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データ分析の真価は「事業成長」にあり!No.2

なぜアメリカ企業は「データ」を事業成長に活用できているのか?

2020/11/06

日本企業はせっかくの膨大なデータを十分に活用できていないといわれています。蓄積したデータを大きな事業成長に直結させるためにはどうすればいいのでしょうか?

スマホなどのデジタルデバイスの普及と共に、企業はオーディエンスデータをはじめとするさまざまなデータを取得・蓄積し、マーケティング活用することで、事業成長に結び付けようとしてきました。

前回はそれらの試みが、日本では必ずしも大きな成果に結びつかない現状を、対談形式で整理しました。

今回は、データ活用の本場・アメリカのMerkleでデータサイエンティストチームのディレクターを務めた電通クロスブレインの川邊忠利代表が、自らの経験をもとに、日米のデータ活用の違いと、アメリカ企業のデータ活用事例を紹介します。

<目次>
デジタルマーケティングの転換点。「データクリーンルーム」の時代へ
日本がデジタル競争力を高めるにはデータ人材の育成だけでは不十分?
必要なのは「マーケティング施策実行に資するデータ分析体制」だ

デジタルマーケティングの転換点。「データクリーンルーム」の時代へ

今回の主題であるアメリカの潮流をお話しする前に、少し今の日本の状況を整理します。

現在、巨大プラットフォーマーが広告主に提供する「Data Clean Room/データクリーンルーム」が注目を浴びています。

データクリーンルームとは、プラットフォーマーが持つ大量の「固有の顧客ID」に紐づくさまざまな情報を広告主企業が活用できる仕組みで、それを仮想の部屋に例えています。(以下、クリーンルームと表記)

そこではデータは匿名化・統計化されており、広告主企業はプラットフォーマーが提供する適法かつセキュアな環境で、精度の高いターゲティング広告を行うことができます。プラットフォーマーの顧客IDに「購買データ」が紐づいている場合は、顧客の広告接触による購買への影響も検証可能です。

世界的に個人情報保護の動きが強まる中、今後サードパーティークッキーの広告利用が難しくなることを鑑みると、サードパーティークッキーに頼らない、クリーンルームを活用したマーケティング・コミュニケーションは一層重要なものになると考えられます。

【編集部からの補足解説】
デジタルマーケティングに詳しくない方のために簡単に説明しておくと、クッキー(HTTP Cookie)とは、ウェブサーバーとブラウザーの間でデータをやりとりする仕組みです。

例えばあるサイトへのログイン情報をクッキーで保存しておくことで、毎回そのサイトへのログイン情報を入力する必要がなくなったり、一度読み込んだ動画や画像を保存しておくことで、2度目のアクセスからは高速で動画や画像を開いたりできるため、インターネットの利便性を大きく高めました。

クッキーは「ドメイン名」と紐づけられており、ユーザーが現在ブラウザーで表示しているサイトのドメインと結びついたクッキーを「ファーストパーティークッキー」、それ以外のものを「サードパーティークッキー」と呼びます。

ウェブ上でのユーザーの行動は、各ドメインに紐づいたクッキーに保存され、蓄積されていきます。長らくデジタル広告市場をけん引してきたターゲティング広告は、主にこのサードパーティークッキーを利用したものです。

しかし、ユーザーのネット上での行動履歴を企業が把握することについては長い議論があり、近年はブラウザーを提供しているAppleやGoogle、Firefoxといった企業が、サードパーティークッキーの広告利用に規制をかける傾向が強まっています。

さて、ここからはアメリカの事情についてです。

巨大プラットフォーマーのおひざ元であるアメリカでも、企業は積極的にクリーンルームを活用してデジタル広告を運用しています。

ポイントは、クリーンルーム内で、プラットフォーマーの持つデータと自社のファーストパーティーデータを連携することです。

ファーストパーティーデータとは、自社が持つ顧客情報のこと。顧客のデモグラフィック情報、過去の商品の購買履歴やウェブサイトの閲覧履歴などで、ファーストパーティークッキーもここに含まれます。

クリーンルームにこのファーストパーティーデータを連携することで、プラットフォーマーのエコシステム内から自社の既存顧客により近しい特性を持った消費者を探し出し、彼らを見込み顧客として施策のターゲットとすることが可能となります。このようなアプローチを積極的に採ることで、企業は施策の効率化を実現しています。

さらに、一部の先進的なアメリカ企業の中には、異なる複数のプラットフォーム間で広告ターゲットの連携を図る動きも見られます。そのために、まず彼らは「自社のファーストパーティーデータを起点とした独自のデータ環境」を構築しています。

そして、そこに、外部のデータプロバイダーがユーザーの許諾を基に提供する個人レベルのデータ(デモグラフィックデータなど)を突合させることで、自社のデータ環境内でしっかりと顧客像を描き、顧客を理解することに努めています。

また、データプロバイダーから提供されるデータは、企業1社のファーストパーティーデータと違ってマーケット全体をカバーしているため、その中から自社の既存顧客に似た特性を持つ潜在顧客を探し出すことも可能になります。

こうして発見した潜在顧客は個人レベルで各プラットフォーマーの提供するクリーンルームとも連携できるため、各プラットフォーマーのエコシステムの中で、有力な潜在顧客をターゲットとした効果的な広告施策も可能になります。もちろん、同一の潜在顧客をターゲットとしているため、プラットフォーマー間でのパフォーマンス比較も容易です。
自社のデータ基盤をハブにしたプラットフォーム連携

さらに、アメリカでは特定の商品カテゴリーに対してニーズが顕在化している生活者をまとめた広告セグメントも流通しているので、その広告セグメントを潜在顧客に掛け合わせ、潜在顧客の中でもより購買に近い生活者に広告を配信することで広告効果を引き上げるような取り組みも行われています。

また、このような自社のデータ基盤は必ずしも広告配信のためのターゲット抽出だけに使われるわけではありません。

データプロバイダーが提供する多様なデータを自社のファーストパーティーデータと突合することで、既存顧客の中から「リピーターになりやすい層」や「特定の商品と相性の良い層」を見つけ出すことも容易になります。

そしてそれらの情報を基に、メール施策やウェブサイト上でのコミュニケーションを最適化しています。

自社のデータ基盤をクリーンルームとして他社に提供し、自社の広告ネットワークの中で広告施策をサポートすることで新しい収益源とするような取り組みも、大手の流通企業の中では広く行われています。

自社店舗の購買データを活用した広告ネットワークの例
自社のデータ基盤を「クリーンルーム」として他社に提供し、自社の広告ネットワークの中で広告施策をサポートするサービスを行っているアメリカ企業たち。例えばディスカウント百貨店チェーン大手のターゲットが提供する広告ネットワークが「ROUNDEL」だ。

日本ではまだまだクリーンルームと連携した自社データ活用による潜在顧客へのアプローチができている企業は少ないですが、今後のマーケティングではこうした取り組みは必須となっていくでしょう。

さらには、プラットフォーマーの垣根を越え、また広告以外の施策の精度も上げていくためには、自社データ基盤の構築が必要となっていくでしょう。

日本がデジタル競争力を高めるにはデータ人材の育成だけでは不十分?

ここまでの話をまとめると、データのマーケティングへの活用は

  • プラットフォーマーが提供するクリーンルームのデータをマーケティング活用する
  • 次に、クリーンルームと自社のファーストパーティーデータを連携させて効果を上げる
  • さらに複数プラットフォーマー間での連携を図るために自社のデータ環境を構築する

といったステップがスムーズでしょう。

アメリカ企業の間で上記のようなデータの利活用ができている要因のひとつとして、自社に「マーケティングデータの収集・活用を担う専門チーム」があることが挙げられると思います。

特に大企業において「広告会社のインハウス化」というお話もよく話題に上がりますが、アメリカ企業ではデータの利活用の分野でも、インハウス化が進んでいます。

外部の専門業者に丸投げせず、自社独自にデータ蓄積環境を構築し、そのデータを分析・活用する専門性の高い社員を採用・育成しているのです。

その上で、自社のリソース(人材やデータ)で賄えない業務を、外部のパートナーに委託するという形をとっています。

こうした背景から、アメリカでは、データサイエンティストやデータエンジニアの求人数が拡大し続けています。

リクルートが2018年に買収した企業口コミサービス・Glassdoorによると、アメリカのBest Jobに2016年から2019年まで連続で「データサイエンティスト」が選ばれています。

Best Jobs in Americaとは、Glassdoorが毎年独自に調査・発表しているもので、平均年収や仕事への満足度などを職種ごとに数値化し、ランク付けしたものです。ここ4年間ずっと,データサイエンティストがBest Job(最高の仕事)に選ばれているということです。

対して、日本の状況はどうでしょうか。

スイスのビジネススクール・IMDが先日発表した2020年版の世界デジタル競争力ランキングによると、全63カ国・地域中、日本は27位で前年より4つ順位を落としました。この要因としては、データ分析や人材確保が弱いことが挙げられます。

「なぜ日本はデータ分析や人材確保が弱いのか?」といったことについては前回の対談で少し語っています。

一方で、データ分析人材が豊富でその流動性も高いアメリカは、過去3年、1位の座を維持しています。

IMDによる2020年版の「世界デジタル競争力ランキング」から、日本の評価を一部抜粋。
IMDによる2020年版の「世界デジタル競争力ランキング」(リンク)から、日本の評価を一部抜粋。総合順位は昨年から4位下がり、63の国と地域の中で27位となった。


必要なのは「マーケティング施策実行に資するデータ分析体制」だ

では今後、日本全体や企業がデジタルトランスフォーメーションを実現し、世界的な競争力を獲得するためには、どうすればよいのでしょうか?

そのためには、ただデータ分析人材の育成をすればいいというわけではなく、データ分析をマーケティングの実務に活用する人材も必要です。そして何より、データ分析を「最終的な事業成長につなぐ運用体制」の構築が鍵になります。

現在は日本でも、データ分析の知見やスキルに関する多様な研修やセミナーが提供されています。そのような座学を通して、知見やスキルはしっかりと獲得できるでしょう。

ただ、実際の現場では、よく聞く悩みとして、以下のようなものがあります。

自社の課題にアプローチする上で、そもそもどの研修を受講すればよいのか分からない

研修を受けたので概念としては理解できたけれども、実務の中でどう生かせばよいか、どのように進めるべきか分からない

これこそがまさに日本のDXの典型的な課題といえるのではないでしょうか。

次回は、今回のアメリカの話に続いて、主に日本のデータ分析についてのお話になります。


電通クロスブレイン
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電通クロスブレイン

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電通クロスブレインでは「人材育成」「体制構築」をご支援するサービスをご提供しています。当社のエキスパートたちが、クライアントと二人三脚となり、「マーケティング課題を解決する」という本来の目的に向けた体制をつくっていきます。
データ人材育成/体制構築のためのサービス
  • 課題解決のために求められる必要なスキルセットの整理とそれらを獲得するために必要な講座の選定
  • マーケティング実務への分析プロセスの提案
  • 分析から施策の実施までを自社で完結するためのフローや環境構築
  • 電通クロスブレイン人材から、クライアントへのスキルトランスファー
     
データはただ集めればいいというものではなく、データ分析人材がいればいいというものでもありません。必要なのは「マーケティングにおけるデータ分析体制の構築」です。
 
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