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なぜか元気な会社のヒミツseason2No.5

日本のものづくりで世界に通用するブランドとは?

2020/10/12

「オリジナリティー」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第5回は、ワインやコーヒーのような「スペシャリティーチョコレート」を提供することにこだわる「Minimal – Bean to Bar Chocolate –(ミニマル)」という会社です。


ミニマルは、設立からわずか6年あまりの若い企業だ。しかしながら、カカオ豆の仕入れからチョコレートになるまでの全工程を自社で手がけるというその手法には、斬新さだけではなく、どこか懐かしい日本のモノづくりの「骨太」な思想がうかがえる。効率経営が求められる昨今、あえてその逆を行く理由とは何か?板チョコ1枚が、1500円もの価格でも売れているその訳とは一体何なのか?36歳の若きリーダーに、その仕組みや背景、根底にある志を伺うことで、「元気な会社のヒミツ」を解き明かしてみたい。

シグニチャーであるBean to Bar Chocolate3種類。国際品評会で金賞他、多数受賞。
シグニチャーであるBean to Bar Chocolate3種類。国際品評会で金賞他、多数受賞。

難しくなくていい。単純に自分が、おいしい、楽しい、感動した。そう思えるものを、良いものだと認めたい。そんな山下社長のポリシーに、インタビュアーとしてとても共感した。

元々は企業の経営コンサルを手がけるサラリーマンだった山下貴嗣社長がBean to Barチョコレートに出合い、カカオ本来の風味を生かした味に感動したことからMinimalは始まった。

「チョコレートを新しくしたい」そう語る山下社長は100%フェアトレードのカカオと砂糖しか使わないチョコレートで日本のものづくりの繊細さを表現し、世界で戦おうとしている。コロナ禍をはじめ多くの困難がある今でも、いや、今だからこそ着実にファンの数が増え、売り上げを伸ばしている。そんな会社の元気なヒミツを、ぜひとも伺ってみたい。

文責:電通 第1統合ソリューション局 河瀬太樹
 
 

日本人ならではのきめ細やかさで、世界と勝負してみたい

「僕は1984年の生まれで、いわゆる日本が元気だった時代を知らないんです」。山下社長の話は、ここから始まった。「でも、景気がなかなか良くならないとは言われつつも、日本や日本人が持つ歴史とか、文化とか、技術力ってスゴイじゃないですか。そこをどうしたらアピールできるんだろう?それが、起業のきっかけです」。山下社長いわく、量の経済で勝てる時代はとっくに終わっている。これからは質で、世界に打って出る時代だ。質ということでいえば、日本の技術は世界のトップクラスにある。

ああ、これはコンサルなんかしてる場合じゃない。第三者的に関わるコンサルではなく、当事者としてモノづくりでこの国を元気にして、世界中の人を笑顔にしたい、と思った。それが、30歳で独立して起業した、最大の理由なのだと言う。
ビジネスとして単純にもうけたい、ということではない。50年、100年先の日本を豊かにしたい。そのために、自分に何ができるのか?そんなことを考えているときに、チョコレートに出合ってしまった。

チョコレートというものは「Bean(豆)to Bar(板)」で成り立っている製品だといわれる。ビーンを作っている人の多くは、発展途上国の人たち。その人たちがつくった豆を国際相場で安価に買い付け、大量生産プロセスで安価なチョコレート商品に仕立てて市場を回す。途上国の生産者にとっては価格が国際相場で決まってしまうため、選択肢がない。これって、どこか健全ではない!と思っちゃったんですよね。山下社長の弁は、俄然、熱さを増す。

毎年恒例のMinimalの周年パーティー。100人以上のお客さまが来場。(一番右が山下社長)
毎年恒例のMinimalの周年パーティー。100人以上のお客さまが来場。(一番右が山下社長)

ポイントは「引き算」による商品づくり

「最初に思ったことは、チョコレートを『引き算』の商品にできないか?ということだったんです」。山下社長のコメントは、意外な角度から始まった。チョコレートというものは、原料のカカオ豆を加工して、そこにいろんな種類の油を足して、ナッツだのフルーツだの、あれこれ足しに足して、製品にするというのがこれまでの常識。いうなれば、それが世界の常識だ。でも、日本人の味覚の常識は、ちがう。

素材の良さにこだわって、その良さをどこまでシンプルに、かつ、奥深いものとして表現できるか。これまでのチョコレートが「足し算」で成り立っていたのだとすれば、そこに「引き算」の概念を持ち込んでみたら、きっと世界が驚くものがつくれるはずだ。そんな直感が、ミニマルというブランドを生んだ。

ごまかしのない味、ということだ。どんなスイーツにも合う、どんなスイーツにも新たな可能性を提供できるチョコレート、ということだ。その発想力に、驚かされた。「山下印のチョコレート、おいしいですよ!たったの、150円!」みたいな、これまでのマーケティングではなく、チョコレートというものの魅力や本質に迫ることで、チョコレートというものの市場価値を高めていこう、という視点。「山下印」みたいなものや「価格」みたいなものは、後からついてくるものであって、行動の原点は「世の中をもっとよくできないか?」「世の中に今までになかった驚きと感動を提供できないものだろうか?」という思想にあるのだ、という点にまずハッとさせられた。

カカオの収穫の様子。
カカオの収穫の様子。

大事なことは「マインドの変化」だと思う

「マーケティングというと、世の中の最大公約数を見つけて、可能なかぎり失敗のリスクの少ないところへ投資する、みたいなイメージがあるじゃないですか?僕はそれ、違うと思うんですよね」と山下社長は言う。大事なことはマインドの変化を促すことである、と。

たとえば、板チョコなんてものは、コンビニあたりで150円くらい払えば手に入るもの、というのが常識。その板チョコに1500円ものお金を支払うなんて、どこかの大金持ちがやることでしょう、みたいな。「正直な話、ミニマルのチョコレートに、一般的なチョコレートの10倍の価値があるのかどうのなのか、は分かりません。味覚を数値化することはできませんからね」と山下社長は指摘する。

そこで重要なのが、マインドの変化。ああ、このクオリティーだったら、1500円払うだけの価値があるな、という共感。その共感を得るためだったら、あらゆる努力を惜しまない、と山下社長は言う。それは、モノづくりにしても、PR活動にしても、だ。売ってもうけるため、ではない。「これって、いいと思いません?人生を、ちょっと幸福にしてくれるものだと思いません?」ということへの気づきと共感がほしい。山下社長にとって、それがたまたまチョコレートだった、ということなのだ。

MinimalのBean to Bar Chocolateは味覚・嗅覚・視覚を使って楽しむ仕掛けが。取り外しできるレシピカードや、板チョコレートの形のUX設計など。グッドデザイン賞ベスト100および特別賞を受賞。
MinimalのBean to Bar Chocolateは味覚・嗅覚・視覚を使って楽しむ仕掛けが。取り外しできるレシピカードや、板チョコレートの形のUX設計など。グッドデザイン賞ベスト100および特別賞を受賞。

つくりたいのはチョコではなく、スペシャリティーチョコレート

「チョコレートを新しくしたい」というのが、山下社長の信念だ。チョコレートという製品の品質は、カカオの品質(産地)、焙煎、砕き方、配合するもののパーセンテージ、の大きく四つで決まるのだという。なるほど、その四つなのね。というのは、いかにも素人の考え方であって、その四つの順列組み合わせを試行錯誤すれば、それこそ天文学的な数値のパターンが生まれるはずだ。

山下社長は言う。「自分が『クール』だな、と思うものにお金を使う。今は、そんな時代なんです」と。効率とか、市場価値とか、そういうことではなく、「ああ、これはいいな」というものであればお金を使う。服でも、音楽でも、なんでもそうだ。

だからこそ、チョコレートの概念を変えたいのだ、と社長は言う。つくりたいのはプレミアムチョコレートではなく、スペシャリティーチョコレート。既存の概念の先にあるなんだか高級なチョコレートではなく、「えっ、チョコレートでこんなスイーツ、できちゃうの?」という驚きのあるチョコレート。その価値に気づけた自分が誇らしい。そんな気分になれるチョコレート。これは、なにもチョコレートに限ったことではない。世の中の商品、サービス、あらゆるものに今、求められているものだと思う。

20年6~12月に毎月300台限定で、月替わりの限定スイーツを発売するMinimalスイーツチャレンジ。開始から20分で完売するほど人気。
20年6~12月に毎月300台限定で、月替わりの限定スイーツを発売するMinimalスイーツチャレンジ。開始から20分で完売するほど人気。

ブランドづくりとは、「美しさの表面積」を広げていくこと

「電通の方々には、釈迦に説法かもしれませんが」という前置きの下、山下社長が指摘されたのは「ブランドづくりとは、表面積を広げていく作業だ」ということ。誰もが共感できる表面積を広げていく。誰もがいいな、と思えるプロダクトでつながっていく。その根幹にあるのは、もちろん「お得さ」とか「手軽さ」といったものもある。

でも、本当の共感は、そこにはない。「かわいいな」とか「いとおしいな」とか「美しいな」と感じる、そのたたずまいに人は魅せられるのであって、その根底にあるのは、伝統とか文化といった奥深いもの。創業500年の和菓子メーカーの社長からの「まだ、試作から48年程度のトライアル商品なんです」みたい話には、ものづくりの担い手としてゾクゾクするんです。そんな山下社長のコメントには、インタビューをしているこちらの方がゾクゾクさせられる。

コロナ禍での対応の速さ、社員や職人の意識改革、製造工程を一新しての無料配送、オンラインに切り替える抜本的な対応、その意味、これからの展望などを、早口で語る山下社長。1時間半の取材などではとても語り尽くせないという、沸き立つ情熱に圧倒された。

カカオホッド。カカオは品種や産地によって特徴を持った南国のフルーツ
カカオホッド。カカオは品種や産地によって特徴を持った南国のフルーツ

ミニマルのホームページは、こちら


なぜか元気な会社のヒミツ ロゴ「オリジナリティー」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく連載のシーズン2。第5回は、チョコレートのスペシャリティーカンパニー「Minimal – Bean to Bar Chocolate – (ミニマル)」をご紹介しました。

season1の連載は、こちら
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら


【編集後記】

コンサルタントのご出身らしく、常に理路整然と話をされる山下社長に、取材終わりにあえて子どものような質問を投げかけてみた。「なぜ、チョコレートだったの?」と。山下社長の信念は一貫していて「日本の、あるいは日本人の良さを、世界に認めさせたい」というものだ。であれば、普通の感覚であるならば、和菓子だったり、日本酒だったり、着物だったり、和食器だったり、ということになるはずだ。

社長の答えは、とてもシンプルだった。ひとつは、職人との出会い。「このチョコ、オレンジか何かを混ぜていますか?」という驚きの味に対する質問に「いや、カカオ豆だけですよ」と言われたこと。なんでだ?どうしてこんな香り高い味に仕上がるんだ?ということを突き詰めた結果、カカオ豆というものは原産地で発酵させることでチョコレートの原材料になるのだ、ということを知った。これが、二つ目の理由なのだという。

発酵といえば、日本人の得意分野だ。醤油、味噌、酒、みりん、鮒寿司、くさや、日本人が誇る伝統技術の結晶といってもいい。直感的に「日本人のぼくがチョコレートを作ったら、とんでもないものができるのではないか?」という思いに突き動かされたのだという。その発想が、すごい。グローバリズムと言われると、ついつい欧米の文化や手法をまねる、みたいなことを考えがちだが、そうではない。真のグローバル化とは、自国の誇るべき文化や技術を、世界に認めさせることなのだ。