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データ分析の真価は「事業成長」にあり!No.1

日本企業の成長の鍵、「データ分析」の真価はどこにある?

2020/09/16

電通は、日本有数のデータ分析力を誇るブレインパッドとタッグを組み、合弁会社「電通クロスブレイン」(DXB)を2020年7月に設立、10月から営業開始します。

今回お話を聞くのは、日本屈指のデータサイエンティストとして大学の客員教授を務め、書籍を執筆するなど、後進の育成にも貢献してきたブレインパッドの佐藤洋行氏と、長年電通でマーケティングソリューションの開発に取り組み、近年はアメリカでデータマーケティングに従事していた川邊忠利氏。

新会社DXBの取締役となるキーパーソンの2人に、現在の日本企業が抱えるデータ活用の課題と、合弁会社創設の狙いを聞きました。

<目次>
市場にあふれるデータが、ビジネスに有効活用されていない   
データ分析から施策の提案・実行まで担い、クライアントと業績改善を目指す
両社の強みを生かし、データドリブンマーケティングの潜在力を証明したい

市場にあふれるデータが、ビジネスに有効活用されていない

──データ分析から施策の立案、実行まで担う「電通クロスブレイン」がいよいよ立ち上がります。ブ レイン パッドと電通の合弁会社ということで、データ分析が得意な会社になると思いますが、そもそもマーケティングの文脈における「データ」とは?

川邊:身近なところでは、ネットショッピングやスマホアプリで登録した個人情報、サイトへログインしたときの時間情報、ドラッグストアで提示したポイントカードの情報などがありますね。どんどん取得できるデータが増え、多様なデータがあふれている時代です。もちろんデータの取得や利用は、生活者の同意が前提です。

佐藤:集めたデータを処理する技術も進展しています。これらのデータは、各企業も独自に収集・分析していて、例えばヘビーユーザーになる可能性が高い顧客を特定したり、顧客の嗜好を把握したりしています。データ分析の重要性自体は日本の経営者にも浸透し、ここ10年でかなり理解が進みましたが、まだまだ現場での課題は多いですね。

川邊:佐藤さんは多摩大学でデジタルマーケティング関連のゼミを持ち、多くのデータサイエンティストを育てるほど、データ分析のスペシャリストですよね。そんな佐藤さんから見て、データのマーケティング活用のメリットはどこにありますか?

佐藤:よく「デジタルマーケティングの各種KPIを向上させる施策へのデータ活用」が紹介されています。しかし私は、KPI改善はデータ活用のメリットのごく一部だと感じています。

そもそも、KPIが改善するということは、生活者をよく理解して、施策を生活者にフィットさせた結果であるはずです。つまり、データ活用のメリットの根本は、「生活者をよりよく理解できる」ところにあるんです。特にコロナ禍もあって、生活者行動のデジタル化が進む中では、もはやデータを活用しなければ、生活者のことがほとんど理解できなくなるのではないでしょうか。

──現在は多くの企業が顧客データを取得・分析するようになっていますが、日本企業のデータ活用に何か課題はありますか?

川邊:最大の課題は、データアナリスト、データサイエンティストといった「データを分析する人材」が企業にも市場にも不足している点です。私はつい先日までアメリカのデータマーケティング会社で勤務していましたが、アメリカの大手企業は、データ分析のスペシャリストのチームを社内に抱えているのが当たり前。しかし、日本の多くの企業では事業やマーケティング活動の規模に対してデータ分析のリソースが足りていません。

佐藤:日本企業でマーケティングのデータ分析を行う場合、その仕事を担うのは、多くの場合マーケティング部門の方々なのです。ですが、マーケターにはマーケターの仕事があり、データ分析まで注力する余裕がないケースがほとんどです。また、彼らはあくまでもマーケティングのプロであり、データ分析の高い専門性を身に付けていることは稀です。

──データに特化した人材の活用面で、アメリカの方が進んでいるんですね。

川邉:そうですね。アメリカ市場はそもそも雇用の流動性が高く、統計学や機械学習に長けた優秀な人材が世界中から集まっていることもあり、「データ活用人材」の雇用が比較的容易なのではないかと思います。

また、アメリカの企業は、さまざまなコンタクトポイントで取得されるデータの統合や活用にも積極的です。流通企業の場合ですと、ウェブサイトやアプリ上での商品閲覧や購買の履歴と実店舗での購買履歴をマッチングさせ、より深く生活者を理解しようと努めているケースがとても多いです。また、自社の持つ情報の一部を他のメーカーに提供して、彼らの販促活動をサポートしていたりもします。

このように、アメリカはクライアント自身がデータ活用人材を多く抱えていることが多いので、われわれ外部のベンダーは「クライアントが持っていないデータ」や「データ間のマッチングのアルゴリズム」などを提供し、クライアントのデータと掛け合わせることで付加価値を出しています。

そして、アメリカでは

「完璧なデータなんてないよね」

「でもそれを使えば、前よりは良くなるよね」

という考え方で、ある程度推計に頼った、確率論的な取り組みをしているクライアントが多いです。

一方、日本では

「とにかくきれいにデータをそろえてからでないと、データ活用ができない」

と考える企業が多いように思います。

──そういうデータ統合や統計的な取り組みも、社内に人材が少ない日本企業では難しそうですね。

佐藤:人材の数の問題もありますが、企業が社内でデータ分析する難しさは質の面にもあります。一般的に、多くの分析担当者たちは市場のデータに疑問を抱かず、抽出されたデータをそのまま使います。しかし本来、データアナリストは、そのデータ自身が本当に正しい情報なのか、疑わなければなりません。

なぜなら、ネット上で得られるデータの状況は、目まぐるしく変化しています。例えば、最近になってiPhoneのサイト閲覧などのCookie情報は、7日間で削除されるようになりました。これを考慮せず、古い知識のままCookieの情報を使ってしまったら、正確な分析はできません。しかし、元々マーケティングが専門領域の分析担当者がそこまで考えを及ぼすのは、他にも多くの業務を抱えている中では難しいものです。

──つまり日本では、そうした企業内の人材不足やデータ分析の難しさから、外部のデータ分析専門のベンダーが活用されているわけですね。

佐藤:はい。ブレインパッドのようなデータ分析専門の外部ベンダーに依頼すれば、企業にとって必要な、適切なデータ分析を行えます。ただ、クライアントの本来の目的は、「外部ベンダーの分析結果レポートを手に入れること」ではありませんよね。あくまでも「入手した分析結果を基に、顧客へどのようにアプローチするのか」「データを活用していかに企業の業績を上げるのか」を考える必要があります。

多くの日本企業は、分析結果を入手しても、それを利用した顧客への効果的なアプローチの仕方が分からなかったり、アプローチしても施策を数回しか実行せず、継続的な対応を取っていません。これでは、一時的な売り上げ向上は見込めても、長期的な向上にはつながりません。せっかくのデータ活用が、せいぜい特定のプロモーションの改善に終始してしまっているんです。

日本でも「データを生かした部分的なKPIの向上事例」はたくさんありますが、データを活用することで圧倒的に業績を伸ばした事例はあまりありません。それこそGAFAのように、せっかくの顧客データを業績アップへつなげられていないことが、今のデータ活用界の停滞ムードを生んでいるのではないでしょうか。

そしてこれを解決するには、「企業目線」のデータ活用ではなく、「顧客目線」のデータ活用への転換が必要なんです。


データ分析から施策の提案・実行まで担い、クライアントと業績改善を目指す

──そんな状況で新たに誕生する「電通クロスブレイン」は、どのような会社でしょうか?

川邊:一言でいえば「企業のAlways onマーケティングのデータ活用分野をサポートする会社」です。そのミッションは、電通とブレインパッドという全く異なる2社の強みを掛け合わせることで、クライアント企業のデータ活用をあるべき形に変えていくことです。

佐藤:これまで、データ分析は専門のベンダーが行い、分析結果を基にどうアプローチするかはクライアント自身、あるいはパートナーのマーケティング専門会社が行うケースが多かった。しかし電通クロスブレインは、データの分析で終わらず、効果的なターゲットへのアプローチ法を考え、実行するところまで行います。だから、「データ分析の会社」ではなく、「データ活用によりクライアントの事業を成長させる会社」だということですね。

川邊:社名もブレインパッドと電通の力を掛け合わせるため、「電通」掛ける「ブレインパッド」で「電通クロスブレイン」と名付けました。

佐藤:電通クロスブレインの略称は「DXB」なんですが、「DXBのDXはデジタルトランスフォーメーションの略みたい」とか、「DXB が『デジタル×ビジネス』っぽい」など、さまざまなビジネスの言葉を想起させることに、名付けたあと気づきました(笑)。だから、良い名前を付けたなと思っていますね。

DXBロゴ

──クライアントのDXを支援するに当たり、電通クロスブレインの最大の強みはどこですか?

川邊:クライアントと一緒に課題に向き合える点です。データ分析で見つけた課題に対して、クライアントと共同で取り組み、改善する。この「クライアントと共同で」というところが重要で、当社が一方的にデータ分析し、プランニングや施策を実行するのではありません。あくまでもクライアントのマーケティング部門や関連部署と密に連携しながら取り組みます。

佐藤:クライアントと協同し、一つのチームになって課題改善を目指すのが電通クロスブレインのやり方です。そのために、必要とあればクライアントのオフィスに常駐することもあるでしょう。

ですが、物理的に常駐するかしないかといったことよりも、真のチームになるために、クライアントの心の中に入るというか、精神的に一つのチームになっていくことを重要視しています。クライアントと信頼し合える関係になることで、本当のチームとなりベストパフォーマンスを発揮して課題が改善できるのではないでしょうか。

川邊:従来のデータ分析の会社と違い、私たちが目指すのは、クライアントの業績(KGI)にコミットできるサービスを提供する会社です。データ分析と、その分析結果から施策を考える人材の両方を提供する。また、クライアントのチームの中にその人材が入っていき、日々のオペレーションやPDCAに一緒に取り組む。そうした人材を集め、育てるために、ブレインパッドと電通が組んだんです。


両社の強みを生かし、データドリブンマーケティングの潜在力を証明したい


──お二人は電通クロスブレインを、どのような会社にしたいですか? 

川邊: 先ほどの話の通り、ブレインパッドと電通から専門的な知識を持った人材が集まり、その強みをお互いに強化していく会社ですね。

佐藤:われわれブレインパッドは、データ分析に注力している企業。データ分析による顧客の理解や、顧客への最適な接触機会の発見は、これまで数えきれないほど実行してきました。ですが、データを受け取ってもクライアントは、効果的なアプローチの仕方が分からない。私たちも、サポートしたくてもできない。

せっかくデータ分析でビジネス機会を見つけても、「ウェブ広告を打てばいいのか」「テレビやラジオCMを流した方がいいのか」「それとも新聞広告の方がいいのか」。このようなクライアントをフォローできず歯がゆさを感じていました。電通クロスブレインでは、そこを電通側のメンバーがカバーしてくれます。それによって根本的な「顧客体験の改善」を実現するのが、新会社の目的です。

川邊:「生活者に対し、効果的な施策を企画し、実行する」のは、電通の得意分野です。マスメディアの広告はもちろん、リアルイベントの開催など、さまざまな手法の中から最適な方法を見つけ出しアプローチできます。

逆にブレインパッドは、データ分析の分野でトップレベルの企業です。ブレインパッドのデータサイエンティストと電通のクリエイターが協力することで、より効果的なサービスを提供できるでしょう。

実は、ブレインパッドは、私が若いころから憧れていた会社で、佐藤さんのこともずっと知っていたので、今回、協働できて本当にうれしいですよ。ブレインパッドの高い分析力は、クライアントはもちろん電通にとっても必ずプラスになる。例えばブレインパッドのデータ分析力で、よりコアのターゲット層を発見できれば、電通のプランナーやクリエイターはピンポイントで、その層の興味を刺激する施策を構築できる。

佐藤:さらに互いの人材がスキルを補い高め合うことができますね。両社の人材の交流で、「データ分析から施策の立案、実行までできる人材」が増えていくことにも期待しています。

川邊:「マーケティングにおけるデータ活用」の重要性はずっと言われていましたが、データ分析と分析後の施策は、これまで断絶した状態でした。電通クロスブレインは、この二つを結ぶ新しいサービスを展開します。

佐藤:分析データをもっと活用すれば、さらに日本企業のポテンシャルを引き出すことがきっとできる。短期的なKPI達成ではなく、長期的な業績改善ができるようになります。そのために、まだ眠るデータ活用の領域を電通クロスブレインが掘り起こします。「データを本当に効果的に活用すると、企業の長期的な業績にも高い成果を出せる」ことを実証し、日本企業に波及させていきたいですね。

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