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OODA式すごいブランディングNo.1

井上咲楽の眉カットをOODAで解説!? タレント活動の可能性を広げる「奇策」とは?

2023/11/21

OODA

変化の激しい現代のビジネス課題を解決に導く「意思決定モデル」として注目を集めている「OODA」(ウーダ)。ビジネスにおける組織づくりや経営戦略はもちろん、ブランディングやマーケティングにも効果を発揮します。

そんなOODAの魅力を多角的にお伝えすべく、今回ゲストにご登場いただくのはタレントの井上咲楽さん。井上さんは2020年にテレビ番組の企画で人生初の眉カットを行ったことが大きな話題を呼び、タレント活動にさらなる広がりが生まれています。

この行動や変化をOODAを中心としたビジネス視点で読み解くと、何が見えてくるのでしょうか?

OODA式リーダーシップ 世界が認めた最強ドクトリン」(秀和システム)を上梓したアーロン・ズー氏が解説します。

【OODAとは】
OODA
元アメリカ空軍大佐で戦闘機のパイロットだったジョン・ボイド氏が提唱した、意思決定や行動を起こすためのプロセス。観察(Observe)、判断(Orient)、決定(Decide)、行動(Act)の頭文字を取った言葉で、変化し続ける予測不能な状況に対して、常に最善手を打っていくことを目的とする。欧米の経営やマーケティングでは従来のPDCAだけでなく、OODAが必要不可欠な意思決定プロセスとして認知されている。(詳しくはこちら)。
 


特別賞を受賞したオーディションで、なぜMr.ビーンのモノマネをしたのか?

アーロン:本日は井上さんが眉を整えることになった経緯や、それによって起きた変化をお聞きしつつ、そのブランディングやポジショニングの妙をOODA的に読み解いてみたいと思います。そもそも、井上さんはいつごろから芸能界を目指すようになったのでしょうか?

井上:テレビに出たいと思い始めたのは、幼稚園のときです。きっかけは、大好きだった教育テレビの子ども向け番組。そこに出演している子役たちが自分と同年代で、すごくキラキラ輝いて見えたんです。そこから高校生になるまで、ずっと「芸能界に入るんだ!」という謎の固い意志を持ち続けていました。

アーロン:ずっと憧れがあったんですね。そして、高校生のときに「ホリプロタレントスカウトキャラバン」の審査員特別賞を受賞し、見事にその夢を実現します。なぜ、ホリプロのオーディションを受けようと思ったんですか?

井上:当時はオーディション雑誌を買いあさり、いろんな芸能事務所に履歴書を送っていました。スカウトキャラバンもその一つなのですが、歴代の受賞者がすごい方ばかりなので、受かるわけないと思いながら応募したのを覚えています。

アーロン:最終審査でMr.ビーンのモノマネをしたとお聞きして衝撃を受けました(笑)。なぜ、Mr.ビーンを選んだのですか?

井上:眉毛が太かったので、審査員の方からMr.ビーンに似ているって言われたんです。Mr.ビーンのことは詳しく知らなかったのですぐにスマホで検索して、「なるほど……」と(笑)。その後、最終審査に向けた合宿中にスタッフさんたちと相談しながら、自由演技でモノマネにチャレンジすることを決めました。

アーロン:すぐに検索して取り入れようとするマインドがすごいですね。私だったら、自分が知らない人に似ていると言われてもスルーしてしまう気がします。

井上:当時はテレビに出ることがゴールだったので、テレビで何をやりたいのかまで考えていませんでした。だから言われたままじゃないですけど、興味を持ってもらえたことに取り組んだらゴールに近づけるんじゃないかと。どうしたら自分はテレビに出られるのか?という点に集中して行動していたと思います。

井上咲楽

アーロン:ビジネスの世界でもPDCA、すなわち「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)」という意思決定プロセスが浸透していますが、予測不能な環境ではスピーディに対応できない側面があります。一方、OODAとは、「その瞬間、どう動くのが最善か」という意思決定を優先するものであり、変化し続ける状況に対して、常に最善手を打っていくことを目的としています。

井上さんはオーディションという予測不能な場面で「Mr.ビーンに似ている」と言われたことに対して、すぐに検索して客観的に観察し、そこにチャンスがあると判断してモノマネを取り入れるという意思決定を行っています。まさにOODA的な思考だったので驚きました。

井上:そこまで戦略的に考えていたわけではないですが、確かにタレント活動をする中でも、誰かに「こうしたほうがいいんじゃない?」と言われて、そうだなと思ったらすぐに取り入れるみたいな、変化をあまり恐れないところはあるかもしれません。

仕事がないのに認知度は高い。そのギャップに苦悩する日々

アーロン:デビュー後、いろいろなお仕事を経験される中で悩みや壁にぶつかることはありましたか?

井上:「テレビに出たい!」が先行して芸能界に入ったのですが、いざバラエティ番組などに出演してみると、トーク力がすごい方やキャラクターが立っている方など、まわりの才能に圧倒されてしまって。その中に入ると埋もれてしまう自分に焦りを感じていました。ただ、ラッキーだったのは眉毛がすごく太くて面白がってもらえたり、1つの番組しか出ていないのに10番組に出たぐらいのインパクトで覚えてもらえたりしたことです。太い眉毛と2つだんご結びの見た目じゃなかったら、芸能界には残れなかったと思います。

アーロン:太い眉毛は、とてもポジティブな影響があったんですね?

井上:めっちゃポジティブです。ただ、世間には顔を覚えていただいているのに、月1本しか仕事がないときもあって……そのギャップに悩んでいました。地元に帰ったときも友達から「最近すごくテレビに出てるね!」と言われるのですが、実際は全然仕事がないので。そのギャップをポジティブにとらえることができなくて、なんだかだましているみたいで申し訳ない気持ちになりました。

アーロン:そのように悩んでいたタイミングで、番組から眉毛カットのオファーが?

井上:そうです。「今夜くらべてみました 3時間SP」で眉毛をカットしませんか?というお話をいただきました。

アーロン:トレードマークの太い眉毛を失うことに葛藤はなかったんですか?

井上:仮に眉毛をカットして仕事がなくなったとしても、どうしようか悩んで行動できないよりは気持ち的に楽だと思ったんです。現状にとどまり続けるというか、変化しないことのほうがしんどかったので。自分から眉毛をカットすると決断する勇気はなかったと思うので、本当にありがたい機会をいただいたと思っています。

眉カットをきっかけに、仕事の量も幅も大きく拡大

アーロン:実際に眉毛を整えてみて、初めて顔を見たときの印象はどうでしたか?

井上:正直、あんまり変わらないなって思いました(笑)。まわりからカットしたらすごくきれいになると言われていたのですが、そんなことはないな、と。ただ、昔の写真を見て「めっちゃ眉毛太かったな!」って思うことはあります(笑)。

アーロン:ただ、仕事には大きな変化が生まれたんですよね?

井上:はい。眉毛を整えて多少の反響をいただいたとしても、“出オチ”というか、瞬間的に盛り上がって終わると思っていたんです。でも、ありがたいことに、眉毛を整えたあとも半年ほど密着していただき、いろんなことにチャレンジさせてもらう中でたくさんの反響をいただけました。そのおかげでいろんな番組に呼んでもらえるようになり、「新婚さんいらっしゃい!」のアシスタントや、27時間テレビの100kmマラソン、大河ドラマ初出演など、これまでにない経験をさせてもらっています。「今夜くらべてみました」は、本当に人生を変えてもらったような番組でした。

アーロン:活動の量も幅も一気に広がりましたよね。ちなみに、内面には変化がありましたか?

井上:やっぱり見た目が変わると内面も変わりますね。太い眉毛で2つだんご結びのころは常に元気でいるように意識していたというか、その奇抜な見た目で元気がなかったらちょっとヘンじゃないですか? 

アーロン:確かに(笑)。

アーロンズー

井上:もともと人見知りで恥ずかしがり屋な性格なので、その見た目だから元気になれたっていう側面もあります。だから、自分の中ではすごくプラスな要素だったんですけど。ただ、本当は料理や自然が大好きで、メイクにもすごく興味があったのですが、「この見た目で料理やメイクをするのは寒いかな?」と勝手にブレーキをかけてしまっている自分がいました。世間に認知していただいたキャラクターがある種の縛りになってしまっていたので、そこから解放されて自分のイメージを一度フラットにできたことで、より自然に自分を表現できるようになった気がします。

アーロン:なるほど。眉毛を整えたことが、驚きや意外性という「奇策」となって、井上さんのリブランディングにうまく機能したんですね。私もただのビジネスパーソンですが、「アメリカ空軍の訓練部隊出身」という意外性がギャップとして機能して覚えていただくことが多いです(笑)。井上さんは強烈なキャラクターでスタートし、そこから「普通」というギャップを生み出したことでさらなる認知拡大につながったのかもしれませんね。

眉カットはタレント活動の広がりにつながる「奇策」だった?

アーロン:実は、芸能界を一つのマーケットとして考えると、井上さんの眉カットは非常に秀逸な戦略だと言えるんです。

井上:どういうことですか?

アーロン:こちらの図をご覧ください。

図

アーロン:井上さんは芸能界の中でタレントとして活動されていますが、現在のエンタメの領域を分類すると、縦軸が「テレビメディア」、これはドラマや映画、CMなどを中心としています。そして、その反対にあるのが「デジタルメディア」、これはSNSなどのメディアを指します。横軸はタレントの活動するフィールドとして「正統派」と「バラエティ派」で分けています。さて、ここにタレントの属性を「CMタレント領域」「CMタレント兼インフルエンサー領域」、そして「インフルエンサー領域」の3つで仮定した場合、当然、「CMタレント領域」の数が最も少なく、タレント全体の総数で見ても一握りです。なお、デジタルメディアの対極にあるテレビメディアはドラマや映画、番組などたくさんありますが、今回は分かりやすくするためにあえてCMで括っています。

太い眉毛時代の井上さんは、バラエティ寄りかつSNSのフォロワーも多い「インフルエンサー領域」にいたのではないかと思います。ただ、この領域は今「レッドオーシャン」といって、参入障壁が低く、多数のライバルがひしめいている領域なんです。逆にライバルが少ない領域を「ブルーオーシャン」というのですが、そこは限られたタレントさんしかたどり着けない「CMタレント領域」が該当します。もう一つ、レッドオーシャンとブルーオーシャンの中間ぐらいの競合がいる「パープルオーシャン」に該当するのが、「CMタレント兼インフルエンサー領域」です。

井上:ほほぅ……。

アーロン:前置きが長くなりましたが、井上さんは眉毛をカットしたことで、レッドオーシャンだった「インフルエンサー領域」から、CMにもバラエティにもSNSにも対応できる「CMタレント兼インフルエンサー領域」へとポジションチェンジしたと推測しています。

井上:なるほどー。

アーロン:さらに、大河ドラマという「CMタレント領域」の人たちが出演する作品にも大抜擢されています。つまり、井上さんは3つの領域を網羅しているんですよ。この3つを網羅しているタレントさんって意外と少ないんです。これ、すごくバランスが良いことなんです!

井上:ほー!知らなかったです(笑)。

アーロン:そのポジションチェンジを、眉毛をカットするという「奇策」で実行したところも秀逸です。OODAでも意外性/クリエイティビティといった「奇策」がビジネスを拡張する上でのカギとなりますが、まさに誰もが予想しなかった行動によって、世間の人たちにより大きな驚きやワクワク感を与えることができたのだと思います。

井上:そんな戦略的なことは全く考えていませんでしたが、そう分析していただけると面白いですね。

アーロン:でも、タレント活動を行う上で、ポジショニングとか他のタレントさんとの違いを意識することはありませんか?

井上:あー、確かに。「自分のトーク力でストレートに勝負しても、この人には勝てない。それでもテレビに出るために何ができるだろう」とか、「自分に向いていて、他の人とかぶらないことはなんだろう」とか、考えたりはしますね。多分、隙間産業が好きなんです(笑)。

アーロン:隙間産業、ビジネスでもめちゃくちゃ大事な視点です(笑)。まさに私がお話ししたブルーオーシャンと同じで、いかにライバルが少なくて、かつ自分の強みを発揮できるポジションを見つけられるかということですよね。

井上:そうかもしれません。もちろん、隙間だけを狙っているわけではないですし、いろんなお仕事に積極的にチャレンジしたいと思っているのですが、例えば「100km走る人ってあんまりいないんだろうな」っていう考えが頭をよぎったり(笑)。

アーロン:今日話をお聞きして、当たり前のことかもしれませんが、芸能界におけるご自身の強みや弱みを客観的にすごく考えていらっしゃるのだと改めて感じました。

井上:でも、もともとは考え過ぎたり、安全第一で慎重になってしまうタイプなので、自分では挑戦できないような大きなことにチャレンジさせてもらえる今の環境は、本当にラッキーだなって思います。

井上咲楽

アーロン:今後、どんなことにチャレンジしていきたいですか?

井上:今やらせていただいているバラエティの仕事はもちろん、テレビCMなども機会をいただけたら頑張りたいです。それから、自分は田舎出身で素朴な暮らしが好きなので、料理や発酵食品など、自分の好きなことや得意なことにもっと取り組んでいきたいですね。最近は創作活動といいますか、何かをカタチにして残していく感覚に飢えているので、文章でも料理でもSNSのコンテンツでもいいのですが、何かをつくるという活動ができるといいなって思います。

アーロン:Instagramを拝見しましたが、料理がすごくお上手ですよね。井上さんの新しい一面、まだ知られていない魅力が多くの人に届くことを願っています。本日はありがとうございました!

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