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リスク回避とSDGsから企業経営を読み解く

2019/12/12

日本では、SDGsがビジネス機会にどうつながるのかが漠然としている方や、グローバルリスクとしては理解できるが、経営にまでどう影響を及ぼすのかまでは考えが及ばないという方も多いと感じます。

今回、電通パブリックリレーションズの酒井美奈がこの領域を代表する専門家たちの意見を基に現状と今後の整理をしていきます。

執筆者
左からマーシュブローカージャパン平賀暁取締役会長、花王 金子洋平ESG活動推進部長、グローバルコンパクトネットワークジャパン 大場恒雄事務局長、電通パブリックリレーションズ 酒井美奈

①近年のグローバルリスクの潮流

 マーシュブローカージャパン取締役会長 平賀暁氏

毎年1月に発表され、世界で話題になるグローバルリスク報告書(世界経済フォーラム発表)では、去年から今年にかけては世界情勢の影響もあり、国家統治の失敗、地域的・グローバル双方でのガバナンスの破綻など、地政学リスクが大きく取り上げられています。

2019年は日本がG20の議長国でありましたが、各地で行われた関連会合の中では環境リスク(特に脱プラスチック問題)についても盛んに議論がされていることはご存知の通りです。

リスクの潮流としては、日本と同様に世界でも台風やハリケーンなどの風水害や、地震などの自然災害が挙げられます。今年も全世界で40兆~50兆円という被害があるといわれています。経済的な機会損失となると数字は倍近くになると予想されています。

大きなイベントめじろ押しの日本の上位リスクはサイバー
日本では今年から数年間、大きなスポーツイベントが全国で開かれます。多くの人に注目される国は、サイバー攻撃の標的になりやすくなり、そのためサイバーリスクが上位に挙がっています。サイバーリスクの定義は、「外から侵入されて情報やデータを破壊・窃取・改ざんされる」と思われがちですが、実は内々からもサイバーリスクは起こり得ます。全部が全部、外から来るリスクばかりではありません。

人間の心理が新たなグローバルリスクに
本報告書2019年版からの新しい兆候として、人間の心理がリスクとして初めて取り上げられました。社会やテクノロジー、仕事の変容などによる影響が重なり合うことで、感情的・心理的ストレス増加がリスクになっていきます。分かりやすくいうと、現在は、人間のストレスよる間違った意思決定、間違った経営判断が多発する可能性が高まっている状態であるといえます。


②グローバルリスクとSDGs 企業が取り組むべき視点

 グローバルコンパクトネットワークジャパン事務局長

 大場恒雄氏

SDGsは、今や世界の変革を導く共通言語です。今後企業は好むと好まざるにかかわらず、世界に貢献できる成果を求められ、認められる必要があります。それは、ネガティブな側面でなくSDGsに対応していくことで年間国連開発計画の試算で12兆ドルの市場機会が生まれる、すなわちビジネスの成長にも深く関連します。そのためには、グローバルリスク視点とSDGs視点は両方をセットで考える必要があり、産業や社会の仕組み自体を大きく変えないといけない時期に差しかかっているといえます。

こうした背景の下、今、多くの人が草の根から、大きなイノベーションを次々に起こそうしています。例えば2018年に、スウェーデンの高校生グレタ・トゥンべリさんが気候問題に対して、学校でストライキを起こして、COP24でも発言をしたことは記憶されている方も多いと思います。この活動が今でも気候変動を語る中で、象徴的にハイライトされています。

それは、最も気候変動のリスクを背負い、社会の主役になっていく次世代の彼ら自身が未来をつくるという意志を持った行動だからです。政府も企業もその発言力、行動力を、直接にしても間接にしても後押ししていくことが重要になってきます。

そのために欠かせないのが次世代育成です。次世代のために、産業界として、日本国として、グローバルに、どれだけ活躍できる人材が輩出できるか。そこが持続可能な未来社会建設ができるかどうかの行方を決めることになると思います。


③ESGと一体化した経営の必要性

 花王 ESG活動推進部長 金子洋平氏

企業が事業・経営をSDGsと関連付ける場合、一般的に攻めと守りの形があります。守りとは一言でまとめると、SDGsの世の中への広まりに伴い、あらゆるステークホルダーからの監視や要求の強まりに対応していくことだと考えられます。

花王は約130年前に、せっけんをつくる会社からスタートしました。中期経営計画では2030年に、グローバルで存在感のある会社になりたいという大きな目標を掲げました。

花王は事業の3分の2が国内、3分の1が海外。もっと海外を大きくするためには、グローバルで存在感のある会社にならないといけない。利益ある成長を遂げ、企業イメージを海外の人にも分かってくれるような会社になりたい。ステークホルダーへの高レベルな還元など多くの人に役立つ会社でないといけない。この三つが必要条件と定義しました。これを達成するためには、E(Environment/環境)とS(Social/社会)とG(Governance/統治)にしっかり取り組まなければなりません。

花王は、これまで生活者に価値ある商品をお届けし、「豊かな生活文化の実現」を目指してきました。生活者が環境や社会への対応を価値として認めない限り、ESGの活動はできません。このジレンマが花王を含む多くの企業の悩みでもあります。

極端にいえば、売り上げとCSR的な活動のどちらが重要なのかということです。ただし、これを一体化しないとESGの経営は成り立たないため、花王は社内の考え方を変えました。即ち、生活者が主役のESGです。

今までは環境などに対する活動は、花王の活動として取り組んできました。これからは生活者が、社会や未来に対し行動することも、満足や誇りある暮らし「豊かなくらし」と定義し、それを実現できる商品を花王は提供していくのです。これを今年4月にESGビジョンとしたKirei Lifestyleプランにまとめました。

全てに思いやりが満ちていること。自分自身の暮らしが清潔で満ち足りているだけでなく、周りの世界もまたそうであることを大切にする、そういう暮らしですよね。それに向かって、花王は一生懸命やっていきますというビジョンです。これに基づいて、環境を含む19のアクションを規定して、2025年、あるいは2030年のKPIを設定しています。
    
今、話題のプラスチック問題も取り組んでいます。日本では詰め替え製品が普及しておりますが、プラスチック量は6分の1ぐらい減らせます。詰め替えの普及率が80%を超していることもありプラスチックの使用量はこの10年間、全然増えていません。事業は成長させながらも、企業としては最小のプラスチックで。その最少のプラスチックは全てリサイクルしましょう。そして今まで出したプラスチックも、しっかり回収しましょう、ということを宣言しています。

グローバルに事業を展開しようとする場合、事業機会損失という視点のみでグローバルリスクを位置づけず、事業の成長機会として位置づける、そのためにSGDsという目標をうまく組み込むということが今後ますます重要になってきます。花王の例では、守りの言葉を使わずに攻めの方向性を選択して、中長期経営計画の中での長期投資という位置付け、まさに成長機会として捉えています。