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なぜか元気な会社のヒミツNo.1

社内の当たり前、ふつうはスルーですよね?

2019/11/21

「会社の正解」を得るのが難しい時代の中、オリジナリティーを発揮する元気の良い会社があります。その秘訣(ひけつ)とは一体何でしょうか? 電通「カンパニーデザイン」チームがそれぞれの会社のキーパーソンに伺った話をご紹介する本連載コラム。1回目は、兵庫県の東田ドライのケースです。

ウェブ電通報「カンパニーデザイン」連載記事は、こちらから。
 
 

東田ドライ
「おせっかい」なクリーニングで、業績V字回復

宅配クリーニング「リナビス」を展開し、首都圏を中心に全国から注文が殺到する東田ドライ。その躍進の陰には、「おせっかい」という現場力を企業のオリジナリティーに据えた経営があった。

話し手:東田伸哉氏(東田ドライCEO 社長)
聞き手:後藤一臣氏(電通 第1統合ソリューション局)
 
東田ドライ 1961年創業。元々は兵庫県西脇市を拠点とする町のクリーニング屋さん。2014年からインターネットを使った宅配クリーニングサービス「リナビス」をスタート。
東田ドライ
1961年創業。元々は兵庫県西脇市を拠点とする町のクリーニング屋さん。2014年からインターネットを使った宅配クリーニングサービス「リナビス」をスタート。
「リビナス生産工場」内部の様子
「リビナス生産工場」内部の様子

高品質宅配のブルーオーシャンを開拓した「おばちゃんのおせっかい」

「単純にショックでした」。大学を卒業して家業を継いだ時、東田氏は初めて事業が赤字であることを知ったという。受注量を増やすために宅配サービスを始め、「安さ」「早さ」を訴求したウェブ広告を出稿したが、1年しても効果が表れなかった。そこでふと思い出したのが、母親の「おせっかい」だった。「寒い冬の夜に、取りに来るのを忘れたお客さまにわざわざ届けに行くんですよ」。そこから東田氏は「消費者がクリーニングに望んでいるものは『誰に頼みたいか』なのではないか」という発想に至り、職人のおばちゃんたちが勝手にやっていたボタン直しやシミ抜きなどの「無料のおせっかい」を、サービス品質の価値としてアピールした。すると、広告の反応率は3倍に跳ね上がったのだ。

ただいま、「おせっかい」作業中。
ただいま、「おせっかい」作業中。
作業が終わると、このような手紙が添えられる。一つ一つ
作業が終わると、このような手紙が一つ一つ添えられる。

現場が自分たちで考える余白をつくる経営術

「おせっかい」という価値を生み出す現場を、どのように東田氏が運営しているのか尋ねてみると、「ふわっとしたルールだけをつくるようにしている」とのこと。「端から端まで決まっているとそれしか生まれない」という考え方で、現場が自分で考える余白を残しているのだという。具体的には、期間における生産量とおせっかいサービスの実施を指示する程度で、八つある「無料のおせっかい」からどれを適用するかも職人自ら考えてもらっているそうだ。「技術のことは職人に任せて口を出さず、いつも現場をふらふらしています」と謙遜気味に語ったが、自分の目で現場を観察し、疑問に思ったことは素直に質問する東田氏の姿勢こそが、会社の業績と職場の良好な雰囲気につながっていると感じた。

東田ドライCEO 社長・東田伸哉氏(写真右)と電通 第1統合ソリューション局・後藤一臣氏(同左)。「東田氏は、クリーニングサービスを通して「日本人の思いやり」を世の中に再提示しているのかもしれないですね(後藤氏)」
東田ドライCEO 社長・東田伸哉氏(写真右)と電通 第1統合ソリューション局・後藤一臣氏(同左)。「東田氏は、クリーニングサービスを通して「日本人の思いやり」を世の中に再提示しているのかもしれないですね」(後藤氏)

編集部が見た「カンパニーデザイン術」#01

東田社長の印象を端的に言うと、マーケティングの本質を知っている人、ということだ。顕在的な事象に捉われることなく、潜在的なニーズを掘り下げる。奇抜なサービスを提供するのではなく、誰に、何を頼みたいのか、を徹底的に調べ尽くす。その結果、クリーニング店に求められているのは「自分では洗えないくらい大事なものを、信頼できる誰かに預ける」という期待にこそあるのだ、ということに気付く。

その期待に「おせっかい」というネーミングをすることで、お客さまの期待を、見える化する。社員のやる気を、喚起する。その様が、そのまま広報のソースとなる。広報のソースは、ポジティブなことばかりではない。卓越した技術を誇る現場のチカラをもってしても「できなかったこと」の説明を、きちんと行う。そうした姿勢が、オンリーワンの信頼につながっているのだと思う。

東田社長によれば、努力とは「やった結果、いい方向に向かう」こと。やった結果、疲れただけやな、というのはただ単に苦労しただけ、なのだという。その姿勢は広報や広告にも現れていて、「伝えた」ということと「伝わった」ということには、天地の開きがあるのだそう。「早い、安い、安心」など、どの店でも掲げているメッセージを、どれだけ演出したところで、今の時代、お客さまの心には響かない。その先にある「東田ドライならではの価値」を、とことん突き詰める。その姿勢にこそ、人の心を揺さぶるヒミツがあるのだと、改めて学ばされた。

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