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電通グロースデザインユニットが提供する「スタートアップ360度支援」No.6

日本経済を躍動させる「ベンチャー×大企業」協業デザイン

2020/04/15

昨今の大企業におけるキーワードの一つ、「スタートアップとの協業」。

スタートアップ向けファンド立ち上げやジョイントベンチャーなど、既存事業とのシナジーを標榜した、さまざまな取り組みが各社で始まっています。

── 両者がどのような組み方をすると、日本の産業が、経済が変わるのか。

“ライフワークの一環”としてこの問いに挑み続けているのが、スタートアップ企業の総合的な支援を行うデロイト トーマツ ベンチャーサポート(以下、DTVS)を立ち上げた斎藤祐馬氏です。

電通グロースデザインユニット(以下、DGDU)でも大企業とスタートアップの協業を支援する「CoNext(コネクト)」を開始。斎藤氏が率いるDTVSと共同プロジェクトも検討中です。今回はDGDUの工藤拓真が斎藤氏を訪ね、大企業とスタートアップが目指すべき関係性、それを構築する方法について語り合いました。

斎藤氏と工藤氏
デロイト トーマツ ベンチャーサポート 代表取締役社長 斎藤 祐馬氏(左)、電通 ソリューション開発センター 工藤 拓真氏

「経営者の参謀」になるために、自分の存在意義に向き合った学生時代

工藤:斎藤さんはデロイト トーマツ グループ入社後にDTVSを立ち上げ、Morning Pitch(※1)をはじめとするさまざまな取り組みでスタートアップ支援を行っています。これまでの活動の背景には、どのような思いがあるのでしょうか?

※1= Morning Pitch
毎週木曜朝7時から開催している、ベンチャー企業と大企業の事業提携を生み出すことを目的としたDTVS 主催のピッチイベント。


斎藤:この仕事に取り組みたいと思ったきっかけは、私が中学生の頃に父が起業したことです。酸いも甘いも“経営者のリアルな姿”を見る中、あるとき図書館で「会計士でベンチャーの参謀になる」ということが書かれた本に出会いました。

その本にすごく感化されて、「これになろう」と。大学選びも会計士になるためでしたし、公認会計士の試験をパスするにはダブルスクールがほぼ必須なのですが、そのための奨学金の試験でも「会計士になってベンチャー支援のインフラをつくる」とプレゼンしていました。17か18歳の頃ですね。

工藤:それだけ早いうちから将来を見据えていて、しかも実現させている。

斎藤:とはいえ、結局試験に合格するまで2年間の浪人生活があって、それこそDTVSを立ち上げるよりも過酷な時期でした。今でも夢に出てきますよ、「うわ、落ちてた」で目が覚めたりとか(笑)。

ただこの時期、「なぜこんな思いをしてまで会計士になりたいのか」を深く考えたのは良かったです。あと、歴史書から小説までたくさんの本を読む中で、なぜ生きているのか、自分が何をしたいのかをずっと考えていました。

工藤:斎藤さんの凄みのひとつは、その熱量が関わるすべての人に伝播していくこと。私自身、斎藤さんとのお話にはいつも奮い立たせられます。そんな“熱き漢”の原点は学生時代にあったのですね。

可燃、不燃、自燃、着火。四つのメンタリティー

斎藤:ここまで強い思いを持つに至ったのは、DTVSを立ち上げたあと、日夜たくさんの起業家に会っていたのも影響しています。熱量の高い人と長い時間を過ごすうちに、自分のビジョンのようなものがクリアになっていきました。

人にはいくつかタイプがあると思うのですが、どんな状況でもまったく燃えない人もいれば、周囲に熱い人がいると感化される人もいます。それぞれ「不燃型」「可燃型」と私は呼んでいるのですが、8割くらいの人がこのどちらかじゃないかと思います。

残りの2割には2タイプあるのですが、組織でしばしば耳にする「優秀なんだけど周囲がついてこない」という人。これは「自燃型」で、要は自分だけ燃えるタイプです。そしてもう一つが「着火型」です。周りに火をつけられる人で、起業家にはこのタイプが多い。多いというか、着火型でないといけないと思います。

実は私も、ベンチャー支援を始めたころは今のように熱量を持ったふるまいはできていませんでした。起業家という、「人生を懸けるものを持っているのが当たり前な人」に囲まれるうちに自分も感化され、いつしか着火型になった気がします。

デロイト トーマツ ベンチャーサポート 代表取締役社長 斎藤 祐馬氏

工藤:つまりこの四つのタイプは生まれ持った気質ではなく、後天的なもので、しかもキャリアを経る中で変化していくと。僕らも単に「広告制作だけして終わり」ではなく、「中の人」として大企業やスタートアップに常駐し、ブランディング全域に関わる仕事が増えてきました。そんな中で、着火型の必要性を強く感じています。

絵を描いて終わりのコンサルティングではダメで、泥臭い活動までハンズオンで行動する。しかもそれを自分ひとりでやるのではなく、チーム全員を巻き込んで実行していかないと、事業の現場は変わらないですよね。では、メンバーを巻き込むために、リーダーがなすべきことはなんでしょうか。

斎藤:ミッションが最初から明確な人は少数で、走りながら徐々に洗練させていく人が多い。まずはこれかなと感じたものを頑張って続けることが重要です。

そうすると、周りで競争する人がだんだん減り、今度はついてくる人が出てきて、自分がやるしかないと使命感が生まれる。「やりたいことが分からない」という人は、確固たるものがないと動けないと考えがちですが、それより何となくノリでも頑張るのが先だと思います。

日本経済は、この5年が勝負

斎藤:とはいえ、着火型の人材ですら自分の火を灯し続けることは難しい。「ロマンとそろばん」と昔から言いますが、そろばんばかり気にして利益のためにロマンを見失ってしまうとその会社はだめになっていくんです。

歴史上、魂を保ち続けた人が社会を変えていて、彼らは真の経営者だと思います。本当の意味で社会を変えていくことは覚悟がないとできません。自分だけを守ろうとすると破綻をきたします。

工藤:先行きが不透明な今だからこそ、経営者にこそ、より一層ロマンに対する覚悟が試される時代ですね。一方で、以前斎藤さんが「むしろサラリーマンこそ、ロマンや志を強く抱くべきだ」とおっしゃっていたのが印象に残っています。

斎藤:社会を変えるためには、大企業にある資源を活用していく必要があるからです。経営資源には「人・モノ・金・情報」がありますが、スタートアップ側にはリスクマネー(※2)が流れています。これはいいことです。例えばベンチャーキャピタルであれば5社、10社に投資して、その中で一つか二つ成功すれば成り立つので、リスクをとれるわけです。

※2=リスクマネー
リスクは大きいが、成功すれば高い収益が得られる事業に投入される資金。


でも、細かい定義は置いておくとして“優秀な人”のボリュームを比べると、大企業に勤める会社員が圧倒的だと思います。

そしてモノ。例えばJR東日本もスタートアップ支援を行っていますが、同社はインフラをはじめとしたアセット(資源)をたくさん持っています。スタートアップには熱意やアイデア、技術の種自体があったとしても、アセットは大企業にあります。これを動かしていかないと社会は本質的に変わりません。

大企業ならではのアセットを生かし、強い志をもって行動すれば、この5年で日本は変わるはずです。スタートアップ単独で勝ちやすい領域は、まだまだ限られているので、スタートアップ側からも、大企業との協業を、もっと貪欲に求めていくべきです。そんな活動が当たり前になる日本をいち早く実現すべく、モデルケースとなるような取り組みを一つでも多く生み出したいですね。

工藤:なるほど。この5年が勝負。大企業の社員の立場で考えると、自社のアセットをうまく料理してくれそうなスタートアップとの協業をテコに、全社規模の変革にチャレンジすべき時、ということですね。

インターネットの黎明期から2010年ぐらいまでのスタートアップは、バーチャルな世界だけで完結できたので、大企業が関わらなくても成立していました。しかし現在のようにITと産業を掛け合わせた事業となると、アセットを持つ大企業との共創が欠かせません。

斎藤:当社が主催するMorning Pitchを見ていても、最近は大企業出身の起業家が8割以上を占めるようになってきていて、全く大企業と関係ない話ではなくなってきています。つまり大企業の人たちが、後天的に着火型の人材になってチャレンジしているのです。

新しいビジネスはビジョンからはじまる

工藤:大企業にはリソースがたくさんあり、JR東日本のようにスタートアップ支援ができている企業がある一方、なぜできていないケースもあるのか。前に向かうための課題がどこにあるのか知りたいです。

電通 工藤拓真氏

斎藤:ビジネスで新しいことをやるためには、三つのステップがあります。まずは①ビジョンを語って期待値を上げること。その次に②人材や資金といったリソースを集めること。最後に③結果を出すこと。今の日本では実績主義でコツコツと積み上げいくようなプロセスが主流ですが、この三つのステップのプロセスに変えるだけで社会は大きく変わります。そして、はじめから数字ばかりを追いかけるのではなく、ステップごとに戦略を立てる必要があると思います。

まずは「ビジョンを語る」。要は何もない状態から始めるわけなので、未来を語ることから始めていいんです。例えばメルカリもたった何年かであれだけ有名になっていますが、最初にビジョンがあって、プレゼン一つでリソースを集めて結果を出しているんですね。

次に「リソース集め」。大企業には人やアセットが潤沢ですが、リスクマネーがありません。日本が新しいことをやるためには、大企業とスタートアップ両者が持っているものを掛け合わせる必要があります。

そして最後に「結果を出す」。JR東日本の例以外にも、成功事例が増え始めています。例えば、SMBCが弁護士ドットコムと組んだジョイントベンチャーもそうです。大企業のブランドアセットに、ベンチャー的なものを組み合わせるやり方もあれば、大企業から一部の事業を独立させて、外からリスクマネーを集める流れも出てきています。

大企業が挑むべき、二つの具体策

斎藤:日本が変わる方法は大きく二つあると思うのですが、その一つが産業の新陳代謝です。米国ではグーグルやアマゾンなど、この20年ほどで出てきた会社が国のトップ企業を担っています。それまで支えていた会社が苦しくなるものの、新しい企業の台頭で全体としては伸びているわけです。

最近、私は経済同友会(※3)に加入ました。この団体が結成されたのは、戦争で50~60代のリーダー層が抜けてしまい、課長や部長だった人が急に社長になった頃。「経営者同士で助け合って社会を変えてくこと」を目的としていました。こうした大きな世代交代こそが社会を変えるための条件です。

※3=経済同友会
1946年結成の経営者団体。日本経済団体連合会、日本商工会議所と並び日本における経済三団体の一つ。経済や経営・社会問題に関する調査や研究をはじめ、他経済団体との意見交換、政策実現に向けた議論などの活動をしている。


そうした背景で、私は「2025年までに30代の大企業内社長を300人つくる」ことを掲げています。例えばAIなど、大学院などで研究を進めている中心は25歳以下です。若い世代の感覚がないとできない事業が多い状況ならば、30代ぐらいの人が経営者として立ち、50~60代の人はガバナンスの役割を果たすべきだと思います。

もう一つは大企業自体の変革です。大企業はパワーがあるので、時代に合った会社に変わっていける可能性を秘めています。その鍵は若手の抜擢人事です。

現状を見ると、多くの企業では既存事業で成果を出した人同士が何十年もレースを続けて、ようやく社長になれる構造です。そうではなく、30代から子会社やグループ会社の社長をやれるようにする。例えば最初は100人の会社を任されて、成功したら次は1000人、1万人とやっていき、最後に本体の社長になれば経営者集団ができます。子会社や社内ベンチャーをやる上でもプラスに働くはずです。

工藤:大企業の経営層と30代のスタートアップ起業家にはまだまだ接点が少ないと感じます。電通でも大企業の経営陣から、新規事業の相談が増えていますが、この数年で、自社の外とのネットワーキングを求める声が大きくなりました。私たちから、「ここにあのスタートアップを連れてきたら、どんな化学変化が起こるだろう」と妄想し、マッチメークする場も出てきています。

斎藤さんと計画させていただいている「20~30代若手経営人材×レジェンド経営者の私塾会」も、ぜひこの文脈で実現させたいですね。ジョイントベンチャーをつくる手前でも、いろんな枠組みでプロジェクト化できたりすると、面白いですよね。

斎藤:社会を変えるには、大企業とベンチャーの間にある“塀の上”を走りきらないといけないわけで、そのときに、覚悟が必要になるわけです。若い人のほうがリスクを取る覚悟を持ちやすいと思います。それより上の世代の方は、彼らをサポートする知見があります。両者が適切なフォーメーションを組むことが日本を変えるきっかけになるはずです。


大企業とスタートアップ、それぞれが抱える課題の解決策として両者のアライアンス提携が認知されてきています。アライアンス締結自体ではなく、相補的にビジネスを拡大させるという本質的な目的達成のサポート役として、DGDUでは「マッチング」「ビジネスメイキング」「ビジネスグロース」を軸にした新サービス「CoNext(コネクト)」を提供しています。

大企業×スタートアップの 協業支援サービス「CoNext(コネクト)」詳細はこちら
https://www.dentsu.co.jp/news/sp/release/2020/0131-010012.html