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電通ビジネスデザインスクエアの新・虎の巻No.6

なぜ音声がDXを牽引する?「体温が伝わるDX」とは。

2020/12/08

Voicyの技術提供を受けて開発された「KOELUTION(コエリューション)」は、音声コンテンツで企業を活性化し、経営課題を解決するサービスです。前回の記事では概要を解説しましたが、今回はVoicy代表取締役CEO 緒方憲太郎氏と電通ビジネスデザインスクエア(BDS)の西井美保子氏との対談により、動画や文字ではなくなぜ「声」なのか、「声」が企業課題にどう役立つのか、さらに深掘りしていきます。

緒方氏西井氏対談画像
この対談はオンラインで実施しました。

声の力で、人と人をつなぎたい

西井:私と緒方さんが初めて出会ったのは、2015年頃でしたよね。まだVoicyを創業する前でしたが、ボイスメディア事業の可能性を熱く語り、「声で革命を起こす」とお話しされていたのを覚えています。その後2016年にVoicyを立ち上げ、2019年には電通も一部出資をさせていただきました。

その後「Voicy」の事業を拡大されていく中で、企業向けのサービスも開発されていると聞き、BDSのインナーアクティベーションの取り組みなどと掛け合わせられるかも、というお話になったんですよね。

緒方:はい。今回の「KOELUTION」の開発には、大きく分けて二つの背景があります。一つは、ボイスメディア「Voicy」の運営を通じて、ニーズに気づいたということです。

これまで音声コンテンツといえば、ラジオ局などでプロが音声を収録するものでした。それを大衆化したのが「Voicy」です。活字メディアも、かつては記者が文章を書いていましたが、ブログの登場によって一般の方でも発信できるようになりましたよね。同じように、「Voicy」の誕生により、誰もがネット上で話を聞き、聞かせられるようになりました。

そこで気づいたのが、声が持つ「人と人をつなげる力」です。声によるコミュニケーションには、発信者と受信者の距離が近くなったり、発信者への信頼が高まったりする効果があります。そこで、声の力を組織に生かせないかと考えました。

現在、多くの企業の経営層が、「会社の理念、事業のビジョンが現場に届きにくくなっている」という課題を感じています。そこで、まずは「声の社内報」システムをつくることに。社内のメンバーだけに声を届け、誰がいつ聞いたか、どのタイミングで離脱したかというデータも取れるようにしました。

西井:そこで、私たちのチームに相談いただき、組織の課題解決のためにどのようなコンテンツをつくればいいのか、どのように運用すればいいのか、聴取データを活用し、より多くの企業に役立つパッケージにしたのが「KOELUTION」ですね。もう一つの背景についても教えてください。

緒方:もう一つは、世の中の流れです。昨今のコロナ禍でリモートワークが進み、従業員が不安や孤独を感じるケースが増えています。このままドライにリモートワークを推進すると、組織としてのつながりが弱まることに。このタイミングで、声を使ってコミュニケーションをDX(デジタルトランスフォーメーション)する必要があると感じました。

また、働き方改革が進み、効率的な働き方を求められるようになったことも大きいです。労働時間を減らさなければならないのに、退職者を減らして社員を維持するにはエンゲージメントを高めなければなりません。その結果、1on1ミーティングに多くの時間を割いている企業も多数あります。

効率化を求め過ぎると、会社の温かみが失われ、無機質なつながりになってしまいます。声によるコミュニケーションを投入すれば、事業のビジョンを伝えたり、社内文化を醸成したりできると考えました。

西井:「KOELUTION」の立ち上げに際して、企業のトップ20人にアンケートを取りましたよね。「社内コミュニケーションに課題がある」と感じている方は75%。中でも「経営層と現場の社員の断絶」を問題視されている方は、60%に上りました。皆さん、社内コミュニケーションが課題だと認識しているけれど、現状の手法ではまだ解決できていないという発見がありました。

経営者への調査

西井:BDSでも、企業を内側から動かすインナーアクティベーションに取り組む機会が多いのですが、やはり社内コミュニケーションに課題を抱える企業が多いです。しかも、コロナ禍でリモートワークを推進した結果、さらにこの課題が大きくなっていると感じます。緒方さんも企業経営者ですが、どのような実感がありますか?

緒方:みんなが「与えられたタスクだけこなせばいい」と考えると、会社が業務委託スタッフの集まりのようになってしまいます。新しい仕事は取りに行かない。未来のことを考えない。社員が一丸になる機会も、大きく減りそうです。

経営者としては、社員みんなに「働いてよかった」と思ってもらいたいし、仲間意識を感じてほしいんです。仕事は、労働時間・労働量をお金に換えるだけの作業だとは思いたくありません。世の中が、こうした思いと逆行しつつあることに怖さを感じます。

「声だけ」だからこそ、伝わるものがある

西井:そもそも緒方さんは、なぜ声を使った事業に関心を抱いたのでしょう。声の魅力はどこにあると思いますか?

緒方:情報は、手でつくったものを目で入れるか、口でつくったものを耳で入れるかの2パターンしかありません。前者は、情報を文章に変換して表現するので、発信者の“本人感”が失われます。発信者ではなく、ライターや編集者が文章化する場合は、なおさら本人の思いや感情が伝わりにくくなります。

一方、声の場合、話した内容がそのまま相手に伝わります。しかも、口から発した音がその振動情報とともに直接相手の身体に入り、物理的に鼓膜を揺らすんですね。ある意味、非常に気持ち悪くて、非常に気持ちいいコミュニケーションです。例えば、黒板を爪でひっかく音なんて、想像するだけでゾワッとしますよね。ああいう感覚を味わえるのは、耳から入る音や声だけ。そんな身体性が、声の魅力だと思います。

西井情報を伝える場合、動画という手法も考えられますよね。「KOELUTION」が、音声ソリューションであることのメリットをお聞かせください。

緒方:情報発信は文字、音声、動画の三つに大別できます。音声は、非常に手軽ですし、余計な情報が入りにくいですよね。その上、感情もリッチに届く。この3点がメリットです。

文字の場合、語弊がないよう文章で表現するのはなかなか大変です。しかも、日本人の国語力は年々下がっているため、文章を誤解し、真意をくみ取れないまま会社に対して文句を言う社員も。でも、声でメッセージを伝える場合、文法は正しくなくても「これ、めちゃくちゃ大変だけど、頑張ってほしいんだよね」と言えば、意味も感情も伝わります。普段の話し言葉そのままでしゃべるだけで、前後の文脈を含めてメッセージを届けられるんです。

動画の場合は、余計な情報が多くなります。「今日は元気ないな」「背後に映っているアレは何だろう」など、いろいろ気になってしまうんです。海外の研究でも、内容を理解するだけなら動画よりも音声の方が効果的だという結果が出ています。本当に伝えたいことだけをリッチに届けられるという点で、音声の方が優れていると考えられます。

西井:動画から映像を取り除いたものが音声、というわけではなく、音声ならではの効果がありますよね。

緒方:はい。音声と動画は、まったく違うものです。動画は、目で見た世界をそのまま届けるコンテンツ。音声は、耳で受け取った感情をそのまま受け止めるものだと思っています。例えば、「うわー、めっちゃおいしい」と棒読みで言っても、「いや、おいしいと思ってないな」とすぐに分かりますよね。声からは、話し手の感情の揺れ、思考回路、本気度が、丸ごと伝わってしまうのです。そこに新しい価値があると思っています。

西井:しかも、音声は手軽に発信できるのも魅力です。社長のメッセージ動画を配信するとなると、まず社長の予定を調整し、撮影準備、撮影、編集、確認、修正と多くのプロセスがあり、少なくとも1カ月以上かかります。こうした作業量を圧縮できるのが、声を使うメリットでもありますよね。

しかも、使うのは耳だけ。違う作業をしながら「ながら聞き」ができます。リスナーの時間を奪わないコミュニケーションツールだと思います。

緒方:車の運転中や通勤中にメッセージを聞けば、モチベーションが高まる効果もあります。女性からは、「メイク中に聞けるのがいい」という意見もありました。

西井:例えば運送会社のドライバーように、「手と目を使っているけれど耳は空いている」という仕事には特にフィットするサービスですね。

継続的な音声コンテンツ制作を促すサポート体制

緒方:発信する側が、気軽に話せるような工夫も凝らしています。「えー」とか「あー」と言ってもかまわない。なんならお茶を飲みながら話してもいい。5分のコンテンツをつくるのに、10分かからないという手軽さです。

とはいえ、話のプロではない方に、いきなり「しゃべってください」といってもなかなか難しい。話すネタ、もしくは聞いてもらえるネタをどうつくるか、その点はBDSと相談しながら解決していきました。

西井:「KOELUTION」のオリジナルメソッドとして、まずSTEP1で「100 QUESTION」に答えていただきます。私たちは「企業の魅力再発見診断」と呼んでいるのですが、100の質問を通してその企業の課題をあぶり出し、カルテを策定するんです。ここで聞いたことが話すネタになりますし、誰が話すべきか発信者の抽出もできます。一気通貫で番組を開発できるサービスだと思います。

続くSTEP2では、導入企業に編集企画チームをつくっていただきます。「KOELUTION」では、コンテンツを継続的に配信し続けることが重要なので、そのためのチームづくりです。必要に応じて社内横断チームをつくっていただくこともあれば、広報の方にリードしていただくことも。内定者や新入社員とのコミュニケーションに特化した「KOELUTION For Recruiting」では、人事部の研修担当者がリードしていくことも想定しています。

その上で電通のクリエイターが加わり、「伝える」ではなく「伝わる」コンテンツをつくっていきます。「チャンネル名をどうするか」「導入で何を話すか」ということまでサポートします。さらに、テクニカルサポートチームとしてVoicyも参加。自社、Voicy 、電通の3社による運営体制がポイントです。

サービスの流れ

緒方:音声コンテンツがアーカイブとして残ることも、大きなメリットですよね。創業者の現役時代の声や、創業10周年の社長メッセージなどが、会社の歴史とともに残っていく。アーカイブが会社の資産、宝物になっていくと思います。

西井:放送ごと、チャプターごとにデータを取れるのも、大きな特徴です。当月のリスナーの増減、社員が何曜日に何時間コンテンツを聞いたかなど、細かいデータを取り、毎月レポーティングしていきます。そのレポートを見れば、どのタイミングでどういうふうに聞かれているかが分かり、今後どんなコンテンツを出せばいいのか次の発信に生かすことができます。

声を使えば、ITでも温かみを表現できる

緒方:「KOELUTION」のサービスは開始したばかりで導入効果はまだ測定できていませんが、現時点では発信に手間がかからない点を高く評価していただいています。リスナー側からは、「トップの思いが聞きたかった。ありがたい」という意見も。もともと会社に対してロイヤルティーを持つ方の意識がさらに高まり、ニュートラルだった人が「やっぱりこの会社、好きだな」と思っていただくきっかけになっていると思います。

「KOELUTION」の前身にあたる「声の社内報」サービスの話になりますが、ある企業ではメインMCを3カ月ごとに交代しているそうです。MCを担当するメンバーは、どうすれば社員に聞いてもらえるか考えるので、会社へのロイヤルティーも圧倒的に高まったそうです。

これまでは経営企画チームに入らない限り、会社をより良くしようと考えることもなかったでしょう。でも「声の社内報」の制作に携わることで、主体的に会社の未来を考える人を増やせたという意見を頂きました。「KOELUTION」でも幅広い効果を期待していますし、他の用途にもどんどん転用できたらいいですよね。

西井:DXが進む中で、声で解決できることはまだまだたくさんあると思います。例えば、採用レター。転職する際、「この会社で大丈夫?」と奥さんが反対する「嫁ブロック」も多いそうです。そんな時、転職先の社長から「あなたのことをこれほど評価している。ぜひ働いてほしい」とボイスレターを送ることで、「嫁ブロック」を回避できたという事例もあると聞きました。

感情や熱量、トーンが伝わる声のコミュニケーションが良い効果をもたらすケースは、至る所にあります。そこに「KOELUTION」が応えられたら、と思います。

緒方:やっぱり、声には温かみがあるんですよね。声を使えば、ITでも温かみは表現できるはずです。

西井:私が「KOELUTION」が好きな理由も、デジタルなのに温かいから。リアルVSデジタルという二項対立になりがちですが、このサービスは緩やかなグラデーションを描いているんですよね。温かみとグラデーションのあるコミュニケーションの導入によってさまざまな課題を解決し、声の温かみを多くの方に感じていただきたいですね。今後ますます音声市場は伸びていくと予想されますが、緒方さんはどのような展望をお持ちですか?

緒方:ボイスメディア「Voicy」は、日本最大級の音声メディアプラットフォームを目指しています。スポンサーやリスナー課金によるビジネスモデル、音声でのレコメンドサービス、データ収集に関しては、業界トップを走っていると自負しています。

今後のミッションは、発信者の使いやすさをさらに追求し、「魅力的なコンテンツがあふれているからこそ、たくさんのリスナーが集まる」という状態にすること。声のある生活を浸透させ、「なぜ昔は、目だけで情報収集していたんだろう」という時代をつくりたいですね。

西井:電通と組むことで、どのような効果を期待していますか?

緒方:企業が、声に対してお金を払う時代をつくりたいと考えています。「Voicy」でも企業の番組がスタートしましたが、声によるブランディング、ボイスマーケティングができるようにしたいですし、サウンドロゴなど耳に訴えかけるコンテンツはたくさんあります。広告業界だけでなく、コンテンツ業界、エンタメ業界を含めて市場規模は大きいため、電通と一緒に何ができるか開発を進められたらうれしいですね。

西井:音声市場は、数年以内に必ず急成長すると思っています。その際、電通が広告領域に限らず、人と人、人と企業、企業と企業の間の関係づくりに関われたらいいですね。動画市場が急拡大した時のように、声で生きていく人が増えることも考えられます。そういった生き方の提案もできたらうれしいです。


「KOELUTION(コエリューション)」リリース:
「声」で企業の経営課題を解決するサービス「KOELUTION(コエリューション)」を開発