なぜか元気な会社のヒミツNo.3
伝統だから、を言い訳にしてません?
2020/01/09
「会社の正解」を得るのが難しい時代の中、オリジナリティーを発揮する元気の良い会社があります。その秘訣(ひけつ)とは一体何でしょうか?電通「カンパニーデザイン」チームがそれぞれの会社のキーパーソンに伺った話をご紹介する本連載コラム。
4回目は、新潟県の玉川堂のケースです。
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玉川堂
職人とお客さまの距離を縮め、新しい伝統を開く
伝統工芸の担い手でありながら革新的な経営を行い、国内外から注目を集める玉川堂(ぎょくせんどう)。その事業成長の鍵となっていたのは、現場の職人の力を最大限に引き出す工夫だった。
話し手:玉川基行氏(玉川堂 代表取締役7代目)
聞き手:松崎 裕太(電通 第1統合ソリューション局)
現場を熟知する職人こそが、最高の営業
「伝承と伝統は違う。伝承はただ受け継ぐだけだが、伝統とは革新の連続である」と語る玉川氏。その革新を生み出すため、25年前に当時としてはタブーであった問屋取引の中止を断行。百貨店での実演販売に踏み切った。職人が自ら店頭に立ち、直接お客さまの声に触れたことが、ぐいのみや花器といった人気製品の開発につながっている。
「製品のことを一番知る職人こそが、最高の営業なんです」と言い切る玉川氏は、「職人とお客さまの距離をもっと縮めるためには、コミュニケーション力も大切」と考えている。営業日に毎日行っている工場見学では職人自らが案内を担当。増える海外のお客さまの対応に役立つよう、若手職人向けには英会話教室も定期的に実施している。
職人たちに、もっと発想を、もっと喜びを
職人がもっと発想を広げられるよう、就業時間以降は工場を開放し、日展や県展などに向けた自主製作ができる環境を整えている。「デッサンは物を見る目や感覚が磨かれる。そうなれば、おのずと商品開発の力もついてくる」との狙いからデッサン教室も実施。
さらに、「職人にとって製品は赤ちゃんのようなもの。お客さまに渡して育てていただきたいという思いで、長くお使いいただくことが職人の喜びにもつながる」という考えの下、修理対応はもちろん、直営店で定期的に催す実演販売会において職人がお客さまに直接説明をする機会をつくるなど、職人のモチベーションを高める取り組みも大切にしている。「世界中の人たちが燕にある工場に来て、職人と触れ合ってほしい」と語る玉川氏の目には、新しい伝統を開いていく未来像が鮮明に映っているのだろう。
編集部が見た「カンパニーデザイン術」#04
伝統工芸品を製造販売する会社の7代目・玉川氏のインタビューを通して、「問屋を切る」「リブランディングをするに当たって、お客さまの声を聞く」という経営判断やマーケティング戦略にも大いに驚かされた。が、それ以上に衝撃を受けたことが二つある。一つは、「機能性の追求こそが、デザインの本質なのだ」という指摘。ブランド品として、世界から評価されているバッグ、靴、楽器などは、いずれも機能性をとことん突き詰めた結果、確立された評価に違いない。
もう一つは、今の時代、伝統工芸品を作る職人に最も必要とされる能力とは、やかんの口を見事に作り上げる技術もさることながら、何よりもコミュニケーション能力なのだ、ということ。モノ作りを究めるのは、一つのプロセスにすぎない。自身が作り上げたモノの価値を、自ら伝えられてこそ、本物のプロフェッショナルであり、ブランド力の向上に寄与できる。それには当然、語学力が必要になってくる。職人であるだけではダメ。伝道師としての資質まで備えてこそ、一人前。そう、玉川氏は語る。
インタビューが終わったところで、ハッとさせられたことがある。このような玉川氏の姿勢は、クリエイティブとは何か?コミュニケーションビジネスの本質とは何か?といったことを、実に明確に体現している。メディアや流行りの商品、流通形態など、私たちを取り巻く環境は、日々、変わっていく。しかしながら、相手の心に響くクリエイティブ、相手の心に届くコミュケーション、その価値は普遍的なものだ。拠点はあくまで、新潟県の燕三条に置く。職人の技は、伝統へのリスペクトがあってこそ磨かれるものだ。その上で、玉川氏は前を向く。未来へ、そして、世界を見据えて。
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