若年世代にとっての広告の意義とは?
2020/04/13
メディアと広告の関係 その今後を探る
『情報メディア白書2020』と連動するこの連載も今回で最後となります。今回は若年世代にとっての広告および広告メディアの意義について展望します。
連載の第4回では、若年世代のメディア接触モチベーションの構造を調べてみました。すると、ECサイトなどネット上の“購買の場”が、同時に“メディア”となり“商品情報の認知の場”の位置を占めていることが分かりました。また、ソーシャルメディアがフィルターの役割を担い、世の中の情報の理解や咀嚼を助けていました。
テレビなど従来のメディアは、プロが組織的に取材・制作・編成したコンテンツ(番組・記事など)を提供することを通じて多くの視聴者や読者へ到達(リーチ)し、そこに生まれる広告価値を源泉として事業を循環させてきました。従来メディアは、プロフェッショナルコンテンツと広告がセットになることで、商品を最初に認知する場としてのパワーを発揮してきました。
ただ、若年世代(※)についてはどうでしょうか。台頭著しいECサイトやソーシャルメディアの利用を通じて新商品情報を得る習慣が一般化すると、従来のメディアと広告の結びつきは問い直されてくるのかもしれません。今回は、この点について考えてみます。
※この記事では15~49歳を若年世代、50歳以降を年長世代と表記しています。ただし40代については年長世代との“橋渡し世代”と捉えて調査対象者に含めています。調査結果を年長世代の観点から見ても鮮明に解釈しやすくすることを狙いとしています。
メディア接触のメリットは、「広告がある」とどう増減するか
若年世代は現在のメディア環境における広告の価値をどう捉えているのでしょうか。ここでは、連載の第4回で取り上げた27項目にわたるメディア接触の「メリット」に注目したいと思います。
図表1をご覧ください。横軸上には、メディア接触のメリット(27項目)を「感じる」と回答した人の割合をそれぞれ示しています。縦軸は「広告がある場合」に対する評価を表しています。各メリットを感じる人をそれぞれ100%としたとき、そこに広告があることでメリットが「増加する」と回答した人の割合と「低下する」と回答した人の割合の差分を表しています。
【図表1】
まず、グラフの全体を個別の項目にとらわれずに眺めてみましょう。横軸に沿ってメディア接触のメリットを感じる人の割合が大きい項目ほど、縦軸に沿って「広告があることでメリットが増加する」と感じる人のほうの割合が大きくなる傾向があります(グラフの矢印)。
つまり、より多くの人が良質だと感じるメディア接触体験であればあるほど、「広告がある」ことについて人々の許容度も高まる傾向があるといえそうです。これは、「良質なメディアでこそ広告が生きる」という広告ビジネスの基本的な原則に他なりません。若年世代の間でも、メディアと広告の関係についての評価は根本的には変わらないようです。
世の中・社会からのインプットとしての広告を歓迎
次に、どのようなメディア接触体験ならば、広告が入ることに対する許容度が高まるのかを縦軸に沿って個別に見ていきましょう。広告があるほうがメリットが「増加する」と回答した人のほうが「低下する」と回答した人より5%以上多かった項目は七つありました。
・「買い物やサービス利用を検討するうえで参考になる」
・「新しい流行やトレンドが分かる」
・「予想外の面白いものごとと出会える」
・「世の中で何が話題になっているのか分かる」
・「自分でも試してみたい、やってみたい、という刺激を受けることができる」
・「周りの友人や知人との会話や交流のきっかけができる」
・「自分になかった知識や気づきを得られる」
最初の二つは消費行動に直接関係するメディア体験ですので、当然、そこに広告が入れば歓迎されやすいといえます。さらに、残りの五つのメディア体験も含めると、上記の7項目には何か共通性がありそうです。
それを第4回でご紹介したグラフ上で確認してみましょう。この7項目のうちの多くが、左右の軸でみると左側、上下の軸でみると上側にあることが分かります(7項目には赤のマーカーで表示)。
このことから、広告は、「世の中・社会の側からのインプットの役割を果たす感性的なメディア体験」の一翼を担うものとして、若年世代からも確かに歓迎されているということが分かります。
若年世代の許容度が高いソーシャルメディア広告
年長世代の視点からみると、「世の中・社会の側からのインプットの役割を果たす感性的なメディア体験」の体験領域はこれまで圧倒的にテレビをはじめとする従来メディアによって担われてきたといえるでしょう。では若年世代にとってはどうでしょうか。
次の図表には、広告があることでメリットが高まることが示されたメディア体験(7項目)と、その体験と特に関係が強いと考えられるメディアとの対応を示したものです(詳しくは第4回の図表2を参照)。
【図表2】
この図表には、年長世代が頼りにしてきたメディアであるテレビやテレビ番組、さらには雑誌メディアが数多く登場します。つまり、メディアビジネスの視点から見ると、今後、従来メディアがインターネットを一層活用することにより、従来の伝送路では到達困難となった若年世代に対してもコンテンツと広告のセットで受容される可能性はまだまだ開かれているといえるでしょう。
ただし、同時に、同じ表には
「Q&A・口コミサイト」
「まとめサイト」
「有名人の動画チャンネル」
「友人・知人のSNS・ブログ」
など、ソーシャルメディアも同じくらい数多く登場していることに気づきます(表中の水色のマーカーを施したメディア)。このように、若年世代にとっては、広告を許容できる体験の場が従来のメディアの種別や範囲を超え、ソーシャルメディアへも広がっているといえるでしょう。
若年世代自身にとってのソーシャルメディアは、世の中や社会を間接的に映し出す場というよりもむしろ、それ自体が世の中や社会「そのもの」として体験される場となっています。その一翼に広告があると考えれば、年長世代にとって従来メディア上の広告が果たした役割と比べて、大きな違いはありません。ただし、若年世代がソーシャルメディア上の広告は、「認知する情報」としてよりも「感じる体験」としての出来栄えによりその許容度が決まるだろうと、これまでの考察から推測することができます。
第4回から最終回まで、若年世代のメディア観、社会観、そして広告に対する見方について、“意識”のレベルへと降り立って探ってみました。このようにたどってみると、若年世代の行動原理も、より見通しやすくなったように思います。
『情報メディア白書2020』の巻頭特集には、広告に限定せず若年世代にとってのメディアの本質的な役割にフォーカスを当てた分析も盛り込まれています。今後のメディア社会の行方を展望したい方々に、ぜひともご一読いただきたいと思います。