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なぜか元気な会社のヒミツseason2No.2

社会と植物の接点をつくる??

2020/07/06

「オリジナリティー」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第2回は、植物と社会の関係を提案しつづける「SOLSO」。「自然界に倣う」経営でさまざまな土地に根を張り、異業種とのコラボで発展中のDAISHIZEN。「売り上げや社員数の拡大など、一切興味がない」という言葉とは裏腹に、その二つを巧みに“育て続けて”いる齊藤太一社長。その独特な経営術に迫ります。

齊藤社長とインタビュアー永井の2ショット
齊藤社長とインタビュアー永井の2ショット。トレードマークのハットが、印象的だ。

齊藤社長の第一印象は、とにかく温和な方だな、ということ。肩肘を張らない、無理をしない。「経営も、商売も、もっと言えば人生も、自然体でいるのが一番じゃないですか?」そんな信条が、柔らかな物腰を生み出しているのだろう。

でも、ここだけは譲れない、という話になると途端に、眼光がするどくなる。「自然体でいるためには、こだわりを捨ててしまってはダメだと思うんです」。
こだわらなくていいところは、こだわらない。余計な経費もかけない。柔和な笑顔で、仲間を増やしていく。お客様の心を掴んでいく。そのために、こだわるところは徹底的にこだわる。思いもよらぬ出来事で、環境は劇的に変化してしまうことを思い知った今日この頃。ブレない、ということが、この時代の企業経営には大切なことだと改めて思う。斎藤社長の、人と自然の普遍的な価値を信じる考え方。それはきっと、どれだけ時代が移ろうとも揺らぐことのないものだろう。

自身の会社のことを“きっかけ提供カンパニー”と呼ぶ齊藤社長は、正解にとらわれず、社員の、お客様の、自然の、本質部分が共鳴するやり方を探す。齊藤社長の言葉をお借りするなら「だってそのほうが、みんな、心地いいでしょ」といったような、ものすごくシンプルな経営哲学。でも、そのシンプルなことをやりつづけることは、私が想像するよりも遥かに難しいことだと思う。インタビューを通して、今後のDAISHIZENが生み出すコラボレーションに益々期待が膨らんだ。

文責:電通 第1統合ソリューション局 永井絢
 

植物の種が風や鳥に運ばれるように

今回訪れたDAISHIZENは、話題の商業施設やパブリックスペースなど、これまでにない植物空間の創造により、常に話題に事欠かないとても元気な会社。その代表である齊藤社長が、実は売り上げや社員数の拡大に全く興味がないという事実は、「カンパニーデザイン」チーム(後述)の私にとって、まさに目うろこな発見だった。

インタビューに応じる齊藤社長
DAISHIZENを立ち上げるまで、青山のフラワーショップで19歳から9年間勤めていた齊藤社長。「当時の店のお客さんには大社長や有名人も多く、いろんな遊びを教えてもらいながら、いろいろなことを学ばせてもらいました」。

「僕がやりたいのは、地球の環境や生態系について、多くの人に考えてもらうこと。でも最初から難しいことを言っても伝わらないから、ファッション、インテリア、フードなどのライフスタイルやカルチャーとコラボレーションしながら、気軽に植物と触れ合ってもらえるきっかけをつくっています」。事業目的とその方法論が、とてもシンプルで明確。「なにより重要と考えているのが『自分たちも植物のような在り方をすること』。これまでの仕事のほとんどは僕らから仕掛けたわけでなく、いろいろな方からのオファーによって芽生えたもの。植物の種が、風や鳥に運ばれて、知らない土地に根付いていくように、僕たちも与えられた環境の中で最適な対応をしています」。

人材育成のヒントは、自然界にある

DAISHIZENに入社を希望する若者は多く、社員数は現在70人以上。店舗も全国に存在する。そんな組織のマネジメントについて聞いた。「採用に関してはなるべく別領域の人材を受け入れるようにしています。新しい仲間には『個性を生かして働いてね』と伝えるだけ。社員教育のようなことは、ほぼしません」。

齊藤社長とスタッフの2ショット
オリジナルのワッペンを施したスタッフ用ダウンジャケット。「自分ならまず黄色にしないけど(笑)。専門外の意見や、若い世代からの視点は尊重するようにしています。そこから生まれた事業も数え切れません」。青山「SHARE GREEN MINAMIAOYAMA」内のボタニカルショップ「SOLSO PARK」は、古い倉庫の外壁を塗り替えただけで店舗に。「予算や工期を使い切るのでなく、最適な形を導き出すのが真のクリエイティブだと考えています」。

植物に正しい育て方などなく、その個体や環境によって、やるべきことは異なってくるのだ、と齊藤社長は言う。大事なことは、しっかりと観察してあげること。葉っぱが黄色くなってないか、虫がついてないか、社員の行動を見ながら、体制を変えたり、部署を変えていく。育てようとしない育て方。「自然に倣う経営」の意図が、徐々に分かってきた。「チームは、基本的に6人で構成しています。蜂の巣の形を参考にしているのですが、そこに、科学的な根拠はありません。でも、生命力あふれる組織は、自然の姿に倣うことから生まれると思うんです」。

「新自然」をつくり、それを、未来の人々に届ける

一方で、手掛ける仕事に関しては、決して「大自然に倣え」ではない。「現代の都会で古き良き里山の森を再現しようとしても、現実的には無理。人にとっても自然にとっても、決して良い環境になりません。われわれは大自然を模すのではなく、現代にふさわしい自然を新たにつくりたいと思っています」。DAISHIZENという社名に込められた真意が垣間見えた。

新店舗のイメージ模型
東京・日本橋に近日オープンする研究所「TOKYO MIDORI LABO.」の模型。自社オフィスの他、植物関連のIT企業など4社も誘致し、未来に向けた都市におけるグリーンソリューション研究を行う。

そんな齊藤社長に、今後の展望を聞いてみた。「僕らの一番大切なターゲットは『未来を生きる人々』だと思います。われわれが手掛ける施設には子ども向けのものも多いですが、今後はより『未来にとって意味があること』ができる企業とコラボしていけたらうれしいですね」「経営者」である以前に「地球で生きる一人の人間」でありたい。そんな彼のスタンスが多くの人々を巻き込み、この会社を元気にしている。DAISHIZENのまく種が、次はどこへ運ばれ花を咲かせるのか今から楽しみだ。

「SOLSO FARM」のホームページは、こちら

なぜか元気な会社のヒミツSeason2ロゴ

「オリジナリティー」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく連載のシーズン2。2回目となる本稿では、「SOLSO」をご紹介しました。

「なぜか元気な会社のヒミツ」Season1の連載は、こちら
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら


(編集後記)

「揺るがぬ信念」と「柔らかな譲歩」が、スピーディーかつクリエイティブな決断を生む齊藤社長の行動力には、いちいち驚かされる。高校を卒業後、すぐに勤めた会社(生花店)を辞める際には、自らが立ち上げた事業を丸ごと買い取って独立。キャンプ事業を起こしたい、という社員の熱意にほだされて淡路島へ視察に行くや、一目ぼれした施設をその場で買ってしまう。取材の前日までは、ハワイ→サンフランシスコ→メキシコという1週間の強行スケジュールをこなしてきたのだという。

「僕は、ひねくれ者なんですよ。高級なものばかりがあふれる都会には、あえて素朴なものを提供したいな、とか。実際、オフィスのある青山みたいな場所では、正直みんな『オシャレであること』に疲れてると思うんです」「そうした、人間や植物、自然の本質の部分や普遍的な部分について、目をそらすつもりは毛頭ないですね」。そう語る齊藤社長のあだ名は、「ジャンボ」。大きな体に似合わぬ、人懐っこい目が印象的だ。おそらくは、先輩からも、社員からも、富裕層のお客さまからも、近所の子どもたちからも、「ジャンボ、ジャンボ」と愛されてきたのだろう。今までも、そして、これからも。

取材中、齊藤社長は「そういうのって、カッコ悪いじゃないですか」というせりふを繰り返した。収益に執着する、虚勢を張る…要するに自然体でいられないことがカッコ悪い。クリエイティビティーとは「心からリラックスできる時間や空気」を創り出して、それを世の中に提供する能力のことなのだと、彼は言う。至言だと思った。