loading...

Dentsu Lab Tokyo × Dentsu Craft Tokyo テクノロジーとアイデアのおいしい関係No.6

建築オタクがVRオタクになるまで

2020/01/14

VR

こんにちは、電通CDCの末冨と申します。
突然ですが、皆さまはビジネス用のバーチャルアバターはもうお持ちですか?
VR時代、ビジネスマンとしてVR用のアバターは名刺より大切なツールです。
まだ作ってない、という方は早めの準備をお勧めいたします。

…はい。いきなり何を言ってるんだおまえは、と思われている方々に!
本日はVRの世界でどんなことが起きているのかを、大学時代の研究に始まり日々バーチャル業務に勤しむ私が勝手な目線でお話しできればと思います。

まずはこちらをご覧ください。

VR chat

上記の動画はVRchatというソーシャルなVRプラットフォームの紹介映像です。

先鋭的クリエイターたちが自由にアバター(自分の分身になるボディー)やワールド(VRの中の世界)を作り、さまざまなコンテンツをVR内で発信しています。まさにレディ・プレイヤー1やサマーウォーズのような世界が既に現実で起きているのです。VRchatではライブや美術展、結婚式、更にはバーチャルマーケットと呼ばれる大規模展示販売会などが行われ、世界中から人々が訪れる場所となっています。そんなVR機材を手にした人しかまだ入ることのできない世界、ちょっとカオスな空間は、かつてのインターネット黎明期のような盛り上がりをみせています。

バーチャル空間を設計せよ

実は、僕は大学院まで建築を学んでいました。
建築学生には設計課題というものがあり、架空のクライアントに対して設計提案を行います。学生課題なので自分が考えた建築が実際に建つことはありません。そんな時、OculusDK2というVR機材を買いました。

この機材を使うと自分の設計した建築にまるで入り込むような体験ができました。もし本当に建ったらこんな体験になるのかと模型では味わえない空間体験をすることが可能になったのです。当時の僕には相当の衝撃でした。

(一方で、実スケールで見ると模型でごまかされていた部分が露呈しまくりで、低すぎて通り抜けできない天井や突き抜けた柱が発見され、思わず頭を抱えたものでした)

さて、当時この機材を用いて友人たちと行ったのが、OBが住む被災地へのヒアリングでした。3.11の際に流されてしまった街の思い出をその街に住まい続けてきた年長者の方に伺い、昔の図面や写真を組み合わせながらバーチャル上で再現を試みました。

復興が始まると、住民と行政を交えての複雑な調整が行われます。街の外部からさまざまな事業者も訪れます。そのような時に住民の思い出を元にした昔の街の原風景があれば、そこに住む方々がどんな所に愛着を感じて、街のアイデンティティーが形成されているのかが共有できるのではないか。そんな記憶のサルベージを試みました。合わせてヒアリングを通じて出てきた「こんな街にしていきたい」という住民の方のアイデアを具体的化した「未来の街」もVR上で作成しました。

VRで再現した昔の街の風景と未来のコンセプト風景
VRで再現した昔の街の風景と未来のコンセプト風景

このバーチャルな取り組みが実務レベルで役立ったかというと、最終的には「現実」の難しさに直面するものになってはしまいましたが、記憶や図面が可視化されることで多くの人が情報共有しやすい場が作れるVRのすごさを実感したプロジェクトでした。

このような「実際に建てたらこんなふうになります」というVRのシミュレーション利用は増えてきていると思います。ジェットコースター体験、ゾンビ撃ち体験など、VRブームで台頭した多くがこの〇〇体験系のコンテンツです。VRやったことあるよって方もこちらのタイプが多いかと思われます。

一方で、今後さらなる加速を予感させるのが冒頭お見せしたソーシャルVRと呼ばれるものです。ソーシャルVRはシミュレーションではなく、現実と地続きの存在です。簡単にいえばVRの世界に暮らしている実感がある、生活空間の一部としてVR空間も認識されていることのように思います。VRの中の出来事を、「これは現実じゃない、あくまでシミュレーションだ」と思うか「現実と同じように価値を感じるか」がポイントです。

学生時代に読んだ本の中に、ハンス・ホラインの「全ては建築である」という言葉がありました。彼は閉所恐怖症患者のための薬をこれは空間に作用するものだから建築であると提唱したのです。

ハンス・ホライン
イメージ画像

その一節はまさに「バーチャルの空間だからといって何かの疑似体験物ではない」と言っているかのようでした。バーチャル世界も建築の新しい空間設計領域であると捉えると大きな可能性を感じたのです。
 
バーチャル上では人々がどこにどんなルートで行ったか、何を見たか、何を買ったか、あらゆるデータを得ることができます。今までの街づくりは何年もかけて複雑な調整を積み重ねられていましたが、バーチャルなら、不具合が出るたびにアップデートが可能です。最近のゲームではテストユーザーの行動ログからマップの回遊性を高めるなどの取り組みが実際に行われています。現実とは桁違いのスピードでトライアンドエラーが繰り返せるのです。

バーチャル空間は現実を超えて国や言語が異なるさまざまな人が訪れる場所です。スーパーダイバーシティな場を作れるチャンスです。現実の街は土地の権利、管轄が細かく分かれて規制だらけの場所になってしまいました。可能性あふれるバーチャル空間が同じ道をたどらないためにはどのようなルールで、文化圏や商業圏を作り出すべきか。新たなグランドデザインが必要になってきています。

バーチャル入国審査時代

本当にそんな時代になるのかと思われるかもしれませんが、お隣の国では政府主導でゲームのプレー時間の規制が始まるとか。ゲーム世界で起きていることは、VRで変わる世界を予測する上でとても参考になります。例えば、フォートナイトというオンラインゲームではアーティストがゲーム内でライブを行い、全世界で同時に約1000万人もの人が参加しました。僕もリアルタイムで参加しましたが、現実ではありえない空を飛びながらのライブ観戦、世界を包むような照明効果、まさに未来を先取りする体験でした。フォートナイトは他にもゲーム内でのアバターの購入やブランド・映画とのタイアップなど、カンヌライオンズでも取り上げられるゲームの枠を超えたプラットフォームになりつつあります。
 
僕は自分の服に対して割と適当なのですが、ゲーム内のアバターや服には結構お金を使ったり、相当こだわりを持っているという矛盾にある時気がつきました。

このような実空間には存在しないアイテムやファッションに対してお金を使う行為は、VRと同様に、より自然な行為になるのではないでしょうか。今はそれぞれが別々のゲームとして存在していますが、同じアカウントで横断的に行き来ができれば大きな経済圏になるでしょう。

そうなると仮想通貨でも少し問題になりましたが、自国にいながらバーチャルという、その国の法律の及ばない全くの新しい別の国で暮らしているようなことが起きるかもしれません。「国民の流出を防ぐためバーチャルの国への入国自体を禁止してしまえ」、大げさですがそんなことを予感させるほどに近年の成長は目覚ましいです。

アバター文化と個人的試行錯誤

そんな「バーチャルな暮らし」を一気に前へと推し進めたのがそう、Vtuberの登場です。今まで空間や場を作るという視点しか持っていない所にアバターという概念が急速にインストールされ、アバターによって自己没入性や自分がそこに居る感が格段に増しました。Instagramに自撮りなんて上げたことなかったけれど、アバターを手にすると途端に自撮りの楽しさに目覚めます。
 
この画像はかれんなアバターを作りたいと思いながら結局挫折してできた、僕の友人のアバターです。彼の趣味の音楽活動を、アバターを媒体枠として宣伝に使えないかと試してみました。

友達のアバター
友達のアバター②

ヤバめな仕上がりですが、全身に埋め込まれたQRコードから彼のサウンドクラウドに飛んで楽曲が聴けます。

友人のアバターで生放送に乱入
友人のアバターで生放送に乱入

バーチャルキャストという素晴らしいプラットフォームで人さまの放送に映り込むことでさりげなく宣伝を試みましたが、アダルトサイトの誘引リンクと勘違いされて生主にモザイクをかけられてしまいました。心よりおわび申し上げます。

そんな謎のトライアンドエラーを繰り返すうちに、実業務でもVtuber運営にひっそりと関われるようになりました。

特殊スーツによる全身モーションキャプチャーテスト
特殊スーツによる全身モーションキャプチャーテスト
特殊スーツによる全身モーションキャプチャーテスト

こうしたアバターはとても自由度が高く、新たな広告媒体としての魅力があります。先述のフォートナイトではスポーツ企業とコラボした限定アバターが登場し、グローバルで大きな効果を上げていました。バーチャル内のキャンペーンは常に世界的な規模で仕掛けることが可能です。TwitterやFacebookよりも言語的なハードルを超えたつながりの作りやすさを実感します。

店選びとアセット選びは似ている!? VR新年会

話は変わり新年会幹事を拝命した昨年はVR内で新年会を試みました。
社会人の飲み会において会場の下見は大切です。VRでもそこは同じ!飲み会に向いていそうなBARの3Dモデルデータを購入サイトから探します(大抵の3DデータはVR化することができます)。お店の広さやデータ形式などをチェックしてCG購入サイトを見ているとなんだか食べログで店を探している気分になりました。

VR飲み会
Created by modifying 
" Bar Area" © Sam Howzit (Licensed under CC BY 2.0) 
" Bar 001 blur" © mu523 (Licensed under CC BY 2.0) 
" Bar 37 - The Bar" © Kelvin (Licensed under CC BY 2.0)
" Bar" © WayTru (Licensed under CC BY 2.0)
" Bar" © Daniel Lobo (Licensed under CC BY 2.0)
" Bar" © Sam Howzit (Licensed under CC BY 2.0)
" best whiskey bar" © billlutzius (Licensed under CC BY 2.0)
" bar" © Marie Michaux (Licensed under CC BY 2.0)

未来のVR飲み会はこんな感じで店を探すのかもしれません。
最終的に会場はサバンナに行ってみたいという先輩の言葉を思い出してサバンナ仕立てに。一見、リビング風のVR会場にログインし、乾杯すると壁が倒れてサバンナが現れます。

VR飲み会①
VR飲み会②
VR飲み会③
現実の風景。
(先輩の顔が入ったボールを七つ集めると先輩が願いをかなえてくれる謎の余興も行われました。)


バーチャル衣食住

アバター文化、VR飲み会、バーチャル建築、上述の内容は実は人間が生きていくことに必要な衣・食・住それぞれのテーマだったりします。

現実ではそれぞれのプロフェッショナルが活躍している領域が、バーチャルではかなりあいまいです。ある意味、異業種参入のしやすい領域とも言えます。例えば自動車メーカーが酔いにくいVRモビリティーを作ったり、通信キャリアが自らのキャリアを使う人だけが来ることのできる特別な街を作るなどができてしまうかもしれません。既存の企業バリューを生かしながらも、全くの新しいアプローチがバーチャル世界ではできてしまう、そんな可能性があふれています。

FAVRIC①
FAVRIC②
「FAVRIC」2019.09.29 幕張メッセ

例えば、こちらのイベントはバーチャルファッションをテーマにガールズアワード社と実際に取り組んだ事例です。

さまざまな業界クリエイターによってデザインされた天候を操る服・重力をまとう服・成長する服などに身を包んだ気鋭のVtuberたちが登場し、バーチャルならではの新たなファッションシーンとなりました。

VRという自由な世界、どのような姿で歩いてみたいですか。バーチャルファッションはVR世界を牽引する一つのホットトピックです。

以上、思わずVRにまつわるお話を長々と綴ってしまいましたが、いかがでしょうか。

VRはさまざまなカルチャーが混ざり合い、まさにこれから新時代を迎えようとしています。広告分野もまだまだ整備されていません。VR空間を歩いているとバーチャル広告が後ろから追いかけてくるみたいなディストピアにならないように?できることから少しずつ考えていけるといいなと思います。

興味を持たれた方はぜひ!
バーチャル生活、始めてみませんか。