JINSが仕掛ける「Think Lab汐留」。そのヒミツに迫るNo.3
「Think Lab汐留」その設計の科学的な根拠とは?
2020/02/18
この連載は、「働き方改革は『時間』だけじゃない!『質』を高めるための“集中力”セミナー」と題して行われたJINS株式会社Think Lab取締役 井上一鷹氏の講演の内容を再編集することで、現代人が失いがちな、あるいは、奪われがちな“集中力”のヒミツを解き明かしていく。井上氏からの「目うろこ」な指摘の数々に、きっと驚かされるはずだ。
井上氏:前回、集中を生み出すポイントとして
1)できるだけ「要素」を満たすこと
2)入りやすい「構造」を用意すること
3)入るための「準備」を整えること
の三つを挙げさせていただきました。最終回となる今回はその三つのポイントから2月3日にグランドオープンした「Think Lab汐留」に施された工夫を、つぶさに解説していきます。
入り口でスマートフォンをかざすと、真っ暗なスペースが現れます。心地のいいアロマの香りに誘われて進むと、小さな受付があり、その奥には、2種類の小さなブース群が整然と待ち受けています。3列ひな壇のように配された「CONCENTRATION BOOTH」と「IDEATION BOOTH」。前者は「論理的な思考」を、後者は「クリエイティブな思考」をいずれも一人で深めるため、だけに設計されているのです。
二つのブースに向かう前の「真っ暗なスペース」にも理由があってイメージしたのは、鳥居から本殿へ向かう間を、一本道でつなぐ暗い参道。神社仏閣の基本構造に、集中力を高めるヒントを見いだしたわけです。
実際、「Think Lab汐留」をつくる上での合言葉は「東京に、高野山をつくろう!」でした。緊張をつくってから、緩和させる。そうした「構造」により、集中力が研ぎ澄まされる「準備」が整うのです。
これまでの脳科学で行われていた「右脳的」「左脳的」という分類は、もはや前時代的なもの、とされていて、「論理的な思考」、例えば、プレゼンのストーリーを考えるような場合には「こうが、こうだから、こう」といったように、物事を整理し、集約していく“前のめり”な集中力が求められる。
対して「クリエイティブな思考」は、イメージをぼーっと広げていくための集中力が必要で、目に飛び込んでくる景色も、当然、開放的であるべきなのです。
ブースの手前には、
フリードリンク(コーヒー、紅茶、緑茶など)とともに、当社の調査により
集中へのエビデンスが認められた熱めのおしぼりを用意してあります。
コーヒーには、論理的な思考を助けるカフェインが紅茶や緑茶には、創造力を刺激するテアニンがそれぞれ含まれていますし、おしぼりから感じられる熱や、アロマの香りにより、脳の海馬が刺激され、集中の時間への「準備」がさらに整っていくのです。
ブースへ入ると、温かみのある照明、かすかに聞こえる川のせせらぎや鳥の声、
あちこちに配された植栽が迎えてくれます。
青白い光は、人の脳に「昼間」をイメージさせる。寝る前のスマホが体によろしくない、とされるのはそのためでスマホからの青白い光によって睡眠導入物質のメラトニンの分泌を阻害されてしまう。いたずらな興奮は、集中力には不要なものだからです。
ブース内の照明は、適度な「温かみ」を感じられるように設計しました。癒しの音や植栽なども、すべて集中力を高めるための「要素」といえるのです。
横幅96センチのデスクにも、ヒミツがあります。一般的な120センチの幅では、集中力が削がれてしまうから。絶妙に計算された高くも低くもない仕切りもまた、しかり。低すぎると、集中できない。高すぎると、マンガ喫茶のような状態になり、
気持ちが緩み過ぎて、これまた集中できないのです。
優しい座り心地の椅子にも、こまかな工夫を施してあります。欧米人は、背筋が強い。だから、欧米式の“のこぎり”は、前に押し出すようにできているんですね。一般的な椅子は、こうした欧米人仕様でできている。背筋の弱い日本人にとっては、このような椅子では、背中が疲れてしまう。椅子ひとつにも、集中できない「要素」は隠れているのです。
科学的な根拠に裏付けられたこれらの仕組みや装置の数々が、いまだかつて経験したことのない密度の「集中力」をもたらしてくれる。ぜひ、「Think Lab」に足を運んでいただいて、集中力が深化していくさまを体感いただければ、と思います。
(編集後記)
「働き方改革は『時間』だけじゃない!『質』を高めるための“集中力”セミナー」と題して行われたJINS井上氏による講演の内容をつぶさに紹介してきたこの連載。なにより興味深かったのは、集中という、ともすれば「精神論」で語られがちなことを科学的に分析してみよう、という試みだ。
「ゾーンに入った」とか、「ああ、私は今、癒やされてる。体中の神経が、敏感になっている」という感覚を、誰もが、経験としては持っている。そうした経験を、メガネというツールを通して解析することで、リアルな装置として「再現」してみせる。
井上氏のトライアルに、「働き方改革」の目うろこな可能性を見た。