なぜか元気な会社のヒミツNo.4
現場との対話って、特別なことですか?
2020/01/23
「会社の正解」を得るのが難しい時代の中、オリジナリティーを発揮する元気の良い会社があります。その秘訣(ひけつ)とは一体何でしょうか?電通「カンパニーデザイン」チームがそれぞれの会社のキーパーソンに伺った話をご紹介する本連載コラム。
最終回となる5回目は、東京都天王洲にある寺田倉庫のケースです。
ウェブ電通報「カンパニーデザイン」連載記事は、こちらから。
寺田倉庫
老舗・倉庫業から、文化を発信する会社へ変貌
洗練されたBtoC事業を展開する会社へと変貌を遂げた、寺田倉庫。1950年に創業。「モノだけではなく、価値をお預かりする」という理念に基づき、ワイン・アート・メディア保管を軸に事業を展開。個のライフスタイルに影響を与え、文化創造に貢献できるニッチ市場を次々に開拓している。
話し手:月森正憲氏(寺田倉庫 専務執行役員)
聞き手:吉森太助氏(電通 第1CRプランニング局)
らしさにこだわり、わずか10年で変革に成功
変革のきっかけは、月森氏が2012年にリリースした個人向けトランクルーム事業「minikura」。荷物を詰めた段ボールを送るだけで、月額250円から預け入れできるサービスだ。売りは、倉庫業で培ったノウハウを生かした、きめ細かな使い勝手にある。預けたものは1品ごとに撮影され、オンライン上で管理。1品ごとに荷物の出し入れやオークションへの出品も可能である。そんな新サービスは、当時たちまち話題になった。
それに触発された現場社員から続々と新規事業が発案され、現在では自社物件を多く持つ天王洲の街づくりまで手掛けるなど、さまざまな文化を発信する会社へと、わずか10年で変貌。月森氏いわく「われわれにしかできない事業にこだわる」寺田倉庫の裏側には、社員の生身のコミュニケーションを促進するさまざまな工夫があった。
生身のコミュニケーションが、社内の風通しを良くする
社内で触発し合う環境について伺うと「例えば、月1回、チームごとに社長とのブレスト会が開かれます」と月森氏。「やってみたいことを言うと盛り上がって、社長からも仲間からもいろんなヒントがもらえます」とメリットを語る。さらに、社長室や役員室がなく、月森氏も「平場で、若い社員の中に埋もれながら(笑)、最近なにが流行(はや)ってるの?なんていう会話をよくしています」という。他にも、社員間のコミュニケーションを活性化させる「コイン制度」をはじめ、中途採用社員の入社式が年4回実施され、全社員との懇親を図るなど、変革を成功に導いた工夫が社内には満載。「くだらないことを、いろんな人たちと話すのが楽しい」と無邪気に語る月森氏の笑顔こそ、寺田倉庫の風通しの良さの表れといえよう。
編集部が見た「カンパニーデザイン術」#05
預かって保管する、という受け身で「静なる」ビジネスを、預かって運用する、という「動的」なビジネスに転化させたところが、寺田倉庫の特筆すべき点だと思う。その発想自体が、すでにクリエイティブで、イノベーティブだ。B to Bの商売を、B to Cに転換させた、と後世の歴史家は語るであろう。事実、現時点でも、寺田倉庫の奇跡は、そのような文脈で語られることは多い。しかしながら、月森氏のコメントからうかがい知ることができるのは、最初からアートやワインといった個人需要を当てにしていたわけではなかった、ということだ。
頑として動かない倉庫を動かすには、どうすればいいのか。流通やニューメディア、といった目まぐるしく動いている業種、そして世の中の流れの中に、倉庫を押し込めるにはどうしたいいのか? 倉庫「に」押し込めるのではない。世の中の流れの中に、倉庫「を」押し込む、倉庫「を」ねじ込むには、一体どうしたらいいのか。着想の原点は、まさにコロンブスの卵のようなものだったはずだ。その結果、ただ単にスペースを貸しますという不動産業は、いつしか流通業に変貌していた。
流通業といっても、単なる流通業ではない。保管している「大切なもの」の価値を、さらに高めていくための環境とチャンスを提供する。寺田倉庫のビジネスは、まさに革新の連続だ。スタートアップと言われると、とてつもないアイデアと誰も手にしたことのないテクノロジーを基に立ち上げるもののようにイメージしがちだが、そうではない。目の前にある、全く動かない広大なスペースを、どうしたら動かせるのか。そのアイデアが降りてきた時点で、未来はすでに動きだしていたのだ。空間を、動かす。トレードマークともいうべき、聞き手・吉森氏のシャッポを脱がせたその発想には、編集部としても脱帽だ。
本連載「なぜか元気な会社のヒミツ」のバックナンバーは、こちら。
「カンパニーデザイン」のプロジェクトサイトは、こちら。