイドの関係が非常にフラットで、社内の横も斜めも横断してコミュニケーションが取れるカルチャーが浸透しています。
―そのカルチャーを残しつつ電通グループと融合しているのですね。
藤本:はい。こうしたカルチャーはオフィス環境にも表れています。会社自体が「海賊」「航海」というコンセプトを持っていて、新オフィスは「GREAT VOYAGE」をコンセプトに設計されています。
例えば「AJITO」と名付けられた社内BARがあって、定時後はお酒を飲んだり、その場に置いてある楽器を演奏したり、社員のコミュニケーションが生まれる場になっています。風通しの良いカルチャーやフラットなコミュニケーションはVOYAGE GROUP全体のカルチャーであり、AJITOはその象徴です。
―具体的に、そのカルチャーがどのようにVOYAGE GROUPのビジネスに影響を及ぼしてきましたか。
藤本:例えば、新しいサービスやプロダクトを立ち上げるときは、基本的にビジネスサイド主導のケースが多いのですが、エンジニア側から「こういうものがあった方がいいのではないか」と意見や提案が上がることも多いです。
また、ビジネスサイドには分からないプロダクトや仕様の改善点は、日常的にエンジニアがアドバイスします。開発の優先度や保守すべき機能の判断など、垣根なく活発にやりとりしており、バランスは良いと思います。
オンライン/オフラインをまたぐ広告キャンペーンが増える中で存在感を増す
―今後、オーディオアドはどう変わっていくと思いますか。
藤本:これから急速に面白くなっていく領域だと思います。動画など、さまざまなフォーマットやメディアへの広告配信が可能になってきている中でも、オーディオアドはまだまだ未開拓でチャレンジングな新しい領域です。
デジタル化の加速でフォーマットやクリエーティブの幅が広がり、これまで瞬間的な単発の出稿で終わってしまいがちだったオフラインの広告が、他メディアや広告、SNSなどと連動して、より深いストーリーをユーザーに届けられるようなものになるでしょう。
また、そうやって連続的かつ広い領域でさまざまな広告の展開が広がっていくと、ユーザーにとっても広告で「より面白い体験」が得られるようになります。それは、今まで以上にマーケティングの力が増すことを意味します。そうしたデジタルマーケティングの可能性を最大限に生かせるプラットフォームづくりがわれわれの課題です。
―面白くなるマーケットの中で、VOYAGE GROUPとしてどんなことをしていきたいですか。
藤本:オーディオアドに限らず、テレビCMやOOHなど、今までオフラインだった広告も今後次々とオンライン化していきます。つまりオンライン/オフラインの領域をまたいで、ユーザーデータをもとに、あらゆる広告を配信できる環境になる。
VOYAGE GROUPがそこで実現したいのは、あらゆるメディアの広告を横断して一元的に管理できる世界観です。そのためには、それらのメディアすべてにコネクトできる広告プラットフォームと、複雑な広告配信を支える技術が必要です。
そういった未来を想像しながら、今も「PORTO」やSSP「fluct」を開発し続けており、その第1弾としてPremium Audio広告をリリースさせていただきました。
―電通グループにはどんなことを期待していますか。
藤本:電通はなんと言っても、長い広告の歴史の中で築き上げてきた広告主との強いリレーションと、ノウハウがあります。また、オフラインメディアとのつながりが強く、接触データや視聴傾向など、細かなデータを持っているのが強みだと思います。それらの資産をうまくオンラインに活用したり、両方を行き来させたり、新しいことができるのではないでしょうか。
一方、今後オーディオアドをプログラマティックに配信する上で、どんなデータが指標になるのか、どんな数値を重視すればよいのか、クライアントがまだ解を持っていないケースもあります。この点において、電通とVOYAGE GROUPが実際に配信した結果をいち早く分析し、はっきりとした指標を提示していきたいですね。あわせて、配信先メディアの“出稿面”も増やしていきます。
オーディオアドの市場は、まだ発展中です。その最前線にいて、まさに市場をつくっているような、開墾している感覚です(笑)。でも、未開拓の分野だからこそ大きな可能性もある。皆さんと一緒に、新しい大きな市場をつくっていけたらと思います。