loading...

令和「新」時代!メディア社会はどこに向かうのかNo.5

2020/04/06

メディア環境の変化によって若年世代の“社会観” はどう変わった?

世代間に「分かり合えない感じ」がある原因

情報メディア白書2020』と連動するこの連載も第5回目となりました。第4回 は、若年世代の“メディア観”について紹介。人々が世の中からのさまざまなインプット情報を個人として咀嚼・消化するために、各種のソーシャルメディアをフィルターとして用い、共有・共感を通して自分ゴト化していることを確認しました。ソーシャルメディアは、他のさまざまなメディアを参照する際の「つなぎ役」になっているといえそうです。

さて、近年の急速なメディア環境の中で新しい“メディア観”を身に着け付けた若年世代は、年長世代とは“社会観”も異なっている可能性があります。「社会」というものは、個人の直接的な経験や身近な人々との付き合いなどの実体験以上に、各種のメディアを通じた情報接触とそこで育んだ興味関心によって形づくられるものであり、「イメージ」でしか捉えられない面が大きいからです(図表1)。

【図表1】
社会のイメージ

今、年長世代が若年世代に対して「分かり合えない感じ」を抱いているとしたら、その原因は、急速なメディア環境の変化により、若年世代の「社会」の捉え方が変化しているためではないでしょうか。

今回は「メディア環境の変化が及ぼした社会への影響を若年世代はどう捉えているのか」という点から、若年世代(※)が抱く “社会観”を探ってみます。

※この記事では15~49歳を若年世代、50歳以降を年長世代と表記しています。ただし40代については年長世代との“橋渡し世代”と捉えて調査対象者に含めています。調査結果を年長世代の観点から見ても鮮明に解釈しやすくすることを狙いとしています。

 

両極のイメージ:「包摂・調和」と「拡散・流動」

2018年に電通メディアイノベーションラボで実施した「頼りにするメディアに関する調査」では、15~69歳までの4412人に調査を実施。19の質問を通じて、「メディア環境の変化の影響により、社会がどのような方向へ変化していると思うか」を尋ねました。回答結果を因子分析と呼ばれる手法で集約したところ、二つのイメージが抽出されました。

一つは「包摂・調和」と名付けた因子です。「包摂」とは、最近、障がい者支援や性的少数者支援などの社会政策分野で広く使われるようになった用語で、人々の多様な属性や考え方が社会に認められている状態を指します。今回の調査において「社会が『包摂・調和』の方向へ変化している」とは、メディア環境の変化により情報が人々へ行き渡りやすくなることで、見逃されがちな多様な価値観や少数派の考えが社会に反映され、社会がよりまとまりやすくなっている、というイメージを指します。

「包摂・調和」因子は、次に例示する質問に対して「そう思う」「まあまあ、そう思う」との肯定的な回答傾向に紐づいています。

・「社会の幅広い意見や考え方は、メディアを通じて世の中全体で共有されている」
・「多くの人に関わる大事な情報は、メディアを通じて充分に行き届いている」
・「今の社会は、情報が豊富に手に入るので世の中の物事がスムーズに決まりやすい」

これに対し、「拡散・流動」の方はどうでしょうか。これは、メディア環境の変化により大量の情報が溢れるようになり、世の中の人々の平均的な感じ方や考え方がどこにあるのか移ろいやすく見通し難くなっている、というイメージを指します。

「拡散・流動」因子は、次に例示する質問に対して肯定的な回答傾向に紐づいています。

・「情報源が増え、お互いに関心のある話題が一致しにくい社会になった」
・「独特な考えをメディアで発言・発信する人が増え、社会常識がゆらいでいる」
・「情報が増え、世間の平均がどのあたりにあるのか見通しにくい世の中になった」

この二つの因子から感じられる社会変化のイメージは、どうも対極的であるように思われます。過去10年ほどにわたり同じメディア環境の変化を経験した同時代の人々が、社会の変化については「包摂・調和」と「拡散・流動」という両極のイメージを持つようになっているのです。

納得か意外か 若年世代がより強く抱く「包摂・調和」型イメージ

「包摂・調和」「拡散・流動」という、この両極のイメージをどの年代がどのくらい強く持っているのでしょうか。この両極のイメージの強弱を指標化し、性別・年代別に平均値を示したのが図表2です。

【図表2】
メディア環境の変化に伴う、社会変化のイメージ

興味深いことに、男女ともに10代・20代を中心として、ほぼ若い世代ほどメディア環境の変化によって社会がより「包摂・調和」の方向へ向かっているとイメージしていることが分かりました。

この結果をどう解釈したらよいでしょうか。令和を迎えた若者(特に男性)がかつての(例えば学生運動が盛んだった1970年代頃までの)若者と違い保守化している、とだけ考えるのは少し一面的な見方であるように思います。むしろ私は、いつでもどこでもスマホへ送られてくるようになった情報の中から、その都度必要な情報をセレクトできる現在の情報環境が、「包摂・調和」的な社会イメージの形成を後押ししていると考えています。

違いは、新しいメディア環境を乗りこなしているかどうか

実際に、『情報メディア白書2020』では、この「包摂・調和」的な社会イメージを形作る原動力となっているのがメディア接触に関するどんなモチベーションなのか、前回触れた“メディア観”にまでさかのぼって紹介しています。

例えば、日頃のメディア接触から「参加感やメンバー意識を共有できる」「他の人と、知識や価値観・スタイルで差別化できる」などのメリットをより強く感じている人ほど、同じ若年世代の間でも特に「包摂・調和」的な社会変化のイメージをより強く感じる傾向があることが確認されました。

逆に「拡散・流動」的な社会変化のイメージを強く抱きやすい人は、若年世代の中でも特に「自分になかった知識や気づきを得られる」「世の中で何が話題になっているのか分かる」ことなどからメディア接触のメリットを見いだす傾向が強いことも分かりました。

つまり、「包摂・調和」的な社会変化のイメージを抱きやすい人は、「世の中」と「自分」とをいきなり対比させて社会へ向き合うのではなく、図表1に表したように、スマホ・SNSなどで日常生活と地続きになったメディア環境の中で、より身近な友人・知人や頼りになる情報の発信者を通じて“社会観”を形づくっていることがうかがえます。そういう意味では、すでに新しいメディア環境の海にフィットし、乗りこなしている人だろうと推測することができます。

さて、次回は、連載の最終回となります。こうした新しいメディア環境の中では、これまでのメディアと広告の関係は大きく変化していくのでしょうか。最後にこの点について、調査結果に基づき考えてみたいと思います。


この調査を参考に、学生たちが「ソーシャルメディアと若年世代の社会参加」について考えてくれました。
電通総研ウェブサイト「国際基督教大学×南カリフォルニア大学共同プログラム」