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電通グロースデザインユニットが提供する「スタートアップ360度支援」No.3

スタートアップと大企業と協業する中で分かってきたこと

2019/12/20

今回は、古くも新しいテーマであるスタートアップと大企業の関係性について。

電通グロースデザインユニット(以下、DGDU)は、スタートアップと大企業の双方と協業する機会があります。その中で、両者に大きな違いがあることが分かってきました。その違いがいわゆる大企業とスタートアップの間の「ストレス」を生んでいるのではないかと思います。

なぜストレスが生じているのか?そして、それにどう対応すればよいのか?DGDU的な手法で協業を進めた際の知見を共有することで、スタートアップと大企業の間に起こる「アレコレ」を解決する、ひとつの処方せんを提示できればと思います。

<目次>
あるある「スタートアップと大企業のすれ違い」
スタートアップのための「大企業担当者のトリセツ」
大企業担当者のためのスタートアップとの壁の溶かし方
 

 

あるある「スタートアップと大企業のすれ違い」

「スタートアップと大企業がうまく協業する」

これはスタートアップ、大企業ともに更なるイノベーションを生むために必要なことだと私自身思っていますし、両者からもそのような意見をよく聞きます。一方でその必要性を認識していても、現実的にうまく進めるのが難しいのは事実です。海外カンファレンスなどに参加しても頻繁に議論されている、国の内外を問わない永遠のテーマだと思います。

しかし、どちらに問題があるのでしょうか。スタートアップと大企業のコラボレーションについてのインタビューでは、下記のような結果が報告されています。

スタートアップと大企業、パートナーシップに不満がある
※「不満」または「やや不満の合計」
※BCGアンケート参照
https://www.bcg.com/ja-jp/publications/2019/corporate-startup-relationships-work-after-honeymoon-ends.aspx

つまり両者とも、協業にもやもや感を抱いているということ。「どちらにも何かしらの責任がある」ということだと思います。

私はさまざまな大企業の状況を見て、スタートアップの話を聞く中で、この両者の立ち位置と視座にこそ最大の違いがあると思いました。

大企業は長年の歴史、社員や取引先、株主も含めた多数のステークホルダーを背負い、継続的に事業を進めていかなければなりません。一方で、スタートアップはまだ歴史が浅く、経営者の意思決定の範疇で進められることが多いため、短い時間軸で大きな成功を目指しています。

以下、もう少しかみ砕いて、その違いを書きます。

スタートアップと大企業の協業イメージ
イラストレーション:電通 第1CRプランニング局 竹村優奈

① スピード感の違い
大体の場合、スタートアップは社長やそれに準じる存在が多くの権限を保有し、コミットメントレベルも高い状態で、フロントに出て意思決定を実施していくため、速いスピードで物事が決まっていきます。

それに対して、大企業はあくまで部署レベルの担当者であるため、どうしても周囲の承認が必要であったり、多数の案件を担当する中で、優先順位をつけざるを得なかったりします。この点で、両者が物事を進める時のスピード感や取り組みレベルに差が出てしまい、「大企業は遅い」という不満をよく聞きます。

② リスク感度の違い
一方で、大企業の他部署や上長への確認といったプロセスはリスクの低減や品質管理のために長年培われてきたプロセスだと思います。もちろん中には形骸化した不要なプロセスもありますが、長年培ってきたそのような仕組みを全部無意味と切り捨てるのも違うような気がします。

逆に、スタートアップには明確な進め方の手順がないケースが多く、NDA(機密保持契約)を結んでいても、ベンチャー村界隈にうっかり情報漏洩していることも。「ガバナンスや情報の管理体制は大丈夫なの?」と不安になり、情報を全て開示できない、といった大企業側の意見もよく聞きます。

③ 成果に関する認識の違い
これが最も大きな違いであり、本質的な問題だと思います。
もちろん大企業もスタートアップも中期的には企業の価値向上、売り上げや利益に対する貢献が目的です。しかし、大企業の担当者は部署や人にもよりますが、それ以上に面白い仕事をすること、いろんな人に会えること、評価が上がることなど、多様な仕事の成果やインセンティブで動いています。

一方で起業家は会社が自分そのものであり、企業価値を上げることが直接的な目的。それ以外は全て手段です。この成果への認識レベルに大きな違いがあることを理解せずに、共通の目的を見いだせないまま物事を進めて、うまくいかなくなった場面を私も多々目撃しました。

上記の三つの壁をクリアするためには、両者の歩み寄りが不可欠だと思います。
ここからは、大企業担当者の行動原理を私の経験を元に分析し、最適な歩み寄り方を紹介します。

スタートアップのための「大企業担当者のトリセツ」

① 企業名ではなく、担当してくれる人が最重要!
シード、アーリーのスタートアップの場合、協業の始まりは偶然の出会いで、軽い気持ちで進むことが多いのではないでしょうか。そういったノリから生まれた関係性を、具体的な「案件」にまで持っていけるかどうかは、大企業担当者側のモチベーションや、社内への説得力にかかっています。特に初期のフェーズで担当者の判断の範疇で収まる内容の場合、本人がやる気を持って対応すれば、たとえ大組織であってもある程度のスピード感を持って物事を進めることができます。

つまり、企業名で人を決めるよりは、人を指名するなど担当をしっかり見極める必要があるということだと思います。逆にある企業のAさんに言ったら進まなかったけど、Bさんに言ったら進んだというのもよくあることだと思いますし、その人の見極めが全てだと思います。

② 大企業とwin-winになる大きな絵柄を構想しよう!
さて、「何かしようぜ」と思い立ち、実際に何ができるのかを考えます。

大企業側からすると、特にシード期などのスタートアップとの協業で大企業のサイズに見合った収益を短期的に期待すると、投資などの高レバレッジ高リスクなやり方か、手離れの良いやり方をしないと難しいです。

そのため一番初めに短期的な視点ではなく、「3~5年の中期的に両社が大きくもうかる絵柄」を構想して協業の在り方を一緒に考えることが重要だと思っています。スタートアップだからといって、とりあえずスピード重視で何か始めてみるのはよいのですが、短期的な思考だけだと、うまく成果が出せず、途中で頓挫する例はよくあることだと思います。

また大企業の担当者も進めていくうちに成果が出ないと、社内の目が厳しくなりモチベーションが落ちてしまうことがあります。このような時に大きな構想に立ち戻って議論できると、大企業の担当者側も社内的に説明しやすくなると思います。

③ 進め方はあくまでスタートアップ流のやり方をメインに!
大企業も新規事業の必要性を感じてはいても事業の立ち上げ経験がなかったり、スピードを上げたくてもその感覚が分からず、なかなかペースを上げられないことが多いです。新しいビジネスを生んだり、成果を出していくためには、ベンチャー的なアジャイル&スピーディーに進めるやり方が良いことは肌感的に分かっています。

こういった「スタートアップのノウハウや進め方を知りたい、体感したい」という大企業側のニーズは一定程度あり、今までのやり方ではダメだという危機意識もあります。協業する際には大企業流のプロセスに対する理解はもちろん必要ですが、その点を踏まえた上で、できる限りフラットにコミュニケーションをとるなどスタートアップ流で進める。これにより成果の出る可能性が高まるというのが私の実感です。

大企業担当者のためのスタートアップとの壁の溶かし方

DGDUイメージ
イラストレーション:電通 第1CRプランニング局 竹村優奈

DGDUはスタートアップを支援する立場ではありますが、同時に大企業の担当者の立ち位置でもあり、協業をする中で当然ギャップは生まれます。
ここからは、DGDUがスタートアップ支援でギャップを生まないために工夫している点をご紹介します。

① 複数の職能を持つ「パーティ編成」で臨む
スタートアップといえど、社長は一企業のオーナー。企業の一担当者だけで向き合うには限界があります。そこで、DGDUでは複数の職能を持つメンバーによる「パーティ編成」でスタートアップと向き合うことにしました。多角的にプロとしての意見を言えるようにメンバー同士が相互補完して、はじめて圧倒的なコミットメントを持つ経営者と対等に向き合えます。

例えばダイレクト系の化粧品会社に対しては、メーカでのプロダクトマネージャー経験者やCRMのプロフェッショナル、コピーライター、アートディレクターといったように、複数の職能を持つ人を組み合わせたパーティを編成します。そのため、その場で専門知識をベースに多角的な論点から経験や情報を提供することで、最適な意思決定をサポートできるのです。

大手の会社の新規事業担当であれば、既存の部のメンバーの中だけでやろうとするのではなく、熱意や能力があると見込んだ人を巻き込みながら進めていくことが大事です。

② 参加者の興味やインセンティブと仕事を一致させる
例えば、電通の中にも「広告会社の行うプロモーションの範疇を超えたマーケティングをしたい」という人がいます。そこで、このような人をスタートアップの新商品のブランドマネージャーサポーターに任命することによって、高いモチベーションとコミットメントを引き出しています。

一緒に頑張る仲間をつくり、彼らの果たしたい責務や深めたい専門性の希望を反映しながら、やる気を引き出す体制をつくっています。

③ スタートアップとwin-winになれるビジネススキームを構築する
DGDUでは、一部に業績連動型レベニューシェアモデルを導入しています。スタートアップの経営者のリスクテイクに対して共感を示すことに加え、スタートアップの成長と一蓮托生のスタンスで支援を行うためです。このスキームを導入することで、これまで受発注の関係にとどまっていたクライアントと広告会社の関係を超えた共創関係を構築することもできるようになりました。

繰り返しになりますが、今後、更なるイノベーションを社会に生んでいくためには、スタートアップと大企業の協業が不可欠です。共に両社の視座や持ち味の違いを生かして協業していくことが成功のポイントだと思います。

上記で説明してきたナレッジは、ほんの一例です。興味を持たれた方は、お気軽に問い合わせください。今後もスタートアップサイド、大企業サイドの両面から新しいサービスを展開し、スタートアップ支援、大企業の新規事業を推進していきます。

お問い合わせ:dgdu@dentsu.co.jp