日本の広告費No.1
「2013年 日本の広告費」解説
2014/02/20
電通が毎年まとめ、業界の注目を集める「2013年 日本の広告費」がこのたび発表されました。「アベノミクス」の効果はいったいどこまで表れているのか。媒体や広告主の業種ごとにどんな変化が生まれているのか。また、集計結果から見える今後の展望は。電通総研の北原利行が解説します。
【1】2013年の「日本の総広告費」概観
2年連続の増加。安定した成長軌道へ
昨年2013年(1~12月)の日本の総広告費は5兆9,762億円、前年比101.4%でした。
リーマンショック以降の4年間(08~11年)前年割れが続いたあと、2012年、2013年と2年連続して前年比増が続き、安定した成長軌道に乗り始めた感があります。個別分野では、テレビスポットのほか、屋外・交通広告、POP、展示イベントなどプロモーションメディアの広告が比較的好調でした。他に、BS、CS、CATVといった衛星メディア関連、インターネット広告も昨年と同様、順調に伸びています。
総広告費が安定的な伸びを示しているのは、「アベノミクス」効果による持続的な景気の回復傾向と、消費税増税前の駆け込み需要が主要因と考えられます。
総広告費は、GDPと非常に関連性が高く、GDPより3カ月から半年遅れて連動する経済指標(遅行指標)といわれてきました。アベノミクス効果が経済の末端まで広がるにはもう少し時間がかかるでしょうが、その中で、広告費においては、テレビのスポット広告がいち早く反応を示したといっていいでしょう。
プロモーションメディアは販売の現場に直結した広告が多いので、企業も注力していることが想定されます。POPなどはもともと安定成長している広告分野ですが、一時期の東日本大震災による自粛ムードから回復したことが全体の底上げにつながった側面もあるかと思います。
われわれは、広告費の推定調査をするに当たってきめ細かいアンケート調査と共に、各業界団体からのヒアリングも行いますが、生の声として伝わってくるのは、景気の本格的な回復に向けての期待感が非常に大きいこと。明るい見通しを持っている個々の企業経営層の声も伝わってきます。
今後の見通しとしては、今春の賃金ベースアップの情勢や、消費税増税後の消費動向など注目すべき点がありますが、2020年東京オリンピック・パラリンピックという好感材料もあり、2年連続して前年実績を上回った総広告費の上昇気運は、アベノミクス効果による底堅い景気回復基調に沿っていくものと期待されます。
【2】マスコミ4媒体の傾向
年後半から上昇気運続く。テレビはスポット広告がけん引
広告費全体の約47%を占めるマスコミ4媒体の広告費総額は2兆7,825億円。前年比100.1%となり、2012年に続いて前年比増を達成しました。上昇気運を感じさせる結果でもあります。
2013年を前後半に分けて見てみると、1~6月は前年の震災反動増からの揺り戻しがあり、前年同期比98.8%とやや低調気味でしたが、7~9月は同101.4%と持ち直し、通年として100%超えとなりました。
業種別に見ると、「金融・保険」が前年比115.6%、「外食・各種サービス」が同110.3%、「不動産・住宅設備」が同105.8%、「家庭用品」が同105.5%、「教育・医療サービス・宗教」が同103.1%と、全体21業種中8業種で前年を上回っています。
以下、4つの媒体ごとに、2013年の推計結果と注目点について述べていきます。
<テレビ広告費> 自由度の高いスポット広告がニーズを集める
マス4媒体全体の広告費の6割超を占めるテレビ広告費は1兆7,913億円。前年比100.9%と2年連続の増加を果たしています。先ほども触れたように、スポット広告がテレビ広告費全体をけん引している形で、その形勢は今年に入っても続いています。
スポット広告が伸びたのは、景気回復ムードを背景に新製品の発表やキャンペーン展開が活発化し、告知メディアとして強い影響力を持つテレビ広告、中でも自由度の高いスポット広告にスポンサー企業の需要が高まった結果といえるでしょう。
タイム広告は、「2013ワールド・ベースボール・クラシック」(3月)、「FIFAコンフェデレーションズカップ」(6月)などの大型スポーツ番組があったものの、前年の「2012ロンドンオリンピック バレーボール世界最終予選」などの実績を補うまでには至りませんでした。タイム広告は基本的に半年単位での契約となるので、先行きにまだ不透明感を持つ企業もあったことが背景にあるのではないかと思います。
<新聞広告費> 前年プラスに及ばずも、出稿は増加傾向
新聞広告費は6,170億円。前年比98.8%という状況でした。5月までやや低迷したものの、6月以降は堅調に推移。結果的に年前半のマイナス幅に足を引っ張られる形で、前年比プラスには至りませんでした。ただ、出稿量は増えており、今後の上昇気運が期待されます。
業種別で見ると、円安を背景に業績が伸びた輸出関連業種の「自動車・関連品」、NISA(少額投資非課税制度)対象商品や通販型保険が好調だった「金融・保険」で出稿が大幅に増加しました。また、前年同様に、通販商品の出稿も多い「化粧品・トイレタリー」なども好調でした。
発行部数の低迷やネットメディアの台頭がいわれる中で、新聞ならではの「信頼性の高さ」というメディア特性はやはり大きな強みとなっており、企業ブランド・商品の信頼性を重視するスポンサー企業は相変わらず高い出稿意欲を持っています。
一方、新聞各社も電子版の会員数を伸ばしたり、紙媒体でもラッピング広告といった新手の広告手法を試みるなど、スポンサー企業の出稿意欲を促すさまざまな取り組みに力を入れています。
<雑誌広告費> ビジネス誌は前年比100%超え
雑誌広告費は2,499億円で、前年比98.0%。電子化の動きや、40代女性誌の大型創刊なども見られましたが、同時に休刊なども続いたため、前年比としてはプラスには至りませんでした。その中で、ビジネス誌が100%超えで健闘しているのは、景気回復基調の波に乗ったといっていいでしょう。
出稿した業種分野別では、「ファッション・アクセサリー」が前年比101.3%と健闘。また、「不動産・住宅設備」「金融・保険」「交通・レジャー」なども前年比100%超えを果たしました。
動きの激しい雑誌業界ですが、今年も大型創刊や人気雑誌の周年イベントが予定されており、広告市場の新たな開拓が期待されています。また、ネットメディアと連動する形態も盛んになってきています。
<ラジオ広告費> 新たな若年リスナーの増加に期待
ラジオ広告費は1,243億円で、前年比99.8%とほぼ100%に近く、堅調に推移しているといえます。首都圏よりローカルエリアで回復傾向が見られたのが、昨年の特徴でした。
業種別では、「不動産・住宅設備」(前年比116.9%)、「自動車・関連品」(同109.5%)、「外食・各種サービス」(同105.9%)が特に好調でした。消費税増税前の駆け込み需要の側面もありますが、生活に密着したラジオのメディア特性が見直され、スポンサー企業各社も積極的に番組提供や全国CMを展開しました。
明るい兆候の一つとして、主要リスナー層と考えられる40~50代で聴取率が回復していることが挙げられます。また、若者のラジオ離れが言われる中で、10~20代の聴取率はほぼ横ばいと健闘。ネットでラジオを聴くradiko.jp(ラジコ)が少しずつ浸透してきた影響もあるのではないかと思います。
ちなみに、ラジコは現在、37都道府県で69局が参加。ダウンロード数、ユニークユーザー共に引き続き増加しています。家にラジオのない若者世代の聴取機会が増えることによって、新たなスポンサー企業開拓につながる可能性も秘めています。
【3】インターネット広告費の傾向
運用型広告が高い伸び。新たな市場開拓も
広告費全体の約15%を占めるまでになったインターネット広告費の2013年推計値は9,381億円。デバイスの多様化・進化も追い風となって前年比108.1%と好調。2012年の前年比が107.7%なので、相変わらず堅調な成長ぶりを示しています。
そのインターネット広告費の中で力強いけん引役を果たしているのが、検索連動広告に代表される運用型広告です。2013年の推計値は4,122億円。前年比121.6%という高い伸びを示しています。2012年の前年比は118.9%だったので、昨年はさらに勢いを増していることになります。
業種別では、従来からの中心業種である「金融・保険」やeコマースを活用する業種だけではなく、「自動車・関連品」「食品」「飲料・嗜好品」などにおいても、ブランディングを目的にした運用型広告の活用が拡大・浸透しつつあります。
運用型広告費が伸びている理由としては、バナーなどの枠売り広告と異なり、スポンサー企業にとって効率的・機動的な運用がしやすいという点がまずひとつ。加えて、従来マスコミ媒体には出稿できないような小規模事業者など新たなスポンサー市場を開拓している点も挙げることができます。自社のECサイトを持つ企業にとっては、売上に直結する顧客誘導効果を持つ広告として重宝されています。
運用型広告の分野では、いま注目されているDSP(自動で広告主の広告効果を最大化する支援システム)に象徴されるように次々と新たな広告手法が生まれて注目を集めていますが、一方で従来の枠売り広告分野でも、これからさらに動画などを使ったリッチ広告による市場活性化が期待されています。そのように、技術進化とあいまったサービスの浸透が、これからも出稿量の拡大基調を下支えするものと思われます。
また、今後のインターネット広告全体を俯瞰すれば、いわゆるビッグデータによって消費者の行動・心理を把握することが企業にとって大きな課題になっており、その解析データと連動する形でインターネット広告が運用されていく動きが強まっていくでしょう。デバイスが多様化する中で、大手媒体社において、デバイス横断型のキャンペーンの管理、つまり「デバイスフリー」の試みが始まっている点も注目すべき点です。
リリースはこちら:
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2014/pdf/2014014-0220.pdf