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「キャリアデザイン」って、なんだ?No.4

道は、決して一つではない

2021/02/25

「アルムナイ」という取り組み(制度)を、ご存じだろうか?元々は、「卒業生/同窓生/校友」を意味する言葉で転じて、「企業のOBやOGの集まり」を意味するようになった。海外では、一度、企業を離れたアルムナイを、貴重な人的資源して有効活用することが、ごく普通に行われている。本連載では、そうした「アルムナイ」をこれからの事業戦略の核たる制度として捉えていく潮流を紹介。「キャリアデザイン」というものの本質に迫っていきたい。#04となる今回のゲストは、ハッカズーク代表取締役CEO鈴木仁志氏です。


「手段」と「目的」の見極めが大切

カナダの大学を卒業した後、グアムやシンガポール、中国などで仕事をしてきました。そうしたバックボーンから、僕の仕事のベースである「人事」や「採用」に「海外」と「テクノロジー」をいかに掛け合わせるか、を意識しています。僕は「人事」「海外」「テクノロジー」を軸に選びましたが、例えば外国語がしゃべれるようになったり、SNSを使いこなせるようになったりしても、自身のキャリアを前に進めるための「手段」を手に入れたにすぎません。それをもって自身のキャリアが前に進んだわけではないんです。

鈴木仁志氏
メディアの取材に応える鈴木仁志氏

大切なことは「自分自身がどうなっていきたいのか」という目的であって、人事もグローバルもテクノロジーも、その目的を果たすための手段でしかない。100人いたら、100通りの目的があって当然。その目的を果たすために、世界とつながろう、ITを駆使しよう。そう考えることから、始めるべきだと思うんです。それなのに、人も企業も社会も、みんなが「グローバルやテクノロジーを意識しなくてはいけない」と、「画一化」へ向かってしまっているような気もして。それ自体が目的のように思ってしまうのは違うと思うんですよね。

「キャリアデザイン」って、なんだ? #04 タイトル

自分らしい人生、とは?

働き方改革も同じで、本来は手段でしかないのに、多くの企業や人にとって目的になってしまっている。働き方を緩めようとした結果、「ゆとり労働」などという新たなワードも生まれ、「働き方改革」という言葉自体、手あかがついてきた感覚すらあります。

僕の考え方としては「人生の選択肢が広がっている」のが何より大事なこと。さまざまな手段を使うことで自分の人生を自分自身で決められる。これって素晴らしいことだと思うんです。もちろん、道半ばではありますが、そうしたそれぞれが持つ理想へ向かってみんなで進んで行こうよ、というのが働き方改革の本筋だと思うんです。

そうした発想が社会に根づいていけば、個人にとっては目的を達成するための手段が選びやすくなって、自分の人生を自分で描きやすくなる。そうなれば、企業もより豊かになれるはずだと僕は信じています。働き方改革といわれるものの本質は、そこにあるのではないでしょうか。

「広がっていく人生の選択肢」その一例
「広がっていく人生の選択肢」その一例

「巻き込まれること」に価値がある

父親からはよく自分の意思を問われていました。こうしろ、ではないんですよね。「どうなりたいんだ?」という問いかけです。でも、それこそが、一番難しい。明確な目標を持てる人間など、ほんの一握りです。だから、みんな悩む。でもあるとき、父親の言葉をこう考えたらいいんじゃないか、と思ったんですね。「おまえの人生、おまえ自身が責任持たないでどうするんだ?」と。これってつまり、考える時間、猶予を与えられている、ということなんですよね。少し気が楽になると同時に、不安にもなりました。メジャーリーガーになる、みたいな一本道は凡人には見えません。これだ、という才能もない。そのとき思ったのが「であれば、何かに巻き込まれてみよう」ということです。

自分で「この道に進むぞ」と仲間を集めて巻き込んでいくだけではなく、「この道に進もうよ」と巻きこまれる選択肢もあるわけです。他人を巻き込め、とはビジネス界でよく言われる格言みたいなものだと思うのですが、発想としてはその逆。そして、巻き込まれる存在になるためには、目の前のことを懸命にやりつつ、自分がやっていることを発信するのが大切です。

何かに巻き込まれるということは「疑似体験をさせてもらっている」ということで、これはとてもぜいたくなことだなあ、と気づいたんですよね。ああ、こんなやり方もあるんだ。ということをその都度、教えてもらえる。その疑似体験を参考に、自分の人生の道筋を決めればいいと思うようになりました。

Tシャツ姿の鈴木仁志氏
Tシャツも、あえてインパクトのある表現をして巻き込まれることを狙っている?

アナログとは、ラグジュアリーなものだ

最近はあらゆるものがデジタル化されていますが、僕は「アナログとは、ラグジュアリーなものである」と思っています。店舗でデジタル注文することに抵抗はなかったとしても、商品を受け取る時はロボットではなく、人から受け取りたいと考える人は一定数いるのだと思います。そういう意味で、アナログは価値がある。

仕事も同じで、昨今、仕事の仕方や成果評価など、あらゆるものがデジタル化されていて、社会全体もそれに慣れてきてしまっている。例えば人事でいうと、A Iで社員評価を完結するとします。AIはデータとアルゴリズムを掛け合わせて意思決定をするわけで、人が感覚的に判断するよりも公平であるという意見もある。ただ、人事がアルゴリズムを理解せずに「A Iで評価しました」とだけ言われるのは、感情的に嫌な人もいますよね。だからこそ上司などが「こういうロジックで評価していて、私はこう考えている」と、人が説明をすることも重要。それこそがアナログのラグジュアリーさ、だと思うんです。

コロナによって、リモート会議でも結構、仕事ってできるんだな、みたいな風潮になっていますが、僕は逆に、コロナによってアナログの大切さを再確認させられたように感じています。人と人との触れ合いって、ただデジタルデータの交換をすればいい、というものではないですから。

ハッカズーク社員との集合写真
アナログのラグジュアリーさを共に提供する仲間たち

アルムナイとは「ほどよい距離」を生むための仕組み

僕は「人事」「海外」「テクノロジー」を軸にキャリアを築いてきて、今は「アルムナイ」をテーマとした事業をやっています。そこで目指したいことは、人生を豊かにするための「つながり」をつくりたい、ということなんです。つながるか、つながらないかというゼロかイチかではなく、あの人の意見を聞いてみたい、というときにつながりを強くするために普段から弱くつながる、というアナログな関係性です。人と人との心地いい関係は、ほどよい「距離感」にあるのだと思います。夫婦でも、恋人でも、親子でも、企業との関係でも、「ほどよい距離」と「ほどよいマインドシェア」が、大事。

アルムナイとは、ずっと強固なつながりを維持するものではなく、その時々で関係に強弱を付けられるもの。「0」でも「1」でもない、ほどよい関係、ほどよいつながり。退職したら、はい、さようなら。あなたと私は、もう無関係です。では、さみしいじゃないですか。個人のキャリアの道は決して一つではないのですから。企業と人との「ほどよい距離感」をいかに育むか。アルムナイの本質は、そこにあるのだと思います。

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電通キャリア・デザイン局(当時)大門氏と、電通OB酒井章氏(クリエイティブ・ジャーニー代表)によるアルムナビでの対談記事は、こちら