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電通ベンチャーズ_2020No.1

スタートアップ×電通が挑戦する新たな価値創造

2020/09/29

電通ベンチャーズは、電通のコーポレートベンチャーキャピタルとして2015年に設立され、これまで国内外のさまざまなスタートアップに投資を行ってきました。

ベンチャーキャピタルに多くのお金が流れ込み、資本提供そのものの価値がコモディティー化する中、電通ベンチャーズの強みは、電通グループの幅広い事業アセットを生かした投資後のサポートと価値提供です。

今回は、電通ベンチャーズが出資しているNEW STANDARDの社長・久志尚太郎氏と、出資を契機に同社の事業開発や経営戦略をサポートしている電通の第3統合ソリューション局のプランナー浅井康治氏の対談を実施。

電通ベンチャーズがどのようにスタートアップの経営に貢献できるのか、また、逆に電通はスタートアップをサポートすることで何を得られるのかを聞きました。

<目次>
「打倒・電通」のために電通と仲間になった
「OMOとCXの時代」がコロナ禍で急激に到来
大企業とスタートアップが交じり合う「エコシステム型協業」の可能性

※その他、スタートアップ×電通関連記事リスト

 

NEW STANDARDの久志尚太郎代表、電通の浅井康治氏
NEW STANDARDの久志尚太郎代表、電通の浅井康治氏
 

「打倒・電通」のために電通と仲間になった

浅井:NEW STANDARDは、もともとミレニアルズ向けのウェブメディア「TABI LABO」を運営するTABILABOとして事業を立ち上げて、2019年5月に社名変更を伴うリブランディングを実施しました。私はそのタイミングでチームに加わりましたが、そもそも電通をパートナーとして受け入れた決め手は何だったのでしょう? 

久志:まず、僕たちが2014年の創業当時から目標にしていたことがあって、それは「打倒・電通」でした(笑)。スマートフォンを軸に新しいメディアが次々生まれてくる中で、どうすれば新しい広告のビジネスモデルを築き、「次世代の電通」になれるのかを考えてきたんです。そのために、メディアと広告の垂直統合モデルに取り組んできました。

しかし当たり前ですが、自分たちの力だけでは電通を倒すのは難しいなと(笑)。そこで、電通が持つクライアントとの長年の実績や電通社員のケーパビリティーと、それとは異なる僕たちのケーパビリティーを掛け合わせることで、コミュニケーションを軸にしたビジネスモデルをつくろうと考えたんです。

2019年、「TABI LABO」というメディアを運営する中で培われたメソドロジーを、メディア以外のビジネス領域に拡張することを宣言。企業としての価値を再定義し、企業名の変更とともに、全社的なリブランディングを行った。

2019年、「TABI LABO」というメディアを運営する中で培われたメソドロジーを、メディア以外のビジネス領域に拡張することを宣言。企業としての価値を再定義し、企業名の変更とともに、全社的なリブランディングを行った。
現在はメディア、プロダクト、ビジネスデザイン&ブランドスタジオの三つが主な事業領域。メディア運営で培ったノウハウをツールやフレームワークに転換し、顧客 に提供している。
現在はメディア、プロダクト、ビジネスデザイン&ブランドスタジオの三つが主な事業領域。メディア運営で培ったノウハウをツールやフレームワークに転換し、顧客に提供している。

久志:浅井さんから見てNEW STANDARDという会社はどんな印象ですか? 

浅井:久志さんをはじめ、社員みんなが「自らが欲しいものを自らの手でつくり上げていく」という文化を大切にしていますよね。グルーヴという言葉をよく用いていますが、チームメンバーの思いが共鳴することをすごく大事にしている。外部から参画した自分にとっても、積極的に意見を発信しやすい環境でした。

特に印象深いのは、自分が最初にチームに加わったとき。久志さんから「われわれを“クライアント”として捉えず、事業を成功させる方法を考える“仲間”になってほしい」と言っていただきました。

久志:電通との取り組みがうまくいっているのは、まさに浅井さんに「仲間」として取り組んでもらっているからです。というのは、スタートアップって、良いことよりも悪いことというか、大変なことが多くて。だいたい起こることの80%はバッドニュースなんですね(笑)。うまくいっている20%の部分だけがメディアに取り上げられて、いわゆる世の中の“スタートアップ観”が築かれている。よくあるクライアント的な付き合いでは、「うまくいっている20%」しか共有しづらいんです。

でも、浅井さんには、悪い部分の80%の情報もまるっと共有して、がっつり中に入ってもらった。電通という会社は、実は20%の部分で広告やコミュニケーションをやるだけでなく、「課題を解決し、事業を成長させていく」能力を持っている。浅井さんにはそういう電通の力を社内でフルに発揮してもらっています。

浅井:もともと、電通が単純にプロモーションで貢献するだけでは、中長期的にクライアントのためになるとは限らないと思っていて。「会社のアセットとして残せる貢献」とは何か、日々ずっと考えていました。社内の意識を変えていくとか、自分たちのバリューがどこか明確にするとか、それを型としてちゃんとお金を稼げるようにするとか、会社の提供価値を属人的なものではなく組織として持つにはどうしたらいいかとか。そういうところを考える仕事を担わせてもらっています。

「OMOとCXの時代」がコロナ禍で急激に到来

久志氏
久志氏

浅井:今この話に触れないわけにはいきませんが、新型コロナウイルスの影響で、これまでの「当たり前」がガラッと変わり、それこそNEW STANDARD、新しい価値観が世の中には求められています。この状況下で電通と協業していて、ポジティブだったことを教えていただけますか?

久志:まず、僕たちはコロナ禍以前から、SDGs的な価値観や基準を軸とした、「OMO」(※1)と「CX」(※2)の時代がやってくる!と提言していました。「OMOとCXの時代のマーケット」を、スマートフォンを中心とした新しいコミュニケーションやクリエーティブを武器に開拓することを、電通との協業の大きなテーマに掲げていたのです。

※1 OMO(Online Merges with Offline)
オンラインとオフラインの融合、つまりネットと店舗(オンラインとオフライン)の垣根をなくし、顧客目線でカスタマージャーニー設計することを意味するマーケティング概念。
 
※2 CX(Customer Experience)
顧客体験。商品やサービス自体の価値だけではなく、消費者が購入、使用するまでの過程や購入後のサポートなども含めた、全過程における「感情的な価値」を重視するコンセプト。NEW STANDARDでは、プロダクトやサービスだけではなくCX全体を「商品」と位置づけている。

それをやっていくぞというタイミングでコロナ禍が訪れて、思いがけない形でOMOとCXという概念が社会全体にすさまじい勢いで浸透しました。私たち自身も全てがクイックになって、テレワークを前提にオフィスをワンフロア丸ごとリリースして再編するなど、オンラインをフル活用する形で働き方改革を実施しています。

この数カ月で新規受注したクライアント案件も、一度もリアルにお会いすることなく提案からコミュニケーションまで、すべてをオンラインで完結しています。結果的には、われわれが予測していた新しい世界観が進んでいるという認識です。

浅井:もともと、「NEW STANDARDフレームワーク」(世界中で生まれている新しい価値観や基準から、従来の価値観を捉え直すフレームワーク)を活用して自社事業やクライアントワークを発展させてきた中、時代がいきなり追いついた印象がありますね。

久志:OMOはもはやマーケティング領域のみならず、あらゆる価値観や実態に浸透したと思います。これはNEW STANDARDにとっては、非常にポジティブな変化だと捉えています。

それと並行して、浅井さんたちにもサポートしていただき、当社のケーパビリティーを明確にする作業も行いました。

なぜNEW STANDARDがやるのか?
なぜNEW STANDARDじゃないとできないのか?

といったことを徹底的に言語化・仕組み化し、結果として自分たちのフレームワークや提案資料、メディア事業のアセットなどを再現性の高いカタチで体系立てることができました。電通の伴走があったからこそ、客観性を担保しながら、言語化してフォーマットに落とし込めたと思っています。

浅井:そうおっしゃっていただけるとすごくうれしいです。「外からの視点で自分たちの強みを明らかにする」ことには、どのようなメリットがあるとお考えですか?

久志:僕たちは「OMOやCXの時代が来る」と考えていたものの、それがいつどのタイミングで来るのかまでは見えていませんでした。多くのスタートアップ企業が掲げていることも同じで、自分たちが信じている新しい未来が、実際にどのようなカタチで世の中に浸透していくのかまでは分かっていません。

つまり自分たちの信じるものと、実際の世の中の動きをリンクさせていくことが難しいのですが、まさにここにコミュニケーションプランニングのナレッジが生きますよね。電通というパートナーに常にフィードバックをもらいながらPDCAを回したことで、自分たちの信念をカタチにしてこられたと思います。

この1年間の取り組みで「NEW STANDARDのケーパビリティー」が明確になったことで、全てが「再現性」を持って考えられるようになりました。会社として成長できると確信していて、正直、これまで会社を経営してきた中で、今が一番良い状態だと思っています。

大企業とスタートアップが交じり合う「エコシステム型協業」の可能性

浅井氏
浅井氏

浅井:先日、D2C事業における国内外のマーケットリサーチやモノ・ブランドづくり、事業設計、販路構築・運営、事業成長までをワンストップで支援するサービス「BDX(ブランド デジタルトランスフォーメーション)」をNEW STANDARDと電通デジタルでローンチしました。

NEW STANDARDが持っているアセットをどのようにアウトプットしていくか。1年近く考えた中から生まれたBDXはまさしく、メディア事業を起点に事業を展開し、ブランディングやD2C事業に取り組んできたNEW STANDARDだからこそ生まれたサービスですよね。

久志:僕らはもともとメディア事業をやってきて、ユーザーインサイトやコアなコミュニティーを持っているので、商品改善などのフィードバックを得やすい状況があり、自社でもD2C事業を展開してきているんですね。そういうわれわれのノウハウと電通デジタルのノウハウを合わせて生まれたサービスです。

われわれはこのサービスについて、

「企業のブランドをDXする」

と言っています。自社製品をインターネットで直接売るだけでなく、デジタルの力を活用しさまざまな意味でD2C化することによってブランドの価値を再創造するという意味で、ブランドをDXする。だから「BDX」という名前なんです。

浅井:電通グループとしても、NEW STANDARDと協業してきた積み重ねを活用して、社会に新しい価値を生み出せる。今からとてもワクワクしています。

BDX(ブランド デジタルトランスフォーメーション)
電通デジタル広報リリース
https://dentsudigital.co.jp/release/2020/0910-000612/

久志:同感です。スタートがメディアだったこともあって、電通とNEW STANDARDでつくり上げてきたものを、大手出版社などメディア事業を持つ会社に説明すると、「うちもその機能が欲しい!」とよく言われます(笑)。この1年、両社でトライしてきたことの意義と、社会的ニーズをひしひしと感じています。

浅井:われわれが一緒にやってきたことって、「メディアDX」ともいえますよね。自分たちの持つアセットの価値を計測可能な形に可視化して、新たな価値を生み出すことをDXと呼ぶとするなら、ずっと「メディア企業のアセットから新たな価値を生むメディアDX」にトライしてきたというのが、これまでの両社の歩みだと思います。

とはいえ、今回のような「ブランドのDXソリューション」は、メディア企業単体でも、広告会社単体でもできることかもしれません。あえて協業することで生まれた強みや独自性はどこにあると思いますか?

久志:いくつかありますね。でもやっぱり一番大きいのは、電通グループが持つ圧倒的データ量と実績で、国内外を含めて世界最高峰のものです。そして今、その最強のアセットの価値を最大化するために有効なのが、スタートアップが持つ、時代を捉えた超シャープなケーパビリティーと掛け合わせることだと思うんです。逆に言うとスタートアップだけではできることが少ないともいえるんですが(笑)。われわれのようなスタートアップと電通を掛け算することで、今の時代に必要とされるものがより生み出されるんだろうと。

浅井:心強いコメントをありがとうございます。今後、電通との協業でどのようなことに挑戦していきたいですか?

久志:日本はなんだかんだいってもマーケットの基盤が大きいので、急速な変化が求められていませんでした。しかし、コロナ禍をきっかけに、これまで盤石だった企業も新しい価値観への移行、いわゆる“NEW STANDARD”の必要性を感じています。日本企業とスタートアップの協業はまだまだハードルが高いのですが、われわれと電通が組むことで、そのハードルを下げることができた。これからいろいろな可能性が増えていくと思います。

浅井:私たちとしても、広告会社が新しい事業領域に挑戦する大きなチャンスを頂けたと思っています。私個人の目標としては、NEW STANDARDと協業するからには、ただモノを売るだけではなく、やはり人々のためになる新しい価値創造にチャレンジしていきたいです。

久志:僕たちは「NEW STANDARDフレームワーク」や「BDX」など、さまざまなケーパビリティーやアセットを電通と一緒につくってきましたが、目指すところはシンプルに一つ。「新しいマーケットを創造すること」です。そのために電通をはじめクライアント、パートナーと共に、新しいタネや提供価値をどんどん生み出していきたい。

この1年の取り組みで、スタートアップにとって、大企業とのエコシステムやコラボレーションが非常に重要だと理解しました。電通との協業って、いろんな意味で単純なクライアントワークではないんですよ。例えば今は、NEW STANDARDの全社勉強会で、浅井さんが電通で身に付けたノウハウをレクチャーしてもらっています。逆に当社も、電通のプランナー向けの勉強会や社内セミナーに登壇しています。両社の血を混ぜ合わせる、単に売り上げだけでない「エコシステム型」の交流がとても大事なんだと感じます。

浅井:そこはまさに僕も強く感じるところです。というのは、NEW STANDARDの中に入って、「外」から電通を見ることで、改めて電通のプランナーの強みや弱みを知ることができた。僕みたいな働き方をするメンバーをもっと増やしていく必要があると実感しているんです。それは絶対に今後の電通の強さにつながっていくので。「電通社員のままスタートアップに行く」という働き方の社内への周知も、もっと積極的にやっていきたいです。

とはいえ僕もまだまだNEW STANDARDでやり切れていないことがたくさんあるので、皆さんといろんなことにトライしていきたいです。長期思考でNEW STANDARDの成長に貢献しながら、自分自身も成長していければと思います。

久志:浅井さんみたいな人があと2~3人、電通から来てくれたらすごいことになると思います(笑)。引き続きよろしくお願いします!

※このツーショット写真は2019年に撮影されたものです。
※このツーショット写真は2019年に撮影されたものです。

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