JINSが仕掛ける「Think Lab汐留」。そのヒミツに迫るNo.2
「Think Lab汐留」誕生。その、きっかけとは?
2020/02/17
この連載は、「働き方改革は『時間』だけじゃない!『質』を高めるための“集中力”セミナー」と題して行われたJINS株式会社Think Lab取締役 井上一鷹氏の講演の内容を再編集することで、現代人が失いがちな、あるいは、奪われがちな“集中力”のヒミツを解き明かしていく。井上氏からの「目うろこ」な指摘の数々に、きっと驚かされるはずだ。
井上氏:日本人の3分の1はメガネをかけていて、3分の1は外ではコンタクト、家ではメガネを使用している。つまり、3分の2の日本人は、1日に1回でもメガネに触れています。考えようによっては、メガネをかけているという行為は、パンツをはいている時間の次くらい、人体に密接していることになる。
その発見が、そもそもの始まりでした。メガネから送られてくる目の動き、まばたき、姿勢といったデータをスマートフォンに飛ばすことで、人間の「集中力の質」を測ってみたいと思い立ったのです。
集中する、ということは万民に同等に与えられている時間の密度(=価値)を高めるという行為。その仕組みが解明されれば、企業が求める「働き方改革」や
個々人が求める「幸せな働き方」の大いなるヒントになるはずだからです。
「働き方」の定量的なデータは、基本的に「時間」でしか測れません。なので、残業時間を短縮することばかりが取りざたされがちですが、時間だけでなく、時間×パフォーマンスが仕事のアウトプットを決めるはずなので、もしパフォーマンスを測ることができれば、低い状況を特定して減らしていき、高い状態の再現性をつくっていくことで、はじめてオフィスワーカーはもっと質の高い仕事をしていくことができるはずです。
「朝型」「夜型」という言葉そのものは、世の中に浸透していますが、人によって、「パフォーマンス」が高まる時間帯はまちまちで、それは、DNAに刻み込まれているものなんです。一方で、集中できる場所については、個体差はなく、公園や喫茶店といった場所に比べると実はオフィスが最も集中できない場所である、というデータがあります。
日常生活で集中を阻害する要因の最たるものは「同僚とスマホ」です。人は深い集中状態に入るためには、23分の時間を要するといわれている。しかしながら、オフィスにおいては11分に1回の割合で、周りの人間に話しかけられるか、メールが届く。これでは、集中した作業、集中した思考を行えるはずがありません。
「知」を高めるには、「探索」(同僚とのコミュニケーションやネットでの情報検索)と「深化」(一人で集中して、もの思いにふけること)の二つが必要です。これまでのオフィス空間は「探索」をベースに設計されていて「深化」のための工夫は、ないがしろにされてきました。独創的なアイデア、というものが求められる時代にあって、「独り」で「創る」ための時間と空間を確保することは絶対に必要なことなのです。
知の深化をしていくために、一人の深い集中状態が必要です。人が集中するためには、緊張感とリラックスという相反する状態を同時に保持していく必要があります。緊張を高めて没頭できる状態になると人のまばたきは、回数が劇的に減ります。しかし、緊張だけでは長続きしないので、リラックスしているか、も同時に重要になります。そのリラックス状態は、まばたきの強さのばらつきに表れます。心が安定状態になると人は、まばたきも安定するのです。
そのデータを、メガネを使って「定量的」にとれないものか。プロジェクトは、4年前に動きだしました。述べ1万人のデータが集まりました。その結果、非常に興味深いことが、次々に分かってきました。
例えば、「持続的な集中ができているか?」をテーマにベテランの職人さんと初心者の職人さんの「まばたきの回数と強度」のデータを検証したところ、明らかな差が認められたのです。しかしながら「やはり、経験が大事なのね」で、終わってしまってはこのプロジェクトを進める意味がありません。
大事なことは「集中できている」という状態に至るには、あらゆる要因があるのだということです。温度、湿度、気圧、音、光、香り…あらゆる要因を分析した結果、集中を高めるための三つのポイントが、明らかになってきました。
1)できるだけ「要素」を満たすこと
2)入りやすい「構造」を用意すること
3)入るための「準備」を整えること
例えば「準備」ということでいうと、最近ではPCのソフトなどを用いてスケジュールを管理&共有することが多くなっていますが、その際に、会議と会議の合間の時間をついつい「空き時間」と表現しがちではありませんか?
これがどういうことかというと「仕事相手とコミュニケーションをとるための予約はするのに、一人で集中して考える時間は、予約していない」ということで、
集中するための「準備」を私たちは怠っている。集中できる時間を獲得するためには「いつ、どこで、何をするか」の準備が必要なのです。
集中するための「要素」「構造」「準備」。最終回となる次回は、これらのポイントについてより深く、具体的に解説していきます。