「事業成長のためのデータ活用」を阻む、日本企業の課題とは?
2021/01/06
<目次>
▼典型的日本企業に見る「データ活用プロセスの断絶」とは何か?
▼体制に起因する方向性のズレはPDCAを回すごとに大きくなる
▼方向性のズレの例「KPIの不適切な分割」
▼解決策は“スピードの異なる二つのPDCA”の融合と循環にあり
典型的日本企業に見る「データ活用プロセスの断絶」とは何か?
多くの日本企業では、専門性の高い“データ分析人材”が不足しています。
加えて、雇用形態の違いもあり、アメリカと比べると、自社でマーケティングデータの収集・活用を担う専門チームを持っている企業も多くありません。
- データ分析→「データ分析の専門会社と共同で行う」
- 分析後の施策→「施策企画・実行の専門会社と共同で行う」
というように、「データ分析」と「分析後の施策」が断絶しているのが、典型的な日本企業のデータ活用体制ではないでしょうか。
いわば、本来ならデータ活用の主体となるべき企業が、「データ分析の専門会社」と「施策企画・実行の専門会社」とのハブになっているような体制です(下図)。
もちろん、このような体制でもうまくデータ活用を推進している企業はあります。しかし多くの場合、ハブとなる企業のマーケティング担当者のコミュニケーションコストが大きくなり過ぎて、ミスコミュニケーションも発生しがちです。
本稿ではこのような体制でのデータ活用プロジェクトにありがちな、データ活用プロセスの断絶を見ていきます。
体制に起因する方向性のズレはPDCAを回すごとに大きくなる
前項の体制の問題点は、当然ながら「データ分析」と「分析後の施策」の連携に時間がかかることです。
そのため、データ分析はPDCAの“入り口”で行われるだけにとどまり、実際のPDCAの循環ではスピードが優先され、データ分析人材がそれに携わらないことがほとんどです(下図)。
例えば、データ分析の専門会社の分析によって顧客セグメントを設定し、同様にデータを用いて顧客をセグメントするためのアルゴリズムをつくり、セグメントごとのKPIを定めたとします。
しかし、その後のセグメントごとの施策や、その施策によるKPIの変化は、施策の企画・実行の専門会社と、クライアントの施策担当者とで確認しながらPDCAを循環させる、というのが典型的でしょうか。
一見、このようなデータ活用のプロセスは合理的で効率的なように思われます。そして実際に、定められたKPIの改善に向かってPDCAを循環させることも可能でしょう。
しかし、私の経験上、このプロセスでのPDCAの循環は、最初の数回は意図通りに働くものの、回数を重ねるごとに、徐々に当初意図したものとは違う方向に向かっていってしまう傾向があります。
方向性のズレの例「KPIの不適切な分割」
方向性のズレは、さまざまな要因によって生じます。
「データ分析」と「施策のPDCA」が分断されたプロセスにおいて、私が多く目にした問題のひとつに、「KPIの不適切な分割」があります。
架空の動画サブスクリプションサービスを例に、それがどのようなものであるかを説明しましょう。
架空の例ではありますが、私がこれまで経験してきた現場で実際に起っていたことをデフォルメしたものです。皆さんの身近にもありそうだ、と感じていただけるのではないでしょうか。
①「分析フェーズ」から「施策の企画・実行フェーズ」への橋渡し
これはサブスクリプションサービスを提供している、架空の企業のお話です。
「ある顧客セグメント(以下、セグメントA) に対して、あるウェブコンテンツ(以下、コンテンツA)を利用してもらうことが、自社サービスの継続利用につながりそうだ」ということがデータ分析から導かれました。
自然な流れとしては、「当該セグメントAによる、コンテンツAの利用率増加」をKPIとして、主にデジタルチャネルでの施策を企画・実行することになります。
ここでは、デジタルチャネルで、ユーザーがセグメントAかどうかを判定した上で、該当したユーザーのみに特別な施策を実行するものとしました。
ここまでお膳立てが整えば、施策の企画・実行フェーズでのPDCAは適切に循環できそうに思います。
しかし、これだけ単純に見えるデータ分析と施策との連携シナリオにも、“プロセスの分断”による落とし穴があるのです。
②施策の企画・実行のPDCA。しかしそこに落とし穴が…?
例えば、メルマガの内容を「セグメントAの顧客に対してのみ、コンテンツAをメインで訴求したものに変える」という施策が企画されたとします。
メルマガ担当者は、施策の企画・実行専門会社と相談した上でクリエイティブを準備。ABテストで、メルマガからのコンテンツAへの遷移率と、その利用率とを比較しました。
結果として、下表のように、新しく用意したコンテンツA訴求のメルマガの方が、従来のメルマガに比べて、コンテンツAへの遷移率や利用率が高かったとしましょう。
担当者は、新しく用意したメルマガの成果を評価し、次はコンテンツA訴求のクリエイティブについて、より良いものにつくり込んでいくことにしました。
一見すると、うまくPDCAが循環しているように感じます。しかし、ここでは、すでにKPIが不適切に分割されているのです。
③そこでは「KPIの不適切な分割」が起こっていた?
もう一度よく確認してみましょう。
当初、顧客分析によって得られた仮説から設定されたKPIは、
あるセグメントAによるコンテンツAの利用率の増加
でした。
それに対し、今見たメルマガでの施策のKPIは、
メルマガからのコンテンツAへの遷移率と利用率
になってしまっています。
そのコンテンツを利用してもらうには、当然そこに遷移してもらう必要がありますから、「遷移率」をKPIにすることはそれほど問題ではないでしょう。しかし、それを「メルマガからの」と限定してしまうのは、いかにも不適切なのです。
なぜなら、そのコンテンツへの到達経路は、他にもさまざまに用意されているはずだからです。言い換えると、
「もともとメルマガ以外の経路でそのコンテンツを利用するはずだったユーザーが、新しいクリエイティブによって、メルマガ経由でそのコンテンツに到達するようになっただけ」
というパターンも含まれてしまっているということです(下表)。
もしこのようなことが起こっているのであれば、「コンテンツAをメインで訴求するメルマガ」をいくら送っても、本来の目的である、「当該セグメントAのコンテンツAの利用率の増加」は達成されません。
このようなものが、「KPIの不適切な分割」の典型です。
では、このような施策PDCAの現場での「KPIの不適切な分割」はなぜ起こってしまうのでしょうか。
私はその大きな原因が、先ほど図示した典型的な「データ分析」と「施策PDCA」との関係にあると考えています。
施策PDCAの循環に入る前の顧客データ分析では、当然ながらその主眼は「顧客の理解」に置かれます。ここでは専門性の高い分析人材がそれを行うため、分析に利用できるデータは種類も量も大きくできますし、分析手法も豊富な選択肢から決定できます。
一方で、施策PDCAの循環に入ってしまったら、その主眼は「施策の効果」に置かれがちです。しかも、ここでは専門性の高い分析人材がほぼ存在しないため、分析に利用できるデータの種類も量も貧弱になり、分析手法も画一的な処理に偏ります(下図表)。
このようなプロセスの分断があったのでは、PDCAの循環が繰り返されるほど、顧客データ分析フェーズで意図された施策の方向性がズレていくのは、無理もありません。
解決策は“スピードの異なる二つのPDCA”の融合と循環にあり
このズレをできる限り生じさせないようにするには、どうすればよいでしょうか?
解決策としてすぐに思いつくのは、
- 施策PDCAの循環に、
- 専門性の高いデータ分析人材を関わらせ、
- 主眼を顧客理解からブラさずに、
- 大量・多種のデータ分析をPDCA内で行う
ことです。
しかし、専門性の高いデータ分析人材の確保は難しく、また当然、丁寧に分析すればするほど時間もかかりますから、スピードの面からも、この解決策は実現可能性に乏しく感じられるでしょう。
そこで私が提案したいのが、下図のような、
- スピードの異なる二つのPDCAを融合して循環させる
というモデルです。
データ分析のPDCAは、施策のPDCAほど速くは循環させられませんが、それが一巡した時点で、施策のPDCAのズレを補正することが可能になります。
ただし、このモデルで二つのPDCAを循環させるにも、体制が従来のように分断されていては、データ活用の主体となる企業のマーケティング担当者の負担が大きく、コミュニケーションコストが高くなる課題は解決できません。
また、その課題を乗り越えようと、マーケティング担当者がデータ分析の知見やスキルを研修によって高めたとしても、それを実際の業務に応用するのは容易ではありません。
現時点での現実的な解決策としては、下図のように、専門性の高いデータ分析人材を含む「マーケティングサイエンスパートナー」と1 on 1で協力しながら、二つのPDCAを循環させていく、ということになるのではないでしょうか。
この体制は、
- 社内にゼネラリストが多く、必要に応じて社外のスペシャリストを協力させる
という伝統的な日本企業にも、なじみが良いように思います。
コロナ禍で、顧客の姿を直接見ることがますます難しくなる中、データ活用は更に重要性を増しています。「データ分析」と「施策実行」との断絶をなくし、それぞれのPDCAを融合して循環させる取り組みの必要性は、これから増してくるのではないでしょうか。
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