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OODA式すごいブランディングNo.3

本場スイスが認めた「町工場の腕時計」
~下町から仕掛ける新ラグジュアリー戦略に迫る!~

2024/04/22

大塚ローテック

変化の激しい現代のビジネス課題を解決に導く「意思決定モデル」として注目を集めている「OODA」(ウーダ)。ビジネスにおける組織づくりや経営戦略はもちろん、ブランディングやマーケティングにも効果を発揮します。

OODAの魅力を多角的にお伝えしていく本連載。前回に引き続き、東京・大塚の下町から世界中のファンを魅了する腕時計ブランド「大塚ローテック」創業者の片山次朗氏と、「OODA式リーダーシップ 世界が認めた最強ドクトリン」(秀和システム)を執筆したアーロン・ズー氏との対談をお届けします。

大塚ローテックが手がけるプロダクトの魅力と、そのものづくりから垣間見える「新ラグジュアリー戦略」とは?

【OODAとは】

ooda

元アメリカ空軍大佐で戦闘機のパイロットだったジョン・ボイド氏が提唱した、意思決定や行動を起こすためのプロセス。観察(Observe)、判断(Orient)、決定(Decide)、行動(Act)の頭文字を取った言葉で、変化し続ける予測不能な状況に対して、常に最善手を打っていくことを目的とする。欧米の経営やマーケティングでは従来のPDCAだけでなく、OODAが必要不可欠な意思決定プロセスとして認知されている。(詳しくはこちら)。
 

スイスの国際時計博物館に所蔵。腕時計の“歴史”にその名を刻む

アーロン:前回は片山さんのご経歴やブランド立ち上げの経緯、その背景にあるものづくりの姿勢や、独創的なクリエイティビティの源泉についてお話しいただきました。ここからは、大塚ローテックの近年のプロダクトについて教えてください。

片山:ブランド立ち上げ以降、設計から製造、修理に至るまで私一人の手作業で行っていたのですが、さらなる品質向上と量産体制の確立を目的として、2023年に東京時計精密のサポートを受けるようになりました。現在は以前販売していた「7.5号」と「6号」を改良し、新モデルで販売しています。「7.5号」はケース上面にターレット状の3つの窓を配置したデザインと、ジャンピングアワー機構による時間表示が特徴です。「6号」は扇型のアナログメーターを採用し、レトログラード機構によって時分針が一番右端の目盛りに到達すると一瞬で左端のゼロに戻る仕組みとなっています。

いずれも旧モデルから素材や加工方法をアップデートし、例えば外装のケース素材をさびや腐食に強いSUS316Lに変えたり、風防をミネラルガラスからサファイアクリスタルガラスに変更するほか、6号はラグの固定方法を変えるなど、長く使い続けていただけるように工夫しています。

大塚ローテック
大塚ローテック 7.5号(手前)、6号(奥)

アーロン:金属の質感や絶妙な丸みを帯びたフォルムが、本当に美しいですよね。シリアルナンバーが入っていますけれど、これはランダムの数字ですか?

片山:はい、ランダムですね。個体を特定したいのでシリアルを入れているのですが、製造年や製造順に意味を持たせたくなかったのでランダムにしています。

アーロン:どちらのプロダクトも大人気ですよね。定期的に抽選販売をしていますが、倍率がとんでもないことになっているのではないかと腕時計ファンのあいだでうわさになっています(笑)。また、「7.5号」はその技術的価値が認められて国立科学博物館の科学・技術史資料として保存されるだけでなく、腕時計の本場スイスの国際時計博物館にも所蔵されるという偉業を成し遂げています。

片山:東京時計精密がスイスにコネクションを持っていたことなど、いくつかのタイミングがうまく重なって受け入れていただけたのだと思います。自分が本当に実現したいコンセプトやデザインをプロダクトに込めているので、それを評価していただけたことはうれしいです。

大塚ローテック

大塚ローテックの「新ラグジュアリー戦略」とは?

アーロン:片山さんにお話しいただいたことを踏まえると、改めて大塚ローテックのブランドポジショニングの秀逸さに驚かされます。

片山:ブランドポジショニング、ですか?

アーロン:そうです。いうなれば、ラグジュアリーとプレミアムの間にある「新ラグジュアリー戦略」という新しいブランドポジショニングを確立していると考えました。

例えば、ラグジュアリーを構成する要素の一つに「クオリティと価格を比較できない」という側面がありますが、大塚ローテックの場合は高品質なストーリーやその希少性によって意味的価値を担保しつつも、一部の富裕層にしか手を出せない金額ということではなく、クオリティに対する金額の納得感もある。イメージとしては、ラグジュアリーブランドの“夢”とプレミアムブランドの“現実”の間にある、“現実的な夢”とでも言いましょうか(笑)。ラグジュアリーとプレミアム、双方のターゲットにアプローチできるポジショニングなのが非常に面白いと思ったんです。

大塚ローテック

片山:なるほど。ブランドをそのように分析してくださる方は初めてなので、とても新鮮な気持ちです(笑)。

アーロン:元自動車メーカーのカーデザイナーが独学で腕時計を生み出したというストーリー性や、SNSや専門誌を中心とした認知拡大、日本の古き良きものづくりを感じさせる唯一無二のプロダクトデザイン、生産本数を需要が上回ることで生じる希少性、下町の町工場というロケーションとデザインの整合性など、大塚ローテックの新ラグジュアリー戦略には、町工場や中小ものづくり企業がこれからの時代を生き抜くヒントが詰まっていると思います。

大塚ローテック

片山:私としては、自分が欲しいと思った腕時計を作って販売するという、至極シンプルなことを続けてきたつもりなんです。ただ一つ言えるのは、“のれん”や“ガワ”に頼るのではなく、本質的に良いものを作っていかないと価値は生まれない、ということ。私よりも腕時計に詳しい愛好家はたくさんいますから、ごまかしや小手先の仕掛けではなく、自分が掲げる理想や今よりも良い品質を愚直に追求し続けることが大切なのかなって思います。

大塚ローテック

職人技の最高到達点となる「マニュファクチュール」への挑戦

アーロン:2023年10月には、ブランド初の試みとして原宿での展示イベントを開催しましたよね。そこにはどのような狙いがあったのでしょうか?

片山:これまでインターネット販売がメインだったこともあって、「実物を見たい」という声をいただくことが多かったんです。考えてみれば、皆さんは実物を見ることなく買ってくださっているわけですから、私としても「見てもらいたいな」と。公の場に展示するのは初めてだったので、お客さんよりも自分たちのほうが楽しんでいたかもしれません(笑)。

アーロン:雑誌やインターネットで見る写真と実物では、また一味違いますよね。私も初めて実物と対面したとき、その精密さや存在感にとても感動したことを覚えています。

大塚ローテック

アーロン:最後に、片山さんが今後チャレンジしたいことを教えてください。

片山:時計のエンジンにあたるムーブメントをゼロから自分で作ることに挑戦中です。現在はムーブメントの中でもオリジナルの部品は、時刻表示に必要な機構に使われる30点ほどです。昔に一度チャレンジして断念したのですが、今なら良いものが作れる気がするんです。トゥールビヨン(機械式腕時計における複雑機構の一種。重力による精度への影響を排し、正確な時を刻むための機構)などの機構を中心とした、いわゆる「マニュファクチュールウォッチ」(ムーブメントを自社で全て手がけた時計)を実現したいですね。

アーロン:うわぁ、それはすごく楽しみです!ブランドの1ファンとしても応援しています。本日はありがとうございました!

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