読者が輝く広告とは?“破天荒プロデューサー”菊原氏の共創力
2021/04/13
中小企業のコンテンツメーカーとしての魅力や可能性を探る本連載。
今回話を伺ったのは、日本経済新聞社 メディアビジネス イベント・企画ユニット長を務める菊原周平氏。中堅・中小企業の活性化をテーマに電通と企画した「マルマルの女/15秒おしごとTV」「中小企業魂の声」をはじめ、「NIKKEI全国社歌コンテスト」「NIKKEI INNOVATIVE SAUNA」等さまざまな読者参加型コンテンツを牽引してきた人物です。
「読者を笑顔にし、勇気づける企画創り」をモットーとする菊原氏に、日経が中小企業を応援する理由や、読者の心を揺さぶるコンテンツメイキングのコツを、電通の森本紘平が聞きました。
読者ファーストな広告が、クライアントの利益につながる
森本:はじめに、菊原さんのこれまでの経歴を簡単に教えていただけますか?
菊原:1995年に日本経済新聞社に入社し、最初は西部支社で四年間、九州地方の広告営業に携わりました。その後、東京本社で広告・イベント領域の企画に従事し続けて現在に至ります。西部支社時代から広告の力を信じて、読者が読んで元気が出る企画を心がけていました。
森本:そのスタンスは現在に至るまで変わっていないですよね。菊原さんの“読者ファースト”な視点はどのようにして培われたのでしょうか?
菊原:入社当時は「お客様=クライアントのことを第一に考えろ」と教わりましたが、実際に現場で営業活動をする中で、「お客様のために尽くしても、読者からの反応がなければ本質的にはお客様のためにならない」と考えるようになりました。読者が喜ぶ企画、読みたいと思う誌面を作ることが結果的にお客様の利益につながることを現場で学びました。
日経は、毎月決して安くない購読料を読者の皆さまから頂いています。特に近年はお金を払わなくてもリッチな情報を得られるメディアがインターネット上に多数ある中で、自己投資のように日経を選んで買ってくださっている。そんな読者の皆さまに喜んでいただける情報提供や、ビジネスに役立つきっかけを提供することが、われわれの果たす役目だと思っています。
森本:ニュースのみならず、広告にも読者ファーストの精神が行き届いているのがすごいですよね。
菊原:はい、読者が経済的なアクションを起こす仕掛けや、日々の生活を豊かにするきっかけを作る広告であることが重要です。それが結果として、広告主であるクライアント企業の成長やビジネス発展にもつながると思っています。
日経は、全てのビジネスパーソンのプラットフォーム
森本:企業の新聞広告に25年以上携わってこられた中で、変化を感じることはありますか?
菊原:ここ最近大きく変わったと感じるのは、設立3年以内のベンチャー企業が日経に出稿する事例が急速に増えていること。ひと昔前の広告主は中堅以上の規模の企業がほとんどでしたが、今はベンチャーや中小企業の方々も日経をよく読んでいて、なおかつ日経で情報発信をしたいというニーズが生まれています。
森本:企画させていただいた「15秒おしごとTV」や「中小企業魂の声」などもそうですが、菊原さんが手がける企画は中小企業を対象としたものが多いですよね。率直に伺いたいのですが、どうして日経は中小企業を応援する企画を出し続けるのでしょうか?
菊原:今の時代、自社だけでビジネスをスケールさせるのは難しく、大企業も中堅・中小企業もベンチャーも、横のつながりや連携を模索しています。特に新しい企業の新しい発想や若い経営者ならではの視点、市場にはまだ出回っていないアイデアが求められているのです。
そのようなニーズに対して、中小企業やベンチャーの情報を提供することで経済の活性化につながり、情報流通のプラットフォームとして日経も成長できると考えています。
森本:今は企業の規模やステージに関係なく、あらゆるビジネスパーソンが日経というプラットフォーム上でお互いに情報交換し、新しいビジネスを模索する時代になったということですね。
中小企業企画と日経の使命に通じる、「一人ひとりの輝きを応援する姿勢」
森本:日経の広告って、インパクトの強いものが多いですよね。他のメディアやクライアントからも「日経の広告はすごい」という声をよく聞きます。菊原さんが広告企画の際に心がけていることはありますか?
菊原:新聞はニュース記事と広告で成り立っていて、前者は日経が独自に情報を取捨選択して一方的に発信するものであるのに対し、広告は広告主と読者が情報交換する場だと思っています。
限られたスペースの中で、広告主はどんな読者に何を伝えたいのか、最も効率よく伝えるためにクリエイティブはどうあるべきか。その最適解を一緒に知恵を振り絞って考えるのがわれわれの仕事ですが、私の場合は「どうすれば読者に振り向いてもらえるか」を常に考えています。
森本:一貫して「読者ファースト」なんですね。常識にとらわれない斬新な企画も多いですが、その“破天荒さ”の源泉はどこから生まれているのでしょうか?(笑)
菊原:ここまでやれば読者の目に止まる、という領域にチャレンジすることが大切です。なぜなら、心に残るほどのインパクトがなければ、新しいアクションにはなかなか結びつかないからです。
それから、読者参加型の企画も心がけているポイントです。広告を見てもらうだけで終わるのではなく、実際にアクションしてもらう仕掛けまで作る。徹底的に読者のことを考えていれば、どんなに思い切った企画でも怖くありません(笑)。
森本:菊原さんの中に、明確な判断軸がありますよね。50〜60%の状態の企画案を菊原さんに相談すると、その会議の中でほぼ100%カタチになるのがいつも不思議なんです。
菊原:面白い企画は誰か一人のアイデアではなく、いろいろな人のアイデアと対話によって生まれると思うので、日々の一期一会の会議で何かを生み出そうと貪欲になる姿勢が大切ですよね。
森本:「中小企業魂の声」の「魂の声」という言葉も、菊原さんのアイデアから生まれました。あの一言で、メンバー全員の共通イメージが作れた気がします。企画の良し悪しはどうやって判断されているのでしょうか?
菊原:大きな判断軸となるのは、企画者自身が新聞を好きかどうか。つまり、読者の立場で考えられた企画であることが大事なんです。森本さんも新聞、大好きですよね?
森本:はい(笑)。
菊原:それから、森本さんの企画に共通するのは、一人ひとりに何かしら輝くタレント性があるという前提のもと、何かを成し遂げたい一人ひとりが輝けるように応援するというもの。これは、働く人たち全員を応援し、経済を活性化していくという日経の使命に通じるものがあります。
「中小企業魂の声」も「社歌コンテスト」も提案を頂いたとき、「これは日経がやるべき企画。日経がやらないでどこがやるんだ」と思いました。だから、森本さんの企画はいつも断れないですよね(笑)。
誰もが幸せになる新聞広告を。新聞広告のダイバーシティとは?
森本:2021年4月、菊原さんはイベント・企画ユニット長に就任されました。今後どのようなことにチャレンジしたいですか?
菊原:これから日経は、新聞広告のダイバーシティを強力に推進していきます。誰一人として取り残さず、企業の背中を押して、全ての人を幸せにする広告を応援、企画、推進していく。そのシンボルが社歌コンテストであり、中小企業企画であると思っています。
森本:社歌コンテストは2020年の新聞広告賞(新聞社企画・マーケティング部門)を受賞しました。栄誉ある賞を頂けたことで、「企業の背中を押す」という日経の本質的な価値を改めて世の中に広く発信できたのではないかと思います。
菊原:新聞広告賞の入賞作品は本当に素晴らしい企画ばかりで、いつも感動しています。その中に選んでいただけたことは非常に光栄ですよね。他の新聞社とも一丸となって、新聞業界を盛り上げていきたいと改めて思いましたね。
森本:素敵ですね。新聞業界に対する思いやビジョンはありますか?
菊原:一番の課題は、若い人たちに新聞を読んでもらうことです。これはどこの新聞社も抱えている最大の難問です。この課題に正面から向き合って挑戦する企画を森本さんと一緒に作りたいですね。
森本:それは是非、ご一緒したいです!デジタル社会の中で、新聞というメディアの在り方自体も変わっていくでしょうが、「日本経済の背中を押す」という日経の本質を踏まえた施策を生み出し続けることができれば、それこそ、「企業応援コンテンツメーカーNIKKEI」という唯一無二の存在でいられると信じています。
従来の日経らしさとは異なる視点や、新聞社では全くやってこなかった新しいコンテンツこそ面白いと思います。斬新だけれど、本質的には経済活性化につながる。そんな企画があれば、新聞社があらゆる世代の心を動かすことができるかもしれません。
菊原:いいですね、やりましょう!
森本:今後ともよろしくお願いいたします!