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組織vs.クリエイティブNo.1

リーダーであれ

2022/03/31

現在、進行中の「クリエイティブは、武器になる」の連載(詳しくは、こちらをご覧ください)と並行して、クリエイティブの新たな可能性を見いだし、育てていくために、「企業」として、「組織」として、いかに取り組んでいけばいいのかを探っていこう、という本連載。クリエイティブの現場を取り仕切る方々に、お話を伺っていきます。 

組織vs.クリエイティブ

「組織」と「クリエイティブ」。この相反するものを、真っ向対決させてみたい。規律や利益を重んじる組織(企業)、自由に個のアイデンティティを追求するクリエイティブ。二つの融合に、ブレークスルーのヒントがきっとあるはずだから。組織とは、経営戦略の要。その戦略に、クリエイティブというものをいかに組み込んでいくべきなのか。電通1CRP局の田島MD に聞いた。

文責:ウェブ電通報編集部

田島恵司(タジマケイジ)氏:慶應義塾大学法学部卒。電通に入社以来、岡康道氏、三浦武彦氏に師事。2009年CDとなり、現在第1CRプランニング局  局長(MD)。マネジメントのみならず、ユニクロ・三菱地所・ゼスプリ などECD としても従事。ゴルフ、サッカー、ラグビーをこよなく愛し、また読書家、ゲーマーでもある。
田島恵司(タジマケイジ)氏:慶應義塾大学法学部卒。電通に入社以来、岡康道氏、三浦武彦氏に師事。2009年CDとなり、現在第1CRプランニング局 局長(MD)。マネジメントのみならず、ユニクロ・三菱地所・ゼスプリなどECD としても従事。ゴルフ、サッカー、ラグビーをこよなく愛し、また読書家、ゲーマーでもある。

人は、チームで人になる

インタビューの冒頭、田島氏にいきなりストレートな質問をぶつけてみた。組織とは、いったいなんですか?と。それに対して、少々意外な答えが返ってきた。「組織vs.クリエイティブ」というのは、とかく相反するものと思われがちなものですが、実はそこに挑戦したいというか、むしろ相性が良いものではないかと以前から思っていたんです」、と。組織というより、チームだと考えている、と田島氏は言う。「チームやユニットを経験することで、人は人になるのだと思うので。スポーツでもそう、家族でもそう、親友や恋人でもそうです。チームがあるからこそ、個性が発揮できる。どれだけすぐれた能力を持つ選手であっても、一人では何もできませんから」

いかに組織を機能させるか。いまどきの言葉でいえば、持続可能なものにつくりあげていくか、という「組織論」ではない。チームを経験することで人は成長できる、という田島氏の指摘は新鮮だ。その上で、少々、いじわるな質問をしてみた。「ナレッジシェアといったことも、昨今、注目されています。でも、本音をいえば、特にクリエイティブの世界などでは、自身が苦労して身に着けたナレッジをおいそれと公開してたまるか、みたいな気持ちはどこかにあるんじゃないでしょうか?」と。それに対する田島氏の答えは、後ほど紹介する。

リーダーとは、総料理長のようなもの

「リーダーとは、総料理長、あるいはオーケストラの指揮者のようなもの。チームを鼓舞し、勇気づけることがリーダーの役割だと思う」と田島氏は語る。田島氏ご自身は、100人を超えるクリエイティブ集団を束ねるリーダーだ。その例えはわかる。ただ、リーダーは絶対的なものである必要はない、とも。「例えば数名のユニットでも、必ずリーダーになる人はいますよね。でも別のユニットでは、その人はチームメートの一員だったりする。つまり誰でもリーダーになれるということ。そういう状態が、クリエイティブの原動力になっていくのだと思います」

そうしたリーダーにとって、もっとも大切なことはなんですか?という質問には、こんな答えが返ってきた。「ものの言い方、ではないでしょうか。頑張れ、とにかく頑張って役目を全うして、稼いでくれ。では、人の心は動きませんから」

有名になろう!

クリエイティブという仕事に携わる者として一番大切なことは、自らの思いを自ら発信することなのだと田島氏は指摘する。「そのことを、誤解されても構わないという気持ちで、『有名になろう!』という短い言葉で、後輩たちには伝えつづけています」

カネを稼ぐために料理をつくろうとは思わない。いいもの、面白いもの、すてきなものをつくって、あのなになにシェフの料理をどうしても食べたい、となれば自然と商売も回っていく。そんな思いからの言葉だ。
「後輩たちの背中を押してあげたい、というのが一番ですね。そうなんだ、有名になろうと思ってもいいんだ、という。もちろん、お得意さまや周りの人や、作品に触れてくださる世の中への敬意も大事です。やみくもに自分勝手なスタンドプレーを勧めているわけではありません」

田島氏がECDを務めた事例(ゼスプリ・インターナショナル /三菱地所)。コミュニケーションの話題性のみならず、チーム全員がクリエイターとして有名になってほしい、という思いでディレクションをしている。
田島氏がECDを務めた事例(ゼスプリ・インターナショナル /三菱地所)。コミュニケーションの話題性のみならず、チーム全員がクリエイターとして有名になってほしい、という思いでディレクションをしている。

それ面白いじゃん。やっちゃいなよ!

「たとえ経験の少ない俳優でも、無理やり舞台にあげちゃえば、それなりの成果はあげられるものなんです」と田島氏は言う。「かわいい子には旅をさせろ、みたいな心境でしょうか。守ってあげたい気持ちは強いです。でも『5年ほど経験を積んだら、舞台に出してやる。それまでは、雑巾がけでもしてなさい!』では、その人の持っている才能が腐ってしまう。そう思いませんか?なので、若い世代にはとにかく、『それ面白いじゃん。やっちゃいなよ!』という言葉をかけるようにしています。この時代に、やっちゃいなよ!と言うのは、なかなか勇気がいることなんですよ(笑)。でも、そこから逃げていてはダメだ、と自らにハッパをかけているんです」

局員たちの背中を押すことで新たに生まれた局内クリエイターユニット。チャレンジを推奨することで前向きなムードを作ることもリーダーの役目だと考えている。
局員たちの背中を押すことで新たに生まれた局内クリエイターユニット。チャレンジを推奨することで前向きなムードを作ることもリーダーの役目だと考えている。

リーダーに、答えなどない

あるべきリーダー像とは何か?という質問を田島氏に投げかけた。すると、これまた意外な答えが返ってきた。「リーダーに正解なんてないんです。常に手探りですから。だからこそ、正解に一歩でも近づこうと、日々もがいている」
例えば1CRP局では、「忙しいひとマップ」というものを管理職で共有するようにした。5段階で、ここ最近の「忙しさ」具合を、全局員に数字で申告してもらうという取り組みだ。「インタビュー冒頭でご指摘いただいたナレッジシェアの難しさについてですが、特に若い世代は、そこになんの抵抗もないと思います。もちろん、僕自身もですが。悩みでも、技術でも、スケジュールでも、あらゆることを人とシェアするということは、もはや当たり前のことで、そうしたシェアの先に、誰もがあっと驚くようなクリエイティビティが生まれるのだと、僕は信じています。誰か一人の手柄ではなく、いわばチームの手柄ですね」


【編集後記】

インタビューの最後に「プロとは、なんでしょうか?」という質問を田島氏にぶつけてみた。難しいことを聞いてくるねえ?と笑いながら、こんな答えが返ってきた。「その道のプロという人はみな、努力の量、考えている量がちがうと思うんです。才能ではない。付け焼き刃の思い付きでもない。とにかく考えに考えて、考え抜いたその先に、ポーンとアイデアが降りてくる、みたいな」

クリエイティブメソッドの、一つの答えだと思った。田島氏の論旨に従えば、その、考えに考え抜いたアイデアを、信頼する仲間といかに共有できるか。そこにブレークスルーの突破口が必ずある、ということだ。