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中小企業は、心を動かすコンテンツメーカーNo.6

智辯和歌山式、中小企業経営者に響いた「六つの考え方」

2021/02/17

中小企業とのコンテンツ開発事例や、私が体験した心が動く中小企業プロジェクトを紹介する本連載。

これまで私は1000人以上の中小企業経営者と会ってきました。その皆さんと話す中で最も深く共感いただけた考え方があります。今回は毛色を変え、自身の企画開発にも活用している、そんな「六つの考え方」をご紹介します。

突然ですが、私は智辯和歌山高校の野球部出身です。恩師の髙嶋仁先生(前監督)は、100年を超える高校野球で史上最多の甲子園勝利記録(68勝)を樹立。高校野球の常識とかけ離れた独自のアプローチを次々と打ち出し、少数精鋭で成果を生む智辯和歌山の話には、中小企業の経営と通じる部分があるようです。

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髙嶋先生と筆者(高校3年生当時 卒業式前)
智辯和歌山高校甲子園
甲子園出場時の筆者

六つの考え方(1) 人数より、結束力

 

智辯和歌山の野球部員は1学年10人限定でした。いわゆる強豪校では100人以上の部員を抱える学校も多い中、髙嶋先生はあえて30人に絞るという策をとります。これには、「3年生は全員ベンチ入りさせる」「下級生を試合に出して甲子園を狙い続ける」「全員の進路の面倒を見る」「1人当たりの練習量を最大化する」といった狙いがあります。

そして、これらの共通点が「部員の気持ち重視」ということ。苦しくても「希望がある」と思えるからこそ頑張れるし、何より、選手を一番に考えていることが、この「仕組み」から伝わります。だから先生と生徒の信頼関係が崩れにくいのです。

「モチベーションマネジメント」を「仕組み」で強化し、少人数で成果を生む。これは中小企業経営のみならず、大企業の新規プロジェクト開発にも通じるヒントです。

六つの考え方(2) 短く伝える

 

髙嶋先生の話は、簡潔でインパクト大です。広告コピーも短い方が印象に残るといわれますが、まさにそれを高校時代に体感しました。

例えば、私が入部早々、先生に言われたのは「君はうちで通用しない。辞めた方がいい」という言葉です。理由は簡単に補足(広告でいうボディーコピーのようなもの)がありましたが、最初の言葉が印象的過ぎて、結果的に3年間の原動力となりました。

また、2年生の時、甲子園前の練習でエラーした際、「おまえは一生使わん!」と言われて深く傷ついたことも(笑)。「森本なんか初球からガンガンいっとるで」と珍しくほめられたときのうれしさも、昨日のことのように鮮明に覚えています。

言葉を選び、短く伝えるから、気持ちが動く。気持ちが動くから、印象に残る。印象に残るから選手は自分の頭で考えるようになる。これは社内コミュニケーションにも生きる考え方だと思いますし、有力経営者と会話しても、「自信のある人の話は短い」は共通している点だと感じます。

智辯式1

六つの考え方(3) 常識より、考えた非常識

 

智辯和歌山には、かつて高校野球で「非常識」といわれた多くの特徴があります。

前述の「少数精鋭」をはじめ、「複数投手制」もそのひとつ。1人のエースが連投で投げ抜くことが注目されがちですが、連戦を勝ち抜くために智辯は必ず3~4人のピッチャーで回します。

また、「ゴロを打つな」という教えもあります。これは少し専門的な話になりますが、0死か1死でランナーが3塁にいる場合、ゴロでヒットになるのは結果論であり、チャンスをつぶすリスクがある。しかし、ライナーかフライを打てば確実に点が入る。うまく外野の頭を越せば大量得点にもつながるという考えです。

また、「全校応援」も欠かせない強みです。夏は県予選の1回戦から全校生徒で応援を行います。それも、他校が演奏しないオリジナル曲に加え、甲子園に行くと名物の「C」の人文字もあります。

智辯和歌山高校応援

(私が2016年に立ち上げた「社歌コンテスト」は、智辯の野球応援から着想を得ています。オリジナル応援曲が組織の成果につながる、という体験から、「企業の歌=社歌 → 社歌で企業の課題解決」として企画展開)

これらは、「一発勝負の高校野球でどうすれば成果を生めるか?」という問いに対し、常識にとらわれずトライした結果です。

また、中にいて感じたのは、「考えた非常識から生まれるブランドは強い」ということ。強烈な個性は強烈なファンと、組織の底力を引き出します。ここにブランディングの本質があると分析します。

六つの考え方(4) 分解して、量を稼ぐ

 

恐らく、日本一の練習量をこなしているのが智辯和歌山です。私がいた当時は、スイング1日1000本、腹筋背筋2000回、100メートルダッシュ100本が基本で、時期によって、さまざまなメニューが追加されます。

最初にこの練習量を聞いたときは「無理じゃないか」と感じたのですが、これを可能にするためのコツがありました。それは「一気にやらないこと」。髙嶋先生の教えでは、例えば、バッティング練習の待ち時間が5分あれば、「今、その間に集中して(バットを)50本振るんや!」というもので、聞くところによると「細かい時間を有効に積み上げると、意外と簡単に量はこなせる」とのこと。

実際、簡単ではありませんでしたが(笑)、この考え方を取り入れてから、こなせる量と集中力が格段に増加しました。

VUCA時代に加え、コロナで働き方も多様になる中、空き時間をいかに有効活用できるかが成果を上げるポイントになります。「分解して、量を稼ぐ」という視点に立つと、今を大切にできるというメリットも生まれます。

智辯式2

六つの考え方(5) 相手をよく見る

 

髙嶋先生の印象を一言で言うと、「よく見ている」。助言がとにかく個別最適化されているのです。

甲子園の延長戦で私が打席に入る際、「おい、いつもより上からたたく意識でいけ」と言われ、その通りにすると甲子園初ヒット。県大会の9回1点ビハインド場面では、「おまえのスイング軌道は少しバットのヘッドが下がるから、ベルト周辺の高さに絞れ」と言われ、その通りにすると逆転ホームランが打てました。

また、慶應義塾大学に進学後、試験休み中に近況報告へ行った際には、「森本が試合に出るぐらいなら慶應も大したことないな」と、まだ何も話していないのに先生から先にコメントがありました。恐らく、卒業後も私が出場する試合をチェックしてくれていたのだと思います。

これらの経験で気付いたことがあります。それは、「言は、それ自体の正しさよりも、自分を見てくれていると伝わることこそが重要」ということ。無論、私が受けたアドバイスはどれも的確で、成果につながったわけですが、内容以上に「そこまで見てくれているなら応えたい」という思いを持てたことが大きかったのです。

年功序列、終身雇用が崩れ、さまざまな価値観が入り乱れる昨今。特別な何かをするよりも、まずは、身近な人を「よく見る」ことが大事なのかもしれません。

六つの考え方(6) 逆境から生まれる魅力こそ、心を動かす

 

智辯和歌山の代名詞が「強打」(=打ち勝つ野球)です。10点取られても11点取り返す。そんな強力打線が伝統です(私は甲子園通算打率1割台なので強打ではありませんが……)。大差で負けていてもファンは逆転を期待し、応援団も諦めず、選手は最後まで自分たちを信じます。しかし、この強打がなぜ生まれたのか?という点は多く語られていないように思います。

私の考えはシンプルですが「点をたくさん取られたから」だと分析します。つまり、逆境の数が圧倒的に多いがゆえに、それを乗り越える過程で「強打」というイメージができたと考えます。

今は先が見通しづらい、難しい世の中ですが、「逆境から生まれるものは強い」はどんな時代でも変わらない真理だと思います。

 

今回は少し個人的な内容に寄りましたが、物事の本質は普遍的であると信じています。

人生に必要なことが、このグランドには詰まっている

髙嶋先生の言葉が、17年たった今、響きます。

智弁和歌山ユニフォーム


(1)人数より、結束力
(2)短く伝える
(3)常識より、考えた非常識
(4)分解して、量を稼ぐ
(5)相手をよく見る
(6)逆境から生まれる魅力こそ、心を動かす

この六つの考え方が、中小企業経営はもちろん、さまざまな企画開発のヒントとして少しでもお役に立てれば幸いです。