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OODA式すごい組織づくりNo.2

一流クイズプレーヤーに学ぶ、“決め”の精度と速度の高め方。

2023/07/12

OODA

変化の激しい現代のビジネス課題を解決に導く意思決定モデルとして、注目を集めている「OODA」(ウーダ)。

本連載では、さまざまな業界の“OODA実践者”との対話を通して、OODAの魅力とこれからの時代に必要なリーダーシップを身に付けるためのヒントを発信します。今回は、クイズプレイヤーの伊沢拓司氏と、「OODA式リーダーシップ 世界が認めた最強ドクトリン」(秀和システム)を上梓したアーロン・ズー氏が語り合います。

【OODAとは】
OODA
元アメリカ空軍大佐で戦闘機のパイロットだったジョン・ボイド氏が提唱した、意思決定や行動を起こすためのプロセス。観察(Observe)、判断(Orient)、決定(Decide)、行動(Act)の頭文字を取った言葉で、変化し続ける予測不能な状況に対して、常に最善手を打っていくことを目的とする。欧米の経営やマーケティングでは従来のPDCAだけでなく、OODAが必要不可欠な意思決定プロセスとして認知されている。(詳しくはこちら)。

 

クイズの解答やロケでのリアクションで、OODA的思考をフル活用

──伊沢さんはクイズプレーヤーとしてテレビのクイズ番組で活躍されるほか、登録者数200万人を超えるYouTuber、ウェブメディア「QuizKnock」の編集長、さらに学校訪問や企業PR支援を行うなど、非常に幅広く精力的に活動されています。クイズとOODAとの関係性をどのように捉えていますか?

伊沢:「観察→判断→決定→行動」というOODAのプロセスは、クイズに答えるときにも当てはまります。例えば、早押しクイズは、問題文が読み上げられている最中にボタンを押すことも少なくありません。「答えが分かる」ではなく「分かりそう」という判断でボタンを押すので、そこから問題文を観察、いくつかの答え候補の優劣を判断して決定、選択して回答しているんです。

アーロン:問題文が完全に分からない不確定な状況の中で、「観察→判断→決定→行動」を高速で行うのは、まさしくOODA的思考ですよね。OODAを生み出したジョン・ボイド大佐は戦闘機のパイロットで、映画「トップガン」のような世界で生きていた。一瞬ミスれば終わりという状況下で素早く決断するところは、早押しクイズと似ているのかもしれないですね。

伊沢:早押しクイズ以外でも、例えば番組のロケで、急に「〇〇の雑学を教えてよ」と振られることがけっこうあるんです(笑)。そのときの思考もOODA的です。そこで長考してしまうと、まわりは「え?」と困惑した空気になりますからね。普段の勉強はどちらかというと、「計画→実行→評価→改善」というPDCAを回して自分の知識体系をきれいに整えていくものです。一方、ロケのように予測不可能な出来事に即興で対応する場面では「計画」が通用しませんから、周囲を観察して、何か雑学につなげられるものがないかを瞬時に判断することが重要になります。

オオダ

アーロン:なるほど。広告・マーケティングにおいてもPDCAとOODAの組み合わせが大切です。ある商品・サービスを売るとき、従来のマーケティング活動の精度や効率を高めていくためにはPDCAが必要です。それと同時に、商品・サービスのCMにおけるクリエイティブにはOODA的な発想も欠かせません。もしOODAがなかったら、ありきたりのつまらないCMになってしまいます。ビジネスにおいても、安定した既存事業はPDCAを回し、変化が激しい新規事業はOODAを高速回転させて勝機を見抜くことが重要だと考えています。

「決められない、変えられない」社会に、OODAで変革を

──PDCAとOODAには大きな違いとして、OODAには「決定」というプロセスがあります。近年のビジネスにおいては、しばしば「決定」のスピード不足が課題に挙がることがあります。この点についてどう思いますか?

アーロン:確かに、海外出張で視察に行くとき、日本のビジネスパーソンは本当に視察だけして帰ってくるというケースがあります。「一度持ち帰って検討します」というやつですね。しかし、欧米のビジネスパーソンが期待していることは、その場での「判断」であり、「決定」の言葉なんですよね。

伊沢:視察した結果、あまり良くないと感じても、日本人は相手の目の前でむげに断れないという感情があるんですかね?

アーロン:それはあるかもしれません。

伊沢:僕も仕事でいろいろな企業に伺うのですが、決めることがいかに難しいかを実感します。例えば、こちらの提案が現場レベルでは非常に高い評価をいただいても、そこで「決定」には至らず、上層部の方々が時間をかけて検討した結果、お蔵入りになることもあります。企画段階で自分の名前が上がってたのに、いざおおごとになってくると知らない間に外されてるとか。(笑)

──欧米に比べて、スピード感を持って物事を決める力が弱いということでしょうか?
 
アーロン:日本は戦後、短い期間で急速に経済発展したことで、いろいろなものが成熟したといわれています。だからこそ、これまでの優れた技術や製品を超えるもの、いままでにないものを生み出そうとするのが難しいのかもしれません。例えば、メーカーと下請けのシステムが成熟して確立されているために、そのシステムを根幹から変えるような革新的な技術に思い切って舵を切れなかったりすることもあります。その隙に思い切って技術革新を遂げた他国に抜かれてしまう。

OODA

──決めるということの他にも、OODAは変化し続ける予測不能な状況に対して、常に最善手を打っていくという特徴もあると思います。状況を観察してすばやく行動することが大事なわけですが、この点についてはいかがですか?

伊沢:僕は仕事でいろいろな学校に伺うことがあります。いま、文部科学省は「学校ver.3.0」的なアイデアを提唱していて、生徒に一人一台ずつコンピュータと高速ネットワークを整備する「GIGAスクール構想」を推進しています。

しかし、現場の先生によく話を聞くと、「3.0どころか2.0にもなっていない」という声があるのも事実です。「脱ゆとり」を掲げながら教育の効率化を進めていますが、いまや「ゆとり教育」でしか現場は回らない、場合によってはそれ以前の状態のところもある。また、先生自体のデジタル対応のアップデートがなかなか進まないとか、DXが進むとクビになる先生が増えるんじゃないかといった不安を抱えている方もいます。そんな状況の中、学校によってはいまだに1時間目の前に朝の課外授業を先生が手弁当でやっているところもあります。

アーロン:えっ、そうなんですか?デジタル化どころか、先生の負荷が増えてしまっているんですね。

伊沢:教育の状況がどんどん変わり、世の中のデジタル化も進んでいるのにOODAを回せていない。日本企業が硬直してしまう原因の一つは教育現場にあると感じます。
 
アーロン:学校によっては改革に取り組んでいるところもありますが、人手不足などもあり対応できてない学校もまだまだ多いということなんですね。日本の場合、詰め込み教育も問題になっていますよね。

伊沢:そうですね。詰め込み自体は悪くなくて、詰め込み方をその生徒それぞれにフィットさせる必要があります。現場の教員の負担が大きいという課題をどう解決するかをセットで考える必要がありますが、個別最適化というテーマこそOODAの臨機応変さが効いてくる分野かもしれませんね。

OODAを回すポイントは、部下への権限委譲

──日本企業がOODAを回していくためには何が必要でしょうか?

伊沢:私が2016年に立ち上げたQuizKnockでは、クイズというコンテンツを使って企業のPR支援をしています。時にはBtoB企業の宣伝の動画を撮ることもあるのですが、僕たちのようなYouTuberにご依頼いただく時点で、けっこう攻めた企画なんです。それが実現できる要因の一つは、担当者の方に権限委譲ができているからだと思うんです。

その一方で、他社の事例などを見ると、企業の若手の方が頑張って1回目の企画は実現しても、上層部から「費用対効果が分かりづらい」「KPIがどれくらい達成できたか分からない」といった理由で打ち切りになることもあるようです。どちらが正しいかはさておき、少なくとも現場と上層部で方向性がズレていることは間違いありません。個人的には、方向性を決めるのは上層部ですが、それに沿った企画であれば現場の担当者に委ねることが必要で、その方が状況を観察しやすいという点でOODAを回しやすいし、OODAを回すような状況に担当者が飛び込みやすい気もします。

アーロン:成功体験がないものには経営判断が下りないケースもありますよね。私もいろいろな事業開発に携わっていますが、大きな組織の中でも新しいビジネスを作れるのは、上司から権限を与えられているからです。もし、過去の経験に照らし合わせたり、常に上司の判断を仰いでいたら、進むものも進みません。ですから、権限委譲するか、上層部のシンプルな考えを現場が正しく把握し、それに準じて素早くやっていくかの二択しか、変化の激しい時代に対応できないのではないでしょうか。

伊沢:権限委譲はすごく大事だと思います。権限を若手にバンバン渡すのは怖いかもしれませんが、新しいビジネスを作っていくための大きなポイントだと思います。

──権限委譲というお話がありましたが、OODAを回すためには、リーダーシップも大事ですよね。伊沢さんはクイズ業界のリーダーとして見られることもあるかと思いますが、ご自身の役割についてどうお考えでしょうか?

伊沢:僕自身は自分をリーダーだとは思っていません。でも、業界で目立つ存在であることは事実ですから、その発信力を最大限に活用しながら行動すべきだと考えています。クイズ業界というのは分権的で、テレビのクイズが好きな人もいれば、自分で作るのが好きな人もいます。いろいろな人がいるからこそ、画一化されることを望まない風潮がある。もしかすると、私のような人間が目立つと、人が増えてしまうことで自分たちの楽しさが減ってしまうんじゃないかと考える人もいるかもしれません。

それでも僕は、クイズ人口が増えて経済規模が大きくなった方が、最終的には好ましい状況になると考えています。なので、信念に基づいて行動を起こす。多くの人がつないできたクイズ業界を受け継いで行動するという役割なので、リーダーというよりは、サッカーで言うところの点取り屋というイメージです。その行動の具体化の一例として、2年前にクイズについての解説書を出しました。

アーロン:どのような本ですか?
 
伊沢:クイズは、ノウハウや問題の作り方、流儀の例外がありすぎて、これまでクイズを論理的に体系立てて語る本がなかったんです。例えば、早押しクイズとは何かみたいなことを一般の方にも分かるように言語化したものはありません。

でも、サッカーや野球、将棋や囲碁は手筋があったり、基本的な指導理論があるから、教育的価値を持ったり、奥深さみたいなものが語れるわけです。言語化されていないとクイズ業界への入口が広がりませんし、業界としての価値を高めることも難しいんじゃないかと思うんです。

ですから、賛否両論あるのは当然のこととして、一回口に出してみる、形にしてみるということを目指して書籍を作りました。実質的にクイズ業界を盛り上げるのは、業界にいるみんななのですが、そこで自分が発揮できることがあるならば、多くの人の理論を背景とした“クイズの言語化”ということになると考えています。「言語化なんてしたら、みんながどう思うかわからない」という状況に対しての観察や判断を行ったわけです。点取り屋としてとりあえずボールをゴールに押し込んだわけですが、結果的にはそれがリーダーシップと呼べるものなのかもしれない。いずれにせよ、何かを変革し、統率する人間にとってのOODAは自己の手法を確認し、良いものにしていくベターなツールだと後から振り返って思いますね。

アーロン:伊沢さんのお話から、組織や業界の中でOODAを回していくヒントが見えてきた気がします。本日はありがとうございました。

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