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地域課題をテクノロジーで解決する「シビックテック」No.1

地方で求められる「広義のシビックテック」って?

2019/11/01

シビックテックとは、地域の住民自身がテクノロジーを活用して、地域の課題を解決すること。本連載では、地域での事例紹介や識者との対談を交え、テクノロジーによるまちづくりの可能性を考察していきます。

今回は、“次世代型”ともいえる「広義のシビックテック」についてお話しします。

<目次>
地域課題を解決するシビックテック事例が国内外で増加
広義のシビックテック①「戦略づくりの段階からデジタルを取り入れる」
広義のシビックテック②「普及した“こなれた技術”を活用する」
 
 



地域課題を解決するシビックテック事例が国内外で増加

人口減少や高齢化、過疎エリアの交通インフラなど、年々深刻化する日本の地域課題。その解決策として最近よく聞かれるのがシビックテックです。主にはITを活用して、地域課題を解決することを指します。

ポイントは、IT知識を持った“市民”自らが主体者であるところ。一市民として地域で生活するエンジニアや技術者が、そのスキルを地域に還元しています。

私は内閣府が行う「地方創生人材支援制度」を通じて、地方行政に出向した経験を持ちます。そこで痛感したのは、山積する課題に対して、行政だけで対処するのは困難になりつつあるということ。だからこそ、市民自身がITを使って解決に挑む形が重要になっています。

シビックテックの先駆けは、米国で2009年に発足したNPO「Code for America」。この団体は、行政の課題を解決するため、エンジニアなどの技術者を各地方自治体に派遣。地域の課題を分析し、独自のウェブサービスやアプリを作成しています。

これを参考に、日本でも2013年、「Code for Japan」という非営利団体が誕生。さらに各地域でも、「Code for Kanazawa」や「Code for Sapporo」などの組織が結成され、市民エンジニアが地域課題の解決ツールやアプリを生んでいます。

例えば金沢では、住所ごとにごみの収集日や分類方法といった“ごみ情報”を調べられるアプリ「5374.jp」が開発されました。このアプリは、現在、金沢以外の地域でも活用され始めています。

code for Kanazawa が開発したアプリ「5374.jp」
code for Kanazawa が開発したアプリ「5374.jp」ウェブサイトより

…と、ここまでに話したシビックテックは、専門的な知識やスキルを持った技術者が新たなシステムを開発し、課題解決を行ったケース。従来シビックテックといわれてきたものは、基本的にこのパターンです。

しかし私は、これからの地方ではもっと「広義」のシビックテックを考えるべきだと思っています。

広義のシビックテック①「戦略づくりの段階からデジタルを取り入れる」
 

シビックテックというと、テクノロジーありきでの解決方法を考える傾向が強いのですが、テクノロジーはあくまで手段です。お金を投じて新たなテクノロジーを入れれば何でも解決できるわけではありません。大切なのは、「どこに、どうテクノロジーを使うのか」という戦略の策定です。

まず、地域にはどんな資源があるのか、地域ごとのユニークな特徴や、そこにいる人材などを洗い出す必要があります。その上で、今どんな課題があるのか。この2点をはっきりさせた上で、それを解決するための戦略を考えていくべきです。

そして、実はこの戦略づくりにも、デジタルやITの力を使えます。つまり、解決策の前の戦略づくりからデジタルテクノロジーを活用する。これが、一つ目の「広義のシビックテック」です。

一例として挙げたいのが、デジタルマーケティングでは一般的な「カスタマージャーニー」の活用です。カスタマージャーニーとは、顧客やターゲットとなる人=ペルソナを仮想し、その人の行動や思考などを時系列で分析する手法です。

デジタルツールを駆使した分析結果から、カスタマージャーニーのどこにマーケティングのチャンスや課題があるかを可視化して、戦略をつくっていきます。この手法は、地域にも応用できるのではないでしょうか。

広義のシビックテック②「普及した“こなれた技術”を活用する」

もう一つ、「広義」のシビックテックの考え方をご紹介します。

従来のシビックテックは、市民エンジニアなどが新しいシステムをゼロからつくるケースが多数でした。もちろんそれは素晴らしいですが、必ずしも日本の全地域にそんな市民エンジニアがいるとは限りません。

しかし、何もゼロからシステムをつくらなくても、実はすでに世間一般に普及している既存のテクノロジー、いわば“こなれた技術”を使うことで解決できる地域課題は多いのです。

既存のテクノロジーとは、例えば「LINE」などの各種SNSツール、あるいは「Airbnb」などのウェブサービス。何も大げさなことではなく、それこそ例えば「高齢の従業員同士の業務連絡にLINEを使う」という、たったそれだけでも立派なシビックテックだということです。

こういった便利なものを活用しきれていない地域、あるいは活用するだけで前進できる地域はたくさんあります。何よりも、わざわざ専用のシステムをゼロからつくらなくてよいため、スタートのハードルも低くなります。

また、副産物として、既存のテクノロジーを使いこなせると、住民の日常生活も便利になります。例えばSNSツールによる地域施策を行ったのをきっかけに、住民がSNSを利用できるようになれば、日常のコミュニケーションが便利になりますよね。高齢者なら、離れて暮らす孫とのコミュニケーション手段が増えるかもしれません。

大上段に構えるよりも、このように生活に根差した施策の方が、住民もモチベーションが生まれ、取り組みやすいのではないでしょうか。

以上、「①そもそもの戦略づくり」、そして「②ゼロからではなく今あるテクノロジーを使う」。これが「広義のシビックテック」であり、今後の地域課題解決において重要になると考えるものです。

すでにこういった広義のシビックテックが実践されている地域はいくつもあります。一つは、電通デジタルがサポートした「岐阜県郡上市」の取り組み。ここではFacebook、Salesforceなど既存のデジタルツールを駆使して、遠方からの来訪者との関係構築を強化しました。

もう一つは、私がまちづくりアドバイザーとして関わっていた「富山県上市町」です。上市町では、移住・定住施策にカスタマージャーニーを活用。さらに、地域の高齢者がLINEやAirbnbといったサービスを活用し、宿泊施設を運営しています。

一見「それだけ?」と思われるような「広義のシビックテック」を、具体的にはどこにどのように導入すればいいのか?そしてどんな成果を得られるのか?

次回からは、実際の郡上市、上市町の事例を紹介していきます。