勅使川原郁恵が考える「アクティブヘルシー」とは?
2020/08/27
スケートのショートトラック競技で3度のオリンピックを経験された勅使川原郁恵さんに「アクティブヘルシー」というテーマで語っていただくインタビューコラムです。だれもが漠然と「健康って、大事」と考えてはいるものの、その健康のために、あなたはなにをしますか?していますか?と問われるとあれをしてはいけない、これをしてはいけない、といったようにネガティブなことをイメージしがち。そうではなく、もっとアクティブに、健康について考えてみませんか?
そんな勅使川原さんのお話は、どこまでもポジティブです。
──今回は「アクティブヘルシー」という、タイトルのもと、話を伺いたいと思います。勅使川原さんとは、アスリートのナレッジを、すべての人へという「アスリートブレーンズ」のプロジェクトでご一緒させていただいておりますが、元気&健康ということについて、まず、勅使川原さんのお考えを教えていただけますか?
勅使川原:そうですね。健康に過ごすために必要なことは、当たり前のことなんですが「食と運動と睡眠」だと思っています。私には、2人の子どもがいるのですが、この当たり前のことを、当たり前に提供してあげることって、実はとても大切で、それでいてとてもむずかしいことだと思うんです。
──その当たり前を、叶えるための「教室」を、実際に運営されておられますものね?
勅使川原:そうなんです。乳幼児の心と体の健やかな育成をサポートするナチュラルボディバランス協会を立ち上げました。というのも、健康に過ごすためには、親子のコミュニケーションってすごく大事だと思うんです。ただ単に触れ合っていればいい、ということではありません。親子が一緒に学べる場をいかにつくるか。本物と出合う機会をいかにつくってあげられるか。味を見極める舌をどうしたら鍛えてあげられるのか。自然と対話する能力をどうしたら身につけてあげられるのか。そのすべてが「健康」ということにつながることだからです。
──それが、「教室」につながるわけですね?
勅使川原:教室というと、なんだか堅苦しいセミナーみたいなものをイメージされると思うんですが、私が提供したかったのは、子どもにとってアットホームな場所をもう一つ提供したいな、ということなんです。アットホームとは何か?それは、「運動、食事、教養、自然」との触れ合いのすべてが満たされることで、人間力が上がっていくということだとも思うんです。
──それは、アスリートとしての経験からなのですか?
勅使川原:そうですね。選手として、というよりも、むしろ現役以降の体験が大きかったと思います。引退後、初めて受けた仕事が、「五街道を歩く」というテーマの番組で、私は中山道と甲州街道を担当したんですね。とにかくひたすら歩くんです。そのとき、当たり前のことなんですが、健康じゃないと歩けないな、とか、地域の人や自然と触れ合うことってこんなにも心を豊かにしてくれるんだ、ということに気づきました。ああ、この思いはもっと多くの人に知ってもらいたい、と。
──勅使川原さん、健康領域の資格を22も持っていますよね。この資格取得にも、この体験がつながった形ですか?(笑)
勅使川原:そうなんです。自分でもすぐには思い出せないんですが、ウオーキングに始まり、スポーツシューズとか、ベビーヨガとか、野菜ソムリエとか、睡眠改善マイスターとか、「健康」につながるんじゃないか、というありとあらゆる資格に挑戦しました。温泉マイスターなんてものもあったかな。
参考:
「健康ウォーキング指導士」
「ウォーキングアドバイザー」
「姿勢アドバイザー」
「ノルディックウォーキング・ベーシックインストラクター」
「スポーツシューズスペシャリスト」
「ジュニア・ベジタブル&フルーツマイスター」
「ベジタブル&フルーツビューティーセルフアドバイザー」
「フードアナリスト」
「ナチュラルフードコーディネーター」
「雑穀マイスター」
「飾り巻き寿司インストラクター」
「食育インストラクター 」
「睡眠改善インストラクター」
「温泉ソムリエ」
「気候療法士」
──この健康を極めようとされるバイタリティーの根底にあるものとは、何なんですか?
勅使川原:たぶん、「自分がやらなきゃ!」という使命感なんだと思います。ショートトラックを始めて14歳で日本一になった。オリンピックにも3度、出場した。それなりの結果も出せた。でも、ショートトラックという競技は、例えばフィギアスケートなどに比べて地味でマイナー。これをメジャーなものにするにはどうしたらいいのか?だれがやるんだ?自慢でもなんでもないんですが、それはトップである自分しかできないことだろう?と思ったんです。
──それが、「健康の伝道師」となるきっかけなんですね?14歳から、日本を背負うプレッシャーは、大きかったのではないでしょうか?
勅使川原:私自身、心の支えは常に両親でした。幼い頃からやりたいことは、なんでもチャレンジさせてくれた。そんな両親のもとにいつでも帰れる、という安心感。ああ、健康の源とはそういうことなんだな、と子どもを授かって改めて気づきました。単純にトレーニングをすればいいとか、筋力をつければいい、ということではないんだ、と。
──アスリートのトレーニングというと「筋肉をはじめとした身体トレーニング」を真っ先に思い浮かべてしまうのですが。
勅使川原:それが、違うんですね。筋肉の話でいうと、ある時期、調子が悪いので筋肉をつけなきゃ、と思ってトレーニングに励んだんです。確かに筋肉はついた。でも、その結果、体が重くなって、思うように滑ることができなくなってしまった。分かりやすく言うと、スケートに必要ない、余計な筋肉をつけてしまったんです。
──なるほど。
勅使川原:そのとき、パフォーマンスを高めるためには健康であるためことが重要だし、そのためには「自分と対話すること」が大事なんだな、ということに気づきました。追い込むときは、追い込む。休むときは、休む。そして自分がいるスケート業スポーツ界で常識とされているトレーニング法が、必ずしも自分を成長させてはくれないとも思いました。引退後も、その思いは変わりません。そして、ここが大事なところなのですが「自分と対話」するには「他人と話すこと」がもっとも有効なんです。
──といいますと?
勅使川原:現役時代からそうなのですが、私の場合、スケート以外のいろんな競技の人と交流を持つようにしています。アンテナを張る、というのかな。とにかくいろんなことが知りたくて。そうしていると、ただ単にスケートの技術を高めるというだけでなく「健康」とか「人生」とか、もっと大きなことに興味が湧いてくる。ショートトラックをメジャーなものにしたい、という思いは今でももちろんあるのですが、なんだろう、毎日笑ってイキイキと暮らすためにはなにが必要なんだろう?みたいなことに関心が移っていっちゃったんですね。
──お子さまの存在も、大きいのでしょうか?
勅使川原:それは、あります。今このコロナ禍で一番心配しているのは、子どもたちの健康、それも心の健康なんです。大人は情報も入手できますし、その情報を解釈して理性的に行動できる。でも、子どもたちは、なんで外に出て遊んではいけないのか、意味が分からない。このストレスは、とてつもないものだと思う。それで「大人子供運動」と名付けた体操を、家の中でやるようにしたんです。
──アスリートらしい発想ですね。
勅使川原:そうかもしれません。とにかく子どもと一緒にできることって、なんだろう?子どもを笑顔にできることってなんだろう?ということを考えていたら、自然と、体操だ!ということになったんです。今では子どもたちの方から「ママ、こんな体操、どう?」みたいなことを言われるようになった。それが、とてもうれしい。
──そうした思いが、アスリートブレーンズの活動にもつながっているんですね?
勅使川原:そうなんです。「自分が信じていたことは間違ってなかった!」とか 「その思いを共有できる仲間が、こんなにいるんだ!」とか「この気持ちを、もっと多くの人に知ってもらいたい!」といった思いが、私の原動力です。私は科学者でも医師でもありませんが、アスリートとして、親として、「健康のヒケツ」みたいなものを持っている。それを、より多くの人に伝えたい。健康って、体だけのことじゃないと思うんです。心も満たされていないと決して健康とはいえない。
──ありがとうございます。引き続き、健康のプロとして、アスリートブレーンズでプロジェクトご一緒できること、楽しみです!
聞き手:日比昭道(電通3CRP局)
アスリートブレーンズ プロデュースチーム日比より
勅使川原さんの話を伺うと、いつも元気になる。電通でも一度、バイタリティーを高める秘訣について講演いただいたが、その時も、参加者が笑顔に元気になったと感じた。
22の健康領域の資格を持っていて、心も体もアクティブな勅使川原さんは、心の底から「健康」が大好きな人であり、健康オーラをまとっており、今回の取材はリモート環境だったが、リモートでも元気を送ってくださった。クライアントとのプロジェクトもご一緒させていただいているが、アスリートであり、健康のプロである勅使川原さんの発言の説得力は計り知れないと感じる。なぜなら、体現者だからだ。心技体ともに、健康を兼ね備えた勅使川原さんと、「アスリートブレーンズ」プロジェクトを通じて、アクティブヘルシー領域における世の中の課題解決をぜひ共創していきたいと、改めて感じた。
勅使川原郁恵さんにもご参加いただいている「アスリートブレーンズ」。アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら