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令和「新」時代!メディア社会はどこに向かうのかNo.4

若年世代の“メディア観”に迫る!

2020/03/30

メディア行動の世代差は「意識」にも差を生む

電通メディアイノベーションラボによる『情報メディア白書2020』(ダイヤモンド社)の刊行に合わせ、本連載では情報メディアと生活者の関わり方の最新事情を伝えてきました。

世代差に関しては、第1回で、デジタルメディアの普及やSNS利用の定着を背景に、世代によってメディア接触のパターンが大きく異なっている様子を見ました。また、第3回ではスマートフォンがあらゆる世代に普及した現在でも、具体的なアプリ利用の内訳は世代によって大きな違いがあることをお伝えしました。

さて、ここまで見てきたメディア接触の顕著な「世代差」は、果たして観察できる行動や現象の差にとどまるのでしょうか?

最近はもう年長世代の間でも、“インスタ映え”や“インフルエンサー”など若年世代を引き寄せる数々のメディア現象が、ある程度理解されるようになりました。しかし、それでも(筆者を含む年長世代が)いまだに分かっていないのが、若年世代の根底にある「意識」ではないでしょうか。

米国では近年、メディア環境とその中での接触行動の変化がもたらす「意識」の変化に大きな注目が集まっています。社会属性による価値観の違いが、デジタルメディア接触の程度差により増幅され、世論の二極化や分断という問題を生んでいるといわれます。

一方、日本では同様の変化が、二極化や分断という表立った対立よりも、世代間の隠れた「分かり合えなさ」を静かに増幅してきたと考えられています。

『情報メディア白書2020』では、年長世代の観点から、若年世代(※)の“メディア観”や、メディア接触を通じて形づくられる “社会観”に迫り、世代間の橋渡しとなる共通言語を見いだそうと、独自の調査を試みました。今回から3回にわたり結果の一部をご紹介します。

※この記事では15~49歳を若年世代、50歳以降を年長世代と表記しています。ただし40代については年長世代との“橋渡し世代”と捉えて調査対象者に含めています。調査結果を年長世代の観点から見ても鮮明に解釈しやすくすることを狙いとしています。

若年世代が日ごろのメディア接触から感じる「メリット」とは?

若年世代の“メディア観”をよく知るために、日頃さまざまなメディアに接することの「メリット」を27項目にわたりアンケート調査で把握しました。その結果をもとに、図表1の通り、若年世代(15~49歳)のメディア接触のモチベーションを構造化してみました。

【図表1】
メディア接触モチベーションの構造

この図では27項目の「メリット」が、対応分析と呼ばれる統計処理により2軸のグラフ上に並べられています。

まず左右の軸を見てみましょう。左側には
「買い物やサービス利用の参考」
「世の中の話題が分かる」
「必要な情報を効率的に」
「自分になかった気づき」
など【世の中・社会】に対応する経験がメリットとしてプロットされています。

右側には
「参加感やメンバー意識を共有」
「ほかの人と差別化」
「ストレス発散・気晴らし」
「じっくりと充実した時間」
など【共有・自分】に対応するメリットが並びました。

このことから、若年世代のメディア接触モチベーションは、グラフ中に大きな矢印で示すように、横軸に沿って、
1.世の中や社会からのインプットによって触発される
2.それが共有・共感のフィルターを通して自分ゴト化される
3.さまざまな経験・体験として咀嚼・消化される
という、メディア経験の「段階(フェーズ)」を表していると解釈できます。

次に、上下の軸を見てみましょう。上側に
「有名人・著名人の様子」
「楽しくハッピーな気分」
「興味合う相手と共感・盛り上がる」
「退屈せず暇つぶし」
など【感性・情緒】的なメディア経験が並びます。

下側には
「社会の動きを正しく理解」
「ほかの人と差別化」
「物事を考えるきっかけ」
など【理解・思考】的なメディア経験が位置しています。

若年世代のメディア接触モチベーションの縦軸は、メディア経験の「質」的な側面を表していると考えられます。

ソーシャルメディアは、世の中の出来事を消化するためのフィルター

今回の調査ではメディアとメリットをセットで把握したので、メディアの位置も同様にプロットすることができます。

図表2のグラフに並んでいるのは、回答者にとって「頼りになっている」とされたメディアです。グラフ全体では、若年世代にとってそれぞれのメディアが、どのような意味で「頼りになっている」のかを表しています。

この各メディアの配置を見ると、メディア接触モチベーションの解釈がよりはっきりします。

【図表2】

メディア接触モチベーションの構造
調査対象とした全80分野のメディアのうち接触率(リーチ)が大きかった40のメディアを表示した。80分野すべての位置づけは『情報メディア白書2020』に掲載されている。

手始めに、年長世代にとって最もなじみ深いテレビ、ラジオ、新聞、雑誌の位置を確認してみましょう。テレビ(地上波・BS)は共通してグラフの横軸に沿って左側、つまり【世の中・社会】の側からのインプット役として頼りにされています。

ラジオは右側の【共有・自分】、新聞(一般紙)は縦軸に沿って下側の【理解・思考】、雑誌のほとんどは上側の【感性・情緒】の方に位置づけられているなど、従来、それぞれが果たしてきた常識的な役割が理解しやすくなっています。人のメディア接触モチベーションと従来メディアとの対応関係は、若年世代においても明瞭といってよいでしょう。

一方、若年世代の間でさまざまなブームや現象を生み出しているソーシャルメディア(SNS・動画共有サイト・ブログなど)の位置を見てみましょう。グラフ中の円で囲った部分、つまり横軸に沿って右側の【共有・自分】、かつ縦軸にそって上側の【感情・情緒】のあたりにあります。

つまり、ソーシャルメディアは若年世代にとって、
・世の中からのさまざまなインプットをダイレクトに自力で消化する前に、
・感情的なつながりにより結ばれた同世代の価値観のフィルターを通し、
・咀嚼しやすくする
という役割を果たしていると考えることができそうです。

ただ、このような順序でのソーシャルメディアの位置づけは、グラフ全体を俯瞰する年長者からの視点からのものだという点も大事です。多くの若年世代自身、とりわけその中でも第1回の10代後半のメディア接触頻度で見たように若い年齢層ほど、ソーシャルメディアは高い頻度で立ち寄る最も身近な場としてまずそこにあり、それを通じて世の中の動きを感じ取る直接的な場ともなっているのです。

若年世代では「購買の場」が「商品認知の場」とイコールに?

もうひとつ注目してほしいのが、グラフの左側の半円で囲まれた「ネットショップ・ECサイト」をはじめとする、商品情報に関するインターネット上の情報源です。私は今回の調査で、これらのメディアが、横軸に沿って最も左側(世の中からのインプット)にある点に、最も注目しました。

年長者にとって新商品の情報といえば、テレビのキャンペーン広告で最初に認知する時代が長く続いてきましたし、今でもその常識は崩れていません。ただ、グラフを素直に読めば、若年世代にとってはECサイトなどの購買の場が、同時に商品認知の場ともなっていると解釈できます。

消費行動プロセスの最も基本的なセオリー“AIDMA”でいえば、最初のA(Attention 注目)が、中間プロセスをすっ飛ばして最後のA(Action 購買)と直結する仕掛けが整いつつあるあるということです。

それは、もう年長世代の仲間入りを始めた筆者にとっては、めまいがするような光景です。しかし、若年世代は、過去10年の急激なメディア環境の変化を経験するうちに、メディア接触のモチベーション構造の中に、ECサイトや商品情報サイトをこのようにごく自然な商品認知の場として位置づけているのです。

同時に、こうした若年世代のメディア意識の変化は、従来メディアにとっての「広告」の役割を鋭く問い直すきっかけにもなっています。この点について、今後の回でもう少し考えてみる予定です。

今回は、若年世代の“メディア観”について、メディア接触のモチベーションの観点から迫ってみました。次回では、そうした若年世代の“メディア観”が、近年のメディア状況の激変の中で育まれた独特の“社会観”にもつながっている可能性について触れていきます。