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電通ビジネスデザインスクエアの新・虎の巻No.7

従業員の自由回答は“宝の山”。AI分析し、瞬時に見える化

2020/12/14

多くの企業が従業員調査によって、事業戦略や社内制度、給与などについて従業員の意見を集めています。こうして集めたアンケート結果は、いわば“宝の山”。しかし、せっかくのデータを“宝の持ち腐れ”にしている企業も多いようです。

そこで、電通ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)では、従業員調査の自由回答をAI分析し、課題を可視化するサービス「VoiScope(ボイスコープ)」を開発。BDS坂本雄祐氏にサービスの内容、活用例を教えてもらいました。



 

従業員調査の自由回答、そのままにしていませんか?

私はこれまで、さまざまな企業の組織変革プロジェクトに関わってきました。その中で気づいたのが、「従業員調査が経営改革に生かされていない」という問題でした。調査の自由回答欄に記された、従業員の率直な意見を活用しきれていないケースが実に多いのです。

現在、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)やイノベーション、企業変革を迫られています。新たな価値を創出するためにも、企業の経営層と従業員の連携を深める必要性はいっそう高まっています。

さらに、従業員エンゲージメントと労働生産性、離職率には相関があり、「従業員エンゲージメントを高めると、企業の成長率が上がる」ことも分かってきました。つまり、企業の経営層と従業員がどれだけエンゲージメントできるかが、より重要になっているのです。こうした流れを受け、2020年には60億円規模の国内の従業員エンゲージメント市場(※)が、2023年には2倍になるという予測も発表されています。

※=従業員エンゲージメント市場
従業員エンゲージメントとは、従業員の会社に対する自発的な貢献意欲のこと。従業員と会社がお互いに貢献し、成長できる関係になっているか、双方の絆の強さを表す概念。従業員エンゲージメント市場は、「エンゲージメント」の測定や向上を支援する製品・サービスを指す。


しかしその半面、新型コロナウイルスの影響もあり、経営層からは
「現場が見えづらくなった」
「社員の顔を見る機会が減り、雰囲気が伝わりにくくなった」
という声が上がっています。こうした背景から、BDSでは従業員の意見をAI分析し、エンゲージメント向上を後押しする「VoiScope」を開発しました。現在β版を試験導入しており、2021年には機能を拡充した正式版をリリースする予定です。

AI分類結果から、組織課題の解決ヒントを見つける

私は常々、「組織課題を解決するヒントは、社内にあるのではないか」と考えていました。

従業員の声は、まさにそのひとつ。しかし、「こんな意見が届いています」と数万件もの生データをどさっとテーブルに広げても、ヒントを見つけるのは難しいでしょう。寄せられた意見やアイデアをAIによって見える化した上で、従業員一人一人の意見を経営判断の材料にする。それを実現するのがVoiScopeです。

VoiScopeでは、大きく分けて3ステップで従業員の意見を可視化します。

STEP1 従業員調査の自由回答をインプット

まず、従業員から寄せられた企業に対する意見、要望の自由回答を取りまとめます。新たに従業員調査を行うだけでなく、過去に実施した調査データを使うこともできます。

STEP2 AIで解析

集まった従業員の意見をそのまま表にまとめるだけでは、なかなか経営に生かすことができません。そこでデータをAIで分類し、何についての意見か、ポジティブ/ネガティブどちらの意見なのか、カテゴリー分類・感情分類を行い、定量的・構造的に処理します。

STEP3 分析した意見を分かりやすく可視化

分析したデータはダッシュボード化し、全社の状況を俯瞰できるようにもします。「組織」「上司」「制度・仕組み」など分類項目に対してどのような意見が多いのか、意見ごとのポジネガ構成比はどの程度かなどが、表やグラフで可視化されます。

性別、年代、役職、事業所別のフィルタリング、生データからのキーワード検索ができる他、時系列でデータの推移を追ったり、チーム間のデータ比較をしたり、ネガティブな意見が多い部署をランキング形式で表示したりすることも可能です。

こうしたデータをVoiScopeでキャッチすると、組織の課題が浮き彫りになります。ポジティブな意見が多いチームとネガティブな意見が多いチームを比較し、前者はどのような施策を行っているのかヒアリングすることで、全社的な課題解決のヒントにつなげることもできるのです。

VoiScope分析イメージ
VoiScope分析イメージ
     
VoiScope画面イメージ
VoiScope画面イメージ

複数の企業が導入を検討。カスタマーサービスへの応用も

β版の開発には、クラシエグループに協力いただいています。一般に、企業の規模が大きければ大きいほど、経営層と従業員の間には距離が生じます。しかも経営層は多忙を極めるため、なかなか全社員の意見に耳を傾ける時間を持てません。そんな中でもVoiScopeを使えば、全社員の意見を定量的・構造的に見ることができる。その点をクラシエ経営層の方々に着眼していただき、うれしく感じています。

余談ですが、VoiScopeで分析していると、分析対象の「感情」や「体温」を把握できる、という感覚を持つことがあります。一人一人の声の強さが、単に数値で把握する以上に組織への理解を深めてくれるように思います。

また、電通広報局でもVoiScopeの導入を検討しています。これまでは社内で行った調査結果をバラバラに保存・閲覧していましたが、VoiScopeによって「これまではデータの蓄積になっていなかった」と初めて課題に気づいたそうです。

リリース発表後、他にも複数の企業から導入検討の声を頂いています。今後の課題は、個々の会社に応じてAI学習をカスタマイズすること。企業によって、独特の言葉遣い、企業文化に即した専門用語があります。AIで意見や感情を適切に分類できるよう、現在も工夫していますが、今後もブラッシュアップを続けていきます。

さらに今後は、社員の声だけでなく、顧客の声も掛け合わせるなど、より多角的に課題発見ができるサービスとして機能を拡張させてく予定です。

「VoiScope」リリース:
従業員の意見をAI分析し、課題を可視化するサービス 「VoiScope(ボイスコープ)」を開発