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2021/05/13

メンタルダウンの仕組みが見えてきた

メンタルダウンの仕組みが見えてきた

「withコロナだからこそ必要な『感情のコントロール』を、ホルモン変動と脳波から考える」と題したウェビナーが、2021年4月19日に開催された。講師は、脳波から感性を可視化する研究の第一人者である慶應義塾大学・満倉靖恵教授。20年近く生体信号の研究に携わる満倉教授は、電通サイエンスジャムと共同開発した、脳波計測技術を活用したリアルタイム感性把握ツール「感性アナライザ」でも、注目を集めている。
ヒトの感情に重要な働きを及ぼすホルモン変動と脳波の関係とは、一体、いかなるものなのか。そしてその計測方法は、人間社会やその未来にとって、いかなる可能性を秘めているものなのか。コロナ禍におけるさまざまな抑制で感情への負荷が強いられている今、「医工連携」をテーマとする満倉教授の講義の内容は必見である。

満倉靖恵氏:慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授/慶應義塾大学医学部精神神経科学教室兼担教授/電通サイエンスジャム CTO 満倉研究室では医工連携に注力。工学だけでも医学だけでもできない研究を行っている。脳波をはじめとした生体信号解析、脳波によるリアルタイム感情認識、脳神経科学、認知症発生メカニズムの解明、遺伝子解析、ゲノム編集、睡眠解析、音声認識・画像処理などをキーワードとした幅広い分野での研究は、医療のみならず、商品開発や企業のブランディングなど、さまざまな応用が期待されている。
満倉靖恵氏:慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授/慶應義塾大学医学部精神神経科学教室兼担教授/電通サイエンスジャム CTO
満倉研究室では医工連携に注力。工学だけでも医学だけでもできない研究を行っている。脳波をはじめとした生体信号解析、脳波によるリアルタイム感情認識、脳神経科学、認知症発生メカニズムの解明、遺伝子解析、ゲノム編集、睡眠解析、音声認識・画像処理などをキーワードとした幅広い分野での研究は、医療のみならず、商品開発や企業のブランディングなど、さまざまな応用が期待されている。

「定性的」な事象を「定量化」することで、物事の本質が見えてくる

ウェビナーの冒頭、満倉教授は「37%」という数字を提示してみせた。果たしてこの数字、なんだと思いますか?と。答えは、質の高い睡眠をとれている日本人の割合。よく眠れているか、ということはしばしば「定性的」なこととして処理される。でも、「37%」という具体的な数字(=定量的なデータ)を提示されると、ちょっとドキッとするのではないだろうか?

たとえば、ストレスや高揚感といったものを「定量化」できたとしたら、それは今日という日を生きる上での大いなる指針となる。「なんだか気分が乗らないな。でもまあ、今日も頑張るか」ではなく、その「なんだか」の正体を具体的な数値で示す、ということだ。

そもそもストレスとは、何なのか?満倉教授の講義は、ここから始まった。「端的に言うと、自律神経の働きを乱すものなんです」。ここまでは分かる。でも、「人間の脳は、これはイヤだなと思うものを視床下部で判断し、交感神経を刺激します。その興奮状態は、脊髄を通って副腎に達し、その副腎で生成された、ストレスと戦うためのエネルギーとなるアドレナリンやコルチゾールが血液に入って全身に届けられ……」となってくると、素人にはもう、お手上げだ。

ここで、迷える受講者に対して満倉教授から、救いの手が差し伸べられた。「要するに、人間というものは、強いストレスを感じると体の平衡状態を保とうとするんです」。落ち着かなきゃ、というときに深呼吸をする。人前であがらないように、てのひらに人という字を書いて飲み込んでみる。これらに「科学的な根拠」があるのだとしたら、ぜひ、教えていただきたい。「定性的」な指摘ではなく、あくまで「定量的」な分析として、だ。

「ホルモン」が変わると、「気持ち」は変わる

「ものすごく共感していただけるのは、女性の生理の話だと思うんです」という満倉教授。生理周期によって、女性がイライラするということは、男性でもなんとなく分かる。でも、それを「定量的」に示すデータを見た記憶はない。だから、女性特有のヒステリーなんだろう、とか、これだから女性の上司は扱いづらいんだよ、みたいなことになったりする。いわゆるジェンダー問題の難しさの、一つの大きな要因だ。「違うんですよ。科学的にそれは、明らかなことなんですよ。ということを、ぜひご理解いただきたいんです」

「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」のサイクル図

女性の生理は一般に、およそ27日周期で「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」というサイクルを繰り返す。ここまでは、男性でもある程度、理解できる。「でも、明るく前向きな気分になりやすい『卵胞期』とイライラがつのる『黄体期』では、物事に対する集中度が8%も変化するのだ、という定量的なデータに触れたことは、おそらくありませんよね?」

満倉教授によれば、たかが8%ではないのだという。「企業でいえば、売り上げが前年比で8%ダウンした、となったら役員が解任されるくらいの話ですよね?それくらいのことが、女性の体では、27日のサイクルで起こっている、ということなんです」

なぜ、そんなことが起こるのか。それには、本ウェビナーのテーマである「ホルモン」が密接に関係している。そしてその「ホルモン」は、女性に限らず「人の気持ち」というつかみどころのないものの正体にも、大いに関与しているというのだ。

「更年期障害」「うつ病」「アルツハイマー」など、人類が克服すべき課題は、まだまだたくさんある。

女性の生理の話を入り口に、満倉教授の話は、どんどん広がっていく。「現代医学は万能であるといった認識は、妄想です。『更年期障害』『うつ病』『アルツハイマー』など、その原因や完璧な治療法が確立されていないものは、山ほどあります。それらを突き詰めていくと、そもそも人間の感情とは、どうやって生まれるのか?ということに行き着くんです」

感情は科学できるものではない、と思われてきた。良性腫瘍のように、外科的な措置をほどこして除去してしまえばとりあえず安心、というものではない。でも、脳波は確実に、なんらかの信号を発している。それを解析できれば、人類がいまだ解明できていない病気も克服できるのではないか。それが、満倉教授の研究の本丸ともいうべきものなのだ。

満倉教授の研究室で開発された「感性アナライザ」は、興味、好き、集中、ストレス、沈静度などを「定量的」なデータとしてはじき出すことに挑戦したものなのだという。

世界初の脳波によるリアルタイム感性把握ツール「感性アナライザ」
世界初の脳波によるリアルタイム感性把握ツール「感性アナライザ」

「もちろん、これをもって完成だ、というレベルには達していません。でも、たとえば、普段は心を閉ざしている人が、ふとした瞬間にみせるとびっきりの笑顔、みたいなことってありますよね?そのとびっきりの笑顔の正体が分かれば、人生をよりよく生きるための術が、具体的に見えてくると思うんです。これは、対症療法のような話でも、精神修養みたいな話でもありません。人の感情には、ホルモンが深く関与している。そのホルモンをより深く知り、解析することができれば、人生を、社会を、あるいはビジネスというものを、より豊かにできるということなんです」

脳波は、人の脳細胞の活動により生じる電気信号であり、頭皮上に電極を装着することで計測される。一般的に使用される脳波計が、機器の大きさから実環境での計測が困難とされているのに対して、「感性アナライザ」はコンパクトな単極型の脳波計測機を用いることで実環境での脳波計測が可能。
脳波は、人の脳細胞の活動により生じる電気信号であり、頭皮上に電極を装着することで計測される。一般的に使用される脳波計が、機器の大きさから実環境での計測が困難とされているのに対して、「感性アナライザ」はコンパクトな単極型の脳波計測機を用いることで実環境での脳波計測が可能。

「医工連携」は、ある意味「文学」「芸術」への挑戦である

人の心を揺さぶるのは、数字でもなんでもなく、たとえば「文学」であったり「芸術」であったり「スポーツ」であったり、といったものだと思う。でも、そうしたものに人はなぜ感動するのだろう、なぜ心を癒やされるのだろう、ということを「定量的」に分析したものは、これまでになかったように思う。

「例えば、お年寄りの女性がメークをするだけのことで、驚くほど若々しくなることがあります。定性的な分析でも、ある程度、そうなんだろうな、ということは分かりますし、ホルモンがどうしたと難しいことを言わなくても、それはまあ、そんなものでしょう、という話です。でも、ポイントは、そこにこそあるんです」

満倉教授の説明を、分かりやすく解説するならば、「それはまあ、そんなものでしょう」の、それって、何だ?まあって、何だ?そんなものの正体とは、一体何なんだ?ということ。確かに、お年寄りがメークをすることで、何の数値がどれほど上がったのか、という「定量的」な分析は、あまりなされていない。「いくつになっても、女性だもの。メークをすれば、そりゃ、気持ちもあがるってものでしょう」の「そりゃ」って何なのだ?ということだ。

「更年期障害にしても、そうです。女性の多くが『崖から突き落とされる感じ』、男性の場合でいうと『坂道を転がり落ちる感じ』と表現されるその感じを、具体的なデータとして明らかにすることができれば、不快さを克服するための手段も見えてくるはず。ハラスメントにまつわる問題もそうですが、たとえば『心の痛み』(=メンタルダウン)は、これまで『文学的』なものとして扱われてきました。昨今では『法的』なさばきがそこに入るようになってきましたが、根本的な問題が解決されたとは言えません。そもそも人は、どうして興奮するのか。どうして心に痛みを覚えるのか。その鍵は、『ホルモン』の分析にこそある、と私は考えています」


失恋したとき、海を眺めたくなる気持ち。震えるほど切ないとき、星に願いをかける気持ち。その気持ちを、最先端の科学が救ってくれるのだとしたら、これほど心強いものはない。

「感情アナライザ」については、こちら
電通サイエンスジャムのHPは、こちら

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